与信管理の導入を検討しているけど、そもそも与信管理の重要性がわからない。与信管理規定を作成したいけど、具体的にどのような項目を記載して承認プロセスを経ればいいかわからない、と悩んでいる方は多いのではないでしょうか?
本記事では、与信管理の基本的な考え方から、与信管理規定の具体的な策定方法、守られなかった場合のリスクや、社員に与信管理規定の遵守を徹底させる方法まで、わかりやすく解説していきます。
このページの目次
与信管理規定についてお話する前に、そもそも与信管理はなぜ必要なのでしょうか?
それは、与信管理を適切に行うことで、会社が損失を被るリスクを最小化することが出来るからです。
会社がビジネスをする上では必ず「取引先」が存在しますよね?そして現代ビジネスでは、取引先への信用を前提として商品代金のやり取りがなされています。
つまり、「取引先を信用しているから、商品代金の支払いは(即時ではなく)数か月後にしてもいいよ」としているのが一般的なのです。
「取引先」が信用出来る会社であれば特に問題ありませんが、もし信用できない会社だったらどうなるでしょうか?ご想像の通り、商品だけ渡して商品代金は回収出来ないこととなってしまいますね。このような状況を防ぐためにも「与信管理」は必要なのです。
与信管理の必要性がわかったところで、「与信管理規定」の話をしていきましょう。
与信管理規定とは、会社内部の与信管理に関する方針を記載したルールのことをいいます。
与信管理が大事ということがわかっていても、実際何かしらの痕跡として会社内部に存在していないと効果がないので、与信管理規定を策定する必要があるわけです。
では実際にどのように「与信管理規定」を策定していくべきか見ていきましょう。
与信管理規定は「会社内部」で効力を生じるものなので、決まった記載方法はありません。
ただそうは言っても「一般的な記載事項を知りたい!」という方も多いと思うので、下記一般的な内容を紹介していきますので、必要に応じて加筆修正してみてください。
一般的に記載すべき内容は、大きくわけて下記4項目にわけられます。
①総則 ・・・ 与信管理の目的や適用範囲、責任範囲を記載
②新規取引 ・・・ 新規取引の開始前には、必要書類の申請と承認が必要な点を明記
③与信管理 ・・・ 取引相手に対する与信限度額の設定と見直し頻度や方針を明記
④回収管理 ・・・ 取引後の定期的な回収を実現するための方針や報告事項を明記
これらの項目を具体的にどのようにして記載していくか見ていきます。
ここからは具体的なサンプルを用いて、4つの項目別に紹介していきます。
記載内容は一応の目安となっており、黄色でハイライトしている箇所は、会社によって状況が異なっている可能性や、会社内部でより詳細に検討する必要がある点となっています。
まず「総則」部分ですが、「目的」「適用範囲」「責任範囲」を記載すれば十分かと思います。
最初にもお伝えしましたが、与信管理規定は会社を守る経営手段となるので、その旨を目的に記載しておけば良いでしょう。
次に適用範囲ですが、こちらは「どんな業務」に対して与信管理規定が適用されるかを明記する場所です。
会社によっては「すべての業務に対して適用」と記載しているケースも見受けられますが、最低でも新規取引時は必須となる旨を記載しておいた方が無難でしょう。
そして責任範囲の箇所ですが、こちらは明記していない会社もあります。
ただ、後ほど具体的に紹介しますが、与信管理規定を策定しても従業員に守られないといったことはよくあります。そのため、実効性を持たせる観点からも責任範囲を設けるのも良いかと思います。
次に「新規取引」部分に関する記載内容を見ていきましょう。
ここでのポイントは、新規取引を開始する前には「申請→承認」のフローが必須という点です。
「申請」は会社が定めたフォーマットに従い、必要情報を収集できるようにしましょう。
必要情報としては、対象会社の業務内容や資本金額、従業員数や財務諸表等が代表的な例となります。
そして、提出された申請書は、適切な権限者によって「承認」されるようにすることが大切です。
ここでいう適切な権限者は、上場会社では「職務権限規程」という形でまとめられていることが多く、与信管理においては財務部長やそれ以上の役職者が承認権を有することが一般的です。
新規取引に関する項目が記載できたら、次は「与信管理」に関する記載です。
ここでのポイントは、「与信管理限度額」を設定し、「定期的」に見直す点が大切となります。
与信管理限度額とは、会社にどのくらいの「信用」を与えるか、つまり確実に売上債権を回収できる金額を設定することを意味します。当然、信用の高い会社に対しては与信限度額は高くなりますし、反対に信用の低い会社に対する与信限度額は低くなります。
また、与信限度額は一度設定したら終わりではなく、定期的に見直すようにしましょう。
なぜなら、最初は信用が高く安全と判断していた取引先も、状況によっては業績が悪化し続け、支払能力が低下している可能性があり得るからです。
最後に記載すべき項目は「回収管理」についてです。
これは、発生した売上債権を適切にキチンと回収することを目的としています。
そのため、担当者によって定期的にモニタリングを実施し、報告することが大切です。
一般的には、売上債権の回収管理を担当する財務担当者がモニタリングを実施した方が効率的でしょう。そして、売上債権の発生金額や規模にもよりますが、報告会といった形で情報を共有する仕組みを作りましょう。
以上が与信管理規定に関する具体的な策定方法の紹介となります。
会社によって色々な状況が考えられますので、ここでの内容をたたき台にしてブラッシュアップして頂ければ幸いです。
与信管理規定が実際に存在するのに担当者により守られない場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか?
