「自分の作る料理で人を幸せにしたい」「コーヒーが好きだから、もっと多くの人に楽しんでもらいたい」飲食店を開業したい人の心には、こうした思いがあるのではないでしょうか?
飲食店を経営し、切り盛りしている自分の姿は想像しても、いざ準備となると何から始めればいいのかわからない人も多いはず。
そこで今回は、これから飲食店を開業しようと考えている人に向けて、開業前に知っておくべき準備とお金について詳しく解説していきます。
これさえ読めば、飲食店開業までにやるべきことが明確になります。
このページの目次
飲食店を開業するまでには、いくつかの段階を踏む必要があります。それらのステップをおざなりにするとスムーズな開業ができませんから、しっかりと手順を学んでおきましょう。
飲食店を開業するまでの一般的な流れを図にまとめました。これを参考にしていただくだけでもやるべきことが見えてくるはずです。ここでは、上図に補足して各段階の説明をしていきます。
開業したい飲食店について、店舗・業種・業態を考え、事業計画書に落とし込みます。後に融資が必要になった際に、この事業計画が審査材料になります。
飲食を提供する施設は、衛生面や防災面の安全のために、店舗が施設基準に適合しているかを審査することが法律によって定められています。
工事が終わる前に、物件の図面から適合の是非を保健所で審査してもらうことで、工事後の施設審査がスムーズに進みます。
相談窓口は自治体によって異なるため、開業する地域を管轄している保健所に確認しましょう。
飲食店で最も注意すべきは食品の衛生管理です。飲食店を営業する場合、食品衛生法によって必ず1店舗につき1名の食品衛生責任者を設置することが定められています。
このほかに、不特定多数の人が出入りする飲食店では、防火管理者の設置も義務付けられています。どちらも資格がない場合は、営業許可申請前に必ず資格の取得をしてしなければなりません。
申請取得方法などの詳細は、後述する『開業に必要な資格とは?』の章で詳しく解説しています。そちらも併せて確認してください。
飲食店の営業には、食品衛生法によって営業許可を取得することが必須です。
許可のない営業は法律によって罰せられます。物件の工事が完了する10日前までに所轄の保健所にて申請を行い、認可を受けましょう。申請時には、申請にかかる手数料の支払いがあります。
申請に必要な書類は、自治体によって異なります。店舗所在地を管轄している保健所で事前に確認しておき、漏れや抜けがないように気を付けましょう。
営業許可の申請など開業に必要な届け出についての詳細は、後述する『開業に必要な届け出とは?』の章で詳しく解説しています。そちらも併せて確認してください。
店舗物件の工事が完了したら、保健所に施設が申請した内容や条例で義務付けられた施設基準に適合しているかを確認してもらいます。
このとき、店のオーナーや責任者、またはその代理人が立ち会うことになっています。
施設検査で不備が見つかった場合は、対処後に改めて施設検査を受けなければなりません。スムーズに開業するなら 2. 保健所で事前相談 をしておくのがベストです。
無事に審査が通れば、営業許可書の交付連絡が入ります。交付を受けたら、すぐにでも営業を始めることが可能です。
物件を探して、外装や内装の設計をする際には、開業計画と並行して行うのが理想的です。
そのためにも複数の不動産や工事業者から、事前に見積もりを取っておきましょう。地域や業者によって価格に幅があるため、立地条件なども考慮したうえで物件を探すと良いでしょう。
物件や業者が決まったら、いよいよ工事開始です。設計通りに進んでいるのか、業者と連絡を取り合いながら、その間に資格取得などやるべきことを済ませていきましょう。
物件で使える水が飲食に問題ない基準に達しているのか、チェックを要することがあります。
上水道から直接引き込まれている水であれば問題ありませんが、貯水槽に貯めた水や井戸水を利用する場合には、水質検査が必須です。
営業許可の申請では検査結果も併せて提出することが定められていますから、物件を確定する際には水道についても確認しておき、申請前に検査を済ませるようにしましょう。
水質検査については、2. 保健所で事前相談 の際に確認しておくと、その後の一連の流れがスムーズに進みます。
開業に欠かせないものというと、資金や資格などの物質的な面を思い浮かべてしまいがちですが、最も欠かせないのはマインド面です。
一般的に、飲食店を開業するために必要な要素には、お金、店舗、運営の3つがあります。これらには、経営者の考え方が影響します。
たとえば、お金に関することでは、開業資金をどのように集め、運用していくのか。収支計画に対して楽観的な考え方を持っていれば、いずれ経営が破綻してしまいかねません。
店舗に関しても、どんな客に来店してもらいたいのかを考えて立地を決めたり、顧客に合わせた内外装にしたりしなければ、いずれ客足が途絶えてしまうでしょう。
運営面でも、どういったオペレーションで行くのか、スタッフを雇う場合はどのように教育していくのかなども考えなければなりません。
内閣府男女共同参画局の調査によると、平成18年~21年の4年間だけでみても、廃業した飲食店は、開業した飲食店の2倍にも上ります。
廃業理由で最も多いのが、長期間の赤字です。
開業後、安定的に経営を続けていくためには、赤字にならない仕組みづくりとともに、赤字を引きずらない経営判断が大切です。
飲食店を開業する際に必要な資格の中で、まず思い浮かぶのが調理師免許ではないでしょうか?
