スタートアップビザとは?制度の仕組み・対象自治体や事業・海外事例

スタートアップビザとは?制度の仕組み・対象自治体や事業・海外事例

記事更新日: 2022/10/13

執筆: 桜木恵理子

「スタートアップビザ」とは、外国人起業家に対して、日本で起業を進めるために一時的な在留許可を認めるビザのことです。

近年、欧州や南米を中心にスタートアップビザ制度が数多く導入されています。

昨今日本においても、一部の自治体で認められ始めています。

本記事では、スタートアップビザの概要や自治体における特徴、課題、海外事例などを詳しく解説します。

スタートアップビザとは?

 

外国人起業家のためのビザ

スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)は、外国人による創業を促進するために、「内閣府国家戦略特区」で認定されている制度と、「経済産業省」から認定を受けた自治体において活用できる制度のことです。

通常、外国人が日本で創業する場合、出入国在留管理局から在留資格「経営・管理」の認定を受ける必要があります。

この申請時においては、「事務所(個室)の開設」のみならず、「常勤の職員を2名以上雇用する」もしくは、「資本金額または出資総額が500万円以上となっている」ことなどの要件を満たさなければなりません。

そこで一部の自治体では、外国人起業家が創業に向けた準備を進めるために、一時的な在留資格を与える取り組みが始まっています

スタートアップビザ制度の概要と認定自治体

「国家戦略特区」と「経済産業省」における制度の概要と、認定自治体は下表のとおりです。

  国家戦略特区の制度 経済産業省認定の制度
開始時期 2015年7月 2018年12月
在留資格 経営・管理 特定活動
在留可能期間 6ヶ月 最長1年(6ヶ月で更新要)
証明書 創業活動確認証明書 起業準備活動確認証明書
その他
  • 「留学」以外からの切り替え不可
  • 更新時「事務所」要件の緩和あり(コワーキングスペース可)
  • 帰国せず他の在留資格からの変更可
  • 更新時「事務所」要件の緩和なし
認定自治体

仙台市
東京都
神奈川県
新潟市
愛知県
広島県
今治市
福岡市
北九州市
京都府

福岡市
愛知県
岐阜県
神戸市
大阪市
兵庫県
三重県
北海道
仙台市
横浜市
茨城県
大分県
京都府
渋谷区
浜松市

※2022年10月現在

両制度の最大の違いは、在留可能期間にあります。

「国家戦略特区」の制度では、6ヶ月以内に「経営・管理」ビザ更新のための要件を満たす必要がありますが、「経済産業省」の制度では、1年以内に要件を満たせば良いことになっています。

また、現在は国家戦略特区の10自治体と、経済産業省より認定された15自治体のみが制度の対象です。(※重複自治体あり)

スタートアップビザ制度の各自治体における対象事業

スタートアップビザ制度のある抜粋した11自治体における対象事業を下表にまとめました。

多くは、各自治体の活性化や国際競争力アップが期待できる産業であることが条件となっているようです。

自治体名 対象事業
福岡市

福岡市の産業の国際競争力の強化や雇用の拡大を図ることが期待でき、以下の産業にあてはまる事業

  • 知識創造型産業(フィンテック、半導体関連、ソフトウエア開発、コンテンツ制作、ロボット関連など)
  • 健康・医療・福祉関連産業(創薬ベンチャー、医療技術開発、再生医療、福祉用機器開発など)
  • 環境・エネルギー関連産業(グリーンテック、クリーンエネルギー開発、次世代蓄電技術、地球情報システムなど)
  • 物流関連業(グローバルSCMサービス、3PLサービス、国際宅配、ドローン物流開発など)
  • 貿易関連業(市内産品の海外販路開拓に資する事業、博多港と福岡空港の機能を活用する事業など)※貿易関連業については、新規性がある事業や市内事業者の成長に大きく寄与する事業である必要がある
愛知県
  • IT分野(情報通信業)において高成長を目指す事業
  • 革新的技術・技能を用いて高成長を目指す事業
岐阜県

岐阜県の産業の国際競争力を強化するとともに国際的な経済活動の拠点を形成することを目的とし、以下の産業にあてはまる事業

  • IT、IoT等関連分野(IT、IoTなどを導入・活用し、企業の生産性向上や新商品・技術開発、付加価値創造に関連する事業)
  • 観光分野(県の観光消費の拡大、県内への誘客促進に関連する事業)
神戸市
  • 高度技術を活用した事業(IT、健康、医療・福祉、環境、物流など)
  • 既存産業の高付加価値化やイノベーションを誘発する事業
  • その他、神戸市長が必要と認める事業
大阪市

地域未来投資促進法における大阪市基本計画において定める産業分野

  • 成長ものづくり分野
  • 第4次産業革命関連分野
  • グリーン・エネルギー分野
  • ヘルスケア・ライフサイエンス分野
  • 観光・スポーツ・文化・まちづくり分野
三重県

