スメルハラスメントとは、臭いによって人を不快にさせる行為です。
「パワハラ」「セクハラ」と同様に「スメハラ」と略され、ハラスメントに分類されます。
ただし本人の自覚がない場合、対処が難しいのが現実です。スメルハラスメントの概要や種類、さらにはスメルハラスメントが起きたとき取るべき対策を紹介します。
このページの目次
スメルハラスメントは、「臭い」に関するハラスメントです。具体的にどのようなものなのか紹介します。
・スメルハラスメント:(和製英語: smell harassment)
・smell=臭い、harassment=嫌がらせ、いじめ
スメルハラスメントとは、何らかの臭い(smell)で周囲に不快感・不利益を与え、職場環境を著しく悪化させることです。一般的には「スメハラ」と略して呼ばれることが多いでしょう。
「この臭いがダメ」という明確な定義はなく、周囲の人が不快に感じた臭いはすべてハラスメントとなり得ます。
スメルハラスメントのせいで「仕事が手に付かない」「体調不良になった」などは、よく聞かれる話です。被害に耐えかねて退職を選ぶ人までおり、「たかが臭い」と侮れません。
例えば、2018年に「リサーチプラス」が行った調査によると、調査対象となった20歳〜59歳の男女のうち約8割が「他人の臭いが気になる」と答えています。また、「スメルハラスメント」という言葉を知っている人は約7割にも上り、臭い問題に関心を持つ人が多いことがわかります。
そもそも近年は、職場において何らかのメンタル的な問題を抱える人が増えているといわれます。
そのため厚生労働省は「安全衛生法70条の2」に基づく「健康保持増進のための指針」として、「労働者の心の健康保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」(平成18年3月31日公示第3号)を制定。国を挙げて職場におけるメンタルヘルスケアの充実を強く促すようになりました。
つまり企業は、労働者に対して適切な労働環境を提供する義務があるということです。特定の人から発せられる臭いによって労働者が精神的苦痛を被るなら、何らかの対応を取る必要があります。
スメルハラスメントの具体的な弊害としては、以下のようなものが考えられます。
スメルハラスメントを放置すると、職場環境は悪化する一方です。会社全体のイメージを左右することさえあるため、早急な対応が必要でしょう。
嗅覚の強さは人それぞれ違います。
ある人にとっては何ともない臭いでも、別の人にしてみると「クサイ」と感じられることもあるでしょう。
「この臭いはダメ」と定義するのは困難ですが、人が不快に感じやすい臭いというものはあります。
臭いは自分では気付きにくいので、思い当たる節がある場合は注意しましょう。スメルハラスメントに発展しやすい臭いを紹介します。
一般的な体臭は、皮脂や汗・垢に雑菌が付着することが原因であることがほとんど。雑菌が脂質やタンパク質などを分解し、不快な臭いガスを発生させているのです。
体臭のない人はほぼおらず、汗をかけば誰でも臭います。しかし体臭の強さや臭いの種類はさまざま。
人によっては顔をしかめるほど強烈な臭いを発することがあります。尋常ではない汗臭さや体臭を放置していれば、周囲から「スメルハラスメント」と言われてしまうでしょう。
また、体臭によるスメルハラスメントが起こりやすいのは、夏よりも冬だそうです。
夏は汗をかきやすいことから、デオドラント対策を小まめに行う人が少なくありません。
ところが冬は、「汗をかかないから大丈夫だろう」と油断する人が増えます。加えて暖房を付けて部屋を締め切りますから、臭いが部屋に充満しやすくなるのもポイントです
洗髪回数を減らしたり入浴を適当に済ませたりする人がいれば、体臭が部屋にこもります。キツい体臭に耐えきれなくなりスメルハラスメントを訴える社員が出てくるのも無理はありません。
加齢臭が臭うのも、基本的には体臭と同様に雑菌が原因です。ただし年を取ると分泌する皮脂の成分が変わることなどがあるため、体臭とは違った独特の臭いを発するケースが多くなります。
臭いを発しやすいのは主に男性という印象ですが、女性の加齢臭もゼロではありません。また、年齢的に上司が多いため臭いについて言及しにくく、悪臭に耐える社員が多いようです。
一方、疲労臭は年齢に関係なく発せられます。残業が続いたときなどに発しやすく、ツンと鼻にくる臭いが特徴です。
生理的口臭は誰にでもありますが、強烈な臭いはスメルハラスメントになり得ます。
一般的に口臭が強くなるのは、唾液の分泌が減少したときだとか。体が緊張していると唾液が分泌されにくくなりますから、職場でストレスを抱えている人などは注意した方がよいでしょう。
このほか、ホルモンバランスが変化した女性や、成人期・老齢期の人が発症しやすい口臭、さらには歯周病に由来する口臭もあります。
また、消化器系の病気にかかっている人も口臭を発しやすくなるため、注意が必要です。
「香害」などという言葉があるように、強く香る香水もよくあるスメルハラスメントの一つです。女性が多い印象ですが、おしゃれに気を遣う男性が発生源となることもあります。
そもそも香水を付ける人は、身だしなみには気を遣っている人でしょう。しかし、香水の香りに慣れてしまうと、加減が分からなくなります。
