TOP > ベンチャー > ベンチャー・スタートアップ > スタートアップビザとは?制度の仕組み・対象自治体や事業・海外事例
「スタートアップビザ」とは、外国人起業家に対して、日本で起業を進めるために一時的な在留許可を認めるビザのことです。
近年、欧州や南米を中心にスタートアップビザ制度が数多く導入されています。
昨今日本においても、一部の自治体で認められ始めています。
本記事では、スタートアップビザの概要や自治体における特徴、課題、海外事例などを詳しく解説します。
このページの目次
スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)は、外国人による創業を促進するために、「内閣府国家戦略特区」で認定されている制度と、「経済産業省」から認定を受けた自治体において活用できる制度のことです。
通常、外国人が日本で創業する場合、出入国在留管理局から在留資格「経営・管理」の認定を受ける必要があります。
この申請時においては、「事務所(個室)の開設」のみならず、「常勤の職員を2名以上雇用する」もしくは、「資本金額または出資総額が500万円以上となっている」ことなどの要件を満たさなければなりません。
そこで一部の自治体では、外国人起業家が創業に向けた準備を進めるために、一時的な在留資格を与える取り組みが始まっています。
「国家戦略特区」と「経済産業省」における制度の概要と、認定自治体は下表のとおりです。
国家戦略特区の制度 | 経済産業省認定の制度 | |
開始時期 | 2015年7月 | 2018年12月 |
在留資格 | 経営・管理 | 特定活動 |
在留可能期間 | 6ヶ月 | 最長1年(6ヶ月で更新要) |
証明書 | 創業活動確認証明書 | 起業準備活動確認証明書 |
その他 |
|
|
認定自治体 |
仙台市 |
福岡市 愛知県 岐阜県 神戸市 大阪市 兵庫県 三重県 北海道 仙台市 横浜市 茨城県 大分県 京都府 渋谷区 浜松市 |
※2022年10月現在
両制度の最大の違いは、在留可能期間にあります。
「国家戦略特区」の制度では、6ヶ月以内に「経営・管理」ビザ更新のための要件を満たす必要がありますが、「経済産業省」の制度では、1年以内に要件を満たせば良いことになっています。
また、現在は国家戦略特区の10自治体と、経済産業省より認定された15自治体のみが制度の対象です。(※重複自治体あり)
スタートアップビザ制度のある抜粋した11自治体における対象事業を下表にまとめました。
多くは、各自治体の活性化や国際競争力アップが期待できる産業であることが条件となっているようです。
自治体名 | 対象事業 |
福岡市 |
福岡市の産業の国際競争力の強化や雇用の拡大を図ることが期待でき、以下の産業にあてはまる事業
|
愛知県 |
|
岐阜県 |
岐阜県の産業の国際競争力を強化するとともに国際的な経済活動の拠点を形成することを目的とし、以下の産業にあてはまる事業
|
神戸市 |
|
大阪市 |
地域未来投資促進法における大阪市基本計画において定める産業分野
|
三重県 |
三重県産業の振興、ひいては我が国の国際競争力強化と国際的な経済活動の拠点形成につながるような分野
|
北海道 |
|
仙台市 |
仙台市の産業の国際競争力の強化や雇用の拡大を図ることが期待でき、以下の産業に当てはまる事業
|
横浜市 |
|
茨城県 |
|
大分県 |
|
※参照元:各自治体ウェブサイトより
表内の自治体名をクリックすると、各自治体のスタートアップビザ制度のWebサイトに進みます。
特に個性的な運用をしている自治体を3つご紹介します。
渋谷区は、ワンストップの相談窓口「スタートアップウェルカムサービス」を導入し、外国人起業家が日本で事業設立を実現するためのビザ取得や、各種行政手続きを民間企業と連携しサポートしています。
また、渋谷区と民間企業による組織「渋谷スタートアップデッキ」は産官学連携の支援チームで、外国人起業家のみならず、渋谷区のスタートアップ起業が安心してチャレンジできる環境を整えています。
※参照元:渋谷区スタートアップサポート
2022年6月に認定を受けたばかりの浜松市ですが、「外国人材も活躍する”日本一の起業家応援都市 浜松”」の実現を目指し、起業家支援に力を入れています。
無料の起業セミナーや起業サロンをはじめ、様々な起業家支援を行う「はままつ起業家カフェ」を導入。
「浜松市(総合調整)」、「はままつ起業家カフェ(起業支援)」、「浜松国際交流協会(生活支援)」が密に連携をとり、外国人におけるスタートアップ事業を盛り上げています。
※参照元:浜松市アートアップビザ
京都府は、2021年3月にSlackによるオンラインコミュニティ「Startup Capital Kyoto」を導入しています。
このコミュニティは、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、対面での接触が限られる中で、国内外の起業家や支援家が気軽に情報交換できる場として構築されました。
高精度翻訳ソフトのDeep Lと連携することで、多言語による情報発信を実現しています。
2021年9月末時点では、約300人が参画しています。
※参照元:京都府スタートアップビザ
続いてスタートアップビザを取得するための3ステップを解説します。
