ベンチャーの退職金事情は?種類や相場、確定拠出年金についても紹介

ベンチャーの退職金事情は?種類や相場、確定拠出年金についても紹介

記事更新日: 2022/05/31

執筆: 編集部

昨今は働き方が多様化し、雇用の流動性が高まっています。

退職金制度を維持する会社も減少しているといわれますが、ベンチャー企業の場合はどうなのでしょうか。

この記事ではベンチャー企業の退職金や種類、相場について考察します。

退職後の資金形成に有益といわれる「確定拠出年金」の概要も紹介するので、併せて確認しましょう。

ベンチャー企業の退職金事情とは

ベンチャー企業は、新しいビジネスモデルや事業を展開する、成長まっただ中にある企業。

将来性や大企業にはないオープンな社風が魅力ですが、給与面や福利厚生では不満を感じることもあるでしょう。 

なかでも、ベンチャー企業の退職金はどのようになっているのか気になる所。ベンチャー企業の退職金事情を紹介します。 

1. ベンチャー企業に退職金はある?

 企業の考えや体制にもよりますが、ベンチャー企業には退職金がないことがほとんどです。

そもそも退職金制度は、法律で義務づけられているものではないので、退職金を出すか出さないか、あるいはいくら支払うかは企業次第。企業規模が小さくなるほど、導入率は下がるといわれます。 

また、退職金制度は、終身雇用が当たり前だった時代の名残です。働き方が多様化して終身雇用制度が崩壊しかかっている今、退職金制度を廃止する企業も多々あります。

新興企業とよばれるベンチャー企業に退職金制度が設けられていなくても、驚くことではないのかもしれません。

2. ベンチャー企業の退職金の相場は?

ベンチャー企業は退職金がないケースが多く、相場を述べるのは困難です。あえて相場を示すなら、「東京産業労働局」が提示する「モデル退職金の統計表」が参考になるでしょう。

出典:東京産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)II調査結果の概要・8モデル退職金(35~37)」

これによると、定年時の支給金額は、高校卒が1,126万8,000円、高専・短大卒が 1,106万6,000円、大学卒が1,203万4000円であることが分かります。

ベンチャー企業に退職金が設定されている際は、こちらの表と比べてると適切か否か判断しやすくなります。

3. 退職金の種類(1)中退共 

ベンチャー企業が退職金を導入している場合、中退共(中小企業退職金共済制度)を利用しているケースがあります。

これは、国による中小企業向けの退職金制度で、昭和34年に「中小企業退職金共済法」に基づいて設けられました。

企業が中退共に加入するメリットとしては、掛金は全額会社の経費となる点です。また、新規に加入する企業は、国からの支援を受けることもできます。

しかし一方で、「金利がほぼゼロ」「途中解約や減額が困難」「最低掛け金が5,000円と高額」などのデメリットもあります。

特に中小企業の場合、固定費として出て行く掛金が経営を圧迫するリスクは大きいといえます。

経営状態や環境によってはメリットよりもデメリットが大きく、ベンチャー企業には不向きかもしれません。

4. 退職金の種類(2)自社制度

ベンチャー企業のなかには、自社で作成した退職金制度を実施しているところもあります。

ただし、「基本給連動方式」の退職金制度は時代錯誤な上、運用しにくいといわれます。ベンチャー企業の退職金制度なら、次のような仕組を採用しているケースが多いのではないでしょうか。

  • 勤続年数制:勤続年数に併せて一定額を支給する
  • ポイント制:在籍時の役職や勤怠評価、貢献度などをポイント化して退職金額を決定する
  • 別途算定基準を設ける方式:勤続年数ごとに定められた算定基準に基づき退職金額を決定する

