スタートアップ企業や中小企業が資金調達をする手段として、「私募債」という方法に関心が集まっています。
私募債は、通常の借入や融資と異なり、手続きが簡易的であるうえに低コストで資金調達ができる方法です。
しかし、私募債の仕組みをしっかりと理解しなければ、上手に活用することができないでしょう。
そこで本記事では、私募債の概要やメリット・デメリット、発行から償還までの流れなどを徹底解説します。
私募債の発行を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
私募債は、企業が資金調達するために、特定少数の投資家に発行する社債の一種です。
この債券は企業のみが発行でき、社債の発行対象が限定されていることが特徴といえます。
私募債を含む債券には、「額面」と「償還日」が設けられています。
それゆえ償還期限を迎えると、販売した投資家に元金を一括で返還しなければなりません。
企業が発行する債券には「公募債」と「私募債」の2種類があります。
公募債は、私募債とは異なり、不特定多数の一般投資家を募ることができるため、大規模な資金調達が可能です。
ただし手続きが複雑なうえに手数料が高額なため、中小企業には適していません。
その一方で私募債は、有価証券届出書の提出や、社債管理者の設置が不要など規制が緩やかです。
そのうえ、手続きも複雑ではないため、公募債に比べて資金調達のしやすさがポイントになります。
私募債は、大きく「少人数私募債」と「銀行引き受けの私募債」の2種類に分けることができます。
ここからはそれぞれの私募債について解説していきます。
少人数私募債とは、49人以下を対象に募集をかける私募債のことです。
簡単に特徴をまとめると、以下のとおりです。
一般的に少人数私募債では、経営者の縁故者(親族、友人、取引先など)など狭い範囲で購入してもらうケースが多いです。
銀行引き受けの私募債とは、企業に代わって銀行が投資家を募集してくれる社債のことです。
一旦、銀行が私募債を買い付け、その後に投資家へ販売する手続きや保証などのサービスを提供します。
なお銀行引き受けの私募債には、「銀行保証付私募債」「信用保証協会保証付私募債」の2種類があります。
それぞれの簡単な特徴は、以下のとおりです。
【銀行保証付私募債】
・銀行が私募債の引受先と保証先になる形式
・取引銀行が社債の引き受けから信用保証、事務手続きまでを一括で行う
・銀行が代行するため、保証費用、事務委託手数料、利息などが発生する
・銀行が設定する審査基準に通る必要があるため、審査が厳しめ
【信用保証協会保証付私募債】
・私募債の引き受けは銀行が、保証は銀行と信用保証協会が共同で行う形式
・両機関に保証費用を支払う必要がある
銀行引き受けの私募債を利用する際には、どちらのタイプが自社に適しているか比較検討して選びましょう。
ここからは、私募債を発行できる企業の条件を解説します。
私募債は、資本金や資産規模、事業規模などに関わらず、法人格の会社が発行できます。
【私募債を発行できる法人】
つまり、個人事業主には発行できないことを意味しています。
私募債の勧誘は、50名未満つまり49名までと限定されています。
具体的な数え方としては、「勧誘したものの購入には至らなかった人数を含めて50名未満」です。
私募債を募集・発行する際には、必ず譲渡制限があることを伝える必要があります。
というのも、発行時の募集人数が50名未満であるだけでなく、発行後も50名未満である必要があるからです。
この譲渡制限によって、多数の人に譲渡されるリスクを減らします。
ここからは、私募債を発行するメリットを3つ解説します。
私募債は、公募債に比べて、発行にかかる手間や手数料が少なく済みます。
というのも、公募債では義務である以下の項目が、少人数私募債では不要だからです。
一般的に公募債の発行は、法律による厳格な規制があるため、手続きに時間を要します。
しかし私募債の場合は、取締役会または株主の決議で社債発行が可能です。
それゆえ、公募債よりも手続き上の負担が少なく、簡単かつ早期の資金調達を実現できます。
また銀行保証付私募債を利用すれば、多くの手続きを銀行が代行してくれます。
私募債は、金融機関からの借入と異なり、償還期間・方法・利息などを借り手側である企業が任意で設定することが可能です。
もちろん、購入希望者と交渉する必要がありますが、柔軟な社債の償還期限や償還方法を設定できます。