しかし、実際には調理師免許がなくても飲食店を開業することができるのです。代わりに、必須とされているのが「食品衛生責任者」と「防火管理者」の資格です。
飲食店の開業には、食品衛生責任者を設置することが食品衛生法で定められています。
食品衛生責任者は、不特定多数の人に対して飲食を提供する際の衛生管理に責任を持つ立場です。
食品衛生法第35条で明記された34業種を営業する場合に、必要不可欠な資格なのです。
飲食店は、食品衛生法第35条で定められた34業種のうち「飲食店営業」や「喫茶店営業」に該当します。
そのため、必ず1店舗につき1名の食品衛生責任者を配置することが義務付けられているのです。
食品衛生責任者は、店舗の営業者もしくは施設の常駐従事者でなければなりません。
個人がオーナー兼店主となって開業するのであれば、自身が食品衛生責任者となります。
多店舗展開する場合には、一人の食品衛生責任者が複数店舗を兼務することができませんので、各店舗の店長が食品衛生責任者の資格を取得する必要があります。
資格取得には、都道府県知事が指定する食品衛生協会主催の『食品衛生責任者養成講習会』の受講を修了が必須条件です。
法改正などもありますので、一度受講したからもう受けなくていいということではないため、年に一度は受講するようにして最新の情報を得るようにしましょう。
また、営業許可申請時に登録した食品衛生責任者が変更になる場合は、変更届の提出が必要です。
なお、調理師や栄養士など食品衛生にかかわる資格を有している資格者は、改めて食品衛生責任者養成講習会を受講する必要はありません。
消防法によって定められた国家資格で、火災によって死傷者が出た場合に責任を負う立場です。
収容人数30名以上の飲食店での設置が消防法によって義務付けられています。
防火管理者は、店舗所在地を管轄する消防署や自治体が主催している『防火管理講習』を受講すれば資格取得できます。
防火管理講習には、以下の3つがあります。
・甲種防火管理新規講習
・甲種防火管理再講習
・乙種防火管理講習
飲食店を開業する施設の大きさによって、受講する講習が異なります。
建物の用途や規模、収容人数に関係なく、全ての建物で防火管理者になれる講習会です。
甲種防火管理新規講習の修了者で、大規模な建物で防火管理者になっている人が受講する講習会です。5年に1回の受講が義務付けられています。
小規模の建物、または大規模施設内の小規模テナントでの防火管理者になるための講習会です。
個人経営のカフェやラーメン店などの小規模での飲食店開業を目指している人が受講します。
飲食店を開業するには、届け出が必要です。その一つが、営業許可です。
店舗物件のある所轄の保健所に、営業を許認可してもらうための申請を行います。この申請は、営業開始予定日から2~3週間前に行いましょう。
必要になる書類は、開業する自治体によって異なります。必ず、保健所で事前に確認しておいてください。
営業許可申請の際には、食品衛生責任者や防火管理者となる人の氏名が必要です。
また、貯水槽や井戸水を利用して飲食を提供する場合には、併せて水質検査の結果である『水質検査成績表』を添付しなければなりません。
火を使って調理をする飲食店を開業する場合は、火気設備を設置する前に消防署へ届け出をしなければなりません。
これをせずに火気設備を設置すると、営業許可申請の施設検査で指摘を受け、許認可が下りるのが遅くなります。
脱サラや定年退職後に飲食店を開業する場合は、個人事業を開業する手続きも必要です。
管轄の税務署で申請できますので、開業日から1ヵ月以内に届け出を出すようにしましょう。
出し忘れてしまうと金融機関で屋号の口座が作れない、融資の要件に合わず資金の工面が滞るなどの弊害が出てしまうこともあります。速やかに届け出るようにしましょう。
飲食店を開業するにあたり、最近は「0円開業」などの謳い文句を見かけることもあります。ですが、実際には0円で開業などできません。
開業でつまづかないように、どれくらいの資金の準備をしておけばいいのか、資金調達にはどんな方法があるのか、大切なお金のことをきちんと把握しておきましょう。
開業に必要な資金の平均は、およそ1,000万円です。
この内訳には、物件の取得にかかる費用、開業するために必要な内外装や設備費、健全に営業していくための運転資金、事業が軌道に乗るまで生活を維持するための補填用の費用が含まれています。
