会社設立および運営の際に必要となる書類のうち、解釈の仕方がかなりややこしく初心者が混乱してしまうものとして「株主リスト」が挙げられます。
似たようなものとして「株主名簿」というものがあり、これは会社設立後に税務署に提出する「法人設立届出書」に添付する書類ですが、株主リストは実はこれとは異なる別の書類です。
今回は「株主リスト」が必要となる場面と記載事項について、株主名簿との違いを比較しながら解説していきます。
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まず結論から言いますと、株主リストは会社設立時の必要書類ではありません。
確かに、法務省のホームページを確認すると以下のように書いてあります。
平成28年10月1日以降の株式会社・投資法人・特定目的会社の登記の申請に当たっては,添付書面として,「株主リスト」が必要となる場合があります。
この記載により勘違いしてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでいう「登記の申請」とは会社設立の手続きをいうのではなく、登記所における各種の変更登記申請を意味するのです。
さらに法務省のホームページでは「株主リストの添付が必要となる場合」として、以下の2つの場合を示しています。
1. 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合
2. 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合
「会社設立の法人登記」という登記の申請は、これら2つの場合には含まれません。すなわち会社設立の法人登記の際には株主リストを提出する必要はない、と解釈できるわけです。
起業をした方、あるいはこれから起業をしようとしている方であれば、株主リストとよく似た名前の「株主名簿」という書類を聞いたことがあるはずです。
株主名簿と株主リストとは混同されやすい書類なのですが、それぞれ根拠となる法令や作成される目的も異なる別の書類です。
株主名簿は会社法第121条にもとづき、株主の人数に関わらず作成しなければならない書類で、常に会社の本店においておく必要があります。また、会社設立後に税務署に提出する「法人設立届出書」に添付する書類でもあります。
株主名簿の目的は主に「株主の管理」と「株主の権利保護」の2つです。株主名簿があることによって会社は株主に関する情報を管理することができるようになります。
一方で株主の立場からすると、株主名簿に自身の名前が記載されていることで、株主としての権利を主張することができます。そのために会社法第122条において、株主は株主名簿の開示を請求することができる、と定められているのです。
株主名簿に記載事項、作成方法については以下の記事で解説しています。
一方の株主リストは、商業登記規則第61条の改正により新たに義務付けられたものです。先述の株主名簿が「株主の管理」と「株主の権利保護」のために作られるものであり、そのため基本的にはすべての会社が作成義務があるものでした。
それに対して株主リストは「商業・法人登記を悪用した犯罪や違法行為」の未然防止のために作成を義務付けられた書類です。
株主総会議事録等を偽造して行われる不正な変更登記等を行えなくし、登記の真実性を担保するために株主リストの提出が求められるようになった、というわけです。
ですから、株主リストが求められるのは先述のような重要な変更登記申請の場合に限られているのです。
もしかしたら「株主名簿と株主リスト、どちらも兼用できるような書類を作っておけば便利じゃないか?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
ですがこのように2つの書類は性質が異なり、記載事項も違うため、基本的には兼用はできないものと理解しておきましょう。もちろん、共通の記載事項もあるので株主リストを作成する際に株主名簿を参考にできたりはします。
では、株主リストが必要になる場面とはどのような場面が挙げられるのでしょうか。先述のとおり法務省のホームページでは2つの場合
が示されていますが、これらの場合についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
一つ目の「登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合」については主に以下のような事例が挙げられます。
中でもよくあるのは、役員の選任等や商号等の変更でしょう。
出資金の額の減少(減資)を見て「増資の場合は不要なのか?」とお思いかもしれませんが、増資については株主割当増資など、株主総会の決議が必須ではないやり方が存在します。
そのためここには該当しないのです(第三者割当増資など株主総会の決議が必要な場合には、ここに該当します)。
二つ目の「登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合」については主に以下のような事例が挙げられます。
みれば分かるとおり、会社そのものに大きな変更がある場合などに株主全員の同意が必要となる、とイメージしていただければよいでしょう。会社設立したばかりの人にとってはあまり関係がない話といえます。
株主リストの記載事項は、先に説明した「必要になる場面」ごとに異なります。
まず「登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合」には、「議決権数上位10名の株主」もしくは「議決権割合が2/3に達するまでの株主」のうち、いずれか少ない方の株主について、以下の事項を記載したリストを作ります。
次に、「登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合」ですが、この場合は当然、株主全員について以下の事項を記載してリストを作らなけばなりません。
株主リストについては法務省のHPに簡易書式のイメージがあるので、そちらを参考に作成するのが最も確実かつ簡単です。
「法人設立届出書」に添付する株主名簿とは異なり、株主リストには会社実印の押印が必要となることを忘れないでください。
今回は会社運営に関わる書類の中でもかなり混乱しやすい「株主リスト」について、株主名簿との違いを比較しながら解説しました。
株主リストは会社設立後の税務署での手続きに必要となる株主名簿とは異なることを、まずは理解することが大事です。そのうえで、株主リストが必要となる登記申請とはどのような場合があるのかを前もって知っておき、いざ必要となった場合には忘れずに作成し登記申請を行うようにしましょう。
株主リストが必要となる変更登記申請を行うのは、会社にとって重要な変更が生じたとき、ともいえます。変更登記申請の手続きについては以下の記事で解説しているので、こちらもぜひ参考にしてください。
画像出典元:法務省ホームページ、写真AC