TOP > インタビュー一覧 > IPO支援専門家のEY藤原選パートナーに聞く、 IPOの最新トレンドと、上場成功のポイントとは【前編】
EY新日本有限責任監査法人IPO統括の藤原選氏
IPOの専門家として、上場を目指すスタートアップをサポートしているのが、監査法人だ。
IPOの現場で、多くの企業や経営者と接する彼らは、IPOのトレンドや成功のポイントに精通している。
本記事では、上場支援のリーディングファームであるEY新日本有限責任監査法人IPO統括の藤原選氏に、IPOの最新事情と上場を目指す企業が知っておきたい注意点について聞いた。
Q. 2021年のIPOは活況だった印象です。1年を振り返って、どのようなトレンドが見られましたか。
2021年のIPO数は、125社を記録しました。
121社が上場した2007年以来の14年ぶりの100社超えとなり、マザーズでも93社と、市場開設以来過去最高の上場数となりました。
これは前年である2020年のオリンピックイヤーに合わせて上場を予定した企業が、コロナ等の影響も受けて上場も後ろ倒しした経緯があると考えられます。
また、21年秋にはコロナ禍が収束した期間もあったことも影響しているでしょう。
規模としては、公開価格ベースの時価総額が300億円を超える上場が15社あったものの、全体的には100億円以下の小型IPOが中心でした。
マザーズの公開価格ベースの時価総額の中央値が90億円で前年度の66億円から3割以上上昇したことと、申請期が赤字の状態で上場する“赤字上場”は13社と、前期の8社に比べて増加したのも印象的でした。
足元の収益性だけでなく、中長期的な成長可能性を示すことができれば上場が認められる傾向は、加速しているようです。
業種別にみると、情報・通信業とサービス業が中心で、SaaSやAIといったテクノロジー領域のプラットフォーム企業のほか、コロナ禍で需要が高まったDX推進企業などが目立ちました。
個人的には医薬品・医療機器に次ぐ第三の治療法として注目されている「デジタル治療(DTx)」を手がける企業があったことは、興味深く感じました。
海外の投資家に向けた募集・売出しも、大幅に増加しています。海外機関投資家に向けて株式を募集・売出しをする場合、グローバルオファリング(GO)と旧臨時報告書方式(旧臨報方式)の2つの方法がありますが、GOは5社(前年は3社)、米国以外の欧州・アジア市場が対象になる旧臨報方式が27社(前年は13社)といずれも増加しており、海外投資家へ向けたオファリング社数は2倍になっている計算です。
海外投資家向けのオファリングについては、中編で詳しく解説します。
一方で、外国籍企業や外国人経営者を抱える企業である、いわゆる「クロスボーダー企業」が、日本の市場に上場する例も目立ちました。
海外、特にアジア地域のスタートアップにとって、マザーズ市場は流動性が高く規模も大きいことから、米国市場に次いで魅力的な市場となっています。
近年、東証がこうしたマザーズの魅力を海外に向けて熱心に発信しており、地道なマーケティングが実を結び始めたと言えるでしょう。クロスボーダー企業の上場は、今後も増加するとみています。
セカンドパーティ・オピニオン(SPO)を取得し、上場に合わせて開示する例が、前年の1社から3社に増えた点も注目です。
SPOは環境や社会などサステナビリティに専門性を持つ評価機関が、調達資金の充当先に関する環境及び社会面でのインパクトの評価や、企業のESGへの対応状況やその影響を評価した意見書のことです。上場の際に目論見書等で開示することで、サステナビリティ経営への取り組みをアピールできます。
IT企業など環境へのインパクトが小さい業種では必要性がそれほど高くないかもしれませんが、製造業など環境リスクが高いイメージのある事業を展開する企業は、取得することで投資家に好印象を与えることになるでしょう。
まだ一般的な認知度は低いものの、今後はこうした対応をしてくる企業は増えてくると思われます。
また、2021年は、ユニコーン企業が海外企業に買収される“ユニコーンM&A”が見られました。
日本では米国とは異なり、有力な未上場企業が買収される例は多くはありませんが、IPO以外の有力なEXITが存在することを知らしめた点も、印象に残りました。
