経営者が知っておくべき事業リスクとリスクへの対処方法を徹底解説

経営者が知っておくべき事業リスクとリスクへの対処方法を徹底解説

記事更新日: 2024/05/29

執筆: 高浪健司

事業を展開していくうえで、何かしらのリスクは存在します。経営者は常にそういったリスクを想定しておく必要があり、万が一リスクが生じた場合は、その損失に対して迅速かつ的確に対応しなければなりません。

この記事では、発生することの多い代表的な事業リスクや、リスクが発生した際の対処方法について詳しく解説していきます。

代表的な事業リスクとは

事業を展開していくということは、様々なリスクが伴うということでもあり、経営者はそういったリスクを常に抱えた状態であるということを、まずは知っておく必要があります。

では、どのようなリスクが起こりやすいのか、その代表的な事業リスクをご紹介します。

1. 経営悪化、業績低下

順調に業績が伸びている時期もあれば、逆に業績が下がってしまう時期もあります。会社の売上に多少の浮き沈みがあるのは仕方ないですが、経営判断が誤っていれば経営が悪化し、大幅な赤字転落に見舞われるといったリスクが考えられます。

また、他にも自然災害や景気の変動などの影響で業績が低下し、経営が悪化することも考えられます。経営悪化、業績低下によるリスクは、企業であればもっとも起こりやすいリスクです。

2. 製品不良による事故

製品不良、いわゆる不良品によって引き起こされるリスクもあります。不良品を使用したことによって消費者が怪我をする、あるいは死亡してしまったという事態になれば、会社は民事責任もしくは刑事責任を負うことになります。

また、自主回収やリコールなどを行えば、その分莫大な費用もかかり、経営状態は悪化します。大量生産だった場合なら尚更です。

飲食業の場合は食中毒問題も大きなリスクです。一度でも食中毒を出してしまうと、その後の経営に大きな悪影響を及ぼします。

これらのリスクを回避するために、消費生活用製品安全法をしっかりと確認し、日頃の管理を徹底的に行うことが重要です。

特に製造業や飲食業に関しては、常にこういった製品不良による事故リスクが付いて回ります。

3. 企業イメージの低下・ブランド毀損

社員や役員などによる不祥事、顧客情報・機密情報などの情報漏えい、サービス内容の欠陥など、企業イメージの低下やブランド毀損は、あらゆる事態が原因で発生します。

また、近年ではツイッターをはじめ、SNSへの投稿による「炎上」等も増加しており、明らかな欠陥や不祥事による炎上のほか、それとは別に事実とは異なる内容で炎上する「もらい事故」のようなものも実際にはあります。

今やSNSなどを通して、ひとり一人が簡単に情報を発信することができる時代であり、その拡散力も非常に大きいですので、企業はSNSなどによる炎上対策も必要です。

4. データ破損や情報流出

顧客データを扱うシステム系の会社の場合、データの破損や流出はもっとも重大なリスクであると言えます。しかし、データの紛失や情報漏えいなど、データ管理にまつわる事故が後を絶ちません。

また、ウィルスの感染やサイバー攻撃などによってデータを盗み取られたり、破損したりするケースもあります。

いずれにせよ、取引先や消費者などに対して損害が生じれば、損害賠償責任を追及されることもあるので、データを扱う場合は細心の注意が必要です。

5. 従業員のけが・死亡などに伴う労働災害

従業員が怪我をした、もしくは死亡したなど、従業員の労働災害(労災)も企業にとっては大きなリスクとなります。

労働災害でもっとも多いのは、転倒や転落、さらに機械やドアに挟まれるなどの業務中に起きる事故です。

しかし近年においては、長時間労働や過重労働などが原因で、心に病を抱えるケースや、上司などからのセクハラやパワハラが原因で会社に行けなくなったといったケースも増えており、怪我や事故などの他に心身の労働災害も非常に多くなっています

