近年、親企業がベンチャー企業を創設するための手法の一つとして活用することが増えてきている『カーブアウト』。
企業の経営戦略の一種で、事業価値を高める手法として利用されています。
今回は、そんなカーブアウトをテーマに、カーブアウトとは何かといった基本的なところから、事例、スピンオフやスピンアウトとの違い、実施手順、メリット・デメリットについて解説します。
このページの目次
企業が経営戦略の一環で活用している『カーブアウト』。ここでは、カーブアウトとは何かについて解説しています。
カーブアウトとは、企業が主力事業以外の事業の一部、あるいは子会社を切り離して、新会社(ベンチャー企業)として独立させて、収益改善や事業成長を図るための経営戦略の一種です。
カーブアウト(Carve out)は、和訳で「(全体から)切り出す」という意味があります。その意味が転じてビジネスにおいては、事業から切り離す経営手法を指すようになりました。
親会社との親子関係は維持しつつ、社外の投資家などの第三者からも資金・人材などの支援を受けることができるので、経営を維持していくうえで必要なサポートを受けることが可能です。
新会社として独立させる背景として、採算が取れない事業を切り出して、親会社の経営の立て直しや新たに設立される会社で事業存続を図るという目的もあります。
パソコンが一般家庭に普及し始めた1996年、ソニーのPCブランド「VAIO(バイオ)」が誕生しました。
年間約870万台を世界中に出荷していましたが、その後、他のPCメーカーにシェアを奪われ減収。これが、ソニー本体の経営にも悪影響を与えます。
2014年、ソニーは不採算事業となっていたPC事業をカーブアウト。PC事業はVAIO株式会社として独立し、ソニー本体は経営再生を図ることにしたのです。
ソニー本体から独立することになったVAIOは、従業員を設立当時の1100人から240人に削減。販売台数も大幅に減らし、500万台から20万台にまで押さえました。
これにより固定費が削減でき、今後の展望が期待できる事業に経営資源を割くことによって、2016年に黒字化。大企業のカーブアウト成功事例の一つとなったのです。
カーブアウトは「スピンオフ」や「スピンアウト」と混同されがちですが、経営戦略の推進として行うカーブアウトとは異なります。それぞれの概要を見てみましょう。
親会社と新会社との資本関係が継続しているケースを『スピンオフ』といいます。
最近では、社内にベンチャー制度を取り入れている企業もありますが、こうした制度を利用して設立された新会社がスピンオフにあたります。
親会社との資本関係があるのはカーブアウトと同じですが、外部からの融資は受けられない点でカーブアウトとは異なります。
スピンオフが親会社と新会社の継続された資本関係を指す一方、親会社と新会社の資本関係がなくなり、完全に独立するケースを『スピンアウト』といいます。
採算が取れず、親会社が事業を選別し、自社の経営に集中するために図られる措置だといえます。
親会社との親子関係が無くなり、独立する側が主体となる点でカーブアウトとは異なります。
カーブアウトを活用することのメリットとは、何なのか。ここでは、3つのメリットについて解説しています。
カーブアウトを実施することで、親会社は自社の事業を促進することができますし、切り出された子会社は親会社の経営資源を活用しつつ、協力関係によって事業推進が図れます。
カーブアウトされた新会社は、親会社から経営資源を得ながらも、外部の企業などから融資を受けられるようになります。
それによって、資金調達だけでなく、協業などで技術や人材獲得なども可能になるのです。
カーブアウトによって親会社は事業を選別して、注力すべき事業に経営資源を集中させることができるようになります。
それによって企業そのものや事業の成長スピードを加速させられ、親会社の企業価値向上を図ることが可能です。企業価値が高まることで、企業全体の利益も増すようになります。
優れた経営戦略といわれるカーブアウトですが、デメリットもあります。ここでは、2つのデメリットについて解説しています。
カーブアウトによって切り出された新会社に対して、外部企業から融資があると、株式比率が影響して経営に介入されることがあります。
そのような場合、新会社内の意思決定プロセスが秩序を失い、事業推進がスムーズにいかなくなる可能性が生じます。
これを避けるには、比率を考えた資金調達をすることが肝要です。
