M&Aは、大企業から中小企業まで、事業の拡大や継承における選択肢としてポピュラーなものになっています。
これからM&Aに取り組もうと考えている方は、実際にプロセスを進める前に、ぜひメリットとデメリットを知っておきましょう。
この記事では、M&Aを行うメリットとデメリットを買い手・売り手それぞれの視点から解説し、さらに成功に導くためのポイントも紹介します。
このページの目次
M&A(Mergers and Acquisitions=合併・買収)とは、その名前のとおり、企業が企業を合併、買収することを意味します。
企業規模やシェアの拡大、事業の多角化、技術やノウハウの獲得など、それぞれの企業が抱える経営課題を解決するために行われるのが一般的です。
大企業が行うイメージが強いですが、最近では中小企業や個人事業主の事業継承の選択肢としても注目されています。
M&Aが行われる際には、買い手と売り手が存在し、それぞれにメリットとデメリットが生まれます。
これからM&Aに取り組む企業は、これを理解しておくことで成功の確率を高めることにつながります。
まずは買い手にとってのメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット | デメリット |
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同業他社をM&Aすれば、その企業の持つ業界内でのシェアをそのまま自社のものにできるため、効率よく競争力を強化できます。
事業の成長にかかるコストや時間を減らして一気に規模を拡大できるのは非常に大きなメリットと言えるでしょう。
資金力があれば、業界トップクラスのシェアを持つ企業をM&Aして、ライバルを減らしてしまうやり方も可能です。
買収企業の持つ人材、設備、インフラ、事業用の資産などを自社のものと組み合わせることで、相乗効果による売上増・効率化・コスト削減などが期待できます。
また、他社の事業を吸収することで、ブランド力の向上やスケールメリットを得られるといったメリットもあります。
なお、主力事業同士のシナジー効果ももちろんメリットですが、弱点事業をM&Aで補う手法も効果的です。
M&Aは、多角化や新規事業立ち上げの手段としても有効です。
新たに事業を立ち上げて収益の出る状態まで構築するには、時間やリソース、人材がかかり、失敗のリスクもあるのが一般的です。
しかし、M&Aなら、そうしたコストを抑え、かつ失敗のリスクも抑えられます。
また、金融・航空・通信など新規参入が難しい規制市場や、言語や文化の壁がある海外市場など、難易度の高い市場での事業構築にも役立ちます。
技術力に優れた企業をM&Aすれば、その技術やノウハウを取り入れて製品開発に活かすこともできます。
発展途上のベンチャーや中小企業を低コストで買収し、その技術で製品を開発して大きなリターンを得るM&A手法は一般的です。
製品開発力を向上して企業基盤を強化することで、単体の事業のみならず、全社的な収益性の向上も期待できるでしょう。
企業規模にもよりますが、M&Aには少なくとも数千万、多ければ数千億単位の資金がかかるため、調達の必要があります。
特に大企業やブランド価値が高い企業は「のれん代」が高額になることが多く注意が必要。
買収金額が高すぎるとM&A後に利益を出すのが難しくなってしまいます。
また、対象企業の買収金額を決めるうえでは、徹底したデューデリジェンスや交渉が必要で、金銭面以外でも手間がかかります。
企業を買収するということは、その分新たにリスクを抱えることでもあります。
買収後に、事前に把握していなかった簿外債務が見つかったり、不正、粉飾決算、コンプライアンス問題などが発生することもしばしば。
デューデリジェンスが不足していたり、売り手側との信頼関係が薄い場合に起こりがちです。
場合によっては買収コストの回収ができず、損失を計上して倒産や再売却となるケースもあります。
買収後に自社の経営体制に組み込んだり、シナジー効果を創出するためには、統合プロセスが必要になります。
組織構造やインフラの整備はもちろん、細かいルールや文化のすり合わせもしなければならず、意外にも手間がかかるものです。
買収までのプロセスに力を入れたのにこのプロセスをきちんと行わず、思うような成果が得られないケースも散見されます。
M&Aによって組織に変化が発生すると、自社の従業員にも影響が出ます。
事前にM&A後のビジョンや組織変更について十分に理解を得られている場合は問題ありませんが、場合によっては、不満を感じて離職してしまうこともあります。
特に、製品開発に携わる研究者や技術者の流出はダメージが大きいため注意が必要。
また、M&Aによって研究開発や事業戦略を効率重視で進めていると、内部のノウハウが育ちづらい環境になってしまうこともあります。