なお、労働災害では、当事者もしくはその家族などから損害賠償請求訴訟を起こされるケースもあるので、働く従業員に対する環境配慮も決して怠ってはなりません。

6. 天候リスク

地震や火災、台風、落雷、そして洪水など、このような天候リスクは事業を運営していくうえで、避けることができず、甚大な災害が起きると、事業を継続していくことが困難になる可能性があります。こうした事業リスクを、事業継続リスクと言います。

前述のとおり、天候リスクは避けることができませんので、被害を最小限にとどめるか、あるいは早期復旧ができるよう対策しておくことが必要です。

ちなみに、緊急時における事業継続のための手段を事前に取り決めておく計画が、中小企業庁のホームページにて「BCP(事業継続計画)」として詳しく掲載されています。

企業としては、もしもの時でも事業を継続していけるよう、しっかりと事業継続計画を立てておくことが非常に重要です。

7. その他契約に伴う訴訟リスク

事業を展開していくうえで、取引先との関係は欠かせません。しかし、取引先に対して裏切るような行為をした場合、その度合いによっては損害賠償請求をされるケースが考えられます。

また、取締役など経営陣が定款などの定めに違反し、会社に損害等を与えた場合、株主が会社に代わって取締役を相手に損害賠償を求める株主代表訴訟を起こされるケースもあります。

いずれにせよ、こういったケースの訴訟は法人が相手となりますので、非常に高額な損害賠償請求額が予想されます


以上のように、企業を取り巻く事業リスクは、様々なリスクが考えられ、経営者は常にそういったリスクを抱えながら事業を運営しているわけです。

なお、こうした事業リスクへの対処法として、事前のリスクマネジメントが必要不可欠となります。それでは、次にリスクマネジメントについてみていきましょう。

リスクマネジメントの重要性

リスクマネジメントとは、事業の運営において起こり得るリスク(損失等)の回避または低減を図り、最小限の被害損失に抑えられるようコントロールすることです。

つまり、前項で挙げたような様々なリスクから会社をどう守るかということは、リスクマネジメントを実施しているか否かで、大きく変わってくるのです。

また、近年においては事業の拡大やM&Aなどによって、事業の展開が目まぐるしく変化していく時代です。

よって企業は以前にも増して、リスクマネジメントの実施が求められるのです。

リスクマネジメントの実施・進め方

では実際どのようにリスクマネジメントを実施すればよいのか、その基本的なリスクマネジメントの実施方法をご紹介していきます。

1. 事業リスクの洗い出し

まずは企業に対して起こり得る様々なリスクをあらかじめ想定し、具体的に洗い出すところからスタートします。

リスクには、災害や事故、社長・従業員の不祥事、そして機密情報の漏えいなど、経営悪化に直結する要因がいくつも存在しています。また、製品の不備や食中毒問題、さらには取引先や株主からの訴訟など、会社のイメージダウンに発展するリスクも考えられます。

大小問わず、あらゆる視点からリスクを洗い出し、すべての項目にリスク対策が打てるようにします。

ヒント:リスクの洗い出には「SWOT分析」などを活用すると良いでしょう。 

2. 事業リスクの優先順位付け

あらゆるリスクを洗い出したら、次に行うことはリスクの大きさ(重要度)に対して「大」「中」「小」というように、リスクへの優先順位を付けていきます。

リスクの優先順位を決める時のポイントとしては、リスクの発生時に会社の収益や信用に大きな影響を与えるものをはじめ、リスクが発生する可能性が高いものも優先度を高く設定します。

しかし、洗い出したすべてのリスクに全て対処できるというわけでもありませんので、会社に与える影響がもっとも大きいものに絞り、リスクマネジメントを実施します。

ただし、リスクが小さいと判断した場合でも、リスクであることには変わりありませんので、たとえ小さいリスクでも、抜かりなくしっかり管理していくことが重要です。

3. 事業リスクへの対策

リスクへの優先順位を付けることができたら、そのリスクに対し損失をいかに最小限に抑えるか、というリスクへの対策をとっていきます。

リスクへの対策方法としては、具体的には「リスクコントロール」と「リスクファイナンシング」の2つの手法を用います。

事業リスクへの対処方法

事業リスクへの対処方法として、リスクコントロールとリスクファイナンシングという2つの手法があります。具体的にどのような対処をとればよいのか、確認していきましょう。

