エンジェル税制とは?メリットや注意点・利用する流れを詳しく解説!

エンジェル税制とは?メリットや注意点・利用する流れを詳しく解説!

記事更新日: 2023/03/02

執筆: 桜木恵理子

特定のベンチャー企業に投資した際に税の優遇が受けられる「エンジェル税制」

とくに近年、投資家とベンチャー企業の双方に多大なメリットをもたらす制度として積極活用されています。

ただし、エンジェル税制には細かな条件があるので利用するにあたっては注意が必要です。

そこで今回は、エンジェル税制について投資家ならびにベンチャー企業双方のメリットや注意点、利用する流れ、投資先を見つけるコツについて詳しく解説します。

エンジェル税制とは

エンジェル税制は、国内ベンチャー企業への個人投資に対して税の優遇措置を行う制度です。

設立間もない中小企業の資金調達を支援し、その経営を後押しする狙いがあります。

中小企業庁の実績報告によると、エンジェル税制創設時の平成9年に7,900万円だった投資額が、令和3年には126億3,600万円にまで増加しました。

とりわけ平成21年以降、令和3年度までの13年間は右肩上がりを維持しています。

欧米に比べ投資に馴染みのない我が国において、スタートアップを支援する機運を高めた役割は非常に大きいといえるでしょう。

1. 投資時の優遇措置

投資時の優遇措置には、「優遇措置A」と「優遇措置B」の2種類があります。

それぞれの優遇措置は以下の通りです。

  優遇措置A 優遇措置B
対象企業 設立5年未満の中小企業 設立10年未満の中小企業
優遇措置内容

[投資金額−2,000円]をその年の総所得金額から控除

控除対象の投資上限額は、総所得額×40%または800万円のどちらか低い方

対象企業への投資額全額を、同年における他の株式譲渡益から控除

控除額に上限なし


優遇措置AもBも投資の対象企業は、規定の業種と企業規模に該当していることが条件です。

業種によって対象企業になるための企業要件が異なります。

【企業要件の例】

  • 旅館業:資本金5,000万以下または従業員数200人以下
  • ソフトウェア業:資本金3億円以下または従業員数300人以下

また、5つに区分された設立経過年数によっても、対象企業として認定される企業要件が異なります。

例として、設立経過年数が「1年以上〜2年未満」の場合を見てみましょう。

  優遇措置A 優遇措置B
1年以上〜2年未満 新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上で、直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字 新事業活動従事者が2人以上かつ常勤の役員・従業員の10%以上
試験研究費(宣伝費・マーケティング費用込み)が収入金額の5%超で直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字 試験研究費(宣伝費・マーケティング費用込み)が収入の3%超
売上高成長率が25%超で営業キャッシュ・フローが赤字 売上高成長率が25%超


多くの場合、対象企業の認定者は都道府県知事です。

ただし、後述する「認定投資事業有限組合」と「認定少額電子募集取扱業者」が対象企業に認定するかを判断する場合は、上記優遇措置AとBの企業要件が免除されます(優遇措置Aの営業キャッシュフロー要件以外)。

