アートで世界を獲りにいく。現代アートの越境EC、TRiCERA井口が目指す世界とは【StartupListレポ】

アートで世界を獲りにいく。現代アートの越境EC、TRiCERA井口が目指す世界とは【StartupListレポ】

記事更新日: 2019/12/09

執筆: 大野琳華

「日本は遅れてる。」そう嘆くのは、現代アートの活性化を目指すTRiCERA代表、井口泰さん。

TRiCERAは現代アートの越境ECサイト「TRiCERA.NET」を運営しており、Open Network Lab 19th Batch Demo Dayでも優勝した新進気鋭のスタートアップだ。

2019年9月にはプロトスター社の資金調達プラットフォーム「StartupList」を利用して、マネックスベンチャーズ等より資金調達も実現している。

TRiCERAが着目した現代アートは世界的に注目が集まっているが、なぜ日本では活性化できていないのか。井口さんに取材を行った。

プロフィール

井口泰(いぐちたい)

大学卒業後、老舗音響機器製造業にてキャリアをスタートする。ドイツ最大手医療機器メーカーに転職後プロジェクトリードとしてシステム導入に尽力する。2015年世界最大手スポーツカンパニーに入社、マネージャーとしてグローバルプロジェクトに参画、日本国内においても複数の新規プロジェクトを立ち上げ実行する。2018年11月1日、株式会社TRiCERAを設立。

日本の現代アートを物流から支える

ーTRiCERAでは現在アートに関する事業を行っているとのことですが、どういった事業なのでしょうか?

現在、力を入れている事業は2つあります。

1つは現代アートの越境ECサイト「TRiCERA.NET」です。

日本の現代アート作品を海外に向けて販売しています。

プロモーションから配送までワンストップでアートを海外に販売できることが特徴で、現在250人以上が利用しています。

もう一つは「TRiCERA.MUSEUM」です。

日本の現代アートを国内でも広めるために設立しました。

こちらでは「リアル世界でのプロモーション」を重視しているため、品川駅から徒歩5分とアクセスのよい場所にしています。

ーなぜこのような事業を始めたのでしょうか?

以前、僕はナイキに努めていました。

ナイキがあるポートランドではアートに関するイベントが毎日のように開催されていました。

しかし、そこには日本人の作品がほとんどなかったんです。

日本だってすばらしいアーティストがいるはずなのに、それが埋もれてしまっている

彼らの才能をもっと世界に届けられないのかという思いがありました。


またナイキでは物流を担当していました。

だから、そこには精通しているといった自負があります。

国内では物流がおざなりになっていますが、AmazonもZOZOTOWNも一番重要なのは物流だと言っています

もちろん現代アートでも同様です。

最適かつ低コストで現代アートを届ける販売チャネルを創出していくという点から、現代アートを支援しようと考えました。

ーそして起業するとなった際に、StartupListを使っていただいたんですよね。


そうです。

資金を調達した投資家さんのほとんどがStartupList経由でお会いした方ですし、本当に感謝しています。

コンタクトをオファーするときにtipsという形でアドバイスがもらえたので、相手に合わせて適切なオファーを送ることができましたね。

あとは、他の似たようなサービスと違って、StartupListは怪しい人がいなかったんですよ。そこがすごくよかったです。


ーStartupListでは弊社社員が直接会って、信頼できる投資家しか登録しないようにしているんですよ。


だからだったんですね!

今までも他の企業かと資金調達の話になった時にStartupListをオススメしていたのですが、これからも安心してオススメできます(笑)

ーありがとうございます(笑)それにしても、物流という観点から現代アートを見ているのは面白いですね。実際、どのような課題があるのでしょうか?

アートの流通には1次と2次と2種類あるのですが、1次流通ではアーティストが新作をギャラリーに委託したり個展/グループ展を開催し、直接お客様に販売します。

一方で2次流通ではすでに販売されたものをギャラリーやコレクターがオークションに出品したり、アートフェアなどで販売しています。

現在、1次流通から2次流通への流れがうまくできていない状況です。

2次流通というのは、アーティストに人気があり、評価が高いほど売買されやすくなるので、TRiCERAではまず1次流通に力を入れました。

そこでしっかり売れるようにして、近いうちに2次流通もできるような仕組みにしていきたいと思っています。もちろん、サイトでもミュージアムでもです。

ー今はITが流行っている中で、リアルなミュージアムにも力を入れているんですね。

そうです。

アートには流通だけでなく、保管という課題もありました。

アートはとても繊細で保管が大変な代物なのですが、そのためにアートをそのまま押し入れに入れてカビさせてしまったコレクターさんもいらっしゃいました。

TRiCERA.MUSEUMでは1階を倉庫にしており、防カビ防虫防塵と徹底的な品質管理を行っています。

これによって作家さんも、安心して保管できるようになりました。

コレクターさんからも「保管してほしい」といわれることがあります。

▲取材場所もTRiCERA.MUSEUM。数々のアートが展示されている

ー現代アートでもいろいろとジャンルがあると思うのですが、どのようなアーティストの作品を販売しているんですか?


二極化するのはよく無いかもしれませんが、現代アートには、既存勢力である保守派と、それに対して新しいことに挑戦していく革新派がいます。

近年、話題になりやすいのは革新派ですが、世界的に見るとバリューアップしているのはむしろ保守派の方なんですね。

アート活性化のためには革新派アーティストを売り出していくことが必須なのですが、保守派を放っていてはトップレベルのプラットフォームにはなれません。

そのためTRiCERAは中道を貫き、どちらの作品も販売しています。

どちらであろうと、TRiCERAをステップの場として活用してもらうことで、アート業界を盛り上げることができますし、実際に彼らが海外に進出すれば、それがTRiCERAのバリューにもなります。


TRiCERAには様々なレベルのアーティストが揃っています。

他のプラットフォームと比べても、アーティストの質は高いと思いますね。

アート×ビジネス

ー類似サービスだと「startbahn」もありますよね。そことはどのように差別化していったのでしょうか?

