売掛債権担保融資保証制度は、バブル崩壊後10年を過ぎても景気低迷が続く平成14年に、中小企業の資金繰りを改善する「妙案」として創設された制度です。
「売掛金を担保にお金を借りる」というのは、約束手形が決済の主流だった頃は当りまえの手段でしたが、手形決済が激減してからはそれに代わる手段がなかったのです。
この記事では、売掛債権担保融資保証制度の概要と利用の仕方を分かりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
平成14年に創設された売掛債権担保融資保証制度は、信用保証協会による保証制度の1つで、中小企業の資金繰りを援助するのが目的です。
中小企業にとっては、仕事はしたがその代金は未収という「売掛金」が経営の足かせになることが少なくありません。
この売掛金を担保に金融機関からお金を借りることができるのが「売掛債権担保融資保証制度」です。
この制度を利用することで中小企業や個人事業主は、黒字なのに運転資金がショートするというリスクを避けることができます。
融資の対象(担保)になるのは手形や締日払いの売掛債権だけでなく、次のような売掛金も対象です。
つまり、製品の納品やサービスの提供によって生じた「集金する権利のあるお金」はすべてこの制度の対象になるのです。
ただし、債権譲渡禁止特約が取引契約で定められている債権は、この特約を解除してもらわないと担保になりません。
また、通常の期日を過ぎても集金できていない、回収が遅延している売掛債権 も担保として認められません。
担保となる売掛債権は、既に製品の納入やサービスの提供が済んだものが対象ですが、一定の条件がそろえば、契約時点から借入を行うことも可能です。
バブルの崩壊で土地の価格が下落して以来、いっこうに地価は上がる気配がありません。
それまで土地を担保に融資を受けて資金繰りしていた中小企業は、土地の担保余力の低下によって資金調達が困難になりました。
また、近年は手形の使用が減って仕入れ代金などの支払いを手形にしづらくなっています。
しかし一方では、仕事の代金を手形で受け取ることもまだあるので、支払いは早くしなければならないが銀行での手形割引は手続きが面倒だというケースも生じています。
このような状況を改善するために平成14年に創設されたのが、信用保証協会を通じて利用する債権担保融資保証制度です。
中小企業庁はこの制度のメリットとして、次の3点をあげています。
借入金の担保となるような不動産をお持ちでない方でも、売掛債権を担保に借入れができます。
親戚や友人に保証人になってもらう必要もありません。
売掛先からの入金を待たずに、売掛債権を活用して資金調達ができます。
本制度の借入金は、売掛先からの入金で決済されます。したがって、基本的に、返済日に別に返済資金を工面しなくても済みます。
引用元 : 中小企業庁「売掛債権担保融資保証制度ユーザーマニュアル(改訂版)」
※マーカーによる強調は引用者
売掛債権担保融資保証制度には、「個別保証」と「根保証」の2種類があります。基本的な仕組みは同じなので、まず個別保証について説明し、根保証独自の特徴を次の章で説明します。
個別保証とは、1件1件の売掛債権に対して個別に融資を申し込む方法です。
季節によって売上高に波がある企業や、臨時に大きな仕事(注文)が入って集金する前に仕入れの支払いをしなければならない、というときの対応に適しています。
制度を利用するには、現在取引のある金融機関を通じて信用保証協会に申込みます。
1. 金融機関に申込み⇒審査
2. 金融機関から信用保証協会に申込み⇒審査⇒決定
3. 売掛金を担保とする契約を結ぶ
4. 担保保全の手続き(金融機関との共同作業)
5. 売掛先に対して振込口座を指定
6. 借入れ(金融機関から自分の口座に入金)
7. 返済(売掛先が指定口座に入金)
借入れは、金融機関に自らの手形を振り出して貸付を受ける手形貸付の形式になります。
借入れできる金額は、売掛債権に「掛け目」を掛けた金額です。(最高で1億1,100万円)
掛け目とは、売掛債権の評価率で「売掛先の信用力」などによって、70%~100%の範囲で定められます。
例えば、1,000万円の売掛債権で掛け目が80%なら、融資されるのは800万円です。
売掛金を担保にするには、金融機関・信用保証協会と売掛債権を担保として譲渡する契約を結びます。
契約の次に、担保の保全の手続きを行ないます。担保の保全とは、
(1)売掛金を担保にすることを、売掛先の企業から了承を得る
(2)売掛先の企業に、売掛債権を担保にしたことを通知する(内容証明郵便)
のどちらかを行なうことです。具体的な手続きは金融機関が協力あるいは代行してくれます。
