POL 加茂倫明流、”巻きこみ型”組織戦略

POL 加茂倫明流、”巻きこみ型”組織戦略

記事更新日: 2019/03/11

執筆: 狐塚真子

●株式会社POL 代表取締役CEO 加茂 倫明氏

東京大学工学部3年生。高校時代から起業を志す。2015年9月から半年間休学してシンガポールに渡り、REAPRAグループのHealthBankにてプロダクトマネージャーとしてオンラインダイエットサービスの立ち上げを行う。2016年に株式会社POL設立。

今回お話を伺ったのは、研究関連市場をテクノロジーで革新するラボテックベンチャー、株式会社POLの加茂 倫明氏です。

社員、全国のインターン生を含め、経営者マインドを持ったメンバーが数多く存在するPOL。その組織作りはどのように行われているのか徹底調査しました。

人を最大限に巻き込むには大きくて良い旗を掲げよう

―まずは御社の事業内容について教えてください。

加茂:研究関連領域をテクノロジーを使って革新していくということを行っています。研究者の周りには、人材や共同研究、機器、薬といったお金の流れや産業が存在しますが、これらの市場には大きな課題があります。それらの解決のために順番にサービスを創っており、現在行っているサービスは主に2つです。

1つ目は、理系学生のためのスカウト型就活サービス「LabBase」です。修士博士の理系院生がメインターゲットになっています。自分の研究内容や成果をプロフィールに書いておくと、企業からスカウトが届くので、自分の研究に集中する傍らキャリアにも繋がるという訳です。今まで多くの企業はOBや推薦で学生を採用していたのですが、このサービスによって「どこの研究室に、どんな人がいて、どういうスキルを持っているのか」という情報を横断的に検索できるようになっています。

2つ目は、大学研究者と企業の産学連携マッチングを支援するサービス「LabBase R&D」です。これまで共同研究先を探す際には、学会で出会ったり、社員の研究室をたどって人づてに聞くのが主流でした。しかしこのサービスがあれば「どこの研究室にどういう研究者(教授・准教授etc.)がいて、どのようなシーズや応用イメージを持っているのか」などの情報を検索できるようになります。

これら2つはSaaS型のモデルになっているので、企業側からデータベース利用料を頂いて運営を行っています。

―現在「LabBase R&D」の運営も行っていると思いますが、今後は研究室関連のラボテック分野を広げていくのでしょうか?

加茂:その通りですね。研究者のネットワークを増強させながら、その周りでシナジーが効く事業群をどんどん立ち上げていく予定です。

最終的に、POLは日本、そして世界において一番多くの研究者情報を持っている会社になると思っています。そうすると、その中には次世代のユーグレナのような大きな事業化可能性のある原石的なシーズも含まれてくるので、それを目利きして投資する、ということも行っていきたいと思っています。

―インキュベーションもこれから行う可能性があるということでしょうか。

加茂:そうですね。リアルなラボを持つといったことも考えています。

―事業を広げるにあたって、POLは設立当初から「人を巻き込んでいる」という印象があります。最初から人材や組織の戦略があったのでしょうか?

加茂:僕自身、学生起業なので分からないことだらけでした。だからこそ、応援団や支援者、ネットワークを持った周りの人をどれだけ巻き込んでいけるかが重要だと考えていました。共同創業者で取締役の吉田(行宏)さんと一緒にやっていこうと思ったのもこれが理由です。

営業や採用、資金調達も人を巻き込むことができるかどうかが重要なので、「巻き込み力」は意識しています。その上で大事なことが、「でかくて良い旗を掲げる」ということです。いかに社会的な意義があって共感しやすいビジョンを掲げることができるかを意識していたので、会社のビジョンなどを魅力的に語れるようにしていました。

―とても上手にストーリーづくりや語りをされているなと感じていました。意図的だったんですね。

加茂:そうですね。例えば僕らの事業内容の場合、「理系学生向けの就活支援です」ということだけを語っていたら、投資家も採用対象も全然巻き込めなかったはずです。そうではなくて、「これはあくまでもラボテック構想のうちの一つの打ち手であり、研究関連の課題を解決するための第一歩なんです。」と言えた方が絶対により多くの人を巻き込めると思うんです。

―なるほど。それに気づいたのはいつでしょうか?

