チームスピリット創業者が語る、コロナ時代におけるSaaSビジネスの可能性

チームスピリット創業者が語る、コロナ時代におけるSaaSビジネスの可能性

株式会社チームスピリット代表取締役社長 荻島浩司

記事更新日: 2021/04/30

執筆: 編集部

BtoB SaaS領域の事業を展開し注目を集めているチームスピリット。

創業者である荻島浩司氏に、株式会社チームスピリット立ち上げの経緯や、SaaS事業・サブスクリプション型ビジネスモデルの魅力を伺った。

プロフィール

荻島 浩司

1982年デザイン専門学校を卒業。同年デザイナーとしてデザイン事務所に就職。翌年プログラマーとしてソフトハウスに転職。その後、PCを使ったファイリングシステムを企画し、取締役事業部長としてネットワークソリューション事業部を統括。96年、チームスピリットの前身となる有限会社デジタルコーストを設立。インディペンデントコントラクターとして株式会社東芝および東芝ソリューション株式会社でプロデュースおよびコンサルティングに従事。2011年より、働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」を立ち上げ、SaaSビジネスに参入し、2018年8月には東証マザーズ市場に上場を果たした。

 

創業までの軌跡

創業のきっかけを教えてください

専門学校でグラフィックを学んで、デザイン事務所に1年間勤めていました。今から考えると、デザインではなくマーケティングに興味があったんですね。

そして、ソフトハウスにエンジニアとして入社。
当時は今と比べてブラックなのは当たり前で、納期に間に合わせるために残業がかなり多かったんです。「時間ではなくて創造性で結果を出していく必要性がある」と感じました。

エンジニアが、技術を売るのではなく労働時間を売っている。それに直面して、「エンジニアの置かれている現状を変えなければいけない」と強く思いました。
その後現在のチームスピリットの前身である、デジタルコーストを1996年11月に立ち上げました。

 

SaaSで自社開発を手掛ける

SaaSには、早い頃から注目をなさっていたそうですね

2007年頃に、自社サービスの立ち上げを考えSaaSビジネスへの参入を目指したのですが、大きな設備投資が必要なために断念しました。
しかし2008年ごろになると、パブリッククラウドという、従来のサーバー自体を自分たちで用意してデータセンターに設置する形式から、共有のサーバー資源を使ってそれぞれのお客様にサービスを提供する形式に代わって来たんですね。

そこで、2009年7月13日に当時パブリッククラウドの代表格だったSalesforceを訪ねて「パートナーになるにはどうしたら良いか?」と聞きに行ったんです。その相談の帰り際に「大きなイベントが9月15日にあるので出ませんか?」とお誘いを頂きました。

イベント出展には、早期割引制度があるのですが、その日が申し込みの最終日だったんです。そこで、プロダクトは何もなかったのですが、「出ます」と即答して。受託の仕事があったのですが、徹夜で展示会用のシステムを作りました

 

それはハードな経験ですね!

展示会に出したシステムは、ジャストアイディアで当然ではありますが、ビジネスに繋がりませんでした。
しかし、統計を使ったシステムなので、「人事評価に応用できる」と思いました。人事評価システムを構築するならデータが必要ということで、随分発想は飛ぶのですが、勤怠管理システムに行き着きました。当時も勤怠管理は山ほどパッケージがありましたが、私が使いたいものはありませんでした。

2010年というのは、Twitterが出始めた頃なんですが、個人向けのサービスはグラフィカルなUIで楽しいのに、企業向けの製品はどれも昔のマイクロソフト社のOSであるMS-DOSを彷彿とさせるようなデザインで使う気がしなかったんです。

そこで「ビジネス向けのサービスもコンシューマ向けのサービスと同様デザイン性を活かしたら受けるだろう」と考えて、Salesforceのプラットフォームを使ってUI/UXを重視した自社サービスを作りました。

 

どうして自社開発を志したのでしょうか?