2.売却時の特例措置

未上場対象企業の株式売却によって生じた損失を、同年における他の株式譲渡益と相殺することが可能です

相殺しきれない場合は、翌年以降3年に渡り順次株式譲渡益と相殺できます。

対象企業の破産、解散などによって株式に価値がなくなった場合でも上記と同様に優遇措置を受けることが可能です。

優遇措置AまたはBを受けた場合は、株式の取得金額から控除金額を差し引いて売却損失額を算出します。

エンジェル税制・投資家のメリット3つ

1. 投資と節税が両立できる

エンジェル税制を利用すると投資と節税が両立できます。

投資にリスクはつきものですが、エンジェル税制では優遇措置A・Bにより所得控除が受けられます

投資により所得控除が受けられることは、投資家にとっては大きな利点があるでしょう。

2. 事業の成長によるハイリターンが期待できる

投資したベンチャー企業が急成長して上場を果たした場合、株式を売却すればかなりのハイリターンが期待できます

売却しない場合でも相応の配当収入が見込めるため、メリットがあるでしょう。

3. 損失が出ても所得控除が受けられる

投資先のベンチャー企業が経営に失敗し株式の価値がなくなった場合に、他の株式譲渡益と相殺できる点も大きなメリットです。

スタートアップやベンチャー企業が想定やそれ以上に成長を遂げ十分な利益を獲得することは、決して容易ではありません。

そのため、赤字から脱却できなかったり、倒産や解散という結果に終わったりするケースは珍しくないのです。

ところがそこで発生した損失が翌3年以降にわたって相殺されるとなれば、投資家にとって大きな安心材料となるでしょう。


エンジェル税制・ベンチャー企業のメリット3つ

1. 投資家への訴求効果が高まる

エンジェル税制を活用することで、ベンチャー企業は自身の存在を広く投資家にアピールすることができます。

対象企業として認可されると中小企業庁のホームページに会社情報(企業名・法人番号・所在地・代表者名・連絡先・ホームページ)が掲載されるからです。

厳しい事前審査をパスしていること自体が信用の証ともいえるため、多くの投資家の関心を惹きつけるチャンスが広がるでしょう。

2. 資金調達がしやすくなる

創業してから間もないベンチャー企業にとって資金調達は容易ではありません。

しかしエンジェル税制を利用すると、金融機関からの融資や、国・自治体からの助成金などを受けられない場合でも、まとまった資金を確保することが可能になります。

3. 投資家の事前審査があるため安心

エンジェル税制を利用する際は、ベンチャー企業のみならず投資家の審査も行われます。

悪意のある乗っ取りや、目先の利益だけを目的とした安易な投資・詐欺といったリスクを回避するためです。

厳密な基準によって信頼できるエンジェル投資家が選定されるのは、ベンチャー企業にとって大きな安心材料となるでしょう。

エンジェル税制・投資家の注意点3つ

1. 事業が失敗する可能性がある

エンジェル税制で投資対象となるベンチャー企業は、すでに赤字に陥っているケースがほとんどです。

よって資金調達ができたからといって必ず大きな成功を収めることが可能かは未知数といってよいでしょう。

2022年10月時点で国内のユニコーン企業(評価額が10億ドル(約1,300億円のスタートアップ企業)は、わずか12社とアメリカの2%にも満たないというデータもあります。

欧米諸国に比べると起業文化が低水準で、セーフティーネットが脆弱な点が主な要因といえるでしょう。

その打開策の一つとして期待されるエンジェル税制ですが、リターンが高い確率で保証されるとは言い難いのが現実です。

2. リターンを得るのに時間がかかる

前述のように対象となるベンチャー企業の大半は赤字のため、早期のうちに明確な成果が得られるとは考えにくいでしょう。

少なくとも数年は気長に待つ覚悟と余裕が必要です。

仮に業績が大幅にアップしたとしても、未上場の場合は株を譲渡しても莫大な利益は望めないでしょう

IPO(新規株式公開)やM&Aなどのよるイグジット(EXIT/エグジット)が行われない限り、投下資本の数十〜数百倍といった大幅なリターンを期待することは現実的と言えません。

3. 審査がある

以下のような個人要件を満たさなければ、投資家としてエンジェル税制を利用することはできません。

  • 国内居住者または国内に恒久的施設を所有する非居住者(支店・工場・その他一定の場所を有するなど・持ち家だけでは認められない
  • 金銭の払込(譲渡ではなく)によって対象企業の株式を取得している
  • 対象企業が同族会社の場合に、持株割合が大きなものから第3位までの株主グループの持株割合を第1位から順に足しあげて、初めて50%を超える時における株主グループに属していない(同族会社:3人以下の株主が保有する株式の総数か議決権の総数が50%を超える会社のこと)

 ちなみに上記の国内居住者について国籍は問われません。

国内に住所をもつか、国内に居住して1年以上が経過していることが条件となります。


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エンジェル税制・ベンチャー企業の注意点3つ

1. 経営への干渉リスクが高まる

個人投資家が自社の株式を保有すると、経営について干渉されるリスクが高まります。

助言やコンサル的なアドバイスが奏功することはあるでしょう。

しかし度がすぎると、理想とする経営方針が貫けなかったり、社員やクライアントとのコンセンサスが取れなかったりする恐れがあります。

その場合は、かえって経営状態が不安定になる可能性が生じるのです。

2. 審査が厳しい

エンジェル税制を活用するには規定内の企業要件を満たす必要があり、その基準が思いのほか厳しく感じるかもしれません。

概要は冒頭でも説明しましたが、それ以外にもさらに4点あります。

  • 特定の株主グループ以外の外部による投資を1/6以上取り入れている
  • 資本金1億円超などの大規模法人やその法人と特殊関係(子会社など)にある法人の所有に属していない
  • 未上場企業である
  • 風俗営業をしていない