加茂:サービスアイデアを思いついてから徐々にですね。

今、組織を大切にしているのには共同創業者の吉田さんの影響があります。

創業前の打ち合わせの際に、彼から「事業と同じくらい組織が大事である」ということを言われました。どれだけ強い事業があっても組織が弱いと負けるし、ある程度強い組織で、尚且つ実行力がないと良いプランが出せないということですね。この話には納得していましたし、理解はしていました。

いざ創業してから最初のうちは、ほとんど僕だけが稼働していたのでスピードが遅かったんです。そこから仲間が増えていくと、会社の成長スピードが上がることも実感しました。仲間の大切さ・人を巻き込むことの大切さをより強く感じましたね。

 

全体最適観点で考えられるための材料を与え続ける

―よく、「人を急に採用したけれどうまくワークしない」という事例を耳にします。
採用やその後の教育が上手くいく組織とそうでない組織の違いは何だと思いますか?

加茂:まず「どういう人を採用するか」ということに関して。人手が足りていないときに一番やってはいけないのが「頭数だけをそろえる」ということですね。

また、スキルや経験だけがある人を採用するのも、どこかで歪みが生じてきてしまうと思うので避けるべきです。POLの場合は、当然スキルもみますが、マインドやカルチャーフィットを圧倒的に重視しています。そして採用後は、インターンも含めできるだけ全員を当事者意識を持った経営者側に引き上げようと努力しています。

ーPOLはメンバーが入っても辞めずに、大人数の組織となった今でも上手く回っている印象があります。
「インターンには経営者マインドを持たせるのが間違っている」と言う人もいますが、POLの場合、経営者マインドをどのように育てているのでしょうか?

加茂::学生の場合、良い意味で周りの環境に染まりやすい性質があります。ただし30代〜40代になってくると、その人の性質が変わらないこともあります。だから中途採用の場合は、オーナーシップをもっているか、素直・謙虚であるかということをよく見ています。その前提のもとで採用を行い、情報と権限を与えて自分の力で物事を考えられるように育成しています。

意図的に行っていることの具体例として、例えば「BUMP FRIDAY」という取り組みがあります。各部署の責任者が1週間のOKRに対する進捗を発表し、お互いに称え合っています。

大きい組織になってくると、他の部署でどの人が何をして頑張っているか分かりづらくなってしまいます。そうなると、全体最適で考えづらくなるし、他部署のメンバーに対する愛やリスペクトも持ちづらくなってしまいます。だからこそ、この「BUMP FRIDAY」で互いを褒めあったり、リスペクトしあうことによって、組織全体を盛り上げています。また各部署の情報も開示していますから、全体最適視点で考えられるための材料を与えるという意味合いもあります。

また、経営陣の人格が組織に投影されるということも感じています。僕はモチベーションがかなり他者(社会・カスタマー・メンバーetc.)への貢献に向いているタイプであると思っています。だから、「僕以外のメンバーにどんどん任せて、それを支えつつ、一緒に盛り上げていきたい」という気持ちもあります。会社全体にサーバント型のリーダーシップが充満しているのかもしれませんね。

さらに別の取り組みとして、POLでは三ヶ月に一回、投資家さんを呼んで、進捗を共有し戦略を議論する「投資家集会」を行っています。投資家さんからアイデアをもらって戦略をブラッシュアップすることができますし、発表の準備をするにあたって戦略を俯瞰して整理する良い機会になります。また、普通会社の役員陣の頭の中だけにあるようなことを、インターン含む全メンバーにも共有できるということも、この会の狙いの一つです。