――IPO時に証券会社などが企業と決める公開価格を過少に設定しているとの指摘を受けて公開価格設定につき、2022年1月に公正取引委員会が実態把握調査を行いました。
おっしゃる通り、公正取引委員会は公開価格が実態よりも低く設定されている指摘に対して新規上場会社と証券会社を対象に調査を実施した上で、競争政策上と独占禁止法上の考え方を明らかにしました。
日本証券業協会や証券会社等に対し、具体的な対応策の検討や自主的な取り組みを求めています。
ただ、すべての公開価格が過少に設定されていると断定することはできないでしょう。
特に時価総額の小さいIPO案件が需給バランスなどの関係で初値が相対的に大きく跳ね上がる傾向があることを踏まえると、上場後一定期間を経過した株価パフォーマンスも十分考慮に入れて議論すべき問題とも言えます。
また、2021年の市場を見るかぎり、IPO企業にマーケットが下した評価は、決して高くはないという現実もあります。
21年に上場した企業の初値の公開価格に対する上昇率(初値上昇率)の平均は56%で、アベノミクスが始まった2013年以降で最も低い水準にとどまっています。
これは、アベノミクス前である12年の49%以来の低い水準で、特に例年IPOラッシュとなる12月に上場した32社中、約4割を占める12社が公開価格割れとなりました。
一般的には米国の利上げ懸念などの影響で、12月のIPOラッシュ前後にマザーズ指数が年初来安値をつけるなど不振が続いたことから、投資家の投資余力が低下していたためと説明されますが、それだけではないかもしれません。
IPOを果たす企業は、未上場というマーケットでVCから評価され株式市場へと勝ち進んだ企業と言えますが、それでも上場後は投資家に厳しく選別されてこのような評価を下されてしまったわけです。
上場後の成長可能性が改めて問われており、企業は上場前にどれだけ種まきができるか、そしてそれをいかにうまく投資家に伝えられるかということが課題になっています。
現段階で公開価格のミスプライシングを防ぐには、主幹事の証券会社を複数とする共同主幹事で対応するといった策もありますが、上場前から機関投資家とのコミュニケーションを深め、ビジネスモデルや成長性、エクイティストーリーを伝えていく工夫も必要です。
いずれにしろ、公開価格についての問題の動向は、注視しておく必要があるでしょう。
――2022年以降、IPOの動向に変化はあるでしょうか?
22年のIPOは、社数としては前年をやや下回る110~120社程度を予想する声が多いようです。
コロナ禍が継続しており、先が読みにくい状況にあるため、上場日が上場申請事業年度の翌事業年度にずれこむ「期越え上場」も多くなりそうです。
一般的に上場日は、上場申請事業年度内に行うものですが、実際には上場申請事業年度の株主総会開催日前がタイムリミットで、3月決算企業の場合は4月から株主総会前の上場が期越え上場となります。
2021年の期越え上場社数は49社であり、全体の39%と前年の29%から更に10%ほど増加傾向にあります。
今後も同様な傾向は続くと想定され、「期越え上場に対応できる管理体制の構築」が重要になるでしょう。詳細については後編でお話させて頂きます。
また、大型の資金調達に成功する未上場企業が相次いでいることから、調達額、時価総額ともに規模が大きいIPOが登場しそうです。
業種としては、コロナ禍で追い風が吹くDX関連や人手不足解消につながる人材関連サービスが中心となるでしょう。
サステナビリティ関連ではデジタルヘルスケアやクリーンテックといった領域、宇宙関連やDeepTech(科学的発見や革新的技術を駆使してインパクトのある世の中の課題の解決に取り組んでいる企業)でも、上場の期待が寄せられる企業があります。
22年は、公的な後押しも期待できそうです。岸田文雄首相の年頭記者会見では22年をスタートアップ創出元年とした5カ年計画を策定し、公的出資も含めたリスクマネー供給を強化する方針を示しています。
また、所信表明演説でも上場ルールの見直しに言及しました。
ー前編はここまで、中編に続きます!
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