2022年7月29日にナレッジシェア交流会を開催しました。
ゲストはフレンズ株式会社代表の安田瑞希さまです。
安田さまは、2014年に植物工場ベンチャー(株)ファームシップを創業。
その後、経営権を共同創業者に譲渡され、2021年にフレンズ(株)を創業されました。
公認会計士のキャリアがあるシリアルアントレプレナーです。
今回は、ナレッジシェア交流会の様子をレポートします。
このページの目次
司会者:安田さまからフレンズ株式会社の事業内容についてご説明いただけますか。
安田:私たちの会社のカルチャーは「異文化×相互貢献」です。
画像出典元:フレンズ株式会社公式HP
なぜ一番初めにこのカルチャーをつくったかというと、前の会社での反省がすごくあって、なにをやるかよりもどういう文化でやるかをすごく大事にしてます。
私たちが注目してるのは、「チームがどのように連携すると、良いビジネスができるか?プロジェクトが良くなるのか?」というところです。
安田:実は、こういうサービスをやろうと考えていたわけではなく、最初に仲間がいて「どういうビジネスをやっていこうか?」と考えた時に、今のシステム開発の在り方に課題を感じました。
インターナショナルチームのコミュニケーションの低さとか、「普通に仲良くしたらもっと生産性あがるだろう!」みたいな。
これが原点で、まずみんなが気軽にチャットできるインターナショナルチャットツールをつくり、そこにタスクボードやレポーティング機能などを足して、誰でも使いこなせるツールを開発しております。
プロダクトの開発以外では、受託という形で、私たちのツールを上手に活用しながら生産性を上げたり、プロジェクトをまわしていくサービスも提供しています。
司会者:ありがとうございます。
司会者:事業経営において三大経営資源といわれるのが「ヒト・モノ・カネ」ですが、安田さまにお聞きしたいのは、まずヒトについてです。今回参加している企業さまに多いシード・アーリー期の企業の初期採用や、カルチャーのつくり方について、ご意見をお願いします。
安田:チームメンバーについては、前の会社と今の会社で似てまして、会社をつくる前から仲間集めをずっとしてました。
前の会社は32歳で創業してるんですが、10代後半から仲間づくりをやってましたね。
なので、初期のメンバーに関しては採用というより「仲間探し」という形から入っていきました。
司会者:それは具体的にどこでどう見つけられたんですか?
安田:20代の頃の社会人経験が2社あるので、その時の先輩だったり知り合いだったり、あとは大学の同級生とか。
司会者:もともと起業しようと考えていらっしゃった?
安田:はい、起業を視野に入れていました。
1回目の起業では特別な創業準備をしなかったんですが、企業で働いていると「この人と仕事したいよね」みたいのが積みあがってくるので。
司会者:そういった創業メンバーのカルチャーはいかがでしたか。
安田:前の会社と今回の会社で180度違ってまして、前回の会社は私が若かったせいもあってカルチャーをあまり言語化してなかったんです。
重要性はわかってたんですが、他の部分を優先してました。
それで何が起きたかというと、初期メンバー5人10人の頃は密に過ごせるのでなんとかなるんですが、それ以上になるとキツイ。
それで、今回は会社をつくる前、メンバーに声かけをした段階で「このカルチャーの組織をつくる」「このカルチャーに賛同してくれるなら一緒にやりましょう」っていう感じで、なにをやるか決まってないけどカルチャーにコミットする人だけを集めました。
司会者:企業のフェーズが拡大するにしたがって、カルチャーが重要になるものなんですね。
安田:そうですね。
カルチャーは間違いなく重要で、どの程度カルチャーを形式として整えていくかっていう問題だと思うんですけど、無駄にはならないので突っ込めるだけ突っ込んでカルチャーに時間とリソースを使って良いと私は思います。
司会者:それは「初期の頃からカルチャーをしっかりつくったほうが良いよ」ってことですよね。
安田:そう思います。
司会者:ありがとうございます。
司会者:次は報酬についてお聞きしたいのですが、けっこう重要なことだと思うんですよね。
安田:若い人の場合は、そんなに必要ないというか、報酬が少なくても我慢できると思うんですが。
でも、優秀な人は他社との取り合いになるし。
これも前の会社と今では全然考え方が違うんですけど。
前の会社は水準が低くて、そこから成長とともにちょっとずつ上がっていく仕組みでした。
そうすると、最初からいるメンバーと入社して3年、5年も経ってないメンバーとで温度感の違いが明確に出てきてしまって。
報酬がすべてではないけど、やはり影響はあるので、だから、今の会社では、その人自身の市場価値を参考にして、他でもらう金額となるべく同等になるようにしています。
司会者:次はモノについてお聞かせ願えますか。
安田さんはこれまでサービスを開発したご経験がありますよね。
その際には、サービスのピボットがものすごく重要だと思っています。
マネタイズがうまくいかない、またはユーザーニーズにどうしても一致せず、ピボットせざるを得ない時もあると思うんですが、安田さんはピボットのご経験はございますか?