ー「投資家集会」で発表する経営戦略の資料は、加茂さんだけで作っているわけではないんですよね。

加茂 : はい、各部署の責任者を巻き込んで一緒に作っています。

ー大抵の経営者って自分だけで作りあげることが多いのですが、POLの場合はどのように周りを巻き込んで作成していったのでしょうか。

加茂:最初は僕が全体のアウトラインを作っていました。しかし今となっては、僕よりも各部署の責任者の方が、それぞれ担当する部分に関して良いものを作ることができます。

だから現在は、彼らに作ってもらったものを僕や吉田さんが確認して、フィードバックして、作り直して…というやり取りを繰り返し行って、資料を作成していますね。僕が自分で作成するのは、全体戦略や新規事業のパートだけですね。

ー完全にメンバーが育ってきていますね。

加茂 : そうですね。発表も彼らに任せています。インターン生で部署責任者を任せている人もいますよ。

ーではPOLでは「幹部やミドルマネージャーが育成できない」といった問題は生じていないのですね。

加茂 : もちろんまだまだですが、うまく育成できている方だと思います。戦略思考力・マネジメント力、当事者意識を上げられるような機会を提供することができればその問題は解決すると思います。ただし、これらの力を一気に伸ばすことは難しいので、早いフェーズのうちから長期視点で取り組むことが必要でしょう。そうでないと、マネージャーの成長が事業成長に間に合わず、壁にぶつかってしまうと思います。

ーPOLの場合は、マネージャーを育成するためにどのような場を提供することが多いのですか。

加茂 : 自分の担当業務を越え、全体を俯瞰して考えるという経験が大切だと思うので、投資家集会や全社合宿の運営など、全社を俯瞰しないといけないプロジェクトを任せて責任を持って行ってもらうようにしています。

一つの事象から学び切ることができるか内省を繰り返す

ー組織創りに関してどういったことを考えて設計していますか。

加茂:一番はバリューを重視しています。POLには3つのバリューがあります。

1つ目が「BHAG Driven」。BHAG=達成困難な大胆な目標(Big Hairy Audacious Goals)を打ち立て、そこから逆算して目線高くやり抜こうという考えです。

2つ目が「Iceberg Mind」。自分自身の成長と向き合おう、そして成長するにはスキルや成果だけではなく、その下にある想いや行動を含めて育てていこうというメッセージです。

3つ目が「Growing Together」。吉田さんが専務取締役を務めていた元ガリバーインターナショナル(現IDOM)のミッションでもあります。自分だけでなく、ステークホルダー(社会・カスタマー・会社・メンバー)とともに成長しましょう、という考えです。

これらは経営陣のみんなでかなり時間をかけて作りました。これからも大事にし続けていきたいと思っています。

ーこれらがメンバーに浸透しているからこそ、振る舞いにも影響が出るのでしょうね。

加茂 : バリューは「行動規範」と和訳されがちですが、その意味を狭めてしまっていると思います。バリューは組織づくりの根本思想だと思っているので、採用広報も、バリューに対応しやすい人が集まるような発信の仕方をしていますし、採用面談でもそれに値するような人物かどうか見極めるようにしていますし、成長目的のフィードバックもバリューに沿った形で行うようにしています。

ーこれまでに、どのような組織課題があったのでしょうか?

加茂:未来に対しての課題になりますが、この会社のボトルネックになってくるのは、経営陣の人間力、マネジメント力、戦略思考力だと思っています。

組織は、リーダーの器以上に大きくならないと思っています。いくら良い組織体制が出来上がっていても、リーダーの器が大きくなければ、会社のスケールにも限界が出てくると思います。僕含め、経営陣が人間力や戦略思考力やマネジメント力を引き上げ続けないと会社も小さくまとまってしまうなと。

もう一つの課題は、全国の学生インターンにおいて、ミドルマネージャーの育成が間に合わなかったことです。POLは全国のインターン組織の方が僕ら社員よりも数が多いので、先に30人の壁を経験しました。人が増えても成果が上がらず、個人のポテンシャルを最大化できていなかったりもします。

ただ良い意味で捉えると、インターン組織で30人の壁を疑似体験できたので、そこでの学びを社員の場合に活かせると思っています。

ーちなみに、組織全体の意思決定の質を上げるために気をつけていることはありますか?

