3つの手順で解る!損益分岐点の計算方法と分析・改善策を解説

3つの手順で解る!損益分岐点の計算方法と分析・改善策を解説

記事更新日: 2021/04/14

執筆: 奥谷佳子

法人個人を問わず「頑張っているのに利益が出ない」という悩みを抱えている経営者は意外と多くいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで、経営のどこに原因があり利益が出ないか?を分析するために、よく使用されるのが損益分岐点です。

今回は「言葉として耳にしたことはあるけれど、そもそも損益分岐点ってなに?」「どんな計算で会社の何が分かるの?」という疑問をお持ちの方に、損益分岐点についてと、3つの手順でできる損益分岐点の計算方法、計算結果から分析できる会社の実情と改善策について解説していきます。

損益分岐点とは?

損益分岐点は会社の健康診断

損益分岐点とは、利益(もうけ)がマイナス(赤字)にもプラス(黒字)にもならないプラマイゼロとなる売上高をさします。

売上○○円なら「損益トントン」「赤黒トントン」、なんて言っていたりするのを聞いたことがあるのではないでしょうか?

この利益(もうけ)の計算式をシンプルに表すと、以下のようになります。

売上-経費=決算書上の利益

赤字企業というのは、上記の「決算書上の利益」がマイナスとなる訳ですが、その理由はいたってシンプルです。

“経費”を使ってモノやサービスを“売って”“利益”を出すというやり方のどこかに、欠陥を抱えているからです。

損益分岐点は、利益が出ない原因を分析する指標の一つであり、経営状況が適正かどうかを診断する「会社の健康診断」のようなものです。

損益分岐点を理解して正しく計算しない限り、黒字経営への転換は非常に困難なものとなるでしょう。

損益分岐点を知るには経費の構成を知る!

損益分岐点を理解するには、先に表した利益の計算式にあります経費をもう少し細分化して捉える必要があります。

売上-経費(変動費+固定費)=決算書上の利益

経費は変動費と固定費によって構成されています。

変動費

変動費とは売上高に比例して増加する経費のことです。

物品販売業を例にすると「売上高」を増加させるためには「仕入高」を増やさなければなりませんし、販売する商品の量が増えれば「運賃」や「販売手数料」なども増加します。

売上高に比例して増加するこれら経費のグループを変動費と呼びます。

また、売上高から変動費を引いた利益を「限界利益」「粗利益」と言います。

売上高-変動費=利益(限界利益)

 

固定費

固定費とは売上高に関わらず定額で発生する経費のことです。

「地代家賃」や「固定給の人件費」「リース料」「保険料」など、売上高の増減に影響されず、毎月一定金額かかる経費のグループを固定費と呼びます。

上記の利益(限界利益)から固定費を引いた利益が決算書上の利益となるわけです。

利益(限界利益)-固定費=決算書上の利益

損益分岐点の計算は、自社で発生する経費が「変動費」「固定費」いずれに該当するかをグルーピングするところから始めます。

具体的には、決算書の経費項目(仕入高、一般管理費、支払利息など)から売上高に比例する勘定科目を抜き出し変動費とし、それ以外の経費は全て固定費としてみます。

損益分岐点の計算方法

例示を使用して実際に損益分岐点を計算し、結果を元に経営が赤字になる原因と改善策について解説をしていきます。

【例示】

売上高1,000万円、変動費600万円、固定費800万円の赤字企業

式で表すと以下のとおり。

(売上高)1,000万円-(変動費)600万円-(固定費)800万円=(決算上の利益)▲400万円

手順はたったの3つです!

手順1. 「変動費率」「利益率」を求める

最初に着目するのが(売上高)-(変動費)の部分です。

前述のとおり、変動費とは売上高に比例して増加する経費であり、言い方をかえれば売上高に対する変動費の割合=「変動費率」は常に一定ということになります。

そして、売上に対する利益の割合が「利益率」です。

計算結果は以下のようになります。

1,000万円-600万円=400万円(利益または限界利益)

(変動費率)

600万円÷1,000万円=60%

(利益率)

400万円÷1,000万円=40%

仮に売上高が2,000万円になれば、変動費率は60%ですので、

2,000万円×60%=1,200万円

売上高2,000万円から変動費1,200万円を差し引いた800万円が利益になります。

手順2. 固定費を割り算して損益分岐点の売上高を求める

手順1. で求めた利益率で固定費を割り算します。

これにより分析できるのが「プラマイゼロ」になる売上高=「損益分岐点の売上高」がいくらなのか?ということです。

 計算結果は以下のようになります。

800万円÷40%=2,000万円(損益分岐点の売上高)