まず最初に起こり得るのが、販売した商品代金の回収が出来ないリスクが高まります。
例えば、与信管理プロセスを経ずに、全く信用出来ない相手に100万円の商品を販売した時のことを考えてみてください。100万円の商品を販売したということは、近い将来100万円のお金を支払ってもらう必要があるということです。
もし相手先の財政状態が悪く、手元に現金が50万円しかなかった場合には、販売代金の100万円は回収出来ないでしょう。
これは極端な例ではありますが、もし取引前に与信管理規定に従っていたら、財政状態が悪い相手に100万円の商品を販売しようとは思わないはずです。
もう一つ起こり得る最悪のパターンが、会社が倒産するリスクが高まるということです。
「なぜ与信管理規定を守らなかっただけで会社が倒産するの?」と思われる方もいるかもしれませんが、それは会社が事業を継続するために一番大切なのが現金だからです。
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、これは「利益は出ている状態なのに、お金がなくて倒産する」ことを意味します。
会計上の利益よりもキャッシュフローの方が経営を続ける観点からは大事ということですね。
与信管理規定を守らなかったことが「すぐに」倒産に繋がるわけではありませんが、最悪のリスクとしてはあり得る話なので覚えておいてください。
では実際に策定した与信管理規定を社員に遵守させるにはどうすべきでしょうか?
そもそも社員が規定を守らないのは、「守らなくても大丈夫」といった当事者意識の欠如が根底にあります。そのため、当事者意識を植え付ける一つの方法として、定期的に担当者への報告を求めるようにしましょう。
【対策①】
週次もしくは月次・・・・新規取引先の概要を報告させる
(1)「新規取引債の概要」
(2)「与信管理規定を適用したことを証明する書面」 →両方の提出を求める
一般的に「新規取引先」に対して与信管理規定が適用される場面が多いので、週次あるいは月次で発生した新規取引先の概要を報告させることが考えられます。
その際に、「新規取引先の概要」を記載した報告書と、「与信管理規定を適用したことを証明する書面」の提出を求めるようにして、実効性を持たせてみましょう。
次の対策方法は、担当社員に条件付きの業績連動型報酬を導入する方法です。
新規取引先に対する与信管理が論点となることが多いのは先ほどお話しした通りですが、この新規取引先を開拓してくるのは誰でしょうか?会社によって状況は違うでしょうが、一般的には「営業社員」でしょう。
そして、営業社員のモチベーションは新規取引先との契約にあります。
なぜなら、新規取引先の開拓が会社の業績アップに貢献し、その貢献度が本人への業績報酬という形で還元されることが一般的だからです。
つまり、営業社員にとって「目先の売上に意識が向く」のは当然であり、それを阻害する要因となり得る「与信管理規定を無視」するのもある意味当然なのです。
そのため、営業社員の業績は業績連動型報酬としつつも、売上回収に繋がらない新規取引契約については評価対象外とするのです。これにより、担当社員に新規取引先の売上代金回収まで責任を持たせる仕組みを構築することが可能となります。
先ほどの対策①が「事後的」な対策であるのに対して、対策②は「事前的」な対策といえますね。
いかがだったでしょうか?
今回は「与信管理規定」の重要性から策定方法、そして従業員に遵守させる方法まで紹介してきました。
規定の作成と聞くと、面倒だと思われる方もいるかもしれませんが、転ばぬ先の杖としていざという時に大きな効果を発揮してくれる手段なので、この機会に是非「与信管理規定」を作ってみてはいかがでしょうか?
より良い経営を目指せる企業様が一社でも増えるように、これからも有用な情報を発信していきます。
画像出典元:Pexels
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