TOP > インタビュー一覧 > ソーシャルビジネスで売上約50億!成長し続けるために必要なことを、ボーダレス・ジャパン田口一成に聞いた(後篇)
世界中の貧困や差別などの社会問題を解決するため、田口一成が立ち上げたボーダレス・ジャパン。
現在日本をはじめ世界12ヵ国で1000人の社員とともに32の事業を展開。
その売上は50億円を突破しようとしている。
前編で田口は「会社を成長させるには、後輩社長の失敗を我慢できるための“ペイシェントマネー”をどれだけ持てるかが重要」だと語った。
ペイシェントマネーを多く持つには会社を大きくさせる必要があるように感じる。
しかしむしろ田口は会社をスモール化させようとしている。
それはなぜなのだろうか。
プロフィール
田口一成(たぐちかずなり)
このページの目次
当初は田口も、ボーダレス・ジャパンという1つの会社を大きくしていくことを考えていた。
イマドキの起業家ではあれば、上場して手元資金を潤沢にし、それをもとにさらに事業を拡大させたほうが手っ取り早い気もする。
「しかし、それだと逆に時間がかかるし、ソーシャルビジネスには適さない」と田口。
「いま目標にしているのが1社のコアメンバーが10人くらいで、そこにアルバイトなどを加えてだいたい30~50人くらいの規模感。
売り上げで10億円くらい。
そういう会社が1000社集まって1兆円を売り上げる。
それでもいまは1社の規模としては大きいと感じていて、もっと小さくしていきたい。
小さくすることが何かいいかというと、マネジメントが要らなくなるんです」
究極的には、2、3人くらいで回す会社が理想だという。
「そういう自立分散的なマイクロビジネスが、それぞれのテーマに対して役割分担しながら挑むほうが、社会のさまざまな問題を解決しやすくなる。
だから僕らの役割は何かというと起業のハードルを下げることになるんです」
起業のハードルを下げれば下げるほど社会問題の解決を早められる。
田口にとって前篇で語ったボーダレスアカデミーの立ち上げは当然の帰結でもある。
田口は個々のビジネスはできるだけスモール化しようとしている。
だがその対象はあくまで社会問題だ。
私的な問題は対象としない。どういうことか。
「たとえばある工場の劣悪な労働環境を変えようと思っている人がいたとします。
よくある話ですが、でもよく聞くとその人が解決したいのは自分の知っているある町工場に限った話なんです。
同じような環境にある他の工場労働者に思いを馳せている訳ではない。
それを解決することは個人の夢であって、社会問題の解決というみんなの志にはならない。
僕らは日本や世界中に遍在している社会問題のソリューションをつくっていく、という覚悟で集っています。
問題解決の方法はその人の力量に合った範囲でやればいいし、その人の住みたい街に住んでやればいい。
でも何のためにやるかは大切です。
僕らは社会のためにやっている。そこはみんなで共有していないといけない」
▲田口が社会起業家の第1歩として手がけた、外国人向けのシェアハウス「ボーダレスハウス」。
外国人への差別や偏見をなくす目的だ。
田口らのような社会起業家は確実に増え、増えたことで社会問題が1つまた1つと解決されている。
その一方で社会問題のテーマは増え続けている。
貧困問題に始まったボーダレス・ジャパンの事業対象は差別や環境問題、児童労働、障碍者の就労、難民の就労、耕作放棄地、ホームレスなど多岐にわたっている。
社会問題が増えれば増えるほど恩送りの相互扶助は必要になり、小さな会社の数はどんどん増えていく。
田口はソーシャルビジネスに限らず、世の中のビジネスは小さい会社に細分化されていくと考えている。
「世の中が成熟していけば画一的な大きなマーケットはなくなりどんどん細分化されていく。
そうすると大きな資本効率を求める大企業では事業サイズが合わなくなってくると思うんです。
小さなマーケットには小さな会社がたくさんあったほうがいい。
それと小さくすることがいいという理由は、起業家という存在が生き方、人生の選択肢になりやすくなると思っているからなんです」
いまの時代は社会環境がめざましく変化している。
生き方にもいろいろな多様性があったほうが、みんなが生きやすくなる。
「最近よく“コミュ障”など聞きますが、みんなと足並み揃えて集団行動したり、コミュニケーションできないとすぐそんな風に呼ばれる。
でも、それって結構難しいですよね。
一昔前までそんな人ばかりだった。
僕のおじいちゃんやおばあちゃんなんか絶対会社でみんなと一緒に働けなかった(笑)
でも、みんなが個人商店でそれぞれに自活できていた。
改めて、起業家という生き方がみんなのものになっていくべき時代だと思う。」
「もちろん、これも僕の生き方です。
僕は自分に執着していないので、自分のことはどうでもいいと思ってる人間なんですよ。
実際ここ数年くらい給料は1円も上げてなくて、奥さんにも「それでいいよね」って言ってます(笑)。
ただ、まだできていないですけど、社員みんなの年収を600万円以上にしたいと思っています。
アメリカの調査にあったのですが、600万円か650万円以上になると人間の幸福感はそんなに変わらないというんです。
だからそこは出せるように頑張りたい。
同時にお金がもたらせるものの限界も感じていて、お金以外でもっと人を幸せにできる経済圏のようなものができればいいなと思うんです。
僕がやっていることって小さい頃の遠足と変わらないんですよ。
ほら、『来た時より、きれいにして帰りましょう』って言われませんでした?
それと同じで、僕らが生きているこの社会を、生まれてきた時より良くして人生を終えたい。それだけなんですよ」
3児のイクメンパパは、そう言って目を細めた。
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