会社を設立したけど、まだどれだけ収益が見込めるかわからない。だから、社会保険を入らなくていいなら入りたくないな、そう考えている人は多いかもしれません。
実際、2015年以前は会社を設立しても、あえて社会保険には入らず、国民健康保険や国民年金に加入していた会社が多くありました。しかし、現在その状況は変わってきています。
ところが、その社会保険制度自体ををあまりよく知らないという経営者もいます。そこで、合同会社の設立にあたり、どのように社会保険と関わっていけばいいのかを今回はみていきます。
合同会社の社会保険加入義務と、未加入の場合のペナルティ、そして、社会保険制度から見た場合に個人事業主と法人化のどちらが得なのか、経営者が知っておきたい社会保険制度について解説していきます。
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一般に社会保険とは、社会保険制度のことを指しています。社会保険制度は、社会的な福利厚生制度の一つで、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の4つの保険制度で構成されています。
健康保険には、国民健康保険と社会保険の健康保険の2種類がありますが、社会保険制度の健康保険は国民健康保険以外の健康保険のことを指します。
日本は、国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)があり、国民全員が国民健康保険または社会保険制度の健康保険に加入することが義務付けられています。
国民健康保険は「国民健康保険」1種類しかありませんが、社会保険制度の健康保険には「全国健康保険協会」と「組合管掌健康保険(くみあいかんしょうけんこうほけん)」、「共済組合」などいろいろな種類があります。
なかでも聞き馴染みのあるものに、「協会けんぽ」があります。
中小企業をはじめとした多くの一般企業が加入している健康保険が、全国健康保険協会(通称:協会けんぽ)です。
それぞれで管理団体が異なり、国民健康保険の場合は加入者の住所を管轄する自治体が管理しています。一方、社会保険の健康保険の場合では、各健康保険の運営団体が管理しています。
なお、満40歳を迎えたら自動的に介護保険の納付義務が発生します。これは、社会保険の健康保険・国民健康保険で違いはありません。
次に年金制度を見てみましょう。
社会保険制度の年金は「厚生年金」といい、国民年金と厚生年金の2種類の年金制度から構成されています。
厚生年金保険料には、基礎年金となる国民年金の保険料と厚生年金の保険料が含まれます。
このほか社会保険制度には、失業時に給付金が受け取れる「雇用保険」、勤務中の事故や怪我に対する保障に「労災保険」があります。
これら4つの制度をまとめて「社会保険」と呼んでいるのです。
社会保険にかかる保険料は、企業と加入者個人で50:50の割合で負担しています。
社会保険料は、給与や報酬が高くなるほどに保険料率も高くなる仕組みになっています。そのため、高額報酬を得ている人ほど、社会保険料が高くなります。
どの制度にも共通する要件は、次の通りです。
・1週間の労働時間が、同じ会社で雇用されている正社員の3/4以上であること
・1ヶ月の労働日数が、同じ会社で雇用されている正社員の3/4以上であること
これらを下回る場合は、社会保険に加入することができません。
また、各制度にはそれぞれ加入できる要件が決まっています。
社会保険の健康保険と厚生年金の場合は、次の要件を満たしている人が加入対象になります。
・国民健康保険および国民年金の被保険者でないこと
・会社に所属しており、従業員給与または役員報酬を受け取っていること
雇用保険と労災保険は、従業員に対する福利厚生制度であるため、被雇用者である従業員のみが加入できます。
4つの制度のなかで、合同会社に関係する社会保険は「社会保険の健康保険」と「厚生年金」です。
合同会社は株式会社とは異なり、従業員という概念がありません。出資者は合同会社の構成員であり、なおかつ直接経営に関わる執行役も兼ねています。そのため合同会社では、基本的に雇用保険と労災保険は適用外となります。
社会保険に加入すると、国民健康保険や国民年金にはないメリットがあります。
・傷病手当金が受け取れる
・障害厚生年金が受け取れる
・遺族年金が受け取れる
・老後の年金受取額が多くなる
「傷病手当金」とは、会社に所属している最中に疾病や怪我などで療養することになった場合に支給される補助金のようなものです。
これは、加入している健康保険協会や組合に申請することによって受給することができます。
病気や怪我で働けなくなると、いくら有給があっても使える日数に限度があります。有給がなくなれば収入がなくなってしまいますから、そのときの保険として考えるとメリットの一つとして考えることができます。
社会保険の健康保険以外では、厚生年金にも大きなメリットがあります。
疾病や怪我などによって障害を追って働けなくなると「障害厚生年金」が受給できます。
障害の程度によっては、そのあと別の職に就くことも難しくなります。そういった場合に備えて用意されている制度です。
また、厚生年金には「遺族厚生年金」もあります。
加入者が亡くなった場合、将来支払われるはずだった年金を遺された家族が受け取ることができるというものです。生命保険とは別に支払われるものですので非課税所得となります。これは障害厚生年金も同じです。
さらに、厚生年金のメリットには、国民年金だけを支払っている場合よりも受け取れる年金額が増額されることも挙げられます。
厚生年金には国民年金との二階建て構造ですから、国民年金と二重で支払っていることを意味しています。年老いてから収入で頭を悩ませるのは、精神的にも大きな負担になります。
