● 株式会社ピーステックラボ 村本理恵子氏
時事通信、専修大学経営学部教授、ガーラの会長を経て、エイベックス・デジタル専務取締役を歴任。エイベックスグループで日本のNo.1動画配信事業dTVをけん引。データ分析とアルゴリズム、デジタルマーケティングの専門家。
C2C と B2C のレンタルプラットフォーム「Alice.style(アリススタイル)」を開発するピーステックラボが、リコーリースとアスクルから3.5億円を調達した。サービスリリースは9月中旬を予定する。
C向けのプラットフォームとあって、「第二のメルカリ」などと注目されるピーステックラボ。しかし、提供するのはシェアリングサービスに留まらない、「体験のプラットフォーム」。
StartupList(スタートアップリスト)を運営する弊社栗島がサービス概要から資金調達の裏事情まで深堀り!
このページの目次
栗島
アリススタイルはどんなサービスですか?
村本
簡単にいうと、B2C と C2C のレンタルプラットフォームです。
栗島
シェアではなく、レンタル。
村本
はい。基本的に我々はレンタルという概念でやっています。
私たちが注目したのは、「試してみたい」というニーズ。もともとレンタルというと、たまに使うものだから借りるっていう感覚ですよね。でもレンタルは「試してみたい」というニーズを充足するのにぴったりなんです。
例えば、高いカメラや炊飯器を買う前に一度使ってみたいと考えますよね。レンタルによって、そういったニーズを充足できるというのがポイントです。
トライアルというレイヤーを発掘
栗島
たしかに、今までにそういうサービスはないですね。
村本
買おうと思うけど、躊躇してしまう。でも使ってみたい。あるいは、使わなくてもインスタに載せたいとか。そういうニーズってあるじゃないですか。そこに応えようというサービスです。
そういう意味では、シェアリングエコノミーのサービスをやろうという発想ではやっていないです。
栗島
体験のプラットフォームに近いのかもしれないですね。
村本
そう、体験のプラットフォームですね。物のプラットフォームではない。
栗島
C2C だけではなくB2Cがあるというのも、特徴的ですよね。
村本
個人として貸す場合には、家にあるけれど使っていないものがお金になる。そして、企業にとっては商品をトライアルしてもらえる、というメリットがあります。
栗島
メーカーさんはかなり出したがりそうですね。
村本
そうですね、評価していただいています。大手家電メーカーさんやデザイン家電メーカーさんに出したいと言っていただいています。
栗島
アプリについては、具体的にどのような使い方を想定していますか?
村本
これはインタビューして聞いた例ですが、ベビーカーを買いたいという人は、本当に動かしてみて知りたいことがたくさんあるわけです。ちょっと段差があるところをスムーズに乗り越えられるかとか。
その一方で、子どもはもう大きくなったんだけど、また産まれるかもしれないから、念のためにベビーカーを取っておきたいという人もいる。例えばそういうところのマッチング。
こんなケースなどがユースケースとして考えられます。
<想定するユースケース>
栗島
扱う商品は家電がメインですか?
村本
サービス開始の段階では、美容家電や調理家電など、明らかに女性に目を向けた商品を取り扱っていきます。ローンチ後には、アウトドア・スポーツ用品、ファッション系の商品を順次追加していく予定です。
栗島
レディースファッションだと、airCloset(エアークローゼット)のようなサービスもありますよね。
村本
そうですね。我々はあえて領域を絞らないで、家電などの領域から入っていきます。
栗島
統合プラットフォームですね。
村本
その通りです。
栗島
次はビジネスモデルについて教えてください。
村本
ビジネスモデルは非常にシンプルです。
貸す側は2パターン。
自分で貸し借りを全部やる場合は、1割だけの手数料を取ります。それに対して、貸したものをアリススタイルに預けて、運用をアリススタイルに委託する場合は、収益を折半するモデルになっています。
貸したいものを持っているけれど、貸し借りの手間が面倒という人が多いんですよ。2つ目のは、そういった人のためのものです。
栗島
それいいですね。ものがなくなってスッキリして、お金も入ってきて、使いたいときだけ返してもらえるっていう。私それ使いたいです(笑)。
村本
ありがとうございます。
栗島
預けられたものを保管する倉庫とかはどうされるんですか?
