会社の設立及び運営にあたっては「株主名簿」という書類を作成したり保管しておかなければなりません。
しかし、実は一言で「株主名簿」といっても、実はそれが必要となる場面で記載事項が微妙に異なったりします。さらには株主名簿と似たような「株主リスト」という書類もあったりするので、非常に混同しやすくなっています。
今回はこれから起業する方に向けて、「株主名簿」という書類について記載事項も含めて場面毎に分かりやすく解説していきます。
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株主名簿とは、会社の株主に関する基本的な情報が記載されている名簿のことです。
狭義では会社法によりすべての株式会社について作成が義務づけられている書類であり、広義ではその他の様々な場面で必要となる書類を指します。
株主名簿が必要となる場面は大きく分けて以下の3つです。
1. 会社法に基づき株主名簿を作成・保管するとき
2. 法人を設立するときの添付書類として提出するとき
3. 登記の申請に際しての添付書類として提出するとき(株主リスト)
これらのほか、会社法第122条では、株主が請求したときには株主名簿を開示あるいはコピーを提供する義務があることが定められています。
また後述するとおり、株主名簿を作成・保管することを怠った場合の罰則も定められているので、「株主名簿は必ず作成・保管しておく」ことを、まずは覚えておきましょう。
ここからは、株主名簿が必要となる3つの場面についてより詳しく解説するとともに、それぞれの株主名簿について記載事項を説明します。
まず、会社法第121条により、すべての株式会社は株主名簿を作成しなければならない旨が定められています。
さらに、会社法第125条では、株主名簿を会社の本店に備え置かなければならない旨(つまり保管義務)が定められています。
会社法に基づく株主名簿の作成・保管義務には例外がありません。
ですから、例えば個人事業主が法人成りしたような一人社長の会社の場合でも、株主名簿を作成・保管しておかなければなりません。
もし株主名簿の作成・保管を怠ってしまうと「百万円以下の過料」が課せられることが会社法第976条で定められているので、注意しましょう。
会社法で定められた株主名簿については、会社法第121条により以下のとおり記載事項が定められています。
1. 株主の氏名又は名称及び住所
2. 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
3. 第一号の株主が株式を取得した日
4. 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る)に係る株券の番号
4つ目の「株券の番号」とは、紙の株券を発行する際に、それぞれの株券に記載する番号のことです。
現在は紙の株券を発行することはほとんどなくなったために、これから起業するような場合には基本的にはこれは記載せず、その代わり「株券不発行」と書くことが一般的です。
法人を設立する際には、税務署に「法人設立届出書」という書類を提出します。
この法人設立届出書にはいくつかの添付書類を添えて提出する必要があるのですが、それら添付書類のうちの一つが株主名簿となっています。
少しややこしいのが、この法人設立届出書に添付する株主名簿については、先述の会社法に基づく株主名簿とは記載事項が微妙に異なる、という点です。
法人設立届出書に添付する株主名簿の記載事項は以下のとおりとなっています。
1. 株主の氏名
2. 株主の住所
3. 株主の有する株式の数
4. 金額
5. 役職名及び当該法人の役員または他の株主等との関係
会社法に基づく株主名簿との違いは、「4.金額」と「5.役職名及び当該法人の役員または他の株主等との関係」を記載することです。
さらにもうひとつ、登記の申請に際しての添付書類としても「株主リスト」という書類を提出しなければならない、というルールがあります。
これまた少しややこしいのですが、ここでいう「登記の申請」とは、会社設立の手続きをいうのではなく、登記所における各種の変更登記申請を意味します。
具体的には以下の2つの場合において、変更時申請を行う際には株主リストの添付が必要となっています。
1. 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合
2. 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合
さらにこれもややこしい話ですが、この場合の書類は「株主名簿」とはいわず、あくまで「株主リスト」ということになっているので、混同しないように注意しましょう。
登記申請の添付書類としての株主リストの記載事項は、先述の2つの場合でそれぞれ異なります。
まず「登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合」というのは、例えば役員の選任・不再任・解任や会社の解散などといった事例があります。
このときは、株主リストには「議決権数上位10名の株主」もしくは「議決権割合が2/3に達するまでの株主」のうち、いずれか少ない方の株主について、以下の事項を記載します。
1. 株主の氏名又は名称
2. 住所
3. 株式数(種類株式発行会社は,種類株式の種類及び数)
4. 議決権数
5. 議決権数割合
もう一つ「登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合」というのは、会社の組織変更や、全ての株式について取得条項を設定するなどの事例があります。
これら場合は、株主リストには「株主全員」について、以下の事項を記載します。
1. 株主の氏名又は名称
2. 住所
3. 株式数(種類株式発行会社は,種類株式の種類及び数)
4. 議決権数
株主リストの添付は平成28年10月1日より運用が開始されたルールですので、著されたのが古いノウハウ本などには記載されていない事柄です。
法務省のウェブサイトにQ&Aなどが記載されているので、必要となった場合はこちらをよく確認しましょう。
会社法に基づき作成・保管しておく場合の株式名簿、法人設立届出書の添付書類としての株主名簿ともに、フォーマットについては特に制限はありません。
定められた記載事項を満たしてさえいれば問題ないので、ワードもしくはエクセルでテンプレートを準備すると良いでしょう。
登記申請の添付書類としての株主リストについては、法務省のウェブサイトに簡易書式のイメージが掲載されているので、こちらを参考に作成するようにしましょう。
今回は、これから起業する方に向けて、「株主名簿」という書類について記載事項も含めて場面毎に解説してきました。
株主名簿といっても場面毎に記載事項が異なること、さらには似たような「株主リスト」という書類もあり、これまた別の記載事項が求められることをご理解いただけたかと思います。
今回ご紹介した事例のうち、会社法に従い会社に保管しておく株主名簿と、法人設立届出書の添付書類として作成する株主名簿はすべての株式会社に必要なものですから、しっかりと押さえておきましょう。
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