本人は程よく香らせているつもりでも、周囲からは「キツい」と捉えられてしまうのです。
また、香水の種類はさまざまあり、どの香りを心地よく感じるかは人によって異なります。特に「オードパルファム」など濃度の濃い香水は甘く強く香りがちで、オフィスに付けるには向きません。
香水の臭いそのものについてだけではなく、PTOをわきまえない振る舞いに苛立ちを覚える人もいるでしょう。
柔軟剤も、強すぎれば「香害」です。近年は海外製の香りの強い柔軟剤が人気を博しており、独特の強い香りが周囲を不快にさせています。
「香水を使っているわけではないからOKだろう」と考える人もいますが、人工的で強い香りを全く受け付けない人も少なくありません。
例えば、「化学物質過敏症」という病気をご存知でしょうか。これはわずかな化学物質にも体が反応し、体調が悪くなってしまう病気です。
化学物質過敏症の人が強い柔軟剤の香りに触れると、めまいや吐き気、頭痛などを引き起こしやすくなります。
とても仕事などできる状態ではなくなり、精神的・肉体的につらい状態に追い込まれてしまうのです。
アメリカではおよそ10人に1人がこの化学物質過敏症の恐れがあるのだとか。日本では調査例が少ないのですが、およそ100万人はいるのではと推察されています。
花粉症のように突然発症することもあるそうなので、職場にも1人くらいは化学物質が苦手な人がいるかもしれません。
パワハラやセクハラなどがあれば、企業は断固として対応する必要があります。しかし、スメルハラスメントについては対応が難しく、扱いかねるというのが現状のようです。
スメルハラスメントへの対応が難しいのはなぜなのでしょうか。その理由について見ていきましょう。
スメルハラスメントは、発生源となる人には自覚・悪意がないケースがほとんどです。
厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会 資料8」でも、スメルハラスメントについては
周囲が不快になることはある一方、体質に起因するものもあり、対応困難
と記載されています。
臭いについて指摘したため本人が体調を崩したり出社できなくなったりすれば、会社の責任を問われることもあるでしょう。
注意の仕方や伝え方次第では、指摘した人間が逆に「パワハラ」「セクハラ」として訴えられる恐れもあります。
「あの人の臭いに困っています」と相談するのは難しいものです。特に「あの人」が上司だった場合はなおさらでしょう。
また、「本人はものすごく良い人」「真面目な人」という場合でも、臭いについて相談するのはためらわれてしまいます。指摘している人が寛容性がなく、悪いように見えてしまうのです。
被害を被った人は相談しにくく、一人で悩むケースも少なくはありません。
臭いは感覚的・主観的な部分が大きいといえます。感じ方は個々によって異なり、「こうしなさい」と明確に指導できません。
「臭いをなんとかしろ」といっても、自覚がない人はどうすればよいか分からないでしょう。
臭いについては、「このくらいの臭いは許容範囲」「これはNG」という国が定める基準もありません。会社としてはどのように扱うべきか、対処方法に困ることになるのです。
スメルハラスメントを放置すれば、職場環境が悪化し社員の生産性が低下します。また、悪臭を放つ社員が顧客対応することがあるのなら、会社の外部イメージを下げてしまうこともあるでしょう。
会社で臭いの問題が浮上した場合、会社は速やかに対応を取り、職場環境改善に努めねばなりません。
スメルハラスメントがあったとき会社が取るべき対応策について紹介します。
当人が「スメルハラスメントを行っている」と自覚すれば、問題が自然に解消されるケースは少なくありません。まず会社は、本人が臭いに気付く機会を提供しましょう。
例えば、ビジネスマナーの職場研修を行い、そこに「臭いのマナー」も盛り込みます。臭いがあるとどんな弊害があるのか、どんな臭いがトラブルにつながりやすいかをきちんと説明するのです。
研修で「自分自身について振り返ってみてください」と言えば、本人が自覚しやすくなります。
また、臭いに悩む社員を放置しないことも大切です。研修では、「スメハラの相談窓口はここです」と明確に提示し、トラブルが小さいうちに対処できるようにしておきましょう。
臭いについて周知しても状況が改善されない場合は、本人に伝えるのがベターです。ただしストレートに伝えると「パワハラ」「セクハラ」と捉えられる恐れがあるため、表現には注意しなければなりません。
臭いはプライベートでデリケートな問題です。伝えるときは1対1で話しましょう。直接の上司だとカドが立つ場合は、仕事で直接関わらない人事担当者などが赴くのもおすすめです。
伝え方としては、「ビジネスマナーとして」という部分を強調するのが良いのではないでしょうか。
「体調が悪いのでは?」「勤務が忙しく、身の回りに構えていないのでは?」などと尋ねながら伝えると、個人攻撃になりにくく、本人も自身の状況を振り返りやすくなります。
ただしこのとき曖昧すぎる態度をとると、注意された方もどうすればよいか分かりません。
例えば、その人体臭がスメルハラスメントの原因なら、朝のシャワーを進めたり、隅々までよく体を洗ったりすることを推奨したりしましょう。