村本
アスクルさんが提供してくれます。アスクルさんが一定サイズの倉庫スペースを用意してくれていて、増えたら順次スペースも増やす、ということになってます。
栗島
そのためにアスクルさんを口説き落とした、ということなんですね。
村本
それで、ビジネス構造はどうなっているかというと、これも分かりやすいです。
貸し手は、セルフでやるか委託でやるか、企業か個人か、という4パターンがあります。この人たちの出品物にはすべて保険がつきます。保険は損害保険会社さんとオリジナル保険商品を開発中です。
物流部分はアスクルさんがやってくれます。メルカリと同じような匿名配送はヤマトさんとやります。アスクルさんとはアリスカーというオリジナルの仕組みもお手伝いいただきます。
栗島
アリスカーとは具体的には?
村本
当初は都内限定だと思うんですけども、軽トラが町中を走っていて、それに渡せば梱包しないで済むし、500円くらいで配送できるということを計画しています。
栗島
廃品回収みたいな感じでしょうか。
村本
はい、回収するのは廃品ではなく、商品ということにはなりますが。
配送は様々な選択肢を用意
栗島
(出資を受けた)リコーリースさんとはどのような関係ですか?
村本
リコーリースさんが出してくださった理由は、弊社が家電のリース製品が作りたいというところにあります。
栗島
(家電のリース製品があったら)欲しいですね。
村本
欲しいじゃないですか。買うと長く持たないといけない。
アリススタイルを通して、新品を買うのかリースで借りるか、それか中古で買うか、使うだけでインスタにあげるかみたいな、そういう選択肢をユーザーに与えたいです。
そのためにリコーさんと家電の事業づくりをやっています。共同事業開発を目指しています。
栗島
本当に、よく口説き落としましたね(笑)。
村本
私達は、どちらかというとテックベンチャーというよりは、事業ベンチャーですね。
テックは使うもので、事業の組み立てインテグレートをする。アスクルさんと組み立てる、保険会社さんと組み立てる。そこに新しいビジネスチャンスがお互い出てくる。
そういう組み立てが得意な会社です。
栗島
村本さんのBeeTV 時代のノウハウが生きているという感じですね。
村本
まさにそうですね。ドコモと組んだみたいな。自分たちに足りないパーツを他の事業会社からいただくと。
実機を使って、アプリを見せてくださいました
栗島
プロダクトとしては、どのような特徴がありますか?
村本
プロダクトでいうと、トップページは物との出会いという感じです。メルカリみたいに商品がずらずら並ぶという感じではないです。
イメージで言うとこんなふうに商品の記事が並んでいます。記事をここで読める。こういう記事が毎日10~20記事あがってくる。トップはこんな作りです。
Alice.style のアプリ画面イメージ
村本
画面の上の部分には、タイムリーな内容を表示していきます。テレビとかで取り上げられたりすると、その10分後くらいに我々はデータ取得できるようになっているので、タイムリーにここに商品が表示されると。
栗島
すごい…。
村本
我々の特徴として、顧客体験にトライアルっていうステージを入れたということでは既にお話しましたが、もう一つ隠れた特徴があります。
それが、メタタグです。もともと私がマーケティングのデータ分析をやっていたので、そこに強みがあります。
商品にメタタグをつけています。そのデータを蓄積していって利用します。ユーザーの履歴とのマッチング。レコメンドに使います。
栗島
このあたりは、かなりバックグラウンドが活きていますね。
村本
記事がある、タグ検索がメイン、メーカーの公式がある、というのが通常のシェアリングサービスと大きく違うところですね。
栗島
かなり作り込んでありますね。事業会社と組んでやりたいという方は多いですけど、ここまでやりきれる人は相当少ないと思います。村本さんが交渉するときは、どういう風に交渉をしていたのですか?
