トンコハウス堤大介監督が描く、アニメーションスタジオのその先とは

トンコハウス堤大介監督が描く、アニメーションスタジオのその先とは

記事更新日: 2019/05/22

執筆: 篠田侑李

ピクサーでアートディレクターとして『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』に携わり、活躍されていた堤大介さん。2014年にピクサーを退職後、アニメーションスタジオ“トンコハウス”を同僚のロバート・コンドウさんと起業しました。

”アニメーションスタジオ“という閉じた場所をよりオープンにし、更に会社ではなく”コミュニティー“づくりに励む堤さん。
お話を伺うと、想像力を信じること、そして従来のアニメーションスタジオを超えた会社の在り方が見えてきました。

プロフィール

堤大介

東京都出身。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。Lucas Learning、Blue Sky Studioなどで『アイスエイジ』や『ロボッツ』などのコンセプトアートを担当。2007年ピクサー入社。アートディレクターとして『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がけている。2014年7月ピクサーを去り、トンコハウスを設立した。71人のアーティストが一冊のスケッチブックに絵を描いて、世界中に回したプロジェクト『スケッチトラベル』の発案者でもある。

想像力を信じる

僕はずっと映画制作というアートの世界に携わってきたので、ピクサーをやめてトンコハウスを建てるまではビジネスの経験がありませんでした。

いざトンコハウスを起業して初めて、いわゆる「ビジネスパーソン」と関わりを持つようになり、アートの世界にいた時とは違うアイデアの伝わり方や、考え方の違いを感じることが多くなりました。

例えば、ビジネスサイドの多くの人はお金の規模が大きくなるほど費用対効果を気にしたり、数値化し分析して成功の確証を求めてきます。

実はこの考え方はトンコハウス内でもあるのですが、僕は、確証を求めたりするのは保守的な考え方だと思っています。

もちろん、理路整然とリスクや費用について計算する能力は経営上大切ですが、僕はそこにプライオリティーを置きません。そうしてしまうと素敵なことを描くことができない上に、想像力への信頼に欠くことになると思うからです。

この「想像力への信頼」というのは、自分の想像力、一緒に仕事している人たちの想像力、そしてお客さんの想像力を信じることを指します。
それらの想像力に委ねることが欠けていると、数にばかりこだわってしまい、新しいものは生み出せないと思うのです。

トンコハウスのスタジオ内が再現されたスペース

僕はピクサーで常にマネジメントの層にいる人間だったので、リーダーシップを学べるようなトレーニングを率先して受けていてました。

ピクサーやめる前の8ヶ月間、同社の創業者で当時CEOだったエド・キャットムルのメンターシップを受けていたのですが、そこで彼がよく言っていたのが、「世の中で実証されたことをやり始めていると必ず一歩遅れる」ということでした。

普通、人間は「これでうまくいく」っていう確証を得てから動き出したいし、相応の準備をするじゃないですか。でも、それが遅いんですよね。

想像力への信頼無しに「こうすれば儲かるだろ」というように考えていると、絶対に周りより一歩遅れると思うんです。

もちろん、準備をする前に見切り発車したせいで失敗することもあると思います。
でも、それがなかったら新しいものは絶対生まれません。アップルにしても、ピクサーにしても、創り手と観る側の想像力への信頼があって、見切り発車もあったからこそ、イノベーションを起こせたのですから。

ー堤さんご自身の、想像力への信頼はどの経験から生まれたのですか?

スケッチトラベルというプロジェクトの成功からです。

一緒に企画したフランス人アーティストのジェラルド・ゲルレと僕の、好きなアーティスト同士を繋げたい、という思いから何の見返りも求めずにこのプロジェクトを始めました。

最終的にこのスケッチブックは4年半で71人の素晴らしいアーティストの手に渡り、彼らと彼らのスケッチを一つの作品として繋ぐことができました。

宮崎駿監督も参加したスケッチトラベル

それだけではなく、このスケッチブックの売却金で、発展途上国5カ国(ラオス、ベトナム、スリランカ、カンボディア、ネパール)の貧困地域に一つずつ図書館を建てることもできました

