近年は社員の健康管理を戦略的に実施する「健康経営」を取り入れる企業が増加中。
これにより、社員の「食」の充実がより重視されるようになっています。
「社員の福利厚生を充実させたい」「今までとは違うかたちで自社PRを図りたい」などと考える企業は、社員食堂の設置を検討してみてはいかがでしょうか。
本記事では、社員食堂の概要やニーズ、さらには社員食堂を設置するメリット・デメリットなどについて紹介します。
併せて、社員食堂運用のポイントや導入事例、新たな食の福利厚生といわれる「社食サービス」についても見ていきましょう。
このページの目次
「地味」「素っ気ない」という社員食堂のイメージは、もはや昔の話。近年は社員食堂に力を入れる企業も増えています。
ここでは、社員食堂の概要やニーズ、必要性について見ていきましょう。
社員食堂は「社食」などともいわれる、従業員のための食堂設備です。低料金のメニューが多く、社員は社外に出なくても食事を済ませることができます。
社員食堂について、「安いが味はそれなり」「メニューが少ない」などのイメージを持つ人も少なくありません。
社員食堂はそもそも営利目的ではなく、「食材の大量仕入れでコストカット」「社員の嗜好が反映されない」といったマイナス面が目立つところも多かったためです。
しかし近年は、社員食堂の形態も多様化しています。カフェスタイルのおしゃれな社員食堂やメニュー豊富な社員食堂も登場しており、女性や若い社員のウケも良好です。
社員食堂が社員の休憩や歓談の場所となることもあり、魅力ある社員食堂を備えることは企業の付加価値を高めることにもつながっています。
2017年に「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」が行なった「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」によると、調査に協力した2,809社のうち、社員食堂を導入している企業は24%でした。内訳としては、以下の通りです。
従業員規模 | 30人未満 | 30~99人 | 100~299人 | 300人以上 |
割合 | 16.5% | 29.2% | 37.5% | 48.1% |
上記を見ると分かる通り、従業員規模が大きいほど社員食堂の導入率も高くなっています。
社内で昼食を取れるのはメリットですが、社員食堂を利用しない人も少なくありません。これは従業員のニーズと社員食堂の実体がアンマッチになっているのが原因です。
多くの従業員が社員食堂に求めるのは、次のようなことです。
社員食堂については、ワンコイン以下で食べられる安価な昼食を望む声が少なくありません。
ビジネスパーソンの昼食は400~500円程度が一般的とか。社員食堂にはそれ以下を望む声も多く上がっています。
また、メニューについては選択肢が多い方が好まれます。毎日食べると考えれば、日替わりで違うメニューが並ぶのが理想です。
忙しい人にとっては提供までの時間が短いことも重要なポイント。さっと食べてさっと戻りたい多忙な人は多いのです。
近年は健康志向の高まりから栄養バランスを重視する人が増えています。特に年齢が高くなるほど、社員食堂にも健康的な食事を求める傾向があるようです。
社員食堂に企業の価値を反映させ、社会的なイメージアップを図る企業も少なくありません。
例えば2015年に日経リサーチの「企業ブランド大賞」を受賞した「タニタ」は社員食堂によるブランディングが成功した最たる例です。
タニタの社員食堂は、「食べて痩せられる社員食堂」として広くメディアに取り上げられました。
その後発売されたレシピ本は、100万部を売り上げる大ヒット。これによりタニタの知名度は一気に上昇し、ブランドイメージも大幅にアップしました。
このほか、家庭薬膳料理を提供する「ロート製薬」の社員食堂「旬穀旬菜カフェ」、上質な素材を使ったシンプルな家庭料理で注目を集める「あきゅらいず」の社員食堂「森の食堂」なども、企業のブランド価値向上に大きな役割を果たしています。
社員食堂を設置することは、企業にとって人材定着や社内の活性化などのメリットがあるといわれます。
どのようなことなのか、具体的に見ていきましょう。
社員食堂を持つ企業は「食の福利厚生が充実している」というイメージがあります。
求人情報に目をやると、企業アピール欄に「社員食堂アリ」などと記載するところも少なくありません。食堂設備の充実は、求職者にとって会社を選ぶ際の基準の一つともなり得るのです。
事実、2015年に人材紹介会社「ワークポート」が転職者を対象に行なった調査では、「転職先の職場にあったら「志望度が上がる!」と思う施設は?」という質問に対し約3割の人が「社員食堂」と答えています。