社会保険は加入すると、個人の収入減や会社の収益減にもなり、できるだけ加入したくないと考える人もいます。
しかし、万が一のことを考えるとリスクマネージメントにも繋がるため、国民健康保険や国民年金よりもメリットがあるとみることができます。
合同会社などの法人は、業種・従業員の人数に関係なく、社会保険に加入することが法律で定められています。そのため、会社を設立(法人登記)してから5日以内に、年金事務所へ届け出なければなりません。
手続きは、オンラインによる申請・郵送・窓口への持参の3つから選べます。
個人事業主の場合は、法人とは要件が異なります。社会保険加入が適用される業種で、なおかつ従業員が5人以上の場合、強制加入となります。
合同会社で加入義務がある社員は、次に当てはまる人です。
・給与を受け取っている社員
・役員報酬を受け取っている代表社員および業務執行社員
社会保険への加入義務がある人は、会社に所属していることが前提になり、さらに給与や役員報酬を受け取っている人全員が対象になります。
ですから、代表社員を含む社員全員が、社会保険制度のうち健康保険と厚生年金に加入する義務があるのです。これらのことは、健康保険法第3条と厚生年金法第9条で明文化されています。
合同会社の社員、基本的には健康保険と厚生年金以外に加入することはできないと先に述べましたが、これには例外があります。
社員や業務執行社員でも、労働性が高い人は「従業員」とみなされ、雇用保険や労災保険への加入義務が生じることがあるのです。労働性が高いとは、すなわち会社の経営を委任された立場よりも、労働対価で働くことが多い人を指します。
労働性の高さを判断するポイントは、次の通りです。
これらを総合的に判断して、従業員にあたるのかどうかが判断されます。しかし、この判断を代表社員がするには難しく、不安なときは必ず社会保険労務士に相談してください。
また、役員報酬を受け取っている非常勤の業務執行社員の社会保険への加入義務についても、勤務実態・業務執行権の範囲と重さ・報酬額などから総合的に判断されます。
こちらも社会保険労務士に相談し、判断を間違えないようにすることが大切です。万が一、判断を誤るとペナルティを受ける可能性があります。
強制加入が定められている合同会社などの法人であっても、次のケースにあたる社員は社会保険に加入できません。
・役員報酬がゼロ円
役員報酬がゼロ円の場合、社会保険への加入要件である「会社から給与または報酬を受け取っている人」を満たしていません。そのため、社会保険に加入することができないのです。
また次のケースでは、加入手続きをしても、年金事務所から加入してなくていいと判断されます。
・報酬が、社会保険の健康保険の月額最低保険料と厚生年金保険料の合計額未満
社会保険料の納付は、会社と加入者の折半でおこなわれます。
折半した社会保険料が報酬額より高い場合は、保険料の支払いができません。そのため、会社には加入義務はあるけれど個人単位で加入しなくていいという判断になるのです。
ちなみに、個人事業主にも同様に加入できない・加入しなくていい場合があります。次のケースがそれにあたります。
・社会保険適用の業種で従業員が5人未満の場合(任意加入は可)
・社会保険適用外の業種
社会保険の加入義務は、会社設立日から生じます。
強制加入の対象になっている合同会社で未加入のままにしておくと、最悪6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑罰が科されます。
さらに、加入義務が発生してから2年間遡って未納付の保険料が一括で追徴されます。保険料を節約しようと未加入のままでいると、かなり手痛いペナルティを受ける羽目になります。
未加入のペナルティは、段階を経て重くなっていきます。早い段階で対処をすれば問題ありません。
また、先に述べた刑罰は、あまりにも悪質だと判断された場合に課されます。
近年は社会保険加入への指導が強化されています。刑罰やペナルティを受けると、会社の信用にも大きく影響します。きちんと加入するようにしましょう。
社会保険への加入は必須ですから、本来損得で判断するものではないのですが、加入することで損失が大きくなるなら加入を避けたくなったとしても当然です。
社会保険料は経費として計上できますので、事業収入で算出される所得税を安くすることができます。
さらに支払う報酬を低く抑え、社会保険料がギリギリ支払えるようにしておくと、社会保険への加入もでき、保険料自体も安く抑えることができます。
会社設立して間もない頃は、報酬の支払いが厳しいこともあるかもしれませんが、あえて社会保険へ加入できるようにしておくことで、社会保険のメリットも享受でき、なおかつ税制面も有利になります。
個人事業主の場合では、給与や報酬を支払う余裕がないにもかかわらず、社会保険料まで負担するとなると事業継続にも影響を及ぼすことがあります。
事業が軌道に乗るまでは、社会保険への加入を保留にするため、国民健康保険や国民年金を利用するという手段も取れます。
ただし、強制加入の要件に該当している場合は、法人同様に支払う保険料を最低額に抑えるよう給与や報酬を調整する必要があります。
合同会社にとって社会保険は、絶対的に加入しなければならない制度です。
そのため、事業が軌道に乗るまでは厳しい局面もあるかもしれません。その場合は、ご紹介したように報酬額を低く抑えて保険料を調整して乗り切りましょう。
合同会社を設立する前に、どれくらいの社会保険料の負担が発生するのかをシミュレーションしておくことをおすすめします。そうすれば、登記後になって慌てずに済むはずです。
社会保険で判断が難しいことがあるときには、代表社員や業務執行社員だけで判断せずに、必ず社会保険労務士に相談してください。
画像出典元:PEXELS
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