TOP > インタビュー一覧 > ソーシャルビジネスで売上約50億!成長し続けるために必要なことを、ボーダレス・ジャパン田口一成に聞いた(前篇)
SDGsに企業の関心が高まるなか、そのはるか前より日本になかなか根付かなかったソーシャルビジネスを加速させた人物がいる。
福岡に拠点を置く株式会社ボーダレス・ジャパンの創業者、田口一成である。
2006年、世界中の貧困や差別などの社会問題を解決するために立ち上げたボーダレス・ジャパンは、現在日本をはじめ世界12ヵ国で1000人の社員とともに32の事業を展開。
その売上は50億円を突破しようとしている。
ソーシャルビジネスは普通のビジネスと何が違うのか、そして成長し続けるには何が必要なのか、取材した。
プロフィール
田口一成(たぐちかずなり)
このページの目次
「単車とケンカ」の元ヤンキー、ケニアで挑むソーシャルビジネス−−。
昨年6月10日、西日本新聞経済電子版にこんなタイトルの記事が載った。
暴走行為とケンカに明け暮れた19歳の男性が、ケニアで孤児院を支援する養鶏事業を立ち上げるという内容だ。
男性は迷惑をかけっぱなしだった母親が救急搬送され、一命を取り留めた時に初めて「変わろう」と決心。
「自分が本当に社会に必要とされているのか」を知るために渡ったアフリカのケニアで、ある孤児院に辿り着く。
その孤児院では運営費の調達がままならず、子どもたちの食事は1日1食にとどまっていた。
それでも子どもたちは遠い異国から来た若者に笑顔を見せ、貴重な食料を分け与えようとする子どもさえいた。
男性は「社会に必要とされている」ことを実感し、孤児院を支援するための事業を起こすことを決意する。
帰国後、男性が訪ねたのがボーダレス・ジャパンの代表取締役社長、田口一成だった。
ボーダレス・ジャパンは、ケニアでも事業展開している。
相談を受けた田口は、立ち上げたばかりの社会起業家養成所、「ボーダレスアカデミー」で学ぶことを勧めた。
起業のハードルは下がったとは言え、社会経験の少ない若者が思いだけで起業できるほど、まだこの社会は優しくはない。
起業はできるかもしれないが、それを維持し続けることは難しいだろう。
まして社会問題を解決するソーシャルビジネスであれば、並のマネジメント能力では立ち行かない。
社会事業家である田口の姿勢は厳しい。
起業した以上、事業の失敗は許さない。
起業し、うまく行かなかったらすぐ撤退する。
いまの時代、その変わり身の速さこそが成長の秘訣と語る投資アナリストも多い。
だが社会事業ではそんな理屈は通用しない。
なぜなら、社会事業家のその仕事にその地域の生活のすべてがかかってくるからだ。
たとえば田口が初期に手がけたミャンマーの貧村がわかりやすいだろう。
タバコ栽培が収入源のその村では永年の価格低迷で嵩む借金と農薬被害に喘いでいた。
田口らは現地に乗り込んで仲買人の借金を買い取り、オーガニックハーブ栽培を提案。
畑の一角を借りて1年間テストし、タバコ栽培からオーガニックハーブ栽培に切り替えさせた。
この時点で彼らの生殺与奪権を田口が握ってしまっている。
失敗したと言って撤退すれば、彼らは世の社会事業家を誰も信じなくなるだろう。
▲ミャンマーで地元農家の人と一緒に、ハーブ栽培の畑作りに汗を流す田口。
田口は収穫したハーブをハーブティとして日本で販売するつもりだった。
だがコーヒーやお茶を飲む日本では、ハーブティの市場はなかった。
田口はハーブティのカフェインレスに注目。
これを訴求すると、カフェインレスの飲み物を欲していた妊婦や授乳中の母親の支持を得て、市場は広がっていった。
現在田口らの開発したハーブティはAMOMAブランドとして、国内15%の産婦人科医で推奨されるまでに成長。
売上は9億5000万円を超える(2017年度)。
一方ミャンマーでは、収穫したハーブの乾燥粉砕工場を現地に建て、新たな雇用も生み出した。
ハーブ価格も安定し、村の人々の生活は向上した。
現在取引農家、買取保証農家は合わせて400軒を超え、その数はさらに増え続けている。
その数字以上に意義深いのは、農家の人が口々に「ハーブ栽培に愛情と誇りをもって取り組めている」と語っていることだ。
問題の現場に乗り込み、リスクをとってとことん寄り添いながら粘り強く付加価値を創出する。
否、必ず創出する。
それがボーダレス・ジャパンのソーシャルビジネスである。
「中途半端なビジネスをして失敗したら、現地の経済を荒らして帰るだけ」と厳しく言われて、何度も事業計画書を書き直した。
ボーダレスアカデミーの講義のなかで、先の男性はこう振り返った。
田口がボーダレス・ジャパンを立ち上げるきっかけとなったのは、大学2年の時に観たドキュメンタリー映像だった。
そこにはアフリカで栄養失調に苦しむ子どもの姿が映し出されていた。
田口はまっすぐ受け止めた。
「世界にはまだこんなに苦しんでいる人たちがたくさんいる。これを解決することこそ、自分が一生かける価値のある仕事だ」と。
当時はまだ「社会起業家」という言葉こそあったが、まだ世に十分認知されてはいなかった。