人々の働き方が多様化する昨今では、雇用も流動的になっています。
優秀な人ほどよりよい条件を求めて転職を繰り返すことが珍しくはなく、いかに優秀な社員を獲得・定着させるかは企業にとって重要な問題です。
社員食堂の設置は、企業の採用力をアップする上で非常に有益な方法といえるでしょう。
社員食堂があれば、社員は忙しいときでも安価かつ栄養バランスの取れた昼食を食べられます。
コンビニやインスタント食品ばかりを食べていると、塩分や脂肪過多になりがちです。社員食堂で健康によい食事を口にし続けることが、従業員の将来的な病気リスクを低減させるかもしれません。
また、バランスのよい食事は、メンタルにも好影響を与えるのだそうです。ストレスへの耐性がアップして、社員は心身共に健康な状態を維持しやすくなるでしょう。
健康状態の悪化から従業員が欠勤もしくは求職すれば、労働力の減少は避けられません。
加えて企業には、医療費の負担も増加します。従業員が健康を害することによるデメリットは、企業にとって決して小さくはないのです。
社員食堂を設置して従業員が健康な状態を維持できれば、企業としての生産性の維持・向上が期待できます。
これは、今後労働生産人口の減少が見込まれている日本企業にとって非常に重要です。
現在日本では、政府主導による「健康経営」が推奨されています。以下は経済産業省のHPに記されている健康経営についての定義です。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。
出典:1.健康経営とは|経済産業省
HPでは、従業員の活力向上や生産性の向上が組織の活性化をもたらし、企業全体の業績アップにつながると記されています。
健康経営の観点から組織運営を行なう企業も増えており、社員食堂の設置・整備は経営戦略の一貫として広く認知されています。
社員食堂は、社員交流の場となることも期待できます。
勤務時間中は、社員同士が気軽に会話できる時間がないかもしれません。部署が違えばそもそも顔を合せることがなく、社員間のコミュニケーションはどうしても不足しがちです。
しかし社員食堂で並んで昼食を摂れば、必然的に社員間のコミュニケーションの機会が増えます。上司や部下、違う部署の社員がフランクに話し合えるようになり、垣根を越えた信頼関係を深めやすくなります。
横・縦の連携が強化されれば、社員同士で何かを頼んだり相談したりがスムーズになります。組織としての連帯感が増し、業務の効率化・品質向上につながるでしょう。
社員食堂の設置を検討する企業にとって、大きな壁となりやすいのがコストとスペースの問題です。
社員食堂の導入において「デメリット」といわれるポイントを見ていきましょう。
社員食堂は「食堂」である以上、設備を整えることが必須です。具体的には、以下のような設備が必要となるでしょう。
いずれも食品衛生法に基づいた仕様でなければ、営業許可を受けられません。社員食堂の規模にもよりますが、数百~数千万円の初期投資が必要となるでしょう。
高額な初期費用をかけて社員食堂を作っても、コストはそれで終わりではありません。
食堂を運営していく上での運営費も必要です。例えば、以下の費用が定期的にかかります。
また、高額な初期費用とランニングコストをかけて社員食堂を設置しても、社員が利用してくれるかどうかは分かりません。
もしも社員食堂が社員の望むものでなかった場合、利用率はグッと低くなるでしょう。
社員のための食堂を社員が利用しなかった場合、大きな赤字となることは避けられません。
高額な設備費やランニングコストが無駄になってしまうかもしれない危険は、常にあります。
社員食堂では、厨房設備を配置するスペースと食事スペースが必要です。自社ビルを持つ企業ならよいですが、そうでない場合は新たにスペースを探すのが難しいかもしれません。
別途新しい場所に食堂を作る方法もありますが、あまりにも離れている場合は社員食堂のメリットがなくなってしまいます。
スペースの問題から「社員食堂を作りたいけれど、作れない」という企業は少なくありません。
社員食堂の導入では、社員のニーズやコスト、導入後の運営までを見越さなければなりません。
社員食堂を導入するときの流れについて見ていきましょう。
社員食堂を導入すると決めたら、場所の確保が必須です。同時に社員のニーズ調査も行なって、「どのくらいの社員が社食を利用したいと思っているか」を明確にしましょう。
「利用したい」と答えた人数をベースに、どのくらいのスペースが必要となりそうかを考えます。
また、ニーズ調査では、「社員が社員食堂に何を望むか」についても答えてもらわなければなりません。
