労働人口の減少が見込まれる日本にとって、企業の競争力アップに有益とされるのが「アウトソーシング」です。
アウトソーシングを活用することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
アウトソーシングの概要や種類、活用のポイントを紹介します。また、アウトソーシングと混同されがちなものとして「派遣社員」があります。
派遣とアウトソーシングの違いについても詳しく見てみましょう。
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業務効率化や組織のスリム化を図るため、業務の一部をアウトソーシングに頼る企業も増えていますが、アウトソーシングとはいったいどのようなものなのでしょうか。
アウトソーシング(outsourcing)=外部からの資源調達
アウトソーシングとは、「外部」を意味する「アウト(out)」と「資源利用」を意味する「ソーシング(sourcing)」を組み合わせた和製英語です。
ただし、一般的に「アウトソーシング」というとき、その対象は「人やサービス」です。
外部から企業活動に必要な人やサービスを調達するという経営手法を選択した場合、これがアウトソーシングと呼ばれます。
アウトソーシングの範疇はさまざまですが、基本的には「企業外」に委託するものはすべてアウトソーシングです。
例えば企業が子会社や関連会社、グループ企業に業務を委託した場合なども、アウトソーシングに含められます。
現代は技術の進歩やトレンドの変化が目覚ましく、企業がグローバルに活動していくには「スピード感」が不可欠です。
企業内のリソースだけでは不足となる場面が頻出し、企業の多くは外部のリソースを活用して競争力を高めています。
加えて日本企業にとって避けられないのが、将来的な労働人口の減少です。
これから先も変わらずに高い生産性を維持するためには、必要な人的リソースを調達するためのさまざまな手段を保持しておかねばなりません。
政府主導の「働き方改革」でも、このような「業務効率化」や「多様な労働形態の活用」は推奨されています。
現在の世相を反映し、アウトソーシングの形態の一つ「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」の市場規模は、年々拡大中です。
2018年には7,691億円だった市場規模は、23年には9,147億円に達する見込み。これを年間平均成長率に換算すると3.5%という高い数値になります。
(国内ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービス市場予測:IDC Japan 株式会社調べ)
インソーシング(insourcing)=業務を内部で行うこと、内製化
「インソーシング」とは業務の内部化、内製化を指す言葉です。通常の場合、アウトソーシングに任せていたものを内部業務として取り戻すことを指します。
アウトソーシングは企業経営の効率化や質の高い人材・サービスの確保を目指す企業にとって有益です。
しかし一方で、「すでに効率的な組織が確立されている」「人材育成のための資金が潤沢にある」「人的資源も豊富」といった企業なら、わざわざ業務を外部に委託する必要はありません。
社内で取り組めばそのぶん技術やスキルは残りますし、契約などの手間がかからないというメリットもあります。
アウトソーシングに不向きな分野もあり、すべての業務がアウトソーシングに適しているというわけではありません。
アウトソーシングには、以下のような種類があります。
種類 | 特徴 | 代表事例 |
BPO |
・業務プロセスの一部を一括して外部に委託する |
人事・総務・経理・情報システムなどの間接業務や物流業務、製造業務など |
ITO |
・IT分野にかかわる業務の外注 |
システムの日常的な運用・管理や監視、ユーザーサポート |
KPO |
・情報の分析を中心とした知的業務を外注すること。 |
データの収集・加工、分析など |
BPO(business process outsourcing)では、対象業務の企画から設計、実施までが一括して外部委託されます。
委託先にはある程度の裁量が認められており、受託側の自由度が高い手法です。
またITO(Information Technology Outsourcing)はデジタル領域に関する業務を外注するときに使われる言葉です。
特にIT系は人材が不足しているため、高い専門性を持つ外部の企業に業務を任せるケースが多くなっています。
一方、KPO(knowledge process outsourcing)は複雑かつ高度な知的作業の外注です。
「受注企業は規則性が少ない」「判断領域が多い」といった作業は、手間と時間がかかる割にはマニュアル化しにくく、自社でも扱いにくいもの。KPOではこうした知的業務を担当します。
KPOの需要は世界的に高まっていますが、企業の多くはインドに集中しているのが現状です。これは低賃金で高学歴かつ優秀な人材を確保しやすいためといわれています。
先述したとおり、すべての業務がアウトソーシングに向いているというわけではありません。
それでは企業が一つの業務の遂行について考えるとき、どのような点から「アウトソーシングか、インソーシングか」を判断すればよいのでしょうか。
アウトソーシングかインソーシングかの決め手となるポイントを紹介します。
企業がそれによって利益を得ている、いわゆる「コア業務」はアウトソーシングすべきではありません。
内部できちんと体制を作り、集中して業務に取り組むべきです。企業として経験を積めば、貴重なノウハウや知識も蓄積されていきます。
一方、利益と関係のない「ノンコア業務」についてはアウトソーシングでよいでしょう。
データ入力や一般事務作業など、高度な経営的判断が不要なものは外部委託することが、企業全体の効率化につながります。
人手が不足するのが年末年始だけ、月末だけ、といった業務はアウトソーシングに向いています。企業としては、一定期間のためだけに人員を常駐させておくのは無駄でしょう。
必要なとき、必要なタイミングでアウトソーシングを取り入れるのがベターです。
SEO施策や、SNSなどへの対応といったような、細やかかつスピードを持って対処すべき業務はアウトソーシングに向いています。