三重県産業の振興、ひいては我が国の国際競争力強化と国際的な経済活動の拠点形成につながるような分野

  • IoT・AIビジネス
  • 食関連ビジネス
  • 観光関連産業
  • 次世代エネルギー関連産業
  • 次世代ヘルスケア関連事業
  • 生活関連サービス関連事業
  • 貿易関連産業
北海道
  • 地域を支える農林水産業の成長産業化を促進する事業
  • 地域資源を活かした食関連産業の振興を促進する事業
  • 観光産業の先進地・北海道の実現を促進する事業
  • 高い付加価値を生み出すものづくり産業の振興を促進する事業
  • 市場規模やニーズの変化に応じた産業の創造を促進する事業
  • その他、知事が必要と認める事業
仙台市

仙台市の産業の国際競争力の強化や雇用の拡大を図ることが期待でき、以下の産業に当てはまる事業

  • 知識創造型産業(例:半導体関連、ソフトウエアの開発、コンテンツ制作、ロボット関連など)
  • 健康・医療・福祉・教育関連産業(例:創薬ベンチャー、医療技術開発、再生医療、福祉用機器開発、語学等教育関連事業など)
  • 環境・エネルギー・防災関連産業(例:クリーンエネルギー開発、次世代蓄電技術、防災に関連した製品・サービスの提供など)
  • 貿易・観光関連産業(例:市内産品の海外販路開拓に資する事業、外国人観光客の誘致に関する事業など)
横浜市
  • IoT分野及びライフイノベーション分野
  • 革新的技術を用いた事業
  • 知識集約・付加価値創造型事業
  • その他、新産業創造を目指す事業
茨城県
  • ライフサイエンス(医療、バイオ・製薬等)を中心に、研究開発型の事業 
  • IT 分野(情報通信業)やロボティクスなど革新的技術・技能を用いて高成長を目指す事業
  • その他知事が特に認める事業
大分県
  • 自動車関連
  • 電子・電気・機械関連
  • 素材型・造船関連
  • 健康・医療・福祉関連
  • 環境・エネルギー関連
  • 食品・農林水産関連
  • サービス産業
  • 情報関連
  • 航空関連
  • 物流関連産業等

※参照元:各自治体ウェブサイトより

表内の自治体名をクリックすると、各自治体のスタートアップビザ制度のWebサイトに進みます。

スタートアップビザの運用に特徴のある自治体3選

特に個性的な運用をしている自治体を3つご紹介します。

渋谷区は産官学連携による支援体制

渋谷区は、ワンストップの相談窓口「スタートアップウェルカムサービス」を導入し、外国人起業家が日本で事業設立を実現するためのビザ取得や、各種行政手続きを民間企業と連携しサポートしています。

また、渋谷区と民間企業による組織「渋谷スタートアップデッキ」は産官学連携の支援チームで、外国人起業家のみならず、渋谷区のスタートアップ起業が安心してチャレンジできる環境を整えています。

※参照元:渋谷区スタートアップサポート

浜松市は起業家支援が充実

2022年6月に認定を受けたばかりの浜松市ですが、「外国人材も活躍する”日本一の起業家応援都市 浜松”」の実現を目指し、起業家支援に力を入れています。

無料の起業セミナーや起業サロンをはじめ、様々な起業家支援を行う「はままつ起業家カフェ」を導入。

「浜松市(総合調整)」、「はままつ起業家カフェ(起業支援)」、「浜松国際交流協会(生活支援)」が密に連携をとり、外国人におけるスタートアップ事業を盛り上げています。

※参照元:浜松市アートアップビザ

京都府はオンラインコミュニティを導入

京都府は、2021年3月にSlackによるオンラインコミュニティ「Startup Capital Kyoto」を導入しています。

このコミュニティは、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、対面での接触が限られる中で、国内外の起業家や支援家が気軽に情報交換できる場として構築されました。