村本
リコーリースさんは紹介していただける方がいて、社長さんと新規事業開発の部長さんと、30分くらいお話をする機会があったんです。社長さんが面白いと言ってくださって、そのままどんどん話が進んだという形でした。
栗島
トップダウンで落としにいったんですね。
村本
トップが動かないと話にならないですね。下の担当の方とお話ししててもなかなか難しいんですよ。稟議をあげてとなるので。
トップの人が今後自社の事業がどうなるか、新しい事業をどうするかというのを一番深刻に考えている。だからそこにマッチすれば、非常に意思決定が早いということだと思います。
栗島
アスクルさんの方は?
村本
アスクルさんもまずCFOの方に会って、2回目は岩田社長に会って、やろうという話になりました。何度も通うということはなかったです。
栗島
そこはどういうつながりで?
村本
つながりのつながりで会いにいったという形です。初対面でした。
栗島
気になるポイントとしては、提携を目指して動きつつも、連携できなかった場合のプランも持っていたと思うんですが、どういうB案・C案を持っていましたか?
村本
(リコーリースとやる)家電リースについてはサービスローンチ時に必ずしも必要でないと考えていました。サービスが拡大すれば、いずれできるだろうと。
物流は不可欠な要素なので、当然、別案も考えていました。
栗島
アスクルさんがクリティカルだったということですね。
村本
まあダメなら自分たちでやるか、というのも考えとしてはありましたが(笑)。
だめだったらこうするという選択肢は用意していたので、サービスをローンチすること自体は全く変えるつもりはなかったです。
栗島
出資の内訳はどうなっていますか?
村本
バリュエーション10億で、リコーリースさんが3億円、アスクルさんが5,000万円での出資です。
栗島
ハードネゴシエーションですね。3億円という規模は、リコーリースさんからすると自分たちの事業があがっていくし、投資した分が売上として回収できるという期待ですかね。
あと資金使途は?今回の3.5億はどのように使いますか?
村本
基本的にシステムの改善ですね。データの整理、アルゴリズム作ったりとか。あとは広告宣伝費。またサービスローンチ時に品揃え充実のために、一部自前で商品を買ったりするので、その費用。
後は毎日の運転資金ですね。
栗島
あと人材採用ですかね。どこが一番割合大きいでしょうか?
村本
大きいのは広告宣伝費です。
栗島
ユーザーの新規獲得ですもんね。下手するとテレビも?
村本
テレビはまだです。次のステージですね。
イベントをやったりだとか、そういう仕掛けをやっていきたいと思っています。
栗島
それで、3.5億を 1年後くらいには全て使い切る計画ですね。すごい、さすが。
村本
そうやっていかないと勝って行けないかなと思っています。
栗島
今回の資金調達で、VCさんも何社か回っていましたよね?
村本
そうですね。10社くらい。
栗島
どんな感触でしたか?
村本
うちは、広告にすごく強みがありますとかそういうタイプではなく、事業の構築をメインにしています。だからなかなか VC さんには受けが良くなかったですね(笑)。
栗島
具体的にはどういったことを言われましたか?
村本
一つはバリュエーションですね。シードのエンジェルラウンドで、3億と値をつけて入れているので、そこに対しての抵抗感がすごかったですね。
栗島
今回の調達では、バリュエーション10億前後ですよね。
村本
それを言うと、ほとんどの VC さんはおたくのステージの基準値に合わないからと言われて、それでおしまいです。それはそれで社内ルールがあるので、仕方ないと思います。
栗島
Series Aくらいできる方でも駄目だった?