ストレートに伝えるのは気が引けるかもしれませんが、具体的な対策を示さないと本人には伝わりません。
スメルハラスメントの問題が1対複数ではなく1対1の場合は、社員の席替えで対応できることがあります。
ただし席替えをしてまた同じようなトラブルがあるのなら、スメルハラスメントを訴えている社員の方ともきちんと話し合う必要があるでしょう。
繰り返しになりますが、臭いの感じ方は人それぞれです。
もしかするとスメルハラスメントではなく、その人が臭いに過敏すぎるだけなのかもしれません。
人は自分の臭いにはなかなか気付かないものです。知らないうちに周囲に不快な思いをさせていることがあるかもしれません。
周囲に「スメハラ」と言われないために取りたい行動を紹介します。
汗や皮脂と雑菌が混じると不快な体臭を発しやすくなります。
汗をかきやすい人は夜だけではなく朝シャワーを浴びたり、デオドラントシートで体を拭いたりするのがおすすめです。
特に夏は会社についたら汗まみれ、という人もいるのではないでしょうか。このような人は着替えを持参して、着替えてから仕事をスタートすると臭いにくくなります。
外国製の柔軟剤は、香りが強いものが多い印象です。休日はよいですが、オフィスに行くなら避けましょう。
とはいえ、「日本製なら大丈夫」というわけではありません。近年は香りの強い日本製も登場しています。
購入前に口コミを確認したり、香りがかげるものは実際にかいでみたりするのがおすすめです。
一方、香水については会社での使用は避けるのが望ましいといえます。周囲に臭いに敏感な人がいた場合、面倒なトラブルになりかねません。
「このくらいよいだろう」の「このくらい」が人によって違うため、香水は加減が難しいのです。
時に「万人向けの香り」などの謳い文句の香水を見かけますが、実際に万人向けの香りなどは存在しません。周囲の理解を100%得られない状態であれば、付けないことをおすすめします。
「隣の席の人が臭い…」。職場でこのようなことがあっても、「臭いが強いときとそうでないときがある」「本人は気付いていない」などの場合、強い対応に出るのはためらわれます。
自分がスメルハラスメントにあったと感じたとき、取りたい行動を紹介します。
臭いが気になる人と席が近いなら、デスクの上に消臭効果のあるフレグランスを置いてみましょう。
目にした人は「ん?」と気に留めるはずです。当人が「自分の臭いかも…」と意識するきっかけになります。
ただし、あまりに強い香りを発するものは避けましょう。自分がスメルハラスメントと言われないよう無臭タイプがおすすめです。
周囲の人と申し合わせて、臭いについての話題で盛り上がるのもおすすめです。「自分も臭いかも」「朝もシャワーを浴びた方がよい」などと言い合えば、個人攻撃になりません。
臭いの元である人も巻き込んで臭いについての意見を交わし合えば、当人も自分の臭いを意識しだすかもしれません。
対策をとってみたけれど効果がない場合は、上司や人事に相談するしかありません。
スメルハラスメントの問題は、当人に悪気がなくても会社全体の士気を低下させる恐れがあります。ただし感情的に伝えると印象が良くないので、注意しましょう。
デリケートな問題ですから、人払いをしてもらって1対1で相談るのがおすすめです。
職場での臭いトラブルは、実際にどのようなものがあるのでしょうか。スメルハラスメントの事例を紹介します。
こちらは2014年にアメリカであったケース。
とある男性が就業中におならを多発し、その臭いで同僚や顧客に多大な被害を与えたそうです。結果、男性は解雇されました。
この男性は190kgもある巨漢で、胃のバイパス手術を受けていたそう。腹部にガスがたまりやすく、おならが出やすくなっていたのです。
本人に悪意はなかったのですが、強い臭いのおならが「職場環境を悪化させた」と見なされてしまいました。
一方、日本では2011年、とあるコンサルティング会社の社員がスメルハラスメントで解雇されました。
この社員は数日間入浴しないことがザラで、服装にも気を遣っていなかったそうです。悪臭を放ちながら商談に向かったため、顧客から会社にクレームが入りました。
会社は何度も本人に改善を促しましたが、当人に改める意志がなく、約1年後に解雇となってしまいます。
会社の就業規定には「髪型・服装・化粧等は職場・職務にふさわしいものとすること」という項目があったそうです。解雇のときは、これが根拠となりました。
スメルハラスメントは、臭いで周囲に迷惑をかける行為です。本人に自覚がないことがほとんどなので、周囲も対処しにくいことが多いでしょう。
しかし、スメルハラスメントを放置すると職場環境が著しく悪化し、やがては仕事効率にまで悪影響を及ぼすことがあります。
他の従業員を守るためにも、会社は毅然とした態度で対応せねばなりません。
ただし、あまりにストレートに注意すると名誉毀損やセクハラ、パワハラで逆に訴えられる恐れもあります。
本人にスメルハラスメントを伝える場合は、言葉を選んで慎重に行いましょう。
画像出典元:Pixabay、PAKUTASO、Unsplash
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