2010年の頃は、受託が好調で儲かってはいたんです。それを辞めてどうなるかわからないものにシフトした訳です。
それには、受託のビジネスに感じた「お客様満足の限界」がありました。

受託の開発はシステムが大きくなるほど完成まで時間が掛かるので、提案時には最新であっても実際に動くのは2年後なので陳腐になっているんですよね。お客様としたら、初めて動いたのに2年も古い製品が来るわけです。
納品後にお客様の所に感想を聞きに行っても「もう来なくて良いよ」となるし、そもそも大きなシステムは7年とか使うので頻繁に作り替えることもありません。

しかしSaaSなら、その日から使える最新の製品を提供できるだけではなく、値段は変わらないのに定期的にバージョンアップされていくわけです。システム開発という作業は同じなのにお客様に提供出来る価値が根本的に違うんです。
更に、お客様に使った感想を直接エンジニアが聞くことが出来ます。色んな要望やフィードバックを、次の製品開発に活かせる訳です。受託とは全く逆なんです。

 

自社開発では、最初にどんなことに取り組みましたか?

受託開発といっても我々は下請けをしていたので、お客様と直接やり取りをする機会はありませんでした。けれども、製品を世の中に出すことになれば、直接お客様とやり取りが発生するする訳です。
その上勤怠管理というのは、給与計算のもとになる重要なもので、ミスがあるとクレームが発生して炎上につながる可能性もあります。

そこで、2010年5月に初めて出したクラウドの勤怠管理システムは無料で提供することにしました。無料で使える代わりに不具合などのご報告を頂く形にしたんです。
これにはとても大きな反響がありまして、数ヶ月で300社以上が利用してくれて。「これならビジネスになるかもしれない」と感じ2010年の12月にファイナンスの準備をして、エンジニアを5人から7人に増やして受託の仕事を辞めて、借り入れと手元資金で、自社開発に取り組みました。

 

そしてTeamSpiritが完成した訳ですね

2011年3月にTeamSpiritのβ版が完成したのですが、ちょうどその頃東日本大震災が起きました。震災の直後に提供を開始したのですが、ご想像の通り厳しい状況でした。

するとタイミング良く5月に、Salesforceが国内投資を発表して、6月に担当者が着任しました。最初の1社として担当者に会いに行き、10月にSalesforceから出資を受けることが出来ました。そこから、SaaSの専業業者にシフトしたんです。

 

TeamSpiritの魅力

TeamSpiritについて聞かせてください

TeamSpiritは、従来部門毎に行われていた、勤怠管理や工数管理、経費精算などの業務システムを一体化しています。勤怠管理で集計する働いている時間と工数管理を連携させないと次のような問題が起きます。
エンジニア稼働ベースで売り上げが発生する案件だとして、「1日8時間で20日間働いているけれども、それは虚偽の申請で、実はプロジェクト工数には月に300時間以上かかっていたので利益が出ません」ということがあり得るのです。稼働人工ベースで売上が決まるタイプの事業では1つのプロジェクトの中で、個別の損益を見る必要があります。

さらに例えると、国内で完結していて、利益が出ているプロジェクトと、一見同じように利益が出ているように見えても、実はメンバーの海外出張が発生していて出張費を入れると大幅にマイナスだったというプロジェクトでは評価が異なりますよね。
コンサルティング、システム開発、広告のようなプロジェクト系の事業の実態把握や分析には、共通のデータベースが必要です。


当時、このようなシステムはいわゆる大企業と呼ばれる上場企業が自前でERP(基幹システム)という人事・経理・総務などの情報管理を統合するシステムを開発していましたが、中堅企業は持っていなかったんですよね。
それをSaaSという形で提供しているのがTeamSpiritで、ERPのフロントウェアとしての役割を担っています。

 

TeamSpiritは、サブスクリプションを採用しているそうですが

TeamSpiritの特徴の1つに、「サブスクリプションモデル」があります。
受託だと、3,000社あったらそれぞれが別のシステムを作りますよね。しかし、サブスクリプションでは、1つのアプリケーション(シングルソース)を複数の企業が使います(マルチテナント)。
サブスクリプションなら、同一サービスを3,000社に使って貰うことが出来るので効率が良く、より良い製品を作れます。その上、月額利用料だけで使用できます。

1社あたり何億円とかかるシステム開発費がかからないで済みます。長期的に継続していただくことで、利用料が継続して積み上がっていくので、提供企業にとっては安定していて成長できるモデルです。

 

提供企業から見たサブスクリプションの魅力を教えていただけますか?

