2020年、ついに5G(第5世代移動通信)の商用サービスがスタートします。これに伴い、注目を集めるのが「エッジコンピューティング」です。
5Gを最大限活用するには不可欠な技術といわれますが、実際にはどのようなものなのでしょうか。
エッジコンピューティングの意味や概要、注目される背景を紹介します。メリット・デメリットや課題、事例も紹介するので、併せて確認してください。
このページの目次
新たな時代の技術として注目されている「エッジコンピューティング」。クラウドコンピューティングの問題点を補うといわれますが、実際にはどのようなものなのでしょうか。
エッジコンピューティングの意味や普及の背景を紹介します。
出典:総務省「「将来のネットワークインフラに関する研究会」報告書 概要
エッジコンピューティングとは、情報処理や配信などを情報発生源に近い場所で行うアーキテクチャ機能のことです。
デバイスそのものに処理機能を持たせる場合もあれば、データを一時的に集約するIoT(モノのインターネット)ゲートウェイを使用する場合もあります。
情報処理において、ネットワークの中心に位置するのは、情報集約場所であるデータセンターやサーバーなどです。
これに対し、情報発生源は「エッジ(端)」となります。それゆえ、「エッジ」で情報処理を行うアーキテクチャは「エッジコンピューティング」とよばれるのです。
通常、IoTやユーザーから集めたデータは、オンプレミスやクラウドサーバーなどに送信して処理・管理されるのが一般的です。
ところがエッジコンピューティングでは、IoT器機そのものやユーザーに近い場所に置いたサーバーなど、つまりネットワークの「エッジ」にデータ処理を任せます。
「情報発生源に近いエッジ側ができうる限りの処理を行い、クラウド側に送る」
↓
「前処理済のデータを受け取ったクラウド側は、クラウド側でしかできない処理を行う」
これがエッジコンピューティングの流れです。情報処理の役割を分担して行っているといえるため、エッジコンピューティングは「分散処理型」の技法です。
エッジコンピューティングというアーキテクチャが注目を集めているのは、クラウドコンピューティングの問題点や課題解決に有益と考えられるためです。
すべてのモノがインターネットにつながるのが当たり前となった昨今、IoT器機などから生み出されるデータ量は膨大なものとなっています。
すべてを一括でクラウドサーバーに送って処理・管理するのは難しく、不要な情報にリソースが奪われてしまう可能性もあるでしょう。
ところがサーバーに情報を送信する前にエッジ側で情報処理を施しておけば、リソースが無駄に奪われるのを防げます。
情報処理や加工にかかる時間も軽減され、クラウド側への一方的な負荷は軽減されるのです。
情報ネットワークの末端で情報を選別する「エッジコンピューティング」を採用することで、クラウドサーバーを効率良く活用できるようになります。
エッジコンピューティングを採用すると、クラウドサーバーへの負担や負荷を軽減できるメリットがあります。具体的にはどのようなことなのか、みてみましょう。
エッジコンピューティングを採用すると、データ処理をより高速に行えるようになります。
出典:総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)
左側がクラウドコンピューティング、右側がエッジコンピューティングです。
端末からネットワークを介してクラウドサーバーへデータを送信した場合、クラウドコンピューティングでは往復の転送に数100msかかります。
ところがエッジコンピューティングを採用して分散処理を行った場合は、わずか数msです。
IoTが普及していくなか、リアルタイムでの情報処理が求められるシーンは増えています。
データ処理にかかるわずかなタイムラグが、ユーザーにストレスを与えたり不便を感じさせたりするかもしれません。
エッジコンピューティングによりユーザー側に近い場所に処理機能を置くことで、情報のリアルタイム性が確保できれば、それは大きなメリットといえます。
エッジ側で情報処理を行えば、個人情報や秘匿すべき企業情報などをあえてネットワークに乗せずにすみます。これにより情報漏えいリスクが軽減され、情報管理が容易になります。
たとえば、セキュリティカメラを設置してデータを取っている場合、カメラに映る無関係の個人画像までクラウドに送る必要はありません。
エッジ側で必要な情報のみをピックアップしたり、データを数値化したりなどしてクラウドに送ればよいのです。
エッジ側と中央側での通信量や、やり取りが少なくなれば、そのぶんセキュリティリスクも軽減されます。
発生したすべてのデータをクラウドで処理する場合、データ通信量は膨大なものとなります。
各端末からアクセスが集中すれば、通信経路においてデータの渋滞は避けられません。端末とのやり取りに遅延が生じるほか、クラウドサービス自体に障害が発生する可能性もあるでしょう。
ところが事前にエッジ側で情報の整理・ふるい落としをしておけば、データの集中は低減されます。トラフィックの混雑が起こるリスクは減り、通信の安定化・最適化が可能となるのです。
また、データ送信には転送料金が発生します。データ量が膨大なら、高額な転送料金を支払わねばなりません。