どんなにコストをかけた社食でも、社員のニーズがないならば無意味なものとなるためです。
例えば、以下のようなことをアンケートとして答えてもらったり、部署ごとに意見をまとめてもらったりしてみてはいかがでしょうか。
もちろん、社員の要望を全て聞けるわけではありません。しかし、社員のための食堂を作る上で社員のニーズを知ることは非常に重要です。
社員のアンケートが出そろったら、それをもとに運営方法を決めていきます。運営方式のほか、費用負担や清算方式、配膳形態などについてそれぞれ選択を行ないましょう。
社員食堂の運営方式には、主に以下の3つがあります。
先述した通り、自社に社員食堂を置くのは主に従業員規模の大きな会社です。社員食堂を自社運営するケースが多く、社員食堂のおよそ4割は直営方式で運営されているといわれます。
清算方式については、以下のようなものがあります。
近年では、清算の効率化を測るためキャッシュレス決済に対応する社員食堂も増加中です。
食事の配膳形態については、以下のようなものがあります。
このほか、外食産業が1ヵ所に複数のブランドを出店して運営する「ブランドコンセプト方式」も散見されます。
社員食堂を外部委託する場合は、業者を選定しなければなりません。社内にどのようなニーズがあるのかを踏まえ、適切な業者を選択しましょう。
業者を選ぶときのポイントは、以下の通りです。
業者を選ぶときは、必ず試食会を実施してもらいましょう。「食事代金がいくらで、どのくらいの量・質の食事が提供されるか」をきちんと確認します。
また、業者はそれぞれ企画書や提案書、見積書などを提示します。内容についてコストやメリット、どのようなメニューやイベントがあるのかをきちんと精査してください。
社員食堂を運営する際、注意したいのが税金や採算が取れるかどうかという点です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
社員食堂で食事を提供するとき、次の2つの要件を満たさない場合は従業員の給与に課税されてしまいます。
1 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
2 次の金額が1か月当たり3,500円(消費税及び地方消費税の額を除きます。)以下であること。
(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)
なお、ここでいう食事の価額は、次の金額になります。
1 弁当などを取り寄せて支給している場合には、業者に支払う金額
2 社員食堂などで会社が作った食事を支給している場合には、食事の材料費や調味料など食事を作るために直接かかった費用の合計額
メニューの価格を決める際は、食事費用の50%以上を従業員から徴収し、事業主の負担額が月3,500円(税抜き)に収まるよう注意してください。
繰り返しになりますが、社員食堂を導入することは非常にコストがかかります。企業負担は大きく、中小規模の企業ではデメリットがメリットを上回ってしまうかもしれません。
「それでもやはり福利厚生として食事補助を充実させたい」という場合は、社食サービスの導入を検討してみるのも一つの手です。
近年は広いスペースが不要な社食サービスの種類が増え、内容も充実してきました。自社にマッチしたサービスを選びやすく、社員食堂ほど高額な導入コストが掛かりません。
社員食堂を導入するよりは遙かに手軽に社員の食事補助を実現できるでしょう。
ここからは、社員食堂を導入しているさまざまな企業を紹介します。
人材派遣会社・パソナグループの社員食堂は、テレビ局が主催した「一度は行ってみたい社員食堂ベスト10」にランクインしたこともある人気の高い食堂です。
社員食堂は、地下と9階の2ヵ所に設置されており、ビュッフェスタイル。社員は好きな物を好きなだけ食べられます。メニューの野菜は社内で栽培された物が使われており、味も鮮度も抜群だそうです。
「ほぼ毎日社食」という社員も多く、利用率は高いと言えるでしょう。
日本を代表する総合不動産会社・三菱地所株式会社の社員食堂は、全241席(ラウンジ含む)と広いスペースに設置されています。朝食・打ち合わせなどにも使われることも多く、利用はランチタイムに限定されません。
本社社員850名と、近隣のグループ企業の社員、ゲストが利用でき、社長もしばしば姿を見せるそうです。
ランチはメインを選んでサラダやサイドメニューを好きなだけ取る形態なので、食事量の調整も容易です。食堂にはカフェも併設されており、サンドイッチや軽食もいただけます。
昼食時には利用者が増えますが、フレックス制なのでそこまでの混み具合にはならず、快適に食事を摂れるそうです。
