年末調整とは、給与から天引きされている源泉所得税を精算する作業です。
処理を担当する事務方にとって、年末年始の繁忙期に煩雑な処理をミスなく短時間で仕上げなければならず、頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか。
今回は、事務的負担を軽減する方法の1つとして「年末調整のアウトソーシング(代行)」について解説するとともに、専門業者の業務内容や費用を比較・紹介します。
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年末調整は毎年の年度末に従業員の給与や賞与から「概算」で天引きした源泉所得税を再計算し、生じた差額分を精算する作業です。
年末調整による源泉所得税の精算をしなければならないのは給与を支給する会社であり、税務署に納付する義務を負います。
個人事業主であっても、従業員を雇っていれば年末調整を行わなければいけません。
具体的にどのように再計算するのか、大まかな業務の流れは以下のとおりです。
・従業員に申告書類を配布・必要事項を記載の上、回収(扶養控除等申告書、保険控除申告書、配偶者特別控除申告書)
・申告書類の記載内容及び添付資料のチェック
・年末調整控除データの作成(扶養データ、保険料データ)
・年税額の再計算および過不足税額資料作成
1.年間の給与所得(給与、賞与、前職分の源泉徴収票など)を合計
2.合計額から「給与所得控除」を差し引く
3.給与所得控除後の金額から「扶養控除」「生命保険料控除」など各種控除を差し引く
4.各種控除を差し引いた「課税所得」に所得税率を乗じ、年税額を算出
5.年税額から「住宅借入金等特別控除」を差し引く
・源泉徴収簿作成
・源泉徴収票の作成
・源泉所得税の納付
・法定調書合計表作成・税務署へ送付
・給与支払報告書作成・各市区町村へ送付
源泉所得税を納める従業員は「扶養控除等申告書」や「保険料控除等申告書」など所定の書類を提出すれば、あとは会社が事務手続きをしてくれますので難しく考える必要はありません。
しかし、書類を受け取った事務方は専門的な税務に関する知識が求められます。
具体的な例をいくつかあげてみましょう。
・年間の支給額を集計する際に対象となるのは発生月なのか支払月なのか?
・配偶者の所得金額を計算する方法は?
・年少扶養とは何か?税額計算への影響は?
・年内に亡くなられた親族は扶養につけていいのか?
・家族が支払った国民年金を社会保険料控除してよいか?
など。
給与計算の基礎知識はもちろん、確定申告が必要かどうかの判断や年末調整特有の税務判断をしなければならない局面も多く、正確で幅広い知識がなければ年税額を計算することはできません。
また、従業員は年末調整についての正しい知識を持っているとは限りませんので、扶養控除等申告書などの記載が必ずしも合っているという保証はありません。
書類をチェックする際に不正確な部分や記載漏れなどを発見し、本人からのヒアリングを行って正しい答えを導く…といったスキルも要求されます。
このような複雑な作業を年末年始の繁忙期に終らせなければなりませんので、従業員が少人数であったとしても事務的な負担は大きなものです。
毎年必ずしなければならない年末調整に、頭を悩ませている方は多いのではないでしょうか?
年末調整の事務的な負担を軽減する方法として「年末調整のアウトソーシング」があります。
年末調整のアウトソーシングとは、年末調整にかかる税額計算や書類の作成などの業務を外部の業者に委託するという形です。
具体的には、
・申請書のチェック
・データ作成
・源泉徴収票の作成
・支払報告書の作成
など。
委託先は税理士や専門業者とあり、業務内容はそれぞれ違います。
事務的な負担の軽減他、年末調整をアウトソーシングすることのメリットをあげてみましょう。
アウトソーシングを利用すれば当然コストはかかります。
しかし、年末調整のためにかかる事務方の残業代や追加人員の雇用など、人件費の方が上回ってしまうこともあります。
また、申告が遅れて不納不加算税や延滞税などのペナルティが発生してしまうかもしれません。
結果的に、アウトソーシングした方がコストの削減に繋がる可能性があります。
複雑な計算と専門知識が必要なことに加え、税制改正の影響を受けることが多く、常に最新の税法に対処しなくてはいけません。
専門家であれば、計算のミスもなく法改正にも対応してもらえます。
経理のミスは会社の信用に直結することが大きいため、軽視することはできません。
委託先を選定するにあたって、1つ注意しなければならないのが「税理士資格を有する業者であるか」という点です。
年末調整により源泉所得税を確定させる行為や書類の作成を代行する行為は、税理士の独占業務であり、無資格でこれを受託すれば税理士法違反となります。
よって、税理士、または税理士が所属する専門業者、それ以外の専門業者など、委託先により業務内容や費用も違ってきます。
費用だけでいうならば、基本料金+従業員人数に応じた人員加算されるケースが多く、専門業者の方が税理士に依頼するよりやや低めで、給与計算とほぼ同額というのが相場です。
30万人の処理実績をもつ、国内トップクラスの給与計算代行のエコミック。
年末調整だけのアウトソーシングサービスも行っています。
給与計算の実績に基づいたオリジナルの「申告用紙」「添付書類台紙」を使用することで、記載、添付不備などの問題を最小限に抑えています。
業務内容は以下のとおり。
会社は従業員情報と、従業員から記載してもらった必要書類をエコミックへ送付。
煩わしい書類のチェックや個別対応を代行してくれるので、あとは会社で年末調整計算をするだけです。
費用は一人あたり750円と低価格で、申告書の発注枚数によりさらに安くなる場合があります。多くの従業員を抱える大企業に適したサービス内容です。
また、クラウドを取り入れた年末調整システム「簡単年調」も提供していますので、そちらも合わせて検討してみてはいかがでしょうか?