安田:今はインターネットのサービスなので3回ほどあります。
前はモノづくり系だったんで、あんまりピボットしなくていいようにしてました。
司会者:サービスだと3回も……。
安田:ITサービスはピボットしてなんぼっていうか。
ピボット前提で開発のラウンドとか組織作りとかして、いつでも動けるよう変化できるようにしたほうが良いと思います。
司会者:ピボットするかどうかの判断が難しい経営者の方がたくさんいらっしゃると思うのですが、実際にビジネスをする上での具体的なユーザーニーズやターゲットの市場の見つけ方をお聞かせねがえますか。
安田:ユーザーニーズは10人いたら10人のニーズがあるけれど、ちゃんと話を聞いてロジカルに考えるとユーザーニーズ自体は拾えることが多い。
それを拾ってビジネスの種にしてアイディアを考えるのは、比較的、そこまで難易度は高くなくて。
そこから、ユーザーニーズを解消できることをビジネスとしてやろうってなると、「ちゃんとマネタイズできるのか?」とか、最終的にはPMFを狙うんですけど、「そこに至るまでの稼ぎ方どうするの?」みたいなのを考えた時にフィルターかかってくる感じですね。
経営者だとなるべく広いマーケットでやりたい、だけれども入り口は絞っていかないといけない。
会社内のメンバーやステークホルダーの方と話す時は、時間、フェーズをしっかり切ることを意識しています。
「将来的にここの市場をみてて、小さな入り口だけど、この入り口だったら、どの方向に着地してもそこそこ大きなマーケットを狙える」みたいなことをよく話します。
司会者:PMFがすごく重要で、そこが達成できない方が大勢いらっしゃると思うんで、入口の見つけ方が大切なんだと思います。
安田:PMFって実はわかりにくくて、前もすごいグロースさせたんですけどPMFしてる感覚がなかった。
ただ、いっぱい案件とか相談がくるんで、客観的にみたらPMFしてたけど、やってる当事者は一生懸命走ってるだけの感覚だった。
だから、そういう時は周りの人に見てもらって、「PMFしてるからアクセル踏め」とか、そういうアドバイスができる人を置いといたほうが良いですね。
あと、当事者は必死になってしまうんで、立ち止まる機会を定期的につくることが大切です。
私の場合は資金調達のタイミングでいろいろな方の話が聞けたんで、そこを立ち止まるタイミングにしてました。
司会者:今の話を聞いていると、うまくいってる時もそうだし、うまくいってない時も現状を把握するのが難しいと感じました。
うまくいってない時はサービスをピボットさせる必要がありますが、そこらへんはどうですか?
感覚的にわかりにくいですよね。
安田:そうですね。
自分が考え付くアイデアは世の中の誰かも考えていることで、それをどうやるかのほうが大事で。
ピボットって「自分の考えたアイデアを否定する=自己否定」になるので、胆力がいるんですよ。
胆力いるんですけど、それでもピボットしたほうが企業の価値が上がるんだったらやるっていう。
最後は自分の中での判断基準があるかどうかですね。
司会者:ピボットするって決めるのはどこなんですか?
安田:「なーんかこれちょっと違う気がする」このなんか違うという違和感や課題意識がみんなある、って時に自分がなんか得意なことをやってみたりするとめっちゃ反応が良かったリする。
そうすると「よし!」そんな感じです。
司会者:ピボットは絶対に重要ですよね。
即座に判断したほうが良いイメージです。
だらだらやるよりも、がっと転換させるほうが重要。
安田:そうですね。
経営者の性格や事業のフェーズにもよると思うんですけど。
私の場合は3回考えます。
1回目は常に考えてて、何か悩んでる。
で、「これは〜こっちに振ったほうがいいな」というアイデアがでてくる。
そして一晩寝かして、次の日にそれで腹落ちしてたら、みんなに話して、みんなからフィードバックもらって「やっぱそうだよね」ってなったらやっていく。
司会者:具体的な事例とかってお聞かせできますか。
安田:今やっているのはプロジェクトの生産性を上げようっていうB向けのサービスですが、実は最初は日本にいる外国人向けのオンラインホストファミリーサービスでした。
外国人の方が「日本でお友達ができない」という悩みがあって、オンラインでホストファミリーができないかと考えました。
でも「ちょっと違うよね」となって、このサービスを外国人を採用してる企業の人に話したところ「良いじゃん!」という反応で。
でも自分はC向けのサービスをつくりたい思いがあってので一晩悩み、一晩考えた後に「よしBでいく!」となりました。
そこからB向けのコミュニケーションチャットアプリっていうところから、今やってる総合サービスみたいな形に広げて、今は総合サービスとしてもう一度ブラッシュアップしています。
司会者:その決断能力が重要なんだと思いました。
安田:私はいつも相対性で比べてて、変えたほうが良いのか、変えないほうが良いのかと天秤にかけて良いと思ったほうをとる、それだけでやってます。
司会者:では、次はおカネの話にうつらせていただきます。
企業の資金調達について、エクイティファイナンスとデットファイナンスがあると思うんですが、安田さんはファイナンスはどういうふうにされたんですか?