まずボランティアから学ぼうと訪れたNGO法人で、職員が語った言葉が田口の心を揺さぶる。
本気で貧困問題を解決するなら、お金をコントロールできる力を持たないといけない。
貧困など社会問題解決の選択肢は多様化しているものの、その中心は企業や市民の寄付やボランティア、NGOの活動だ。
その影響力は大きくなっているが、他者からの寄付や善意に依存する不安定さが残る。
自分でお金をコントロールできれば、社会問題をよりスピーディかつ持続的に解決できる。
田口はビジネスで社会問題を解決することを決心する。
ビジネス規模として浮かんだのが1兆円という数字だった。
「1兆円くらいのボリュームでソーシャルビジネスを展開すればみんなが社会問題解決に振り向く」。
その1兆円に近づく最適モデルが現在の形態――社会起業家の共同体だ。
ボーダレスグループは複数の社長で構成されている。
それぞれが起業家で、おのおのが解決すべきソーシャルビジネスを持っている。
ボーダレス・ジャパンでは、それぞれの社長が事業から上げた余剰利益をボーダレス・ジャパンという1つの大きな財布に入れる。
余剰利益の一切は次の社会起業家育成に回すことになっている。
資金だけでなく、ノウハウや人材もみんなの共有資産として、“次”の起業家のためにそれらを惜しみなく提供する。
「必要なお金は、銀行に代わって全部出す。
マーケティングが弱いならそれに強い人を出す。
Webサイトをつくりたいなら、デザインやシステム開発も手伝う。
立ち上げの時に何が必要で、どこが大変かを知っているので、そういったことを徹底的にサポートし、その会社が黒字化するまで続ける。
そして黒字化してはじめて余った利益を財布に入れてもらい、今度は自分がお金を出す側に回ってもらう。
それがボーダレスがつくろうとしている“恩送り”による社会起業家のエコシステムです」
重要なのはお金以外の一切をサポートすることだと田口は説く。
「たとえば1000万円を出して、『あとは頑張れ』というと何が起こるというと、みんなちびちび使ってしまうんですね。
Webのデザインなんかも知り合いのデザイナーに頼んで、よくわからないけどできた。でも売上が上がらない、となってしまう。
そうならないように使うべきお金を使い、フルサポートして一気に加速できるようにしているんです」
田口はボーダレス・ジャパンのこの仕組みを社会起業家の「恩送り」の相互扶助組織と説明する。
しかし社会問題解決のスピードを早めたいのであれば、“できる”起業家を引っ張ってくる手もある。
ボーダレス・ジャパンにはそういうできる人はもちろんいるが、田口はなかなか一人では「できない人」をサポートすることに意義を見出す。
「確かに選りすぐりの起業家を引っ張ってきて、キュレートして大きく張るというやり方もある。
そういうトップラインの経済人をつくっていくことは重要だと思います。
でも、それだけでは社会問題は解決しない。
いま消費地から遠く離れた山間部で野菜やお米をつくっている人たちがいる。
過疎化が進み、バスも通らないような、そういう場所が日本中、世界中に遍在しているという現実がある。
だからそういう問題に向き合う起業家がいないといけないと思ってるんです。
でも、そういう起業家へのサポート体制がない。
一般的なビジネスには、優秀な起業家にベンチャーキャピタルがついて上場支援、その資金がまた次の起業家支援に回るというエコシステムがある。
でも、上場をゴールとしない社会起業家たちにはそれがない。
だから、ソーシャルビジネスのための新たなエコシステムをつくらないといけない。
それがボーダレスが果たそうとしている役割です」
そのための恩送りシステムなのだ。
「大切にしているのはgive and give。
決して、takeしようとしてはいけない。
何かを得ようとするのではなく、社会起業家の成長のために自分が何をできるかだけを考えています。
以前は、もっと発破をかけていたこともあるんです。
僕は何かと火を点けたがるので。もっと速く行け、とか。
でもそれではまずいと思った。
明らかに経験値の差がある者がアドバイスすると、社長たちが考えずに正解を求めるようになるんです。
社長たちが成長しなくなってしまう。それでは意味がない。
いまはできるだけ口を出さないようにしています。
自分の存在をどんどん消そうと思っているんです。
東京や現場に行かなくなったのもそういう意味があるんです。
結局彼らを成長させるには、僕や先輩社長がどれだけ後輩社長の失敗を我慢できるか。
それは換言すれば、忍耐強く我慢できるお金、“ペイシェントマネー”をどれだけ持てるかということだと思うんです」
ペイシェントマネーを持つためにも会社をどんどん大きくしていく必要があるように見える。
しかし田口はむしろ「スモール化」させていこうとしているという。
その真意は何なのか。後半へ続く。
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