ただし、売掛債権によっては「債権譲渡禁止特約」がついているものがあるので、その場合はまずこの特約を売掛先に解除してもらわなければなりません。
担保の保全がすんだら、売掛先の会社が入金してくれる口座を設定します。入金口座は金融機関名義の口座になりますが、融資を申し込んだ企業名義の口座にすることも可能です。
通常の借入手続きに必要な決算書などの他に、次の書類が必要になります。
・売掛先との取引内容を記入した明細書
・取引基本契約書(締結している場合)
・発注書、請求書、支払通知書 など
担保の契約、保全手続、売掛先からの入金口座の設定が終わったら、融資が実行されます。
返済は売掛先が振込んだ入金口座から自動的に引き落としされます。これは、売掛債権の回収日を借入金の返済日としているためです。
売掛先からの入金のうち引き落とされるのは「掛け目」によって決められた額なので、後の余剰金はもちろん自由に使用できます。
根保証とは、個別の売掛金債権ごとに借り入れの申し込みをしなくても、1年間の補償期間中、あらかじめ定められた借入極度額の範囲内で、反復して借入れできる仕組みです。
過去の実績などから、回収が確実な売掛債権が定期的に発生する場合に根保証が認められます。
つまり、根保証では現に発生している売掛債権だけでなく、将来発生する売掛債権を予め担保として譲渡しておくことができるのです。
個別保証では債権譲渡を売掛先に「承諾」してもらうか内容証明郵便で「通知」しなければなりませんが、根保証ではもう1つの選択肢として売掛先に知られずに債権譲渡できる「債権譲渡登記制度」を利用することができます。
売掛先に売掛金を担保にしたことが知られると「あの会社は資金繰りに困っている」というウワサが流れるなど、風評被害を受ける恐れがありますが、債権譲渡登記制度を利用すればその心配はありません。
具体的な手続き方法については金融機関がレクチャーしてくれます。債権譲渡の内容は、商業登記簿に記されます。
根保証を利用するときは、借入れ金融機関に新たに「返済専用口座」を開設する必要があります。
返済専用口座は借入れる企業者名義の預金口座ですが、公共料金の引落しなど他の用途に使うことはできません。
借入利息は、それぞれの金融機関が設定する利率が適用されます。
信用保証料は年0.85%です。個別保証は借入金額の90%、根保証は借入
上限額の80%をベースに算出します。
この他に、金融機関に「担保管理手数料」を支払います。
貸金業者の中には「ファクタリング」と称して売掛金を担保にお金を貸している業者があります。
問題はその手数料が10~20%と高いことで、年利に換算すると利息制限法をはるかに超えています。
ファクタリング業者は「売掛債権の買い取り契約で貸金契約ではない」と主張しますが、貸金業法違反で逮捕されて有罪になった、悪徳なファクタリング会社もあります。
利用するたびにだんだん資金繰りが苦しくなるので、緊急時などの単発的な利用に留め、長期的な利用はしない方が良いでしょう。
中小企業庁の「流動資産担保融資保証制度 活用事例集」には、この制度の活用事例として以下のようなケースが紹介されています。
1. 売掛債権を活用して原材料の仕入れ資金調達を行い、コストダウンを達成
2. 売掛金の早期資金化を活用して仕入れ支払手段を変更し収益の向上を実現
3. 将来の設備投資用の不動産を確保しつつ、掛け目の引き上げをきっかけに優良な売掛債権を活用
4. 不動産担保不足の中、事業成長に伴う運転資金需要に根保証を活用して対応
5. 取引拡大に伴う資金繰りを回収期間の長い売掛債権の活用で改善
6. 対抗要件を登記とし、回収期間の長い売掛債権を活用して資金繰りを安定化
7. 債権譲渡登記を利用して本制度を活用
8. 地価の下落のため不動産担保に代わり売掛債権(未発生債権)を活用して資金調
9. 公共工事の延長に伴って生じた立替資金を未発生債権を利用して調達
10. 大口の受注に際し未発生債権を担保として運転資金を調達
11. 金融機関の支援により第三債務者の債権譲渡禁止特約を解除し、制度導入
12.保証協会の仲介により第三債務者の理解が得られ、本制度を活用
上記サイトを見ると、それぞれの事例が詳しく紹介されています。
銀行に「売掛金を担保にするので融資してほしい」と頼んでもなかなかOKは出ませんでしたが、国が後押しし、信用保証協会がリスクを負う「売掛債権担保融資保証制度」なら銀行もむげに断ることはありません。
黒字なのに売掛金が多くて資金繰りがしんどいという企業は利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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