特に非IT系企業の場合、専門スキルを持つ人材が不足しているケースは多々あります。自社で無理に対応しようとすると、サービスや製品が陳腐化するおそれがあるのです。
IT事案は専門性が高い上、めまぐるしいトレンドについていく必要があります。一部をアウトソーシングで切り出すことで、顧客に質の高いサービスを提供することが可能となります。
上手に使えば企業にとってはメリットの大きいアウトソーシング。しかし、アウトソーシングにもデメリットがないわけではありません。
アウトソーシングを検討しているなら、まずはそれによりどんなメリットやデメリットがあるのか知っておくべきでしょう。
アウトソーシングのメリット・デメリットを簡単に紹介します。
コア業務以外を外注すれば、そのぶんの人件費や社員教育費をカットできます。
とくにベンチャー企業や新規企業の場合「中心業務ではないところに人手や資金を回すのはもったいない」というケースは少なくありません。
経理や庶務作業のみの社員を常駐させておくよりは、アウトソーシングに丸投げした方が余計なコストをカットできます。
アウトソーシングの場合、どの企業あるいは個人を選択するかは自由に決められます。そのため、高い専門性やスキルを持つ相手と業務委託契約を結ぶことも可能です。
適切な相手さえ選べば、業務の質がアップすることはもちろん、効率やスピードアップも期待できます。自社社員を育てるよりも手っ取り早く、満足のいく結果を得られるでしょう。
「業務の一部を委託する」のですから、アウトソーシングには常に情報漏洩リスクが伴います。委託する際は、企業や個人のセキュリティ意識や対策についてきちんと確認しておく必要があるでしょう。
情報に関するリスクとしては情報漏洩のほか、情報が書き換えられる「改ざん」のリスク、情報紛失によって自社の経営が持続できなくなるリスクなどが考えられます。
また、委託先が海外の場合は、文化や言語の違いによるミスもリスクとなります。特にセキュリティに関する意識には、文化の差が大きく現れがち。
日本と同様のセキュリティを求めるのが困難なケースもあります。
海外に委託する場合は、その国の実情に詳しい専門家の意見を聞くなどすることが必要です。
外注した業務については、企業としての経験や知識を得られません。これはある意味、企業の成長チャンスを逃しているともいえるでしょう。
また、特定の企業にアウトソーシングすると、企業の手を完全に離れてしまうおそれもあります。万が一トラブルが発生した際は自社での対応が難しく、手間がかかるかもしれません。
また、外注企業が倒産などした場合、必要なデータやノウハウが失われる可能性があります。この場合、企業活動が停止したり貴重な機会を失ったりと大きな損害を被ります。
更に詳しくアウトソーシングのメリット・デメリットについて更に詳しく知りたい人は下記記事を参考にしてください!
派遣は「外部の人的リソースを活用する」という点でアウトソーシングと似ています。しかし両者の形態は、実際のところ全く別物といって過言ではありません。
派遣とアウトソーシングの違いについて見てみましょう。
アウトソーシングでは、業務の一部が切り出され、アウトソーサーに委託されます。
企業が求めるのはあくまでも「成果物」であるため、アウトソーサーの仕事の進捗や計画については基本的にお任せとなります。
一方、派遣とは、必要な業務に適した人を人材派遣会社から紹介してもらい、その業務に充てる仕組みです。
派遣社員にとって企業は「派遣先」という位置づけになりますから、企業から直接指揮や指導を受けて働くこととなります。
両者を比較すると、業務そのものを外部に任せるのか、業務に人員を充てるのか、という違いがあります。
アウトソーシングと派遣を比較したとき、その違いがよく分かるのが契約形態の違いです。
一般的に、アウトソーシングでは「請負契約」または「準委任契約」が結ばれます。
業務を委託する企業と受託する側はあくまでも対等の立場であり、受託側が使役・指導を受けることはありません。また、業務の詳細については、契約書の内容に準じます。
契約書では業務範囲、業務内容、納期、違約があった場合の対応、報酬などについて詳細に定められており、双方がこれを遵守する義務があります。
一方、派遣社員を雇う場合は、企業と外部の派遣企業が「労働派遣契約」を結びます。
これにより企業は適性のある社員を派遣してもらい、自社の指導・管理のもと業務を遂行してもらうのです。
ただしこのとき、企業と派遣社員の間には「雇用関係」が存在しません。そのため、企業が派遣社員を異動させたり昇級させたりなどすることは禁じられています。
両者のあり方で決定的に異なるのは、企業は外注先の企業に対し指導・管理の権限がないのに対し、派遣社員にはあるという点です。
似ているように見えますが、雇用の観点から見ると両者は大きく異なるといえます。
特定の業務について「アウトソーシングか派遣か」を検討する際、重要なポイントは以下のとおりです。
自社に独自のノウハウがあり、指示・管理無しでは遂行できない業務は、派遣社員の方が向いています。その場で細かい指示を与えられるため、全体の様子を見ながら進捗を管理できます。
一方、イレギュラーなことが発生しにくく、ルーティンと化した業務についてはアウトソーシングがよいでしょう。データ入力などは継続的に発生するものの、コア業務とはよべません。
マニュアルなどきちんと作成しておけば外部企業に丸投げしてもさほど問題はありません。
このほか、すぐに一定スキルの人員が必要になったときなども派遣社員の活用がベターです。
必要な場所に必要な人員を配置できるので、無駄がありません。細かい事案に対しても対応しやすく、逐次人的リソースを補強できます。
アウトソーシングは、労働人口の減少が見込まれる日本において、労働力の不足を補う労働形態として注目されています。
とくに日本ではIT技術者が少なく、IT分野でのアウトソーシングはすでに当たり前のものとなっています。
中小企業やベンチャー企業が成長を目指すとき、業務の効率化や組織のスリム化は大きな課題です。適切にアウトソーシングを組み込めれば、少ないリソースで大きな成果を得られるでしょう。
また、人的リソースを確保する手段としては、派遣社員を活用する方法もあります。ただし業務契約や労働形態はそれぞれ異なりますから、導入の際は適材適所をじっくりと検討してください。
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