著名な投資家であり、現ソフトバンクグループの代表取締役会長兼社長である孫正義氏の発表で、ますます注目を浴びているSPAC(特別買収目的会社)。
日本にはない制度のため、名前は知っていても実態がよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、SPACについてわかりやすく解説します。従来のIPO(新規上場株)との違いから、ルールや仕組み、メリット・デメリット、今後のSPACの動向まで網羅的にご紹介。
この記事を読むだけで、SPACとは何かがわかるようになります。
このページの目次
名前を聞いたことがあっても、そもそもSPAC(特別買収目的会社)とは何か?日本では導入されていない制度のため、わかりにくいかと思います。
そこで、まずはSPACについての基本的な情報を押さえておきましょう。
かなり端的にいえば、SPACは投資組織と表現できます。
SPACのスペルは、Special Purpose Acquisition Company。この頭文字を取って、SPAC(読み:スパック)といいます。
和訳すると、特別買収目的会社です。つまり、特別な目的をもって買収を行う企業という意味になります。
SPAC企業の特別な目的とは、未公開株や事業を買収することです。この目的を達成させるために設立される法人がSPACで、その実態は投資を行う組織なのです。
なぜ、SPACが未公開株や事業の買収を行うのを目的としているのかといえば、そもそも未公開企業の上場ハードルが高いことに理由があります。
その理由については、後に登場する項目『通常のIPOとの違い』で解説します。
買収を目的に設立されているため、SPACは事業を持ちません。このことから、「ブランク・チェック・カンパニー(=白地小切手会社)」「ブラインド・プール」とも呼ばれています。
SPACは、未公開企業が資金調達をするための入れ物の役割を持っているのです。
ここで「事業を持たないのに企業が上場ができるのか?」という疑問が浮かぶ読者もおられるでしょう。そこが、アメリカと日本の株式上場における条件の違いです。
アメリカでも上場への審査がありますが、無事業での上場が認められています。一方、日本ではSPAC自体が認められていません。
そのため、日本におけるSPAC上場に相当する手法としては、M&A(=Mergers and Acquisitions/吸収合併)があります。
では、SPACのルールとは何か。また、未公開企業がSPACを用いて株式を公開するには、どんな手順を経ていくのか。
ここでは、ルールと流れについて解説します。
SPACには、投資家を保護して、企業の不正を防止するための決まりがあります。
SPACによるIPOは、通常のIPOと比べて簡素な手続きで上場ができることから、この制度を悪用して、募った資金を濫用する事例もあるほどです。
その場合、損失を被るのは出資した投資家自身。そのリスクを回避するために、上述したルールが設けられているのです。
投資リスクが抑えられているSPACですが、どんな流れでSPACが設立され、上場まで至るのか。図をもとに確認していきましょう。
設立者がSPACを立ち上げて上場した時点までは、事業を持たないペーパーカンパニーです。上場によってSPACの株式は公開株となります。
その株式を投資家が買い付けることによって、SPAC側に資金が入ります。こうして調達した資金によって、SPACは未公開会社の買収を行うのです。
どの企業を買収するのかは、上場時点ではまだ決まっていません。そんな状態でも資金が調達できるのは、設立者に対する信頼があるからです。
SPAC設立に際して誰が代表となるかは、SPAC自体の信用力にもなるため、重要なポイントです。
多くの場合、著名な経営者や大手投資銀行など、ネームバリューのある人が代表となります。
これが、投資家の「この人が代表を務めているのだから、きっと将来有望な企業を買収するに違いない」という信頼感に繋がり、結果として出資を期待できるのです。
どんな投資家もリスクの高い出資はしたくありません。回収の見込みがあるからこそ出資してくれるため、代表者には買収への成功が期待できる人物が据え置かれるのは自然なことです。
通常のIPOとSPACを用いたIPOでは、何がどのように違うのか。ここでは、通常のIPOを振り返りながら、SPACを用いたIPOについて解説します。
通常のIPOとSPACを用いたIPOを解説する前に、まずは簡単にIPOについておさらいしておきます。
そもそもIPOとは、Initial Public Offeringの略で、その頭文字を取ったもの。和訳すると「新規公開株」や「新規上場株式」となります。
IPOは、未上場企業が新規に株式を上場して、株を投資家に売り出し、誰もが株式市場において取引できるようにすることをいいます。また、株式上場に際しては、通常新たに株式が公募されたり、上場前に株主が保有している株式が売り出されることがあります。
市場に株式を公開する場合、その株式にどれくらい信用がおけるかは、投資リスクにも直結するため、投資家や買収する企業にとっては重要な判断材料となります。
そのため、上場において、企業は法律などに則って企業の内部状況を外部へ公開しなければなりません。公開する情報には、事業実態や財務状況などがあります。
通常のIPOでは、これらの情報を開示するための準備にくわえて、上場するためのコスト、市場で株式を公開し続けるためのランニングコストがかかります。