それゆえ「一括償還」のスケジュールを組むケースもあれば、「定時償還」を組むケースなど、資金繰りを意識した返済スケジュールを組むことも可能です。
私募債の発行は、各機関の審査を通る必要があり、全ての企業が通るわけではありません。
一定の財務水準を満たし、優良と認められた企業だけが発行可能です。
それゆえ、私募債を発行できれば、企業の信頼のみならず、財務体制が健全であることをアピールできます。
私募債によって資金調達に成功すると、対外的な信用力の向上につながるでしょう。
反対に、私募債を発行することのデメリットを解説します。
私募債は、通常の借入とは異なり、仮に業績が悪化したとしても、リスケジュールができません。
それゆえ、どれほど財務状況が安定した企業であっても、私募債の発行はリスクが伴います。
万が一償還が間に合わない時は、再度私募債を発行して次回の償還時に一括返済するのが一般的です。
企業の財務状況が悪いと、私募債の発行はできません。
私募債を発行する場合でも、基本的な条件として純資産や自己資本比率などの発行基準をクリアする必要があります。
それゆえ財務状況が優れず、資金繰りに問題を抱えている企業には私募債の発行は厳しいでしょう。
私募債は償還期限を迎えると、購入者に対して元金の一括返済が求められます。
毎月返済がない分、償還期限に向けて十分な資金を用意しておくことを忘れないようにしましょう。
また万が一、償還期限に資金が足りない場合を想定しておくことも推奨します。
具体的には「再度私募債を発行する」「銀行借入を行う」「別の社債や融資、株発行などを行う」などの選択肢が挙げられます。
ここからは、私募債発行から償還までの流れを解説します。
step1:事業計画・募集要項・勧誘書類の作成
step2:社内会議や株主総会での決議
step3:社債引受人の決定・勧誘
step4:申込受付・審査
step5:発行金額の決定・募集決定通知書の作成
step6:申込金額の受領・社債券の発行
step7:社債原簿の作成
step8:社債の償還
各項目の詳細を見ていきましょう。
まずは社債発行の目的になる事業計画を立てて、必要な資金額や償還期間を明らかにします。
そこから募集要項や勧誘書類を作成しましょう。
私募債の発行は、社長一人の独断では行えません。
取締役会あるいは株主総会で、募集要項や勧誘書類の妥当性について協議と決議が必要です。
社債引受人をリストアップして決定したら、説明会参加に勧誘します。
その際、関係者や縁故者を中心に選ぶことが一般的です。
説明会では、積極的な情報開示を心がけましょう。
また私募債の場合、社債引受人は最大49人までです。
結果的に引き受けを希望しない人も、社債の勧誘を行っただけで引受人数に含まれますので注意しましょう。
社債の引き受けにあたって、認識の相違がないかの最終確認を行います。
購入希望者に対して、社債取得の審査と申込手続きの実施が必要です。
発行総額・引受人数・発行件数などを確定します。
その後、社債の口数・金額・振込口座を記載した募集決定通知書を引受人に送付します。
社債引受人からの入金を確認します。
現金で持参の場合もあるため注意が必要です。
また社債申請証拠金預り証を発行する場合には、10日程度の余裕を持っておきましょう。
社債引受人の情報を残しておくために、社債原簿に記録しておきます。
これは社債を管理する重要な役割を担っていますので、紛失や破損、劣化しないように注意が必要です。
基本的には、「社債引受人の住所・氏名などの個人情報」、「社債の口数・金額」、「発行日・償還期間」などを記載しましょう。
償還期間を迎えると、各引受人に元金を一括返済します。
すべての社債を償還することで、私募債にまつわる工程は完了です。
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今回は、私募債の概要、私募債を発行できる企業の条件、メリット・デメリット、発行から償還までの流れを解説しました。
私募債は、通常の借入とは異なり、手続きが簡易的で最低限のコストで資金調達が可能です。
ただし、私募債の発行には一定のリスクが伴うことと、万が一の事態を想定しておくことを忘れないようにしましょう。
本記事を参考にしながら、私募債の発行を検討してみてください。
画像出典元:O-DAN, pixabay
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