株式会社ランチェスター 代表取締役 田代 健太郎
先日、3億円の資金調達を成功させた「株式会社ランチェスター」。
東急ハンズや米パタゴニアといった名だたる企業が利用し、モバイルアプリ開発からマーケティングまでもサポートするSaaS型アプリマーケティングプラットフォーム「MGRe(メグリ)」を手掛けている。
今回は、株式会社ランチェスターの代表である田代健太郎氏に取材し、2回の資金調達の実態や、資金調達を通しての後悔と学び、そしてこれから起業する人へのアドバイスをお聞きした。
プロフィール
株式会社ランチェスター 代表取締役 田代 健太郎
そもそも僕は、創業をする際に、資金調達についての知識が全くなかったんです。そのせいで「随分と遠回りをしてしまった」という実感を持っています。
会社の資金を外部から調達する場合、新株式や社債の発行、そして銀行などからの借入があります。新株発行で資金調達を行うことを「エクイティ・ファイナンス」と呼び、返済する必要のない資金を獲得することが出来ます。社債の発行や金融機関からの借り入れは、「デッド・ファイナンス」と呼ばれます。こちらは債務による資金調達であり、返済する必要があります。
「第三者割当増資」は、エクイティ・ファイナンスの中でも、新規発行した株式を特定の法人や個人といった第三者に引き受けてもらい資金を調達する方法です。
ランチェスターは、エクイティとデッドの両方で調達をしています。
まず、銀行は信用でお金を貸し、利子を付けて返す必要があります。銀行はあまりリスクは負わないので、返してくれる可能性が高いときにしか、融資をしてくれません。「返せる可能性が高い」という信用があるからこそ借りられるのです。
一方で「第三者割当増資」は、投資家に株式を買ってもらいます。株式を買ってもらうというのは、「未来の期待」に対してお金を預けてもらえることです。そのため、投資家の人はリスクを負うことになります。また、銀行が求めるリターンは元本の返済と数%の利子ですが、投資家の方は10倍や20倍のリターンを求めます。
こうした知識って、多くの方は知る機会がないですよね。僕も、資金調達を考えるようになってはじめて触れました。
いえ、2019年にプレシリーズAで資金調達をするまでは、銀行からの融資で経営をしてきました。ただ、融資と出資の違いをロジカルに理解していたわけではありません。
なんとなく、「成長性が高い事業は出資」、「そうでない場合は融資」という風に感覚的に思っていました。
実際、過去のP/L、B/S、特に利益で銀行は融資を決定することが多いのに対して、出資は成長率や将来性といった未来に対して投資をしてくれます。創業から10年は受託開発が事業の中心だったので、安定的ではありました。しかし、「成長性や将来性はあまり高くない」と思っていので、利益を出し続け融資での経営を続けてきました。
EAPをリリースした2017年に、外部顧問に入ってもらい、資本政策や投資家にピッチするための事業計画についてサポートしてもらいました。
2018年に何人か投資家の方にもお会いしたのですが、「今の状況であれば、デットでバリュエーション(時価総額)をあげた上でエクイティでの調達に切り替えたほうがいいよ」というアドバイスをいただきました。このバリエーション(時価総額)と調達額、創業者を含む経営者の持株比率をIPOやM&Aといったイグジットに至るまで「どのような比率にしたいか」などの計画を資本政策として整理するのですが、この辺りも適切な知識を持ち合わせている起業家は少ないのではないでしょうか。
当然僕もその1人でした。
そして、プロダクトもある程度かたちになり、投資家の方とも話をする準備が整ってきたので、2019年に改めてエクイティでの調達を再開しましました。
5~6社お会いした中で、ベンチャーキャピタル(VC)のXTech Venturesさんにお願いすることに決めたのは、共同創業者兼ジェネラルパートナーである手嶋浩己さんとの出会いです。手嶋さんは自分でも上場企業の経営経験があり、メルカリへの投資で成功するなど、経営者、投資家その両方で実績をあげている方です。知り合いの経営者が出資を受けていて、WEBサイト等をみてピンと来たので紹介してもらいまいした。
ピッチの時のアドバイスが的確で、「この人だったら今の僕らのステージでメンターとして適してるな」と直感的に感じ、こちらからプッシュしました。
これってすごく大切なポイントだと思っていて。フェーズごとに、必要なパートナーやリソースは変化していくんです。事業経験も投資経験もある手嶋さんが当時の僕らにはピッタリはまりました。
出資いただいたあとも、レスポンスが良く的確にアドバイスをいただいていますが、手嶋さんに聞くと、「えっそうだったっけ?」って。
本人は覚えてないんですよ。(笑)
2回目の資金調達を開始したのは、2020年の2月頃で、コロナ期の真っ只中でした(笑)。
そして2020年の11月に、3億円の資金調達をしました。XTech Venturesがアレンジをしてくれて、30社くらいとコミュニケーションを取ったでしょうか…。
凄い数ですよね(笑)。
グローバル・ブレインとニッセイ・キャピタルとは2月にコミュニケーションをとり始めました。ただ、コロナで一度ストップしました。「市況がわからない」って。状況が状況だっただけに事業計画を作り直して、GW前後から作戦を練り直したんです。