確かにstartbahnは競合にもなり得る存在ですが、協力し合える存在にもなるんじゃないかと思っています。

startbahnの最大の強みはクラウド上での作品証明書発行・来歴証明といったデジタル面です。

一方で、僕らの強みは物流の物理的なインフラを整えていくというアナログ面にあると思っています。

この二つが合わされば、より強固なプラットフォームになると思います。


とはいえ、もちろん類似サービスについては意識していて、TRiCERAならではの良さを生み出しています。

それがアーティストへの営業方法です。


それまでのサービスは、利用するメリットについてはプレゼンしていたのですが、そもそものビジネスの構造を話していませんでした。

でも、アーティストはビジネスについてはよくわかっていないんですよね。

だから、弊社ではビジネスの構造をまずしっかり説明するようにしています

そうすることで、なぜこれによってアーティストを支援できるのかということがアーティストも理解でき、想いを共感してもらえるようになるんですよね。

特に40歳前後のアーティストは、だんだんとモチーフが固まってきて、次のステップに行こうとする重要な段階です。

そこでオンラインという未知の世界に飛び込むことに対し、悪評がつくんじゃないかと不安に思われる方が多いです。

そこでアートが売れる構造について説明すると、安心されますね。


実際に利用された方は「こんなにネットで売れるとは思わなかった」「高くても売れるんだね」とおっしゃっています。

かなりアーティストにもサービスは刺さってるんじゃないかと思いますね。


ー私たちがアートの世界をよくわかっていないのと同じなんですね。


そういう意味ではアーティストとビジネスマンのマッチングも考えています。

今はアーティストもインキュベーションが必要な時代ですが、先ほども話したようにビジネスについては詳しくないので、うまくできません。

一方で、ビジネスマンもアートの本質を知り、刺激を受けたがっていますが、そうした環境はあまりありません。


そこでアーティストとビジネスマンの双方からプレゼンがうまい人を繋げることができたら、という風に考えています。


ー確かに、現代アートを知る機会は展示会くらいしかなかったかもしれません。それもあまり行かないし…。


そこなんです。日本人の現代アートへの関心はまだまだ薄いままです。世界はこんなにも盛り上がっているのに。

現代アートは未来のビットコイン

ー世界では盛り上がっているといいますと…?


世界は現代アートの「資産としての価値」にみんな気づいています。

現代アートのプライスインデックスのパフォーマンスは米株よりも高いと言われており、この10年間で出てきた現代アートの88%は価値が高まっているというデータもあります。

この20年で4回も急低下の危機があったのに、このパフォーマンスというのは目を見張るものです。

ーそんなに価値が高まっているんですか!その理由は何なのでしょう?


プレイヤーである現代アート購入者がどんどん増えており、供給が追い付かなくなっています。単純な理論ですが。必然的ですね。


ビットコインが出始めた数年前、「絶対ビットコイン買っとけ」と言っていた人たちの気持ちが、今ならわかります。

その人たちには絶対伸びる市場だということがわかりきっていたんでしょう。

僕も、みんなに「絶対現代アート買っとけ」と言いたいです。


ーそれなのになぜ日本人は気づいていないんでしょう?


日本人にはミーハーなところがあります。

特にアートに関しては海外志向が強いですね。

例えば「東京で注目のアーティスト」と言われるより、「ニューヨークで注目のアーティスト」と言われた方が、かっこよく、認められているように感じられませんか?

そのため国内の現代アートにはまだまだ鈍感なところがあります。

だからこそ、弊社は「越境EC」を運営しているんです。

まずは日本人アーティストを海外に売り出す。

そこで火が付いたら日本でも盛り上がる。これを狙っています。

日本から、アジア、世界へ

ーもうすでに海外にアートを販売するなどグローバルに展開していますが、今後の展望をお聞かせください。

短期的には日本人アーティストの上位20~30%をほとんどとって売り出していきます。

それができたら次はアジアを取りに行きます。

アジアの現代アート界はすごく伸びているうえに、物価の水準が低いということもあり値段は日本の15分の1です。

これだけ安いと2次流通の時には必ず今より高い値が付くということで、世界でも注目されています。

特に親日かつ優秀なアーティストが多いタイからまずは攻めたいですね。そのあとでミャンマーやベトナムを狙っていきます。


最後に、欧米にいき、世界を取りに行きます。

欧米には強い競合がいるので今はまだ厳しい状況ではあります。

しかし、現代アート市場のうち40%はアメリカが握っています。

欧米のアーティストネットワーク、コレクターネットワークに入り込み、そこに波及できるようにしていくことが課題ですね。

世界を代表するアートのECサイトになり、日本を含む各国の現代アートを盛り上げることが最終的な目標です。

Startup Listとは

多忙を極める起業家の方々にとって、自社に最適な投資家を見つけ出し、比較・検討するのは大きな負担となります。

Startup Listを利用すれば、VC、CVC、エンジェル投資家を含む投資家のリストを一覧で見ることが出来ます。

起業家が最小限の負担で資金調達を達成し、事業推進に注力するためのサービスです。

出典:スタートアップリスト公式HP

 
大野琳華

この記事を書いたライター

大野琳華

山口出身。一橋大学商学部に所属。記者・インタビュアーを目指している。

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