カーブアウトされる際に新会社に投入される人材は、親会社からの転籍者となることが大半です。
親会社と資本提携していても、新会社は完全な独立法人になります。そのため、親会社からの転籍者の中には、転籍を望まない社員もいます。
親会社に在籍することで描いていたキャリアプランに変更が生じるわけですから、なかには離職を希望する社員も出てきます。
カーブアウト実施によって離職率が高まる可能性がありますので、リスク軽減のためにも社員のモチベーションを向上させる施策も併せて実施することが大切です。
カーブアウトを実施するには、手順があります。本項では、その実施手順とともに、注意点について解説していきます。
1. 法的手法を選択
2. 検討事項の整理
3. 会計情報の調整
カーブアウトを実施するための流れは、大きく分けて3段階に分けられます。
まず、1. 法的手法の選択とは、親会社からカーブアウトする際に新会社に対して事業を譲渡するのか、株式を譲渡するのかを指しています。
事業譲渡を採用する場合は、その事業に関連する契約にまつわる承認は新会社内で行うことになります。そのため、取引先などの関係各所に個別に同意を得なければなりません。
一方、株式譲渡は、会社分割で事業部門を独立させるため、事業規模が大きい場合に採用されます。
企業がカーブアウトをする場合は、分離させたい事業規模や親会社の企業規模などにあわせて、どちらかを採用します。
続いて、2. 検討事項の整理とは、カーブアウトするにあたって分割後に新会社に継承するものとしないものを仕分けることです。検討事項としては、以下のポイントが挙げられます。
・資産と負債
・契約関係
・雇用関係
・従業員の処遇
株式を公開している企業が関係企業にある場合、カーブアウトする事実を開示しなければなりません。これは、関係企業の株主が出資するのに判断材料として影響を与えるためです。
投資家(株主)だけでなく、従業員に対しても今後のキャリアプランに影響を与えるものですので、いつどの段階で情報開示するかはよく検討しましょう。
最後に、3. 会計情報の調整です。カーブアウトを実施するにあたり、切り出す事業の会計情報も切り出さねばなりません。
このとき、対象の事業のみ会計情報を管理している企業はほとんどないため、親会社の会計と新会社の会計を調整しつつ、会計データを整理していく必要があります。
会計上カーブアウトができる事業でも、実際に分割しようとすると、それが困難なことがあります。
たとえば、事業分割したとしても、経営資源が足りないなどでカーブアウト後の事業をスムーズに進めていけないケースです。
経営資源や物流など、会計上からではわからない実態の部分を検討することで、カーブアウトが自社にとって現実的な選択かどうかがわかります。
ほかにも、カーブアウトでは、システムや人材も切り出すことになります。
もともとリソースが足りていない、一人が幾つもの業務を兼任しているといった企業の場合、カーブアウト後に事業運営に支障が出ることが十分に考えられます。
これらを考慮したうえで、親会社・子会社ともに業務に影響がでないよう必要資源を投入する、支援を受けるなども検討しましょう。
カーブアウト後の雇用契約については、労働継承法に規定されており、独立前の契約内容を継承せねばなりません。
出向社員がいたり、外部業者に業務委託したりしている場合は、その継承をどうするかは、改めて検討することになります。
切り出す事業が行政からの許認可を必要とするものの場合は、この許認可を改めて取得する必要があります。基本的には許認可を継承することができないからです。
許認可を要する事業をカーブアウトする場合は、許認可を取得するまでのタイムスケジュールや手間なども考慮して、切り出しを進めていく必要があります。
カーブアウトは、これから集中的に注力したい事業がある場合や、採算が取れずに主力事業に影響を及ぼしている場合に実施されることが大半です。
実施することによって、事業や企業を成長させたり、価値を上げたりすることが集中的にできるようになるからです。
切り出しを進める際には、ヒト・モノ・カネそれぞれで検討事項があります。一つ一つ問題をクリアしながら、カーブアウトが本当に自社課題を解決してくれるのかをよく吟味しましょう。
画像出典元:Unsplash、Pixabay
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