村本
ものがまだローンチしていない状態だったから評価できないと言われました。
栗島
そのリスクを取れと言いたいですけどね。
村本
私はそのリスクをなんで取らないのと思いました。実際に実証テストもやって、結果も出ているのにと。もちろん、社内で例はないがチャレンジしよう言ってくださる方もいましたが、ただその場合は非常に社内調整に時間がかかりそうでした。
もともと VC より事業会社目当てというところもあったのも確かですね。
栗島
他には何か言われましたか?
村本
もう一つはVCさんからすると、そんなにお金がいるのかと言われました。
ただやっぱり、ある程度の予算をもって、事業スピードをあげて一気に登場感を出していかないとだめかなと思ってます。
そういうところでいうと、メルカリさんの資金調達(5,000万・3億・10億)はお手本になっていますね。あれが私にとっての一つのモデルです。
栗島
なるほど。
村本
スタートアップとはいえ、資本は重要だと思っています。私はガーラで7億しか集まらなかった上場を経験しています。そこでは、お金をかけられない苦しさというのを感じました。成長の後押しができない。
そのあとエイベックスにうつって、感じたのはやっぱり資本は大事だということです。
栗島
潤沢ですもんね。
村本
大きくするためにはやっぱりお金が必要ということをすごく認識しました。だから無駄にかけるんじゃないけれども、成長のためのガソリンは潤沢なほうがいい。
栗島
全体的にVCにはついてはどんな印象でした?
村本
VCさんに対しては、銀行みたいだなと思いました。なかなかリスクを取らないなって感じましたね。
あと女性のファンドマネージャーの方が全然いない。こんな社会なんだなと、回ってみて思いました。
栗島
ムラ社会だしな男性社会だし、みたいな所はありますよね。
記憶を思い起こしてくださっている様子
村本
もう少し自由な、破天荒な人がいても面白いのになあとか思ってしまいます。
例えば、あるときは KPI の回し方はどう考えていますかということを聞かれました。すごく細かいことを聞くわけですよ。
事業がいいか悪いかの話じゃないですかと聞いたら、いやいや日々のオペレーションが重要ですよと言われました。そこが決まっていないと出資できない、みたいな。
栗島
各論をみてるんですね。全体俯瞰できていないですね。
村本
そこはやりきるということしかないんだから、言われてもしょうがないですよね。
やっぱり事業をやった人が、ファンドマネージャーをやらないと難しいな、と感じました。
栗島
もっとリスクを取らないとだめですよね。
栗島
最後に今後の資本政策についてうかがいます。次回の資金調達はどのように考えていますか?
村本
年末ぐらいから次のラウンドに向けて動く計画です。10億くらいの調達を狙います。
栗島
大きめの出資ができるところを狙う感じですかね。
村本
そうですね。9月にサービスローンチしますから、それを見せながら次のラウンドに向けて走っていくという感じです。中だるみしないように、休まずにどんどん投下していかないとと思っています。
栗島
長期的には、上場も考えていますか?
村本
正直なところ、上場による資金調達が事業の成長にとって不可欠なら上場しようという考え方です。
栗島
今は株主が事業会社だから、上場する必要性もないですよね。
村本
ないです。だからエグジット自体はどうするのかっていう話は、売却なのかバイアウトなのか、続けるのかというのは事業次第なのかなと思っています。
IPOしようという風には社員も含めて言っていません。
栗島
いいですね。IPOは既に一度経験してますもんね。
村本
そうですね、そこに囚われたくないですね。IPOすることによる、デメリットも実感しているので。
そのデメリットを踏まえても、潤沢な資金が集まりそうで、それが成長に不可欠だったらやりますけども。そうみてます。
栗島
そうですよね。事業戦略上において、資本政策内の一つの選択肢でしかないですもんね。
村本
はい、あくまでも資本政策の一つなので、それを目標にはしません。
栗島
いいですね。ありがとうございました。
取材者プロフィール
栗島祐介
広島出身。2018年にプロトスター株式会社に参画、起業LOGを立ち上げ。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻に所属。
“裸眼のVR”で新しいバーチャル表現で池袋のカルチャーとコラボレーションするkiwamiの取り組みとは
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