例示の場合、決算書の売上高が1,000万円でしたので、赤字になる原因は「売上高が足りていない」ということになります。

売上が2,000万円ないとトントンにはならないのです。

手順3. 損益分岐点比率を知る

売上高を損益分岐点の売上で割り算し、損益分岐点比率を求めます。

1,000万円÷2,000万円=50%(損益分岐点比率)

損益分岐点に対する自社の売上高の達成割合を示したもので、これにより営業に対して売上の目標設定ができたり、以後売上がどれくらい減少しても大丈夫かを知ることができたりします。

損益分岐点から分析する経営の改善方法

例示の計算結果により、赤字の原因は売上高が足りていないということが分かりました。

売上が足りないのであれば具体的な改善策としては、

  • 販売数量の増加
  • 販売単価の値上げ

……などが考えられます。

しかし、市場規模や事業規模によってはいくら企業努力しても売上高を増やすには限界があります。

例えるなら、1億円規模の市場なのに100億円の損益分岐点…これを達成しろというのはあまりに非現実的です。

そのような場合、どうすればよいのか?

変動費を見直す

現在の売上高を維持した場合、変動費率をどこまで下げればトントンになるか?ということを分析します。

計算式は以下のとおり。

「固定費」÷「決算書上の売上高」=「目標とする利益率」

100%-「目標とする利益率」=「目標とする変動費率」

例示の数字をあてはめると、

800万円÷1,000万円=80%

100%-80%=20%

つまり、現在の変動費率60%を20%まで下げればトントンになることを意味します。

具体的な改善策としては、

  • 仕入単価の値下げ交渉
  • 変動費率の低い商品の取り扱い
  • 運賃、販売手数料など、変動費がかからない販売方法の見直し

……などが考えられます。

固定費を見直す

次に「現在の売上高を維持して変動費の削減にも限界がある」といった場合について解説します。

赤字の原因としてあげられるのが「売上高に見合った事業規模ではない」ことです。

必要以上の人員を抱えている、地代家賃が高すぎる、リースや保険契約が多すぎる…などが挙げられます。

売上さえ増えてくれば事業規模は維持できるし固定経費もペイできるようになる、と考えている経営者も中にはいるかと思います。

しかし、数字は待ってはくれません。現状で出せる売上高や利益率に見合うところまで固定費を削減することを検討すべきでしょう。

例示の場合で売上高を1,200万円、変動費率を40%(利益率60%)まで改善できたが、さらに固定費の見直しが必要な場合、

1,200万円×60%=720万円(目標とする固定費)

800万円かかっていた固定費を720万円まで削減する必要があるということになります。

 具体的な改善策としては、

  • 効率的な人員配置の検討
  • 地代家賃、リース契約、保険契約等、毎月一定額で発生する経費の見直し
  • 借入利率の見直し(現在より低い金利で融資してくれる金融機関の検討

……などが考えられます。

起業時には損益分岐点グラフを活用

以上のように、損益分岐点分析は会社の存続に関わる重要な指標ですが、これはすでに事業を営んでいる方に限らず、これから事業をはじめようと考えている方にとっても必須の知識です。

新たに事業をはじめようとする場合、いきなり損益分岐点売上を叩き出すというケースは稀です。

通常はある程度時間をかけて売上高を増やし、損益分岐点に近づけていくことになるのですが、そんな時に役立つのが損益分岐点グラフです。


事業計画で立てた目標売上をグラフに当てはめることで、年度ごとの損益を知ることがき、何年目に黒字転換できるのか?目標売上は適正か?を判断することができます。

まとめ

  • 損益分岐点はプラマイゼロとなる売上高をさす。
  • 経費は変動費と固定費で構成されている。
  • 損益分岐点の計算は3つの手順でできる。
  • 計算結果を元に売上高、変動費、固定費をそれぞれ見直してく。
  • 起業時には損益分岐点グラフを活用する。

売上高が青天井で増えていくのであれば何の問題もありませんが、現実はそう上手くいきません。

そして、欠陥の原因を分析しないまま経営を続けるということは、いうなれば赤字を生み出すために事業を続けているということです。

損益分岐点から実現可能な売上高の上限と変動費率を冷静に把握し、それに見合った固定費の設定を心がけましょう。

画像出典元:o-dan

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