㈱アックスコンサルティングが運営する「ピタット給与」の特徴は、導入と手間とコストを抑えたカスタマイズ型のアウトソーシングです。
新しいソフトやシステムの導入をすることなく、そのままの処理方法を引き継ぐことができます。
業務内容は以下のとおり。
先にあげたエコミックと比較すると、書類の不明事項は自社で従業員に確認しなければいけませんが、年末調整計算・各市町村へ給与支払報告書の送付まで行ってくれます。
従業員数がそれほど多くない、中小企業に適したサービス内容です。
税理士や公認会計士、社会保険労務士や行政書士、FPが在籍し、約7割りが女性スタッフできめ細やかなサービスを行っている「YFPクレア」。
従業員数1名から400名まで対応。
エリアは新宿・浦和・横浜・千葉となっていますが、電話で確認できる範囲の業務であれば全国対応してくれます。
業務内容は以下のとおり。
1. YFPクレアから年末調整関連書類が会社に届く
2. 会社が従業員に年末調整関連書類を配布・回収しYFPクレアに提出
3. YFPクレアで書類を確認
4. YFPクレアで年末調整計算、計算後に過不足税額(還付・徴収)をPDFにて提出
5. YFPクレアで源泉徴収票の発行・給与支払報告書の電子申告
提出した書類に不備があった場合は連絡がきますが、確認はYFPクレアの方でしてくれるので、実質、会社は従業員に書類を配布・回収するだけです。
費用は以下のとおり。
給与計算アウトソーシングサービスを申し込んでいれば基本料金が無料となっています。
IT活用×運用仕様で、業務効率化とミスの出ないサービスを提供しているのが特徴の「エムザス」。
年末調整のスポット業務は「Web年末調整サービス」を提供しています。
これは、従業員自らがWeb上で申告書情報を入力し、証明書類はスマートフォンで撮った写真をアップロード。
写真画像から、エムザスが申告書を作成してくれます。
従業員の問い合わせに対してもエムザスが対応してくれますので、会社は問い合わせはもちろん、紙書類からも解放されます。
業務内容は以下のとおり。
年末調整計算は会社で行わなければいけませんが、ペーパーレスはこれからの時代に必要となってくるサービスではないでしょうか?
税理士紹介会社㈱ウェブゼイムジャパンが運営する「ウェブゼイム」では、年末調整代行(アウトソーシング)を格安でサービス。
業務内容は以下のとおり。
中小企業の法人・個人事業主・税理士事務所・会計事務所・税理士法人・社会保険労務士事務所等の士業者の方や給与計算代行業者からの依頼(業務委託として年末調整代行・アウトソーシング・外部委託)も幅広く対応しています(全国対応)
費用は以下のとおり。
年末調整には税法を熟知し、経験が豊富な事務方が不可欠です。自社での処理を繰り返していけばスキルは自ずと上がるものです。
しかし、完全にアウトソーシングしてしまうことで、企業内に年末調整に対するノウハウを持つ人材が育たないため、結果として外部企業に委託し続けなければならず、コストが固定化するといったデメリットもあります。
会社にとって何が必要なのか?将来的な事務のあり方も見据えたうえで、アウトソーシングを検討されてはいかがでしょうか。
画像出典元:o-dan