2021年6月に156億円を調達し、評価額1,700億円とユニコーン入りしたSmartHR。
ARR100%超えと海外ユニコーンにも比肩する成長ぶりを見せる同社は一体何がすごかったのか?
SmartHRの基本情報を踏まえつつ、ビジネスモデルやこれまでの戦略を徹底解剖していきます。
このページの目次
株式会社SmartHRは2013年設立のIT企業です。
2015年11月に現在の主力サービスとなる、人事労務クラウド・SmartHRを公開しました。
SmartHRのローンチ後は順調にサービスを成長させ、2021年6月にはシリーズDラウンドで約156億円を調達しこの段階で累計調達額は約238億円となっています。
そして評価額が1,700億円になったことでユニコーン企業に仲間入りをしました。
晴れてユニコーン入りした同社でも特徴的なのがその成長スピードです。
という脅威の成長曲線を描いており、グラフからも見て取れるように海外企業と比べても全く見劣りしない成長ぶりとなっています。
採用含めグローバル展開も視野に入れた動きを行っており、今回の調達では海外投資家の名前やコメントも随所に見られました。
SmartHR会社紹介資料より抜粋
株式会社SmartHRは、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供しています。
SmartHRは、使いやすいUIUXを強みに、労務管理全般をオンラインで完結できるサービスです。
労務手続きの効率化やペーパーレス化をはじめ、従業員情報の一元管理やデータ蓄積といった機能を提供しています。
2015年の公開以降着実に成長していき、現在では導入社数30,000社、利用継続率99%を誇る国内トップシェアの人事労務クラウドです。
SmartHRはなぜここまで成長できたのでしょうか?
適切な市場選択、タイミングなど種々の要素がありますが、とくに重要な内容に絞ってご紹介します。
SmartHRのサービスとしての優位性は大きく以下の3つになると考えられます。
詳しく見ていきましょう。
下のグラフは、バックオフィス系SaaSベンダーの数を比較したものとなっています。
上の表を見ていただければお分かりの通り、労務管理クラウドはベンダーが少ないことが特徴的です。
人事評価や勤怠管理カテゴリなどではベンダーが60以上あるところ、労務管理は13社のみ。
SmartHRは比較的「競合が少ない」分野で戦っていることがわかります。
またSaaSはその特性上、海外サービスと競合することも多く、ジャンルによっては国内サービスは海外サービスとの競争を強いられることも多いビジネスと言えます。
しかし「労務管理」は各国それぞれの法律・制度の壁があるため、海外SaaSが侵入しにくく、競合の数が抑制されるため競争が過当になりづらい点も有利に働いていると言えます。
そして最も重要な点が、SmartHRがチャーンレートを低く抑えられていることにあります。
SaaSにおいて解約率はサービスの成長に極めて重要な指標であり、一般的にはチャーンレート(解約率)の目安は2~3%以下と言われています。
一般的なチャーンレートが2%のところ、SmartHRは約半分以下の値となっており、これが急速な成長を実現した一因といっても過言ではないでしょう。
ちなみにチャーンレートが低いことによるメリットとして、
があり、少ないリソースで大きく成長する上では重要な指標です。
SmartHR社は、社員数が10名以下の小規模な段階からカスタマーサクセスの重要性を理解し、ビジネスに活かしてきました。
現在でこそカスタマーサクセスという職種の重要性が認知されていますが、ローンチ間もない段階からカスタマーサクセスへの注力を行ってきたことが高い継続率にも現れていると言えます。
労務管理市場はすべての法人が対象になるため、市場が非常に広いと言えます。
一見魅力的な市場ではありますが、もちろん課題もあります。
それは、労務というカテゴリは年末調整や契約周りなど、業務の発生する頻度はそこまで多くないということです。
発生頻度が少ないから社労士に丸ごと外注する、という流れがこれまでは優勢でした。
SaaSにおいて、サービスの利用頻度低下はチャーンに繋がる一因であるため、この点はなんとかする必要があります。
カテゴリの都合上、活用頻度が低くなりうる労務管理システムのこの課題をSmartHRではどう解決しているのでしょうか?
それはサービス自身が推している”「集まる」「蓄まる」「活用できる」”という人事情報の集積に突破口があると考えられます。
画像出典元:「SmartHR」公式HP
利用頻度が低くても、会社のワークフローや基幹部分に組み込まれていれば利用せざるを得ません。
SmartHRでは雇用契約や年末調整の省力化だけではなく、人事情報の蓄積や更新をセットで提供することで、企業の中枢にしっかりと入り込んでいるのです。
このため、SmartHRは重要性・乗り換えコストともに高いサービスにすることができている、と言えます。
ベンチャー企業は、企業規模が30人、50人、100人の節目ごとに壁にぶつかるという話があります。
組織の拡大に伴う組織の瓦解は成長を大きく損なう要因の1つです。
SmartHRは2017年から2021年にかけて社員数を10人前後から400人まで増やしています。
このような拡大を行うと、前述の「壁」による崩壊もありえたはずです。
組織運営に関しては同社CEOである宮田昇始氏が詳しく解説されているので、いくつかピックアップして紹介していきます。
主に以下のような取り組みで防いでいるとのことです。
新入社員がスムーズに組織になじめるよう、歓迎会や入社後3ヶ月間ひと月ごとの1on1などが制度として実行されている。
実施施策を通してみると、「どうすれば組織としてスムーズに動けるのか」「いかに一体感を醸成するか」に力を割いていることが見て取れます。
直近のユニコーン企業入りが注目されているが、SmarHRは今後の展望もしっかり持っています。
2019年の段階では以下のような戦略が発表されています。
「SmartHR」の“人事情報データベース”としての側面を強めていき、それ以外の機能をプラスアプリ側に移管していきたい
引用元:SmartHRガイド
その際、成長のロールモデルとしてSalesforceをあげることが多々あります。
Salesforceは「sales cloud」を旗艦に「service cloud」「marketing cloud」など複数のサービスを提供しており、それぞれが均等に売上をあげつつ、他のサービスとも連携できるプラットフォームとしても機能しています。
SmartHRもそれに則る形でSmartHRに次ぐ収益の柱の創出、プラットフォーム化を狙っています。
現状では、
SmartMeeting:会議改善クラウドサービス
LOOPER:人材データベースサービス
上記の他2サービスをグループ会社で展開することが述べられており、HR領域でのサービスを強化していくことが見て取れます。
2019年に61.5億円を調達した際に、代表の宮田氏は30億円を「人件費・採用費」と「マーケティング費用」に投資することを明言しています。
人材の中でも
上記の人材の採用に注力することを述べていました。
そして2021年現在、カスタマーサクセスの人数拡大、海外投資家からの出資という状況を見るに、これらの採用計画は順調に運んだといっても過言ではないと言えます。
今回調達した156億円の使途として、採用強化やマーケティング活動への投資を明言していることから、今後もグローバル展開・上場を視野にいれた組織の拡充・国内シェア獲得に動いていくことが予想されます。
SmartHRはどこがすごかったのか?という部分に着目して解説しました。
こうしてみると、SmartHRは早い段階からグローバル展開も視野に動いている節があります。
今回の調達でも海外投資家がリストに入っており、海外からの注目度も高まっていると言えます。
労務管理SaaS最大手のSmartHRの動きはこれからも要注目です。
画像出典元:O-DAN,SmartHR
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