まず外国人起業家は、起業準備活動計画書や事業計画などを該当する自治体に申請しなければなりません。
審査が認められれば、自治体から創業活動に関する「創業活動確認証明書」または「起業準備活動確認証明書」が交付されます。
そして交付された確認証明書を、所管する地域の出入国管理局に申請します。
「経営・管理」または「特定活動」の在留資格が認定されれば、6か月のビザを取得できます。
「特定活動」ビザは最初の6ヶ月を終えたのち、次の6ヶ月以内に確実に起業する見込みがあれば、「特定活動」ビザの更新ができます。
ビザを更新できれば、最長で1年間は創業に向けた準備活動が継続できます。
「経営・管理」ビザでは、6ヶ月のうちに創業要件を満たしている場合において、更新が可能となります。
スタートアップビザが注目される背景には、主に以下の2つが挙げられます。
それぞれ解説していきます。
国内での新規開業件数が伸び悩む中、外国人による日本での創業は、新たな産業創出の促進として期待されます。
新たなイノベーション(革新的なサービスや製品)のみならず、国際ビジネス人材との交流、地域企業とのビジネスマッチングなどの機会が生まれやすくなるでしょう。
また新たな産業や新規開業件数が増えることで、自治体や日本全体での新たな雇用が生まれます。
それは結果的に労働者を増やすことになり、人手不足の業界や職種にとっては労働者の増加が期待できます。
スタートアップビザにおける課題は以下の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1つ目の課題は、その自治体で起業する魅力をいかに対外的に発信していくかということです。
スタートアップビザの利用者は外国人であるため、外国語による情報発信が必要となります。
たとえば京都では、国内外でのスタートアップイベントを開催するだけでなく、海外ビジネスで必須のLinkedInやFacebookなどのSNSの活用、スタートアップに関する動画や記事の掲載などを中心に、オンラインを活用した発信に取り組んでいます。
このように、日本の各自治体で起業することのメリットを海外に向けて発信していく力が求められます。
2つ目の課題は、外国人起業家によるスタートアップをいかに地域と連携させるかということです。
スタートアップビザは出入国管理の観点から行政機関が中心となり、申請者と自治体や公的機関間でのやりとりで終わってしまいがちです。
それゆえ外国発のイノベーションも地域に十分取り込むことができません。
民間支援機関や先輩起業家など地域コミュニティとして連携を進めることは、周囲の発展のみならず、地域の発展や起業環境の向上につながります。
3つ目は、複数人による起業や家族の帯同などのインセンティブを拡充することです。
多くの国では認められているものの、日本の現制度では認められておらず、当人が個別にビザを申請することが求められます。
本来なら、複数人での起業は起業の成功率を高めます。
また、家族を帯同できるよう制度を整えておくことは、仕事と家庭の両立を求める外国人起業家を誘致するために望ましいことでしょう。
それゆえ、外国人にとって日本の自治体で起業や創業しやすいような優遇策の拡充を検討する必要があります。
最後にスタートアップビザの海外事例を紹介します。
カナダでは、外国人起業家に対して、永住権の付与を認めています。
少子高齢化が進む中で、外国人起業家は経済成長や雇用拡大の担い手として期待されています。
ビジネスプランの要件としては、「革新的であること」「カナダ人に対して仕事を創造すること」「世界規模のビジネスに匹敵すること」となっています。
これまでに約200社の創業者が永住権を取得しているそうです。
これまで中国では自国出身の起業家を中心としていましたが、昨今ではスタートアップビザの導入が進んでいます。
2020年9月には、全国に先がけて上海市において、外国人材とそのチームメンバーの就労許可の取得支援制度が試験的に導入されました。
2020年12月には中国国内初となる外国人起業家への労働許可が、日本人起業家の2人に発給されています。
エストニアは、2017年1月よりスタートアップ企業に向けたビザが開始された国です。
2年間で延べ1,000人以上の申し込みがあり、約900人が審査に合格し、エストニアへの移住権を獲得しています。
エストニアのスタートアップビザの特徴はその審査体制にあるといわれています。
審査組織は政府関係者ではなく、エストニア起業家団体などの7団体で構築されており、とても個性的なものとなっているようです。
また、エストニア全体はデジタル先進国としてブランディングを行っており、それがスタートアップビザへの注目度の高さに繋がっています。
今回は、スタートアップビザの概要、自治体別の特徴、課題、海外事例などを解説しました。
スタートアップビザは、新たな産業の創出や人材確保などの観点から期待されています。
外国人起業家とビジネスマッチングや交流を行うことで、新たなビジネスやイノベーションが生まれる可能性もありますので、視野を広げて、自社の事業やビジネスについて検討してみてください。
画像出典元:O-DAN, unsplash
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