しかし、エッジ側でデータをふるいにかければ転送量が減り、転送コストを抑えることにもつながります。
クラウドサーバーに情報を集約させると、サーバーダウンした場合の被害は甚大です。
企業は重要なビジネスチャンスを逃すリスクがあるほか、復旧までは必要なデータを引き出すこともできません。
ユーザーには多大な不便を科すこととなり、企業としての信頼を失うケースもあるでしょう。
このような場合、エッジ側でコンピューティング環境が構築されていれば、一切の機能が止まってしまうのを防げます。
サーバーが復旧するまでの時間を稼ぐことができ、被害を軽度に留めることができるのです。
将来のネットワークインフラを支える機能として注目されるエッジコンピューティングですが、デメリットや課題も少なからずあります。
どのような点がマイナスと考えられるのか、具体的にみてみましょう。
前述のとおり、エッジコンピューティングではエッジで受け取った情報を処理・加工し、重要度の高いデータのみをクラウドへ送ります。
このとき不要な情報はすべて消失してしまうわけですが、これが実は「必要な情報」だったという可能性もあります。
データを選別せずにクラウドに送れば、このようなデータ消失のリスクはありません。
クラウドの効率的な利用に有益なはずの「情報のふるい落とし」も、ときにデータ消失リスクをはらんでいるのです。
エッジコンピューティングを可能とするデバイスやゲートウェイには、高いCPU性能とメモリ容量が求められます。
また、受信したデータの加工・分析・選別を行うためには、プログラムやデータベースの開発も必要です。
自社で行うにしろベンダーに委託するにせよ、高額なコストが必要なことは覚悟しておかねばなりません。
「受信したデータを送信するのみ」のクラウドコンピューティングと比較すると、エッジコンピューティング導入のハードルは高いといえるでしょう。
また、情報拠点が増えるということは、保守・管理する場所が増えるということでもあります。
エッジコンピューティングの導入を検討する際は、導入コストだけではなく運用コストの負担も考慮しておかねばなりません。
ユーザーのニーズが多様化・高度化している今、電気通信事業以外の事業でも自由なネットワークリソースの活用が必須となってきています。
高度なネットワーク制御を可能とするエッジコンピューティングはさまざまな場所で活用されていますが、実際にどのような事例があるのでしょうか。
エッジコンピューティングの導入事例を3つ紹介します。
自動走行サービスは、すべての車をネットワークにつなげ、安定した自動走行を目指すものです。
渋滞の緩和や交通事故の減少などが期待できるほか、運転手は面倒な運転操作から解放されるというメリットがあります。
しかし、この技術では膨大な情報の処理とタイムラグのない通信環境が必須です。
情報のやりとりがわずかに遅れただけでも事故につながる可能性があり、データ量の多さによる遅延は許されません。
こうした問題点を解決する手段のひとつとして、クラウドの負担を軽減できるエッジコンピューティングの活用は不可欠といわれます。
自動運転技術をより高度に発展させていくため、エッジコンピューティングの研究・開発も進められています。
気象予測システムでは、予測シミレーションモデルで気象予測を行います。
これにより、地球規模の広範囲から都市や街といった小さな範囲までの予測計算を高速かつ高精度で行うことが可能です。
近年は気象予測もさらにパーソナルなものとなり、ここにエッジコンピューティング技術が使われています。
たとえば、気象予測と個人のデータを併せて、個々におすすめの行楽情報を提供したり、もしもの時の安全な避難経路を提示したりなどです。
人物行動分析サービスは、小売店などに来店した人をチェックし、購買行動データを分析するサービスです。
このシステムでは、店舗に設置されたカメラ映像をエッジ側のシステムに取り込みます。画像データの解析・検証はエッジ側で行うため、クラウド側が受け取るのは人物座標など加工済みのデータのみ。
容量をくいがちな画像データそのものは転送されないことがほとんどです。
クラウドはこのデータをもとに、個人の購買行動を分析。結果はクラウド上に提示されるため、店舗のマーケティング担当者は来店者の購買行動を容易に把握することができます。
エッジコンピューティングは、端末側で情報のより分けをし、必要な情報のみをクラウドに送信する分散処理型のアーキテクチャです。
うまく活用することによりネットワークの遅延や障害を防ぎ、リアルタイム性を確保できるなどのメリットがあります。
5G時代が始まろうとしている今、膨大な量のデータをどう扱うかは重要な問題です。
通信回線の負荷や渋滞を軽減するため、エッジコンピューティングの必要性はさらに高まっていくでしょう。
自動運転技術や気象予測システムなど、エッジコンピューティングが重要な役割を果たす場面は少なくありません。
導入や運用のコストなどの課題はありますが、これからのビジネスを考えていく上で、エッジコンピューティングへの理解を深めることは重要かつ有益です。
画像出典元:Pixabay
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