営利を目的とする法人の形態は、全部で「株式会社・合同会社・合資会社・合名会社」の4形態。
そのうち、会社を設立する際、圧倒的に多く使われるのが株式会社と合同会社の2形態で、合資会社や合名会社は、現状ほとんど使われません。
ではなぜ、ほとんど使われていない形態にも関わらず、いまだ残っているのでしょうか。
今回は、新規設立時に使われることが極めて少ない合資会社とはどんな会社形態か、設立のメリット・デメリットなどを詳しく解説していきます。
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現在「株式会社・合同会社・合資会社・合名会社」とあるなかで、それぞれ大きな違いとしてあげられるのが「責任範囲の違い」です。
この責任範囲とは、会社が倒産してしまった際、出資者が債権者に対してどこまで責任を負うのかを定めたものです。
会社法では、それらの責任範囲を「有限責任」「無限責任」の2種類に分けて定義しており、この責任範囲は会社形態によってそれぞれ定められています。
よって、合資会社をはじめ、各会社形態の違いを知るには、まず出資者の責任範囲である「有限責任」「無限責任」の定義を、それぞれ理解しておく必要があります。
会社が倒産した際、会社に債務があった場合は、出資した範囲内を上限とし、その責任を負うということになります。つまり、資本金などの名目で会社設立時に出したお金は一切返ってきません。
しかし、出資した出資額を上限としているため、それ以上支払い義務も発生しません。
会社が倒産した際、会社に負債があった場合はその負債総額を、みずからの財産を用いてでも債権者に返済しなければなりません。
よって、最悪の場合は自己破産に追い込まれる可能性もあります。
有限責任と無限責任には、このような違いがあります。
会社設立者からすると、責任の範囲が狭いほうが望ましいですよね。ですので、無限責任より有限責任が望ましいといえます。
前項までで、有限責任と無限責任それぞれの定義が理解できたかと思いますので、次に合資会社について解説していきます。
まず、合資会社は「有限責任社員」と「無限責任社員」の2種類の社員で構成されていることが大きな特徴です。
ちなみに、合資会社以外での責任範囲については「株式会社=有限責任」「合同会社=有限責任」「合名会社=無限責任」と、定められています。
合資会社では、有限責任社員を1名、無限責任社員を1名、計2名の人員をそれぞれ置く必要があり、合資会社として会社を設立する際は、最低2名以上のメンバーが必要です。
なお、合資会社では、同家族経営を前提とした小規模な会社がほとんどで、なかでも多いのが、酒造・醸造会社で、一部現在でもIT関連企業やタクシー会社などでも合資会社が使われています。
会社を設立する際、合資会社で設立することによって、いくつかメリットがありますので、どんなメリットがあるのか、ご紹介していきます。
まず、合資会社では、資本金を現金で準備する必要がなく、現物出資が認められているので、設立時の資金を調達する際の苦労をしなくても設立することができます。
また、株式会社に比べて設立時にかかる費用も安く、さらに設立する際の手続き方法も、それほど難しくないので、比較的手間やコストをかけずに設立することが可能です。
合資会社をはじめ、合同会社や合名会社、いわゆる持分会社では、定款自治の範囲が広く、会社法に違反しない範囲内であれば、各自自由に定款を規定することができるので、ある程度思い通りに運営していくことが可能です。
また、株式会社のように、決算公告の義務がないため、会社の決算書を作成するなどの手間がかからないのもメリットです。
設立費用も安く、比較的簡単に設立することができ、設立後の規定もあまり厳しくないという点では、個人事業主とあまり変わりはありませんが、個人事業主とは違って法人として税が課されるという点は、大きなメリットでしょう。
以上、合資会社で設立することによって、こうしたメリットを得ることをできます。
ただし、これらのすべてのメリットは合同会社でも得ることができます。
合同会社と比較したとき、目立ったメリットはないといえます。
さて、続いては合資会社で会社を設立することによって、生じるデメリットです。
前述のとおり、合資会社は有限責任社員、無限責任社員の両方で構成されています。
したがって、会社が倒産した場合、会社の負債の全責任を個人として負うことになりますので、有限責任の株式会社・合同会社に対してリスクが高いといえます。
合資会社で事業を行っていくには、有限責任社員1名、無限責任社員1名の、計2名以上の人員が必要となるため、常に自分以外の1名を雇いつつ、人件費を払っていかなければなりません。
株式会社、合同会社、合名会社については、1名のみで設立することが可能ですので、設立の条件である最低人員数だけを見ると、合資会社は特殊だと言えます。
持分会社のなかでは唯一、合同会社の知名度が上がっていますが、合資会社や合名会社の知名度は低いままです。
そのため、特に金融機関などから融資してもらいたい場合や、新規で取引をしたい相手側などから、信頼性の問題で断られるケースもあります。
前項でご紹介したとおり、合資会社もそれぞれメリット・デメリットは存在します。
しかしながら、結局のところ合資会社で設立するメリットは、ハッキリ言ってありません。
なぜならば、合資会社では「無限責任社員」という非常に大きなリスク、デメリットが存在しており、そのリスクを背負ってまで得られる目立ったメリットは、何ひとつ無いからです。
前項にて合資会社のメリットをいくつか挙げましたが、合同会社でも同様のメリットは得られます。しかも合同会社の場合は「有限責任社員」ですので、合資会社よりも倒産時のリスクが軽減されます。
つまり、合同会社という会社形態があるなかで、無限責任社員というリスクの高い合資会社をわざわざ選ぶ意味がないということになるのです。
同じ持分会社に属する合同会社と比較し、無限責任社員という極めて大きなデメリットを持ちながら、これといって目立ったメリットが感じられない合資会社。
現在、会社を設立する際に合資会社を選択する人は少なく、おそらく今後も合資会社を使って設立する人は減っていくでしょう。
ではなぜ、そのようにメリットもない会社形態が、未だ残っているのでしょうか?
それは、あえて無くす必要もないからです。
少々ふざけたような理由かもしれませんが、2006年に会社法が改正されるまでは、合同会社という会社形態は存在しておらず、代わりに「有限会社」という形態が存在していました。
当時は、株式会社・有限会社ともに資本金の最低額が定められており、株式会社で1,000万円以上、有限会社では300万円以上という資本金がなければ、設立することができませんでした。
一方で、合資会社は株式会社や有限会社とは異なり、資本金の最低額に規定がなく、手続き自体も簡単にできるということで、非常に設立ハードルの低い会社形態として、存在していました。
つまり、株式会社や有限会社のような厳しい法の下で会社経営するより、比較的自由に経営したいという人や、設立にお金をかけたくない人などが、合資会社を選んでいたわけです。
しかし、会社法が改正され、新たに合同会社が設けられた現在では、ほとんど合資会社で新規設立はなされておらず、かと言って廃止する理由もなく、ただ残されているということだけなのです。
今回は持分会社に属している形態のうち、合資会社について詳しく解説してきました。
合資会社は、会社法が改正される2006年以前までは、設立時のハードルも低く、比較的自由に経営できる形態として一定の需要はありました。
しかし、会社法が改正され、合同会社が設けられてからは、合資会社を新規で設立する人はほとんどいないというのが現状です。
営利目的で会社を設立し、その後ビジネスを展開していくということであれば、株式会社か合同会社を選ぶべきです。
株式会社か合同会社かで悩む方は、以下の記事を参考にしてください。
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