例えば、9月に100万円の受注をすると、我々のモデルは1年前払いなので1,200万円の入金があります。
売上は100万円ですが、1,100万円を前受け金として受け取れる訳です。その次の10月にまた100万受注したら、単月の売り上げは200万円、前受け金は9月の1社目が1,000万円で10月契約の2社目が1,100万円なので計2,100万円になります。
1年間頑張って月100万円の案件を月1件ずつ受注していった場合、売り上げは半分の年間7,800万円ですが、翌年の売り上げ1億4,400万円が確定しています。

このようにサブスクリプションなら、2年目以降の解約が膨らまないかぎり、前年までの売上は確定しており、一定の営業努力でも前年度の売り上げを必ず超えることが確定していて連続増収が可能です。

 

サブスクリプションには、デメリットもあるのでしょうか?

大変なところも勿論あって、100万円の売り上げをあげるために、我々開発会社は何億円も掛けて作っているわけですよね。1億円の受託受注であれば、納品さえすればその年度で利益が出せる訳です。
けれども、自社開発だと開発のみを行う年の利益はマイナスなので、ファイナンスで資金を確保しておくことが重要になります。

資金調達ですね。
自動車を作るなら工場が必要ですよね。SaaSは、多額の初期投資が必要なビジネスという感覚で取り組む必要があるのです。

 

コロナ禍がSaaS業界に及ぼした影響

コロナ禍による影響はありましたか?

弊社は、2011年の震災時に自社サービスを開始したこともあり、全ての社内システムがクラウドです。お客様から電話がかかってきても、交換機がクラウドなので自宅で電話を受けることが出来ます。事務所ゼロで運営出来るのが強みですね。
以前から週に1回は在宅で仕事をするようにしていたので、全員が在宅を経験して仕組みが整っていました。なので、会社の環境面で影響は受けていません。

 

コロナ禍を受けて、顧客のニーズはどう変化しましたか?

製品に目を向けると、SaaSの中でも我々の製品というのは、勤怠や工数、経費精算といった「働く人の報告業務」に使われるものです。そのため、コロナ禍でニーズが増えました。勿論、お客様の会社の業績が減って「IT投資が難しい」というマイナス面はあります。

しかし、ウィズコロナ、アフターコロナであっても、在宅勤務などの流れは変わらないので、お客様に求められることに変化はないでしょう。また、コロナの影響を受けていたお客様もIT投資が復活すると思うので、今後の先行きは「業界全体を含めて明るい」と考えています。
業界全体として、元々伸びる予測がありましたが、それがさらに早まると思います。

 

今後の展望

今後の展望についてお聞かせください

当社は現在、TeamSpritをあらゆる業務システムの入り口となる「ERPのフロントウェア」と定義づけていますが、近い将来は、人材の生産性や創造性を高める「EX(Employee Experience)を実現するERPのフロントウェア」にすることを目指していきます。


従来SaaSビジネスのお客様は、中小企業の割合の方が多いと思われていますが、我々のお客様にはカゴメや三菱地所に資生堂といった大企業も多くいらっしゃいます。「大手には売れない」と思われがちですが、実際には引き合いが多くあります。
イノベーションを創造させるERPのフロントウェアとしてより創造的な働き方を目指すお客様に価値を提供し続けていきたいと思っています。

 

最後に、SaaSに興味を持っている起業家へのメッセージをお願いします。

「DX」という言葉が流行していますよね。私は、「DXとは、新しい技術を使って既存のビジネスをサービス化すること」だと思っています。

従来は、車を作って売って、故障したら修理工場に持って行くのがサービスでした。しかし今は、車を所有しないで運転手付きでUberで移動しますよね。
TOYOTAも、車ではなくモビリティカンパニーを目指しています。サービスに変えていく訳です。

SaaSは、ソフトウェアではなく形がない「サービス」を売ります。ITも、プログラムではなくエンジニアの労働時間を売るものでしたが、使われる機能や期間に対してお金を払うようになりました。
SaaSは今後も必要とされるビジネスなので、どんどん取り組むべきだと思います。

 

ーーー丁寧にそして熱を持って沢山のお話を聞かせてくださった荻島氏。サブスクリプションやスタートアップ、そしてTeamSpiritに興味を持った方は、是非荻島氏の著書「サブスクリプションシフト DX時代の最強のビジネス戦略」をご一読ください。
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