安田:私の考え方では企業のファイナンスには3つあって、1つはサービスをつくって売ってお金が入る方法、あとはデットやエクイティみたいなもの。
主にはデットとエクイティなんですけど、この2つの違いは求められる期待値なんですよね。
デットの場合は、レバレッジがそんなに高くない。
エクイティは投資家が投資して、それで数年後に大きく化けないといけない。
大きなリターンがあるはず!という投資家の期待値があるので。
そういう意味では同じお金とはいえ、求められるものが違うんですね。
私が考えているのは、今の自分のビジネスがレバレッジや期待収益率に匹敵するビジネスモデルなのか、それとも長期的にみた時に伸びるモデルなのか。
そういうところで、デットとエクイティのバランスをみてます。
司会者:そこらへんをうまく編成するのはどうすれば?
安田:私の感覚だと、エンジェル・シードラウンドでは、デットは引ければいいし、エクイティもとれればとっていいと思います。
なぜかというと、企業価値が低いうちにいれる投資家は、そこまで期待値が大きくない。
シリーズA、シリーズBとかになると、デットが引けないからエクイティで、という要素もあると思うんですけど、成長の仕方が比例成長だったらデットを引く手段に徹底的に乗っていいと思う。
前の会社は比例成長していたのでデットを多用してつないで、R&Dの時にエクイティで、という戦略だった時もありました。
司会者:どちらかというと、デットのほうが経営者としては当たり前というか?やりやすいんですか?
安田:うーん、とはいえ、エンジェル・シードは基本デットはなかなか引けないんで、エクイティでやるしかないっていうのが現実で。
そこから、ビジネスモデルによってはデットも引けるようになる。
だから、最初はエクイティにフォーカスしてやるっていう感じですかね。
エクイティにはいろいろな方法があるので、、それこそ私も最初はエクイティの知識がゼロだったんで。
会計士としての知識はあったけど、エクイティ領域は会計士はそんなに強くないから。
そこで勉強したのが大きいですね。
司会者:1回目の起業と2回目の起業で全然違いますか?
安田:全然違いますね。
一周やってるんで、だいたいわかってるんですよ。
バリューのつけ方は、株主さんとのリレーションが大事なんですよね。
なんでかっていうと、極端なことや無茶なバリューのつけ方をすると、そのタイミングはやれたとしても、その後の期待値マネジメントがえらい大変だっていう。
そう考えると、調整コストはキャッシュにあらわれにくいんですが、経営者のパフォーマンスへの影響が大きくて。
ステークホルダーマネジメントは経営者のパフォーマンスを相当左右すると思います。
今の私は無難なバリュー付けでやってますが、前回は結構がんっと攻めたりしたんですよ。
司会者:そうなんですね。
エンジェル・シードラウンドだとファイナンスの目安が難しいと思うのですが。
安田:エンジェルだと1億から2億の金額でやればいいし、シードなら2〜4億にすれば、株価のことでごちゃごちゃしない。
それ以上になると説明とかが大変になる、そういう相場がありますね。
相場に合わせれば、面倒な思いをしなくていいと思います。
司会者:創業メンバーなどへの株の配布はどうですか?
安田:スタートアップの経営者にとって株って貴重な武器なんですよね、組織作りの中で。
私はこの武器を最大限生かしたいと思っていて。
というのも、1回目は共同創業だったんで、自分自身の判断で株を自由に動かすとか、そういった判断がなかなかしづらい環境だったんですね。
それで株をうまく使いこなせてる感覚がないままで。
それで2回目は株を生かしたいと思いました。
初期って払えるお金がそんなにないんで、渡せるものといったら株。
初期メンバーにすこし株を渡してみたり……というプロセスはやりましたね。
普通は株を渡すと起業家としては見返りを求めたくなると思うんですが、私の場合は見返りはなくても良いというか、共感して応援してくれる人に初期に入ってもらったので。
そういう感じでふわっとゆるく仲間づくりという観点で行いました。
司会者:創業メンバーの方々の年収は?相場でも良いんですけど、これくらいというのを教えていただけますか?