リスクコントロールの手法

リスクコントロールとは、リスクの発生自体を防止する、もしくはリスクが発生した際、損失を最小限に軽減するための手法です。なお、リスクコントロールの手法と説明に関しては、下の図のとおりです。

手法 説明
回避 リスクが伴うと思われる活動を中止し、想定されるリスクを予め遮断する
損害防止 予防措置を講じ、極力リスクの発生を防ぐ
損害低減 リスク発生時の損失の拡大を阻止、軽減させ、損失規模を最小限に抑える
分離・分散 リスクの発生時の損失を一箇所に集中させず、分離・分散させる

リスクコントロールの具体例

リスクコントロールの4つの手法について、具体的な例を紹介します。

回避

  • インターネットによる不正アクセスやウィルス感染などを回避するため、パソコンとインターネットを遮断する
  • 地震や洪水など災害が起きやすく、将来的にリスクが高いと判断した場合、災害の少ない安全な場所に移転する

損害防止

  • 設備等の点検をこまめに実施し、消耗品の交換や故障部分を早めに交換、事故防止に繋げる
  • 破損や流出を防止するため、データ等を保存・管理するものには全てパスワードを設定する

損害低減

  • 火災が発生した時に備え、所定の位置に消火器を備えておく
  • 地震など災害時での避難方法や、連絡手段をあらかじめ確認しておく

分離・分散

  • 無くなっては困る重要なデータなどは、多数の機器等に分担してバックアップを取っておく
  • 会社のお金は一箇所に集めるのではなく、複数個所に分散して保管しておく

リスクファイナンシングの手法

次はリスクファイナンシングです。

このリスクファイナンシングは、リスクによって損失が出た場合、その損失を補てんするため資金を充てる手法です。

手法 説明
移転 各種保険や契約等により、リスクの発生時に外部から損失補てんを受ける
保有 積立や引当など自社で資金を確保し、リスク発生時に自己負担する

このように、リスクファイナンシングはそれぞれ2つの手法に分けられています。では同じく2つの手法の具体的な例を見ていきましょう。

リスクファイナンシングの具体例

移転

  • 危険な仕事などは専門業者などと契約を結び、自社に損害が及ばないようにする
  • 各種損害賠償責任保険等を利用する

保有

  • 損失が起きた際、その損害に対して自社で負担するための引当金や積立金を設定しておく


リスクマネジメントを進める際は、このようにリスクコントロールとリスクファイナンシングそれぞれの手法を用いて対策を取り、万が一の事態に備えてください。

事業リスクへの備えは保険加入も有効的

事業を運営していくうえで、リスクは必ず付いて回るもので、そのリスクが発生したことによって業務停止に追い込まれ、倒産を余儀なくされる恐れもあります。

そうしたリスクに備え、労災保険や損害賠償責任保険などの任意保険に加入するというのも、リスク回避への有効的なリスクファイナンシングであると言えます。

現在では、業種ごとに起こり得る様々なリスクをカバーしてくれる保険から、営業停止における損失、さらには訴訟費用を補償してくれる保険などまで、あらゆる補償内容の保険が用意されています。

こうした損害賠償責任保険などの保険加入は、後の会社経営を左右します。

リスクはいつ起こるか予測することはできません。事業リスクについて知ることができた今だからこそ、保険加入の検討をオススメします。

 

まとめ

さて今回は、事業を運営していくうえでの様々な事業リスクについて、詳しく解説してきました。

前述のとおり、事業運営には必ずリスクが付いて回るもので、リスクが発生したことによって、最悪の場合、倒産を余儀なくされることも多々あります。経営者においては、リスクの大きい小さいに関わらず、リスクの事前回避、そしてリスク発生後の対処など、様々な対応が求められます。

あらゆるリスクから会社を守るということは、経営者にとって重要な任務の一環です。

万が一リスクが発生した場合でも迅速かつ的確な対応が取れるよう、しっかりとしたリスクマネジメントを行うようにしてください。

画像出典元:Pexels

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