このうち、企業への貢献度がもっとも反映されるのはポイント制です。ただし制度が複雑化しやすいため、管理・運用の難易度は高いでしょう。

勤続年数制と別途算定基準を設ける方式は支給額が分かりやすく、運用も容易です。しかし個人の企業への貢献度は反映されにくいといえます。

ベンチャー企業に退職金制度がある場合は、どのような方法で金額が算定されているのかよく確認しておきましょう。

 ベンチャー企業における退職金の意義

先述したとおり、退職金制度を持たないベンチャー企業は少なくありません。

しかしここで注意したいのが、退職金制度がないからといって必ずしも「福利厚生が整っていない」「働く上でマイナス」とはならないという点です。

まずは退職金について知見を深め、「なぜベンチャー企業には退職金がないケースが多いのか」を考えてみましょう。

1. 退職金の歴史 

退職金制度が定着したのは、第二次世界大戦後、日本が高度経済成長期に入った頃です。右肩上がりの経済成長を遂げていた日本企業は、スキルのある従業員の長期勤務を望みました。

そこで終身雇用制度と併せて退職金制度を導入し、従業員の確保と定着を図ったのです。 

しかし日本経済が停滞し雇用が不安定になると、退職金制度は企業にとって負担となります。

「従業員の長期勤続を促す」という本来の意義も薄れてきたため、退職金を減額したり制度そのものを廃止したりする企業が増えました。

団塊の世代が退職するころには、退職金制度そのものが破綻するのではともいわれています。 

退職金制度は、本来企業が提示したオプション特典のようなものです。導入義務もないので、退職金制度のない企業は「本来の形態に戻っただけ」とも考えられます。

経済が好調だったときのイメージから、「退職金制度はあって当たり前」と考える人は少なくありません。

しかし、今の時代、退職金制度がないことが必ずしも「悪」というわけではないことは理解しておきましょう。 

2. ベンチャー企業に退職金は必要か 

新たな事業やサービスに取り組むベンチャー企業は、今後の展開が未知数の会社です。企業体制が整っていないことも多く、安定よりもやりがいを重視する人が集まります。

加えて、社員は定年など遠い先の若者がほとんどなので、退職金制度による「安定性」が必ずしも勤務のモチベーションにつながるとはいえません。

スキルを追求して数年で転職していくケースも多く、退職金制度の有無はさほど重要ではないと考える人も多いでしょう。

そのため、ベンチャー企業の多くは、退職金制度ではなく手取りの給与額を増やしたり、ストックオプションを提示したりなどして従業員の確保を目指します。

遠い将来の保証よりも今の雇用条件を充実させるといったイメージです。 

もちろん、ベンチャー企業が事業規模を拡大して安定すれば、その過程で退職金制度が設けられる可能性はあります。

しかし、将来の見通しを立てにくいベンチャー企業の場合、起業当初から退職金制度を備えることは、必ずしも有意義であるとはいえません。 

3. 退職金よりも魅力的?「ストックオプション」

ストックオプションとは、企業の株をあらかじめ決められた条件・価格で購入できる権利です。

ベンチャー企業では報酬体系の一部として利用され、退職金制度に代わるインセンティブとして用いられるケースが多々あります。

たとえば「10年間1株1000円で株を購入できる」ストックオプションを付与されたとします。

権利を行使した場合、1株1000円のときに1000株買い、3000円になったときに売れば、利益は200万円です。

事業が成功し企業価値が高まれば、株価も上がります。売買のタイミング次第では、ストックオプションにより一般的な退職金よりも多額の収入を得ることができるでしょう。 

ベンチャー企業なら「確定拠出年金」を選択肢に

ベンチャーでも事業が安定してくれば、年金制度を導入する企業は多々あります。そして近年、退職金制度の整備に有益といわれるのが「確定拠出年金」です。

就職を希望する企業に退職金制度がなかったとしても、その会社が「企業型確定拠出年金(DC)」を導入していれば、定年退職後の保証となり得ます。

確定拠出年金について、詳しくみてみましょう。

1. 確定拠出年金とは

確定拠出年金とは、2001年より導入された任意加入の私的年金制度です。社員の年金は「国民年金」「厚生年金」の2階建てですが、これらに上乗せするかたちとなります。