3. 承認まで時間がかかる

企業要件を満たしていても、申請してすぐに承認されるわけではありません。

長ければ1ヶ月ほどかかることもあります。

そこから投資対象として専用サイトに公開されるため、株式を購入してもらえるまでには、さらに時間を要する可能性があるでしょう。

特にベンチャー企業の場合は、資金調達が1〜2週間遅れただけでも資金ショートを起こすケースがあります。

その意味では緊急性の高いシチュエーションでの有効利用は困難かもしれません。

エンジェル税制を利用するための3STEP

STEP1. ベンチャー企業が対象企業として確認を受ける

ベンチャー企業がエンジェル税制を利用するには、企業要件を満たしていることを都道府県知事等に認めてもらう必要があります。

そのための確認申請を行い、都道府県知事の「確認書」もしくは認定投資事業有限責任組合か認定少額電子募集取扱業者が発行した「確認書」と「認定証の写し」を交付してもらうのが第一ステップです。

STEP2. 個人投資家が確定申告に必要な書類を投資先企業から受け取る

STEP1の「確認証」や「認定証の写し」などを投資先のベンチャー企業から個人投資家が受け取ります。

STEP3. 投資家が確定申告を行う

投資家が受ける優遇措置に応じて上記の「確認証」や「認定証の写し」とともに必要な書類を居住地管轄の税務署に提出して確定申告を行います。

例えば、投資時点で「優遇措置A」を受けた場合は、以下6点の書類を管轄税務署に提出する必要があります。

  • 「確認証」(都道府県知事の確認の場合)または「確認証」と「認定証の写し」(認定投資事業有限責任組合か認定少額電子募集取扱業者による確認の場合)
  • 発行会社が交付する一定の株主に該当しない旨の確認証
  • 株式投資契約書の写し
  • 株式異動状況明細書
  • 特定(新規)中小企業が発行した株式の取得に要した金額控除の明細書
  • 特定新規中小企業が発行した株式の所得に要した金額の寄附金控除額の計算明細書

 詳しくは、中小企業庁のホームページをご参照ください。

投資先のベンチャー企業を探すコツ

最後に投資先のベンチャー企業を探す方法について解説します。

エンジェル投資家が投資先を見つける方法としては、以下が一般的でしょう。

  • マッチングサイトを利用
  • 交流会に参加
  • 知人の紹介

ところがエンジェル税制における投資先は、制度内で要件を満たした特別な企業に限定されます。

よって投資先の探し方も一般的な場合とは異なるのです。

具体的には、以下の3つが挙げられます。

  1. 中小企業庁のホームページ確認する
  2. 認定投資業有限組合を経由する
  3. 認定少額電子募集取扱業者を経由する

それぞれについて説明していきましょう。

1. 中小企業庁のホームページで確認する

要件を満たして承認されたベンチャー企業は、中小企業庁の専用ページに一覧表示されます。

そこから各社の連絡先やホームページのURLを確認できるので、興味があれば直接アクセスが可能です。

2. 認定投資事業有限組合を経由する

「認定投資事業有限組合」を経由して投資先を見つけることも可能です。

認定投資事業有限組合は、専門的知識を裏付けに、エンジェル税制を利用するベンチャー企業の成長をバックアップすることが目的の組織になります。

平成16年の税制改正により、認定投資事業有限組合を経済産業省が認定する制度が新設されました。

ここに問い合わせることで、いわば認定投資事業有限組合お墨付きのおすすめ投資先を知ることができるのです。

3. 認定少額電子募集取扱業者(株式投資型クラウドファンディング業者)を経由する

上記2と同じ考え方で、プロの目利きである「認定少額電子募集取扱業者」を経由して投資先企業の選定をすることもできます。

まとめ

エンジェル税制は、起業に消極的な我が国において多くのベンチャー企業を支援するために極めて有効な投資家優遇制度です。

資金調達に成功すれば、先進的かつ持続可能性に富んだ製品やサービスを提供できるスタートアップやユニコーンがさらに誕生すると期待してよいでしょう。

その実現のためにも、エンジェル税制のさらなる利活用が望まれます

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画像出典元:pixabay

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