次に、売り手の視点でM&Aを行うメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット | デメリット |
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M&Aで事業を売却すれば、評価額に応じた売却益を得られます。
株式を売却してエグジットすれば、経営者は起業時の投下資本の何倍ものリターンを得ることも可能です。
また、事業を譲渡する場合、基本的には負債も買い手企業に引き継ぐことができるため、経営の立て直しにも役立ちます。
特定の事業のみを売却することで、事業ポートフォリオを整理することができるのも売り手のメリットです。
不採算事業に投下していたリソースを主力事業に専念すれば、そこから経営を立て直して再成長することが可能になります。
また、売却益を活用して新規事業を立ち上げたり、新たに製品開発を進めることも可能です。
中小企業における経営者の高齢化や継承者不足が問題になっていますが、M&Aによる事業承継でこの問題を解決できる可能性があります。
事業が継続できている段階で買い手を見つけてM&Aできれば、組織を維持しつつ、経営権を移行して事業を継続することが可能です。
実際に、最近では事例も増えてきており、マッチングサービスを利用すれば誰でも買い手企業を探すことが可能な環境になりつつあります。
企業が廃業や倒産となってしまうと、働いている従業員は仕事を失ってしまいますが、M&Aによる事業承継を行えば、彼らの雇用を守ることにもつながります。
買収時の条件として盛り込んでおけば、従業員の待遇や雇用条件をM&A後に引き継げるため、安心して働き続けることができるでしょう。
M&Aは経営層にとってのメリットが強調されがちですが、実はそれ以外の人にとってもメリットのある取り組みになり得ます。
経営状態が悪い企業、リスクを抱えている企業、実績の少ない企業は、買い手を見つけるのが難しいことは理解しておかなければいけません。
仮に買い手が見つかったとしても、売り手が希望するような金額での買取には至らなかったり、買い手優位の条件交渉になってしまうでしょう。
できる限り良い条件で売却するために、複数の仲介会社、オンラインサービスを利用する、解決可能なリスクは事前に対処しておくことを意識しましょう。
M&Aの手法によって異なるものの、事業を売却することは経営権を手放すことを意味します。
経営の意思決定に関与できなくなることや、自社が望む経営方針からは遠ざかる可能性は理解しておく必要があります。
M&Aの交渉時に一定の権限を維持することを条件に盛り込むことは可能ですが、その場合も基本的には買い手主導の経営になることは避けられません。
M&Aによる組織再編によって、従業員や取引先が離脱してしまうこともあります。
特に、雇用条件や契約内容に変更がある場合にそのリスクが高まります。
また、長年勤続していた社員や信頼関係のある取引先ほど、変化に対して拒否反応が起こる可能性が高くなるでしょう。
完全にコントロールするのは難しいですが、事前に丁寧な説明をしておくことである程度はリスクを抑えられます。
「株式譲渡」でM&Aを行う場合には、売却益に税金がかかることにも注意が必要です。
個人で譲渡を行った場合、分離課税で所得税、復興特別所得税、個人住民税がかかり、税率は20.315%。
法人の場合には、株式譲渡以外の所得と合算した総合課税で実効税率29.74%の法人税が課せられます。
また、「事業譲渡」の場合は、こちらも総合課税で29.74%の法人税と10%の消費税がかかります。
ここから、実際に各企業がどんな目的でM&Aを行い、どんな成果を得ているのかを事例として紹介します。
旅行予約サイト「楽天トラベル」事業の規模拡大を目的として、2003年に業界トップのマイトリップ・ネットを約323億円で買収。
すでにシェアを得ている競合他社をM&Aすることで、業界でのシェアを約7割にまで伸ばしました。
M&Aのメリットである効率の良い事業拡大の典型的な例と言えます。
2019年、ヤフーはZOZOの株式の過半数を約4,000億円で取得して子会社化しました。
これにより、ヤフーはZOZOの持つ「ZOZO BASE」という物流インフラを手に入れ、eコマース事業事業の拡大を実現しました。
他社の持つインフラや資産をそのまま自社のものにできるのもM&Aのひとつの強みです。
A氏は靴の小売店を個人で営んでいましたが、高齢になったこともあり、引退を考えていました。
後継者がいなかったため、廃業するしかないと考えていましたが、商工会の経営指導員の紹介で事業承継の個別説明会に参加。
M&Aという選択肢を知り、さらに事業引継ぎ支援センターにて譲り受け相手を見つけて事業譲渡を実現しました。