たとえば、日本では次の情報を開示しなければなりません。
不備があれば審査が通らず、上場ができません。さらに、その審査も2段階に分かれています。
1.主幹事証券会社による「引受審査」
2.各証券取引所による「公開審査」
主幹事証券会社とは、企業が株式が債権などを発行して資金調達をする場合に、その窓口として業務を引き受ける証券会社のことをいいます。
ここでの審査によって、有価証券として引き受けに値するかどうかが判断されます。
続いて行われる各証券取引所での公開審査では、2種類の審査基準が設けられています。
企業が取引所にて株式公開を行うには、両方の審査基準を満たすことが必須です。
形式基準では、株式の公正な株価形成の確保と円滑な流通が可能かどうか、企業の継続性や収益力といった上場に適した能力があるかどうか、またそれを維持することが可能かどうか、さらには、株式流通を担保できるかどうかといった基準が設けられています。
実質基準では、投資家保護や公益性を担保するために、企業の経営計画や組織内部の制度整備など、実質的な側面から信用に値するかどうかが見られます。
取引所によって上場における各種条件が異なるため、上場したい市場に併せて準備を進める必要があるのです。
通常のIPO | SPACによるIPO | |
上場までの期間 | 長い | 短い |
審査の厳しさ | 厳しい | 簡単 |
上場にかかるコスト | 高い | 低い |
通常のIPOと比べてSPACによるIPOは、低コストなうえ短期間で上場が可能です。
それだけでなく、審査もかなり緩くなります。その理由は、そもそもSPACには既存の事業がないため、開示する情報が少ないからです。
通常、アメリカの株式市場におけるIPOでは、IPO登録明細書というものを作成します。IPO登録明細書とは、企業の内情や財務状況の開示書類のことです。
議決権や配当支払い権、買収防衛にまつわる策定事項などが盛り込まれています。
SPACによるIPOでは、SPAC側に事業がないため業績や資産など開示できる情報がありません。
そのため、IPO登録明細書における内容は、SPAC役員の経歴や文言が大半を占めることになり、それをもとに各取引所や投資家は信用性を判断することになります。
また、SPACのIPOには、通常のIPOにはないルールが設けられています。それは、SPAC自体に事業がないからこそ、投資家保護の観点が強く働くためです。
SPACが注目を集めている背景には、投資家・買収される企業おのおのの立場において次のメリットがあるからです。
従来の未公開株は、限られた投資家のみがアクセスできるもののため、個人投資家にとっては手の出しにくい投資商品です。しかし、SPACを用いて未公開会社が上場すれば、その株は市場に公開されるため、個人投資家でも買い付けられるようになります。
それだけでなく、そもそも未公開株自体は、既存の公開株に比べて1株当たりの単価も低く、公開当初であれば少額から投資ができるのも利点です。
また、SPACの株式は、上場企業株ですから、未公開株と違って途中売却もできます。未公開株は途中売却ができないことから、将来性や配当に不安がある場合でも手放すことができません。
ところが、SPACで上場すれば、市場での売買ができるようになるため、手放したいときに売りに出すことができます。このことからも、低リスクでの投資が可能といえるのです。
投資家にとって出資金が回収できなないことは、自身の資産の喪失を意味します。
出資額に限らず、投資家は投資した分の回収はもちろん、その利息を含めて資金を回収することを前提に資金を運用しています。
そんな投資家が、回収の可能性が高い企業へ出資したいと考えるのは至極当然です。
その点、SPACには買収期限や信託保全などのルールが制定されているため、投資したお金が消えてしまうことがありません。
たとえ、SPACが未公開企業の買収に失敗したとしても、出資者である投資家へ資金を返還することができるのです。
未公開会社がまとまった資金を調達するには、未公開株を購入してくれる投資家を見つけなければなりませんが、将来性の不確かな企業の株を購入してくれる投資家を探し出すのは簡単ではないのが現実です。
しかし、SPACを用いれば、SPAC経由でまとまった額の資金が調達できるようになります。
未公開会社が通常のプロセスで上場するには、上場審査を通過しなければなりません。それには、上場審査のための準備や上場にかかるコストもかかります。
一方、SPACでは審査も簡素で、準備にかかる期間やコストも低く済ませられるのです。
SPACには利点が多い一方で、当然ながらデメリットもあります。
SPACには、投資家保護の観点から「上場から24ヵ月以内に未公開企業を買収する」ルールが定められています。
これが買収の際のネックになり、買収交渉時の価格吊り上げリスクの要因になっているのです。良い条件でSPACが買収を成功させられるかどうかは、代表者の力量にかかっているといえます。
SPACが買収先を判断する際、慎重に検討が重ねられます。しかし、どれだけ慎重になっても、買収先が絶対的に安心安全な企業とはいえません。
その大きな要因となっているのが、上場企業と比べて開示される情報が不十分な点です。
簿外負債がある、コンプライアンスが遵守されていないなど、蓋を開けてみないとわからないこともあるからです。