高精度翻訳ソフトのDeep Lと連携することで、多言語による情報発信を実現しています。

2021年9月末時点では、約300人が参画しています。

※参照元:京都府スタートアップビザ

スタートアップビザを取得するための3ステップ

続いてスタートアップビザを取得するための3ステップを解説します。

ステップ1. 事業計画などを自治体に申請

まず外国人起業家は、起業準備活動計画書や事業計画などを該当する自治体に申請しなければなりません。

審査が認められれば、自治体から創業活動に関する「創業活動確認証明書」または「起業準備活動確認証明書」が交付されます。

ステップ2. 各「活動確認証明書」を提出

そして交付された確認証明書を、所管する地域の出入国管理局に申請します。

「経営・管理」または「特定活動」の在留資格が認定されれば、6か月のビザを取得できます

ステップ3. 必要に応じてビザを更新する

「特定活動」ビザは最初の6ヶ月を終えたのち、次の6ヶ月以内に確実に起業する見込みがあれば、「特定活動」ビザの更新ができます。

ビザを更新できれば、最長で1年間は創業に向けた準備活動が継続できます

「経営・管理」ビザでは、6ヶ月のうちに創業要件を満たしている場合において、更新が可能となります。

スタートアップビザが注目される背景2つ

スタートアップビザが注目される背景には、主に以下の2つが挙げられます。

  1. 新たな産業の創出のため
  2. 新たな雇用確保のため

 それぞれ解説していきます。

1. 新たな産業の創出のため

国内での新規開業件数が伸び悩む中、外国人による日本での創業は、新たな産業創出の促進として期待されます。

新たなイノベーション(革新的なサービスや製品)のみならず、国際ビジネス人材との交流、地域企業とのビジネスマッチングなどの機会が生まれやすくなるでしょう。

2. 新たな雇用確保のため

また新たな産業や新規開業件数が増えることで、自治体や日本全体での新たな雇用が生まれます。

それは結果的に労働者を増やすことになり、人手不足の業界や職種にとっては労働者の増加が期待できます。

スタートアップビザの課題3つ

スタートアップビザにおける課題は以下の3つが挙げられます。

  1. 自治体の海外に向けた情報発信力
  2. スタートアップシステムとしての地域の発展
  3. インセンティブ(優遇策)の拡大

 それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. 自治体の海外に向けた情報発信力

1つ目の課題は、その自治体で起業する魅力をいかに対外的に発信していくかということです。

スタートアップビザの利用者は外国人であるため、外国語による情報発信が必要となります。

たとえば京都では、国内外でのスタートアップイベントを開催するだけでなく、海外ビジネスで必須のLinkedInやFacebookなどのSNSの活用、スタートアップに関する動画や記事の掲載などを中心に、オンラインを活用した発信に取り組んでいます。

このように、日本の各自治体で起業することのメリットを海外に向けて発信していく力が求められます。

2. スタートアップシステムとしての地域の発展

2つ目の課題は、外国人起業家によるスタートアップをいかに地域と連携させるかということです。

スタートアップビザは出入国管理の観点から行政機関が中心となり、申請者と自治体や公的機関間でのやりとりで終わってしまいがちです。

それゆえ外国発のイノベーションも地域に十分取り込むことができません。

民間支援機関や先輩起業家など地域コミュニティとして連携を進めることは、周囲の発展のみならず、地域の発展や起業環境の向上につながります。

3. インセンティブ(優遇策)の拡大

3つ目は、複数人による起業や家族の帯同などのインセンティブを拡充することです。

多くの国では認められているものの、日本の現制度では認められておらず、当人が個別にビザを申請することが求められます。

本来なら、複数人での起業は起業の成功率を高めます。

また、家族を帯同できるよう制度を整えておくことは、仕事と家庭の両立を求める外国人起業家を誘致するために望ましいことでしょう。

それゆえ、外国人にとって日本の自治体で起業や創業しやすいような優遇策の拡充を検討する必要があります。

スタートアップビザの海外事例3選

最後にスタートアップビザの海外事例を紹介します。

カナダ

カナダでは、外国人起業家に対して、永住権の付与を認めています

少子高齢化が進む中で、外国人起業家は経済成長や雇用拡大の担い手として期待されています。

ビジネスプランの要件としては、「革新的であること」「カナダ人に対して仕事を創造すること」「世界規模のビジネスに匹敵すること」となっています。

これまでに約200社の創業者が永住権を取得しているそうです。

中国

これまで中国では自国出身の起業家を中心としていましたが、昨今ではスタートアップビザの導入が進んでいます。

2020年9月には、全国に先がけて上海市において、外国人材とそのチームメンバーの就労許可の取得支援制度が試験的に導入されました。

2020年12月には中国国内初となる外国人起業家への労働許可が、日本人起業家の2人に発給されています。

エストニア

エストニアは、2017年1月よりスタートアップ企業に向けたビザが開始された国です。

2年間で延べ1,000人以上の申し込みがあり、約900人が審査に合格し、エストニアへの移住権を獲得しています。

エストニアのスタートアップビザの特徴はその審査体制にあるといわれています。

審査組織は政府関係者ではなく、エストニア起業家団体などの7団体で構築されており、とても個性的なものとなっているようです。

また、エストニア全体はデジタル先進国としてブランディングを行っており、それがスタートアップビザへの注目度の高さに繋がっています。

まとめ

今回は、スタートアップビザの概要、自治体別の特徴、課題、海外事例などを解説しました。

スタートアップビザは、新たな産業の創出や人材確保などの観点から期待されています。

外国人起業家とビジネスマッチングや交流を行うことで、新たなビジネスやイノベーションが生まれる可能性もありますので、視野を広げて、自社の事業やビジネスについて検討してみてください。

画像出典元:O-DAN, unsplash

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