そしたら手島さんが、「こんなタイミングだからオンラインでしょ?行けるだけ行こうよ」と言い出して(笑)。
本来なら30社まわるのって大変だけど、「こんなタイミングだからオンラインだし、どうせみんな暇でしょ」って。
結局30社くらいとお話した結果、先にコミュニケーションを取っていた、グローバル・ブレインとニッセイ・キャピタル、そして既存株主のXTech Venturesの3社に決まったんです。
シリーズAでは、最終的に3社から3億円を調達しました。
シリーズAの活動自体は既存投資家のXTech Venturesが支援をしてくれましたが、リードキャピタルはグローバルブレインです。 ラウンジをけん引するVCのことを「リード・ベンチャーキャピタル」と呼ぶんですが、ラウンドの中でコミュニケーションを取りながらどこがリードになるかということが決まります。リード・ベンチャーキャピタルは、多くの株を引き受けるだけではなく条件面を優先的に決めることができます。
VCはさまざまな出資者から資金を集めてファンドを組成しています。独立系・政府系・金融機関系・コーポレートといった種類があり、それぞれ投資のスタンスが異なります。
それに、ラウンド毎に投資家が見るポイントもある程度決まっています。
シード期なら、創業者とアイディアでも出資がきまることもあります。もう少し進むと、「プロダクトがマーケットニーズにマッチしているのか」とか、その後は、「事業の成長速度や、組織が適切に構築されているか」など観点が変わってきます。
出資時には、出資額や条件面など細かな事項を取り決めて、各社と契約を締結します。しかし、これを3社と個別に調整すると大変手間がかかります。そのため、「もっとも出資額が多い投資家が優先的に条件を決め、他社はそれにあわせる」というやり方を一般的にとっています。
この、出資額がもっとも多く条件面を優先的に決める投資家のことを「リードインベスター」と呼びます。
こういう仕組みとか、ベンチャーキャピタル毎の方針とかも、30社に会ってはじめてわかることが多くて。
「体系立てて伝えてくれる人や書籍が欲しかったなぁ」って調達後にあらためて思いました。
僕がもう一度起業するなら、プロダクト、マーケティング、ファイナンスのそれぞれのスキルを持つ専門家と早い段階からチームをつくることを意識します。
プロダクトがなければ始まりませんが、プロダクトを生み出すためには資金が必要です。ジャストアイディアから生まれたプロダクトをマーケットにフィットさせるためには、多くの方とのコミュニケーションが必要です。
これらを一人でできる方もいるかもしれませんが、やはり自分の専門領域にフォーカスしてチームで成長することがベストではないかと、今になって思います。
特にファイナンスほど、「重要でありながら後回しになりがちなものはないなぁ」と自分の経験からも痛感しています。
今の自分たちに必要な資金量、資金の集め方、そして未来のカタチまで見越して、アクションをとれるファイナンスのプロがチームにいることで視座と成長速度がかわると思います。ぼくは経験がないのでわかりませんが、もしかするとこういう役割を起業家のエンジェル投資家の方々が担っているのかもしれませんね。
これから起業を考えている方や創業間もない方には、フルコミットでなくても構わないので「ファイナンスの専門家を迎えるべき」と伝えたいです。
2007年に起業し10年間は受託をやりながら、自社サービスの事業化を試行錯誤していました。2017年に「EAP(Engagement Application Platform)」というアプリパッケージをリリースしました。そして、2020年06月にはEAPの機能を受け継いでSaaS化した「MGRe (メグリ)」の提供を開始しました。
MGReの語源は、企業理念である「Make Good Relationship」の頭文字を取っています。同時にデータとコンテンツを循環させて顧客体験をつくるという意味も掛け合わせています。
アプリを中心に人、システム、チャネルといった企業資産をつなぎ、企業と顧客の心地よいコミュニケーションの実現を目指しています。
MGReでは「すべてのデータをよろこびの体験に」というビジョンを掲げており、アプリ内の行動データを全て蓄積しています。そのため、データをもとにセグメント配信や顧客分析ができます。
今後はマーケターの方が企画を立てる上での示唆を与えるとか、店舗スタッフが接客に使えるといった「意思決定を支援する機能のアップデート」を予定しています。
プロダクトが一定のかたちになり、ビジネスモデルも整ってきたので、事業成長にむけ組織づくりが重要になってきています。
現状はまだまだ個人の力量に頼っているので、オペレーションを整備して、組織として価値を出していくための型づくりが重要な時期になっています。状況に合わせて柔軟に対応しながら、型を作っていける方を募集しています。
株式会社ランチェスターHP:https://www.lanches.co.jp/
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