特に、財務状態については注意が必要で、経営不振にもかかわらずSPACで上場を目論む未公開企業もあります。
アメリカの株式市場にSPACが登場したのは、1980年代。そこから約40年、SPACは現在もアメリカの株式市場を賑わせています。
近年では、日本人投資家にも人気のSPAC。どんな歴史と、注目されている背景には何があるのかを見てみましょう。
OTCブリティンボード(=OTCBB)とは、アメリカにおける店頭取引銘柄を取引する証券市場の一つです。
店頭取引とは、投資家や証券会社が取引所を介さずに株式を売買する取引のことで、アメリカでは証券取引所での売買同様に一般的なものとなっています。
日本でも私設取引として未公開企業の株式が売買されていますが、未公開株を証券会社が投資家に対して投資勧誘することは禁止されているため、あまり一般的ではありません。
アメリカでの店頭取引は、すべての株式売買の1/3に相当するほど、活発な市場となっています。
そんなOTCブリティンボードに1980年代に入り、登場したSPACですが、当初は規制が緩く、不正行為の温床となっていました。
たとえば、買収候補の噂をわざと流して株価を吊り上げて売り抜いたり、自ら出資した企業を買収したりと詐欺的行為が相次いだのです。
これによって多くの投資家が損害を被り、訴訟が多発。投資家を保護するために、1992年に米国証券取引員会が規制を設けた経緯があります。
現在のSPAC制度も投資家に手厚い規制になっているのも、これらの歴史を踏まえてなのです。
SPACが今もまだ活気があるのは、企業・投資家それぞれの立場から見ても魅力があるからです。
企業側の立場では、通常のプロセスを経て上場を果たすよりもSPACを用いたほうがスピーディに資金調達ができるため、資金やリソースが乏しい企業にとってはIPOを避けるきらいがあります。
投資家の立場では、初期投資における資金回収のスピードが従来の方法よりも早くなるため、プライベート・エクイティ(PE)の代替商品として関心が向けられているのです。
日本ではまだ未導入のSPAC。今後、国内において導入があり得るのかどうか。
SPACが活発なアメリカの動向を見つつ、予想してみましょう。
アメリカ国内だけで見ても、SPACの人気は右肩上がりです。特に、新型コロナウイルス感染症が拡大するに伴って、通常のIPO計画がとん挫したり、破綻したりしている企業があります。
これらの企業や投資家がSPAC活用に走るようになったのも、ブームに拍車をかけるきっかけになっています。
また、投資家の観点でいえば、SPACが通常のプライベート・エクイティ(PE)よりも短期間で投資回収の機会が得られることも、投資家がSPACに集まる一因です。
複合的な事情が絡み合って、SPACブームが後押しされているのです。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響によるSPACブームは、一時的なものだと見る向きもあります。
状況が落ち着けば、IPOに戻る企業や投資家も増えると考えられているからです。
現状、日本ではSPACによる上場は認められていないため、全ての企業が通常のプロセスを経ての上場となります。
投資家が未公開企業の投資をするためには、まず投資先となる企業を見つけ出し、リスクを考慮したうえで出資先を選別する必要があります。
企業側も、公募で出資者となる投資家を探すことが難しいため、横の繋がりから探すのが一般的です。
しかし、日本経済を好循環させるためには、投資の促進や新たな市場の創出が重要。そこで目がつけられたのがSPACです。SPAC制度は、これらの課題をクリアするものとして期待されているのです。
SPACが導入されれば、投資から回収までのスピード感が従来の投資と比べて格段に上がります。また、スタートアップのさらなる活性にも繋がり、経済の発展にも良い影響を及ぼします。
とはいえ、未公開企業への投資に対してまだまだ課題が多いのが実情です。そのため、制度導入までには、まだしばらく時間を要すると考えられます。
アメリカでは以前より活況を示しているSPACは、現時点で日本での導入はまだまだ先の話となっています。
しかし、政府が掲げる成長戦略の中で、SPAC導入への検討が本格化しつつあるため、日本の株式市場にSPACが登場するのも時間の問題でしょう。
SPACは、個人投資家の資産運用のみならず、スタートアップ企業にとっても資金調達を容易にする方法の一つですから、今後の動向にぜひ注目してみてください。
画像出典元:Unsplash、Pexels、Pixabay
アーンアウト条項とは?売り手が損するって本当?メリット・デメリットを解説
キーマン条項(ロックアップ)の不幸な真実!?背景・失敗理由や事例を解説
キーマン条項(ロックアップ)とは?M&Aにおけるメリットや注意点、期間・事例も解説
赤字会社でもM&Aはできる!メリット・デメリットや成功のコツ・事例も紹介
【2024年版】SaaS業界のM&A事例を専門家が分かりやすく解説!
スタートアップM&Aの流れとは?詳しい手順や成功・失敗例から学べる注意点を解説!
M&Aの「のれん」の償却について、経営者が最低限知っておくべきこと
システム開発会社をM&Aするメリットは?事例や動向も詳しく解説!
DA|最終契約書とは?M&Aの締結タイミングや記載条項【ひな形付き】
ディールブレイカーとは?具体例・対処法を解説| M&A関連用語も