スケッチトラベルを通し自分と仲間の想像の中で「素敵だな」と思って始めたことが他の人々にも共感してもらえて、更にお金にもなって、そして世の中に役立つという、想像力が現実世界にもたらすインパクトを感じ、自分たちが価値を見出せることを真剣にやって仲間を増やし、周りに良い影響をもたらしていきたい、と強く思うようになりました。

この考え方は今のトンコハウスの在り方にも繋がっています。

トンコハウスはスタジオではなくアーティストの集う家

トンコハウスは独自の物語を、映画・本・教材などのメディアを通じて届けている。

ートンコハウスが目指しているものを教えてください。

トンコハウスは名前の通り、”家”なんです。

家には安心できる家族がいて、子供はそこで育って、親はその子が社会の荒波に揉まれても強く生きていけるようになって欲しいと願います。
そして子供が結婚して外に出て、また暫くして孫を連れて帰ってきたりと、輪が広がっていくサイクルがあります。

トンコハウスが目指しているものは、このサイクルに似ています。

働く人たちが、トンコハウスのアイデア、ビジョンを共有しつつも、“スタジオアーティスト”ではなく個々のアーティストとして腕を磨いて、そして彼らがここを出て新たなスタジオを建てる時があれば、トンコハウスで得たものを継承し、他の人にも繋げていって欲しいと思います。

僕にとって会社を残すことは別に重要じゃなくて、トンコハウスというアイデアが残る限り、仮に将来トンコハウスという会社がなくなったとしてもそれはそれでいいと思っているんです。

たまたま個人同士が集まって何かする上で会社という“箱”が便利で、この箱があることでみんなが普段できないことができるというだけです。

なので、働いている人には会社のためじゃなく、ここを利用して、トンコハウスの理念『エンターテイメントとアウェアネス(気づき)をもたらすような独自のストーリー作り』を磨いて欲しいです。

長くトンコハウスにいることで得るものがあるならずっといて欲しいですが、世の中色々なことがあり、様々な人がいて初めて成り立つ社会なので、働く人にはこの会社の枠の中でしかできない、という風には捉えないで欲しいです。

会社ではなく、コミュニティーを作る

カフェでスケッチのレクチャーをする堤さん

トンコハウスでは、観る側の人と作り手の境界をできる限りあやふやにしたいと考えています。

今は社会構造上、会社という形で従業員に給料を払ったり保険の手当を出したりしないと同じ目的に向かって進む人は増えにくいです。

でもそういう形式的なものに囚われないで、YouTubeでスタジオの活動を発信して視聴者の方とやりとりをしたり、TonkoCast(トンコハウスのポッドキャスト)でアニメーション業界の第一人者の方々の知見をシェアしたり、ワークショップを開いてスタジオと外の境界線を曖昧にすることで、トンコハウスの活動と考え方に共感する人が増えていけばいいなと思っています。

やはり自分たちと同じようなことを大事にしている人が増えれば増えるほど楽しいからです。

そしてその人たちが考えたことも僕らが取り入れたりできる、”コミュニティー”を広げていきたいです

今回の映画祭はまさにコミュニティーづくりとして取り組んでいます。

商業的な面で考えると全く理にかなっていませんが、スタジオのメンバー一同、すぐに戻ってくる数字では表せない価値があると信じてやっています。

トンコハウスの価値観に共感した人が今まで繋がってこなかった人と繋がり、最終的にトンコハウスがやらなくても自ら周りを巻き込んで、何か活動を起こしていくような、そんなサイクルを僕たちの活動で作っていけたら嬉しいです。

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トンコハウス映画祭は2019年5/26までEJアニメシアター新宿で開催中です。

https://tonkohousefilmfestival.com
篠田侑李

この記事を書いたライター

篠田侑李

テキサス大学オースティン校で映画・メディア・インテリアデザインを学ぶ。趣味は旅行、そぞろ歩き、都内のアンテナショップ巡り。テーマパークの創り手側につくのが夢。

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