飲食店を開業するのに、それほどの資金を準備して臨んだ人は多くはありません。
全国の飲食店に出資実績を多く持つ日本政策金融公庫の調べによると、準備した自己資金は開業に必要となった資金のおよそ3割です。
残りの7割のうち6割が、日本政策金融公庫を含む金融機関からの融資で、あとの1割は親族などから資金調達をしています。
つまり、開業資金を試算して、そのうちの3割以上を準備できれば開業に向けて動き出しても問題ないといえます。
開業する飲食店のジャンル、開業予定の地域によって必要となる金額が変わります。
そのため、いくらあれば問題なく開業できるという具体的な目安がないのが実情です。
おおよその概算を知るには、開業予定の地域で店舗条件に該当する物件の見積もりを取り、相場を知るのが最も近道です。
よくある例としては、次の目安がありますので参考にしてみてください。
・保証金:家賃10ヵ月分
・礼金:家賃1ヵ月分
・仲介手数料:家賃1ヵ月分
なお、居抜き物件を取得する場合には、別途「造作譲渡費」というものがかかります。こちらも併せて確認をしておきましょう。
どんな飲食店で、どんなサービスを提供するのかによって、必要な内装や設備が異なります。
こちらも物件取得にかかる費用同様に、必要な設備を洗い出して、内装イメージとともに内装施工業者から見積もりを取りましょう。
この他にも、開業を地域住民にお知らせするチラシを刷ったり、スタッフを雇い入れるための求人広告を出したりする場合には、それぞれに資金が必要です。
それぞれ見積もりを取っておくと相場がわかり、準備しておくべき金額が見えやすくなります。
開業してすぐは、物珍しさや知人・友人がつき合いで訪れてくれることもあり、売り上げはそれなりに見込めるかもしれません。しかし、日にちが経つうちに、客足が遠のくことも考えられます。
売り上げがすぐに安定するとはいえませんので、万が一赤字になっても補填できるお金があれば安心です。その金額は、売り上げの6ヵ月分が理想的です。
売り上げが安定するまでは、生活費も預貯金を切り崩して補填することになります。
預貯金の全額を開業資金につぎ込んでしまうと、生活が成り立たなくなりますから、別途生活費を用意しておくようにしましょう。
開業に合わせて引っ越しを検討している場合は、引っ越し費用を生活費とは別に用意しておくことも忘れてはなりません。
生活に必要な資金は6ヵ月分を目安とし、プラス引っ越しにかかる費用が理想的です。
自己資金以外で資金調達するには、公的な補助金や助成金を使う、もしくは銀行などの金融機関の融資を利用する方法があります。ここでは、公的なものを取り上げていますので、参考にしてみてください。
中小機構による補助金制度です。市区町村と連携し、地域経済の活性化を目的に設けられた補助金制度で、審査に通過した事業者にのみ補助金が支給されます。
なお、支給されるお金は、経費の一部を補助するものであり、必要な資金全額ではありません。
支給額:上限200万円
詳しくは、中小機構『創業支援に関する情報』で確認してください。
就業する人員が5人以下の小規模事業者を対象とした、日本商工会議所による補助金制度です。
補助の対象になるのは、宣伝・広告費です。新規開業で告知する際に利用できます。全国からの公募となり、審査されたのちの支給です。
支給額:上限50万円 ※経費に対する補助率:2/3
申請には経営計画書や補助事業計画書の提出が必須です。小規模事業者限定で、資料作成で不明なところや販路開拓での悩みに対して指導や助言を受けることができます。
詳しくは、日本商工会議所『小規模事業者持続化補助金メニュー』で確認してください。
飲食店の開業は、たくさんのことを並行して行います。保健所による営業許可や資格の取得、物件の取得、設備・備品の購入、そして資金の準備まで、しなければならないことがいくつもあります。
スムーズに開業するためには効率よく行動することが大切です。そのためにも、いつまでに何をするかといった計画を予め立てておくといいでしょう。
しっかりと準備をしておけば、開業してから慌てることもなく、余裕をもった店舗運営ができるはずです。
画像出典元:Unsplash、pixabay、Pexels、O-DAN
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