加茂 : 良い意思決定は、良い思考材料と良い思考力から生まれると思っています。思考材料とは、全体最適や複眼思考で考えるのに必要な情報のこと。その材料をもとにどれだけ良い思考や意思決定ができるかが求められます。

だから、全体最適で考えられるような思考材料を与えるために上記の「BUMP FRIDAY」のような取り組みをしたり、思考力を高めるような研修を行ったり内省の習慣化によって成長角度を上げていこうとしているんです。

ー内省ですか。

加茂: 同じ事象から学ぶ量は人によって違います。その量の差というのは、いかに一つの事象に対して貪欲になって学び切るかにかかってくると思うので、日報等での振り返りは大切だと感じています。

ーなるほど。自分自身がオーナーシップをもって自己強化学習をするために行なっているんですね。

加茂: 自分の成長角度を高めること以外にも、テクニカルな学びの組織内シェアの意味合いもあります。また、1つの事柄から深いところまで内省して自分の想いを記述できている人がいると、周りにも良い影響が与えられることも多いです。

ーたしかに、POLには日報など振り返りの文化がありますよね。これを始めたきっかけと定着させる過程を教えてください。

加茂 : まずリーダーが「絶対に浸透させる」という覚悟を持つ必要があります。僕らの場合、「日報を絶対に浸透させよう」と最初に始めたのは共同創業者/取締役の吉田さんでした。日報を書くことは面倒だし、現在も100%浸透している訳ではありません。ですがリーダー陣が中心となり「自然消滅させてはいけない」という強い覚悟を持っているので現在も継続できています。

会社が幸せにすべき人にとって働きやすい環境をつくる

 

ー社員やインターンにとって、働きやすいという意見をもらいますか?

 

加茂:前提として、「誰が入っても幸せになれる会社は創れない」と思っています。サービスもターゲットユーザーにとっては価値あるものにしなければなりませんが、それ以外の人からしたら関係ないですよね。

 

会社も全員を幸せにしようとすると弱くなってしまうと思っていて。「僕たちはどういう人を幸せにするべきなのかを考えて採用や組織づくりを行っています。POLの場合は、「自分のことだけではなくて、社会、ユーザーやクライアント、他のメンバーへの価値提供にもモチベーションがある人」「高い成長意欲を持つ人」などと定義しています。そして、これを満たす人を採用するし、メンバーのこういう他者貢献意欲や成長意欲は強く満たして、彼らにとって幸せな環境にしたいと思っています。

ー成果が分かりづらいことに対してはどのように評価していますか?

加茂:パフォーマンスとバリューに対しての360度評価を行った上で、それを元に上司が判断しています。パフォーマンスについては、もちろん数字は大切ですが、数字が上がる/上がらないのには様々要因があるので、プロセス等も含めて判断します。

 

組織戦略は社会をより良くすることにつながる

ー最後に。会社を立ち上げたばかりの会社は事業ばかりに目がいってしまい、組織やファイナンスが疎かになってしまう事が多いです。
その点、POLは組織と事業、資金の連動が上手ですよね。

加茂:事業と組織は両輪ですし、ファイナンスも同じく連動して考えるべきものだと思っています。これら全てを連動させていくことの重要性が組織の中に根付いているので、例えば戦略が変わると組織図をすぐに変えています。

僕は、「会社の活動によって社会をどれだけ良くすることができるか」が会社の存在意義で目指すべきところだと思っています。それは、事業を通した貢献だけではなくて、良い人材を育成したり輩出したりすることを通しての社会貢献という形もあると思います。組織を大事にする理由は、もちろん「会社や事業をより強く成長させるため」というロジカルな考え方もありますが、それに加え「メンバーを幸せにしたい」という想いや「人材育成/輩出を通して社会貢献したい」という想いもあります。

狐塚真子

この記事を書いたライター

狐塚真子

津田塾大学英文学科に在学。趣味は映画鑑賞、ダンス、旅行、ライブに行くこと。

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