運用開始から受け取りまでは次のような流れとなります。

1. 企業が専用口座に掛金を入れる

2. 加入者が専用口座の資金を使い、自分で選んだ商品を運用する

3. 60歳時点で10年の加入期間があれば、原則60歳から70歳までの希望する時期に積立金を受け取れる

また、年金の受け取り方法は次の3種類があります。 

  • 確定年金:一定期間で一定金額を受け取る
  • 終身年金:生涯一定金額を受け取る
  • 分割取崩年金:運用を継続しながら積立金を崩して受け取る

受取期間の定めがあるものは、5・10・15・20年から選択できます。また、確定年金と終身年金は受け取り時点で金額が確定しますが、分割取崩年金は運用成績により受取額が変わるのが特徴です。 

一方、同じように上乗せできる年金制度としては、「確定給付企業年金(DB)」もあります。

しかしこちらは、「資産運用リスクは企業にある」のがポイントです。

運用成績が悪ければ企業が補填せねばならず、その負担が経営を圧迫する可能性があります。ベンチャー企業にとってはリスクが大きく、加入のメリットは少ないと考える経営者も多いでしょう。 

2. 確定拠出年金のメリット 

確定拠出年金最大のメリットは、税制面で優遇されるという点です。

  • 掛金が非課税
  • 運用益が非課税
  • 受け取りの際は各種税控除が適用される

確定拠出年金の掛金は、「事業主掛金」として拠出されます。そのため、個人の所得とは見なされず税金の対象とはなりません。

また、運用益に対しては、通常ですと「源泉分離課税(20.315%)」が課せられます。ところが、確定拠出年金なら非課税となり、運用益をそのまま受け取ることが可能です。

そして、受け取りの際は受け取り方法によって税控除があります。積立金を一括で受け取る「一時金」を選択した場合、「退職所得控除」が適用されます。

また、分割で受け取る「年金」を選択した場合は「公的年金等控除」の利用が可能です。

このほか、転職した際は積立金を移転できる、年金資産情報を把握しやすいなどのメリットもあります。

3. 確定拠出年金のデメリット

確定拠出年金のデメリットとしては、次のようなものがあげられます。

  • 資産運用のリスクがある
  • 60歳までは引き出せない
  • 運用管理機関を自由に選べない

まず、選択した運用商品によっては、元本割れのリスクがあります。比較的低リスクといわれる投資信託でも、世界経済の状況によってはマイナスとなることもあるでしょう。

確定拠出年金では、運用商品の選び方次第で金額が大きく変わることがあります。 

また、60歳まで積立金を引き出せなかったり運用管理機関を自由に選べなかったりなどするのも、人によってはデメリットに感じるかもしれません。 

4. ベンチャー企業に制度がないなら「iDeCo(イデコ)」を活用しても

出典:厚生労働省・国民年金基金連合会パンフレット「自分で育てる、自分の年金iDeCo」

企業型確定拠出年金は、企業が運営費や掛金を拠出します。事務処理の負担もありますし、ベンチャー企業によっては、企業型確定拠出年金を導入していないところもあるでしょう。

そのような場合は、企業型ではなく「個人型」の確定拠出年金「iDeCo」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

内容は企業型確定拠出年金とほぼ同じな上、税制上のメリットもあります。掛金拠出や口座管理は自身で行わねばなりませんが、退職後の資産形成には有益です。

まとめ 

ベンチャー企業の場合、事業拡大中ならば退職金制度が整っていないことは珍しくありません。

その代わりにストックオプションや給与面の優遇があるケースは多いので、提示された条件を確認し検討しましょう。 

また、自社の退職金制度はなくても、確定拠出年金で退職後の資金形成を行っている企業もあります。

税制面でのメリットは多いので、退職金代わりとして積立を始めてみてはいかがでしょうか。

もしも企業が確定拠出年金を導入していない場合でも、「iDeCo」により個人で積立てて行くことは可能です。

ベンチャー企業に勤めるなら会社のみを頼るのではなく、自身で退職後の資金形成に努めることも必要でしょう。

画像出典元:Pixabay

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