ベンチャー企業の経営者、あるいはこれから起業をしようとしているビジネスパーソンにとって、「ニッチビジネス」は非常に魅力的なビジネス分野といえるでしょう。
しかし、ニッチビジネスは、ただニッチなサービスを売り出せば良い、というものではありません。
今回は、ニッチビジネスの基本的な知識からメリット・デメリット、成功例やビジネスアイデアのヒントまで、徹底的に解説していきます。
このページの目次
ニッチビジネスは英語で「Niche business」とつづり、「特定分野」「隙間市場」あるいは「隙間ビジネス」といった意味合いを持つ用語です。
元々「Niche」は「壁龕(へきがん)」という、壁をえぐって作られた凸状の建築デザインを意味する言葉でした。
転じて「裂け目」「割れ目」「くぼみ」といった意味で使われる単語になり、そこからビジネスの世界における「Niche business(ニッチビジネス)」という用語として使われるようになりました。
「隙間ビジネス」とは具体的にどのようなものかというと、マーケットのうちごく一部のユーザーをターゲットとしてサービスを売り出すビジネスのことをいいます。
つまり、マーケットの「隙間」を狙ったビジネス、ということです。
例えば、左利き用のアイテムばかりを揃えている道具店や、レコードやカセットを扱っている店、あるいは、いわゆるゲテモノ料理店といったものも、ニッチビジネスの事例として挙げられます。
通常のビジネス、特に大企業の場合は売上金を大きくし企業規模を大きくしていくことを目指します。
そのため自社のサービスを売り出す際には、マーケットを支配して寡占的な状況を生み出すことで、利益を独占しようと試みます。
例えばマイクロソフト社のパーソナルコンピュータのOSである「Microsoft Windows」やオフィスソフトの「Microsoft Office」は、それぞれの分野で圧倒的なシェアを誇っています。
いまやパーソナルコンピュータは全世界で使われるツールであり、かつ年齢や世代などに関係なく様々な人々が使うものとなっているため、マーケットを支配しているマイクロソフト社の年間売上高は約11兆円と莫大な規模になっています。
一方で、マーケットを支配できるようなサービスを生み出すためには、マーケットの大多数を占めるユーザーのニーズを満たすようなサービスを提供し続けなければなりません。
これはサービスとしての機能はもちろんのこと、サービスの安定的な提供や、国境を越えて展開するサービスの場合には各国の法的規制や文化・言語への対応など、様々な面でクオリティを保たなければならないことを意味します。
それに費やすコストは莫大なものとなること、さらには既存の大企業が商売敵となることから、規模の大きくない企業、特にベンチャー企業にとっては「マーケット支配」は非常に高いハードルとなっています。
そこで、無理にマーケットを支配することを目指すのではなく、マーケットの限られた部分にターゲットを絞って、少ないながらも確実に売上の見込めるユーザーを掴もうという考え方が出てきます。
これがニッチビジネスが生まれてくるメカニズムです。
ニッチビジネスを生み出すことの最大のメリットは、ターゲットを限定することで、その限られた範囲においては大企業に太刀打ちできるサービスを生み出せる可能性が高まることです。
先述のとおり大企業はマーケットの大多数のニーズを満たすべくサービスを提供します。
その一方で、マーケットのそこかしこにあるニッチなニーズまでを満たすようなことはできず、多くの場合で「大企業のサービスでは満足できない」ユーザーが存在します。
このような大企業が囲い込めなかったユーザーを狙い、彼ら彼女らのニーズをとことん満たすようなサービスを提供することで、規模は小さいながらも大企業に勝てるチャンスが巡ってくるのです。
また、ターゲットが限定されているため、サービス開発及び提供にかかるコストも比較的小さく済む、ということもニッチビジネスのメリットです。
これは特に予算や人的資源の限られるベンチャー企業にとっては経営戦略上重要な要素でもあります。
さらに、その時点においてはニッチなニーズであっても、将来的にはマーケット全体に波及するような大きなビジネスチャンスへと発展していく可能性があるのも、ニッチビジネスの魅力でしょう。
一方でニッチビジネスにはいくつかのデメリットも存在します。
まず大きなデメリットとしては、やはりターゲットが限られている分、見込める売上の規模も限られることが挙げられます。
場合によっては時代の移り変わりによりニッチなニーズそのものが消滅してしまう可能性もあることから、ニッチビジネス展開の際にはマーケットの動向を綿密に観察しなければなりません。
また、先ほどメリットとして「マーケット全体に波及するような大きなビジネスチャンスへと発展していく可能性」を挙げましたが、これもベンチャー企業にとってはかえって都合が悪くなる可能性も出てきます。
なぜならば、ニッチだったはずの分野が一般化することで、競合他社の参入などによりビジネス環境が厳しくなっていくからです。