こちらは「GLOBAL WORK」「LOWRYS FARM」といった人気ブランドを擁するアパレルメーカー。社員食堂は約110坪、204席のスペースにソファー席やテーブル席があり、社員はそれぞれ好きなように寛ぐことが可能です。
またWi-Fiやコンセントも完備されており、ランチタイムを外せば商談やワーキングスペースとしても活用できます。
食事はメインとサイドがセットになったデリプレートから、サンドイッチ、カレーまでバリエーション豊富です。お弁当も販売されており、気分に合わせて選べます。
ビルの高層階にあるため眺望もよく、社員食堂でのひと時が社員のリフレッシュにも一役買っているそうです。
社員食堂で食の福利厚生を充実させたい企業は、より手軽な社食サービスの導入から始めてみてはいかがでしょうか。
社員食堂を導入するよりも低コストかつ、企業ニーズに合うサービスがそろっています。
ここからは、特におすすめの社食サービスを紹介します。
画像出典元:「OISEEQ」公式HP
「OISEEQ」は初期費用・月額固定費が無料、注文した食事の実費だけで利用できるオフィス向けのフードデリバリーシステムです。
支払い方法も多岐に渡り、各種電子マネーやPayPay、クレジットなどのキャッシュレス決済が可能。さらに請求書払いや給料からの天引きもできるので非常に利用しやすいです。
さらに導入前のヒアリングでは希望する予算やメニューカテゴリなどの要件を丁寧に確認し、オーダーメイドでセッティングしてくれるという徹底したサポート体制も魅力です。
固定費用は完全無料。注文した食費分(1食540円〜)だけで利用できます。
利用する飲食店毎に配達の最低金額が設定されており、金額は1,200円〜という設定になっています。
希望する飲食店が会社から遠い場合、その距離に応じて最低金額が高くなる可能性はありますが、Uber Eatsなどのデリバリーサービスとは違って配送料が無料なので総合的に考えても非常に安価でお得に利用できます!
画像出典元:「オフィスde弁当」公式HP
「オフィスde弁当」は導入費用が無料。
さらに20個という少ない個数から提供してくれるため小規模の会社から大規模な会社まで幅広く利用できます。
社員食堂がない・会社の近くに飲食店が少ないなど、従業員のランチに困っている企業の福利厚生の一環として、かなりオススメのサービスです!
オフィスde弁当(毎日の必要個数が70個以下の場合)
・弁当1食333円
・初期費用無料
社食DELIプラン(毎日の必要個数が70個以上の場合)
・導入費、固定費0円
お弁当デリプラン(イベント・会議等の注文配達プラン)
・導入費、固定費0円
オフィスで手軽に健康的なランチがとれる「オフィスでごはん」プランでは、添加物不使用や国産食材など、健康にこだわった食事をオフィスで手軽にとることができます。
従業員は、お惣菜や主食などを1個100円から購入できます。
冷凍で日持ちが長い(2ヶ月以上)ので、管理も簡単。メニューのバリエーションが多く、毎日食べても飽きません。
約24,000円/月〜
画像出典元:「Office Premium Frozen」公式サイト
Office Premium Frozenは、健康的な食事をオフィスに常備することができる、宅配型社食サービスです。
近所に飲食店が少ない、休憩時間がバラバラで仕出し弁当の利用も不便という会社には特におすすです。商品の配達、在庫確認など面倒なことは一切不要でありながら、低価格で利用できるため、職場の福利厚生にも大活躍なサービスです。
初期費用は一切かかりません。
会社側が負担する月額料金は30,000円からとなっており、冷凍庫の設置台数により異なります。
また、⾷事に必要な消耗品も全てシステム利用料に含まれており、商品の買い取りも一切ない為、会社側が負担する金額は毎⽉固定になります。
社員食堂があれば、社員は安価で栄養バランスの取れた食事を摂りやすくなり、健康状態を良好に保ちやすくなります。
個々の生産性も向上し、これが企業全体の活性化にもつながるのです。
このほか社員食堂には、「福利厚生としてアピールできる」「企業ブランディングとして活用できる」などのメリットもあります。
ただし、社員食堂の導入には多額の初期投資と運用費が必要です。
せっかく作っても「社員が利用してくれない…」ということのないよう、社員のニーズにマッチした社員食堂を作りましょう。
社員食堂の導入・運用コストが高額過ぎて「採算が取れない」と感じる場合は、社食サービスの検討をおすすめします。
導入コストは社員食堂よりも遙かに低く、内容もバラエティに富んでいます。
今一度社員のニーズをしっかりチェックして、自社によりふさわしいサービスを導入しましょう。
画像出典元:Unsplash、Pexels