安田:日本と海外にメンバーがいて、ベトナムとバングラデシュのエンジニアの人は現地の水準なので、日本よりも低いです。
日本のメンバーは一千万円は難しいんですけど、600万円以上は払ってるかな、役員には。
前の会社をやっててわかったんですけど、若くても優秀層をとる時には600万円が必要です。
本当はもうちょっと出せると良いんですけど。
そうすると結構いい人材、本当に任せられる人材がみつかるし、そういう人材は稼いでくれるし、組織をつくってくれるんで。
人材にはお金をかけるっていう割り切りができるかどうかですね。
最低でも600万〜700万円はないと。
司会者:貴重なご経験を教えていいただきありがとうございました。
安田:やり残した感がすっごい大きかったからですね。
ビジネスでいうと前の会社の時は海外展開もやってたんですけど、ちょこっとしかやってなかったんで。
次やるなら「グローバルで!」と思った。
スタートアップは楽しいし好きだからっていうのもあるんですけど、前は組織作りやマネジメントがやりきれなかったという大きな反省点があって。
それをもう一回やりたいなと。
前の6年半のマネジメント経験が原体験になって今の会社につながってる、という感じかもしれないです。
6年半の”もがき”。
「ここをこうすればよかった!」みたいなのがあって、もう一回やろうと。
司会者:なぜ海外のものやサービスに興味をもたれたんですか?
安田:若い時から比較的海外志向があって、いま40代なんですけど「20代の頃に海外行って経験つんで、帰ってきてバリバリ働いて、海外経験あるのイケてるよね」っていう世代なのかもしれません。
あとは異文化の人とコミュニケーションとるのが楽しいなって。
そこはすごく感じますね。
安田:土日も仕事がまったくゼロの日はないですね。
というのも、私の場合はビジネスが生き方と一致してまして、趣味も仕事みたいな。
とはいえ、今の会社は土日はオフになっていて、家族との時間をつくったりとか比較的柔軟にやってます。
前の会社の時は、最初の2〜3年はほぼ休みがなかったですね。
今は、年と共に体力落ちるんで(笑)睡眠時間も長く必要だし(笑)
安田:うちの採用基準は7つあって、3つはスキル、3つはアクション、1つが判断基準です。
スキルは、(1) めちゃくちゃロジカルシンキング、(2) 異文化理解力、(3) アウトプットレベルがかなり上のレベルの人間をとるようにしてます。
英語が喋れるとかバイリンガルでなくても良いけど、違いがあることを前提に協力し合えるかを重視します。
そういうのを本質的にもってる方ですね。
司会者:人柄は?
安田:相手をしっかり思いやれることがなによりも大事で、みんなナイスな人達。
抽象的にいうと、「この人なら騙されても良いかな」と思えるっていうか、頼り頼られる関係性をつくれる人ですね。
外国人の場合は、「この人なら騙されても良いかな」まではみえないんですけど、とにかくフレンドシップです。
司会者:海外の人と交流するのは難しいですよね。
安田:そうですね。
でも慣れれば経験でわかってくるし、語学力よりも、カルチャーを大事にしてくれるかどうかですね。
安田:私が今回のラウンドをやった時は、各ラウンドで10%を放出の目安と決めたくらいですかね。
エンジェルで10%、シードで10%、その先も10%ずつ、みたいな。
前後する時もあるし、10%も放出しない時もあるんですけど、目安はそんな感じです。
創業メンバーに10%渡して、10%放出を2回やったんで、自分は約7割です。
多いか少ないかといわれると、ラウンドの割には私の持ち分が少ないと言われるんですけど、初期メンバーは仲間みたいな存在なので、そんなに気にしてないです。
安田:私の場合は、結果的に自分の得意な領域に戻ったっていう。
CかBかでいうと、私はずっとBのビジネスをやってきたんで、Bに関してはかなりナレッジがたまっていた。
だから、私の場合はCからBに変えたことで、同じ道を歩く結果になりました。
司会者:最後に僕から質問よろしいでしょうか?
今回のスタートアップの目標はIPOですか?
安田:うちはIPO目指してますね。
「どんだけバリューをあげられるか?」と考えた時に、IPOしたほうが良いかなと。
司会者:ありがとうございます。
これで質問を終了とさせていただきます。
安田さま、本当にありがとうございました。
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