日本では家電といえば、パナソニック、シャープ、東芝、日立などといった老舗の大手メーカーが非常に有名であり、ほとんどの家庭でこれら大手メーカーの製品が使われる、といった状況でした。
そんな中、近年大きな注目を集めている新進気鋭のメーカーが「バルミューダ株式会社」です。
バルミューダ社が2015年に生み出したトースター「BALMUDA The Toaster」は、2万円以上もする高級品です。
先に挙げたような老舗メーカーの製品も含め、トースターは数千円規模で買えるものがほとんどな中、2万円以上という強気な値段設定はマーケットの大多数のニーズからは明らかに外れたニッチなものだったといえます。
しかし、BALMUDA The Toasterはバルミューダ社の元々の売りであった「デザイン性」に、プロをもうならせる上質なトーストができあがるという「機能性」が加わる形であっという間にユーザーの心を掴むことに成功。
その結果、20万台を超えるヒットとなりました。
今や「高級家電」は老舗メーカーも商品を出すトレンドアイテムとなっていますが、バルミューダ社はマーケットを開拓したパイオニアとしてユーザーに広く認知されています。
失敗とまでは断言できませんが、ニッチビジネスの難しさを語る事例を1つ挙げましょう。
それは、「株式会社ペッパーフードサービス」が手がけている「いきなり!ステーキ」のアメリカ展開です。
いきなり!ステーキは、日本の消費者に大受けした「立ち食いスタイル」「低価格帯」というサービス形態をほぼそのままに、2017年2月にアメリカでの事業展開に乗り出しました。
これは、アメリカではステーキの外食は高級店がメジャーであることに目を付けたニッチの開拓という戦略でした。
しかし、日本ではステーキに限らず一般的な「立ち食いスタイル」がアメリカでは浸透しなかったこと、日本で人気の焼き方でありいきなり!ステーキでも取り入れられている「レア」が受け入れられなかったこと、そして何よりも「ステーキの外食は高級店」というアメリカ人の価値観を覆せなかったことから、いきなり!ステーキのアメリカ展開は大きくつまずいてしまいます。
その結果、2019年2月にはニューヨークに11か所あった店舗のうち7店舗が閉店を強いられるなど、大きく苦戦しています。
ニッチビジネスのアイデアは、サービスを継続したり事業展開のための足がかりとなる「確実なニーズ」を見込めるかが最大のヒントとなります。
先述のバルミューダ社の例でいえば、「とにかく美味しいパンを食べたい」という潜在的ながらも(おそらくバルミューダ社が想定していた以上の)普遍的なニーズが成功のカギとなっていました。
それに対していきなり!ステーキの例では、結果的に「安くてパッと提供されるステーキが食べたい」というニーズがなかった(掘り起こせなかった)ことが苦戦の要因となっており、ペッパーフードサービス社も「立ち食いスタイル」を変更するなどの対応を行っているところです。
ニッチは「隙間」という意味だという話をしましたが、隙間であっても「確実に」ニーズがあることが重要だ、ということです。
もう一つ、自社の提供するサービスがニッチなニーズを満たす水準にあるかを見極めることも重要です。
これは特にバルミューダ社のBALMUDA The Toasterを再び見てみるとよく分かるでしょう。
BALMUDA The Toasterが成功したのは、先述のとおり「とにかく美味しいパンを食べたい」という潜在的なニーズを掘り起こしたことが大きな要因ですが、それよりも、そういったニーズを満たせるような機能の高さがBALMUDA The Toasterにはあったことが重要です。
また、先述のとおり、ニッチなニーズは将来的にはマーケット全体に波及するような大きなビジネスチャンスへと発展していく可能性があり、そうなった時には大手企業も含めて競合他社が参戦してくるでしょう。
そういった将来のビジネスライバルにも負けないためにも、やはりサービスの水準を高めておくことは重要なカギとなっています。
今回は、ニッチビジネスの基本的な知識からメリット・デメリット、成功例やビジネスアイデアのヒントまで、徹底的に解説してきました。
今回特に強調してお伝えしたいメッセージは、ニッチビジネスの展開を目指す際には、サービスを継続したり事業展開のための足がかりとなる「確実なニーズ」を見込めるか、そして将来のビジネスライバルにも負けない高い水準のサービスを提供できるかが成功のカギとなる、という点です。
ニッチなニーズはそう簡単に見つかるモノではありません。
しかし、バルミューダ社が掘り起こした「とにかく美味しいパンが食べたい」というニーズのように、意外と身近に転がっているモノでもあります。
まずは「自分だったらどのようなサービスがあると嬉しいか」という観点から、ビジネスのアイデアを練ってみるのが良いでしょう。
画像出典元:Unsplash、Pixabay、O-DAN
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