M&Aや事業承継は、企業だけでなく個人事業主にとっても有効な選択肢になり得ます。
M&Aが失敗に終わってしまった事例についても参考として知っておきましょう。
グローバル事業の強化を進めていたパナソニックは、2009年に三洋電機を約6,600億円、うちのれん代5,180億円の巨額で買収しました。
しかし、シナジー効果を見込んでいた三洋電機のリチウムイオン電池事業が、円高や社会情勢の影響で軌道に乗らず、企業価値が半減してしまいます。
最終的に、パナソニックは買収からたった2年で2,500億円を減損処理する結果になってしまいました。
キリンホールディングスは2011年に、ブラジル国内でシェア2位の大手ビール会社「スキンカリオール」を約3,000億円で買収しました。
しかし、他社にシェアで逆転され、現地通貨価値が下がってコスト増につながったこともあり、業績は悪化。
結果、2017年にオランダのハイネケングループに買収時の4分の1の770億円で事業を売却することになってしまいました。
運送業を営むA社では、社長が高齢になり、後継者がいなかったことから、M&A仲介業者にマッチング支援を依頼します。
同じ地域のB社とマッチングしますが、社長本人がB社によるデューデリジェンスに協力せず、経営権に関する要求を譲らなかったため、信頼関係が破綻。
B社は不誠実な対応に嫌気が差してA社との交渉を中止してしまいました。
経営層における意思統一をはじめ、売り手側の姿勢がM&Aの結果に大きく影響することが分かります。
M&Aを成功させてメリットを得るには、押さえておくべきポイントがいくつかあります。
まずは買い手の重要ポイントを解説します。
企業選定や金額について考える前に、まずはM&Aの目的や戦略を明確化しておくことが重要です。
目的はシェアの拡大なのか、新規事業の立ち上げなのか、ノウハウ獲得なのか?
必要な組織設計や経営計画はどんなものかを考え、事前に策定しておきましょう。
これにより、その後の企業選びやデューデリジェンス、統合プロセスがスムーズになり、判断の精度が高まります。
事前の目的を明確化したら、それを元に企業選定と評価を行いますが、その際重要になるのがデューデリジェンスです。
対象企業の財務状況、資産などに関する情報をできる限り詳細に収集・分析して、買収金額や条件を定めます。
ここで正確な評価ができるか、後のリスクを把握できるかどうかでM&Aの成功確率が大きく左右されます。
買収後には、対象企業を自社の経営体制に組み込むための統合プロセスが必要になります。
このプロセスを丁寧に行うことで、シナジー効果が創出しやすくなり、中長期的な成功確率が高まります。
経営層の方針のすり合わせはもちろん、現場レベルでも組織設計、ルールやインフラなどさまざまな分野での統合が必要です。
売り手側も、M&Aを成功させるためにはいくつか押さえておくべきポイントがあります。
M&Aは買い手優位の交渉になることが多いものですが、売り手にとって利益を最大化するためには、交渉においてある程度売り手からも要求する必要があります。
評価価格はもちろん、従業員との契約や取引先との関係維持に関する条件など、M&A後の統合プロセスにおける内容などもすり合わせましょう。
業績が悪い、リスクを抱えている、規模が小さい場合などは、どうしても買い手の要求を飲むことが多くはなりますが、それでも可能な範囲で要望を伝えましょう。
M&Aを成功させるためには、買い手がデューデリジェンスで十分な情報を入手し、リスクを最小化する必要があるため、売り手は情報提供で協力しましょう。
リスクの隠ぺいや情報の不足は買い手の信頼を損ない、交渉の妨げとなるうえに、売却後の経営がうまくいかなくなる可能性が高くなります。
相手の要求する情報は正確な内容でスピーディーに渡せるように資料化しておくことが重要です。
経営層でM&Aに対する意思統一ができていないと、交渉がスムーズに進まない、相手の信頼を失う、統合プロセスがうまくいかないといったリスクが発生します。
特に親族経営の中小企業に多く、交渉自体が中止になってしまうケースも。
事前に全員に情報共有し、不明点や不満を解消しておくようにしましょう。
M&Aには買い手、売り手双方にメリットもあれば、デメリットもあります。
買い手はシェア拡大をはじめ、より企業として成長するためのメリットが多い反面、新たなコストやリスクが発生するというデメリットも。
売り手にとっては、組織を維持したまま経営権を移行できるため、後継者不足の解消などに役立つ一方で、望むような売却にはならないリスクもあります。
M&Aを検討している場合は、こうしたメリット・デメリットをあらかじめ理解してから取り組むようにしましょう。
画像出典元:Unsplash、Pixabay
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