有限責任事業組合(LLP)と言う言葉を聞いたことがありますか。
平成17年に制定された会社法と同じタイミングで作られた「有限責任事業組合契約に関する法律」に基づいて作られた新たな事業形態です。
共同で営利を目的とする事業を営むための「組合契約」であり、組合員の責任の限度を出資の価額とするものに関する制度を確立することにより、個人又は法人が共同して行う事業の健全な発展を図り、もって国の経済活力の向上に資することを目的としています。
(参考:有限責任事業組合契約に関する法律)
今回は、有限責任事業組合の概要と株式会社・合同会社などの会社組織形態との違いやメリット・デメリットについて解説します。
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有限責任事業組合(LLP)は、イギリスを発祥とする事業組織の一形態です。英語名はLimited Liability Partnershipとなります。
「Limited(有限の)」「Liability(責任)」「Partnership(組合)」という3つの英単語が示す通り、出資者の出資分だけ(有限)に限られた責任に基づく事業組合であり、株式会社などの法人と同じような組織です。
ただ、法人は1つの大きな塊の中に、構成員としての社員が内包されているイメージであるのに対して、有限責任事業組合は個々の構成員が独立したまま連結しているようなイメージ。
つまり個人事業主のプロジェクトチームのようなイメージを持ってもらうとわかりやすいかもしれません。
有限責任事業組合(LLP)には、いくつか特徴があります。
その中でも「法人格がない」「有限責任」「内部自治」「構成員課税」という4つが、特に有限責任事業組合を説明する上で重要なポイントです。
有限責任事業組合は、参加する組合員が個性や能力を発揮しながら共同事業を行うことができる組織形態です。
そのため組合契約を基礎としているという特性上、法人格が存在しません。
この点が株式会社や合同会社のような法人格をもつ組織との大きな違いになります。
有限責任事業組合は、その名の通り責任に対しての有限性があります。組合員が出資の価額の範囲までしか事業上の責任を負わない有限責任制です。
この点は、出資分のみ有限で責任を負う株式会社や合同会社と同じです。
有限責任事業組合は、参加者同士の契約に基づく組合契約のため、他の法人形態と違ってかなり柔軟な内部自治が認められています。
そのため組合契約書によって組織構造を柔軟に設定でき、また組合員の組合事業への貢献度に応じて出資比率とは異なる損益や権限(議決権)の配分が可能です。
株式会社や合同会社が会社法というかなり厳格に規定された法律に従ったルールがあるのとは違い、有限責任事業組合については組織の内部ルールが法律などにより詳細に定められていないわけです。
有限責任事業組合については、法人のような法人税ではなく、あくまで構成員課税(パススルー課税)方式が採用されています。
そのため組合事業から発生する収益については、有限責任事業組合自体にではなく、損益配分割合に従って各組合員に帰属する利益に課税されます。
その点、赤字であっても均等割が課せられる株式会社や合同会社とは異なります。
有限責任事業組合(LLP)を設立、運営するにあたって挙げられるメリットは、設立費用、維持費用の安さ、そして内部自治による自由なルール設定などが挙げられます。
株式会社と比較した場合、まず有限責任事業組合はその設立費用の安さが大きなメリットです。
通常、株式会社を設立するには登録免許税、定款認証費用、謄本手数料などで合計25万円程度の設立費用が必要になります。(司法書士などへの専門家報酬は除く)
対して、有限責任事業組合の設立では、登録免許税が6万円かかる以外は、定款認証費用など株式会社で掛かってくる諸費用が基本的に必要ありません。
そのため設立費用という面では20万円近い差額が発生することになります。
また設立後、組織を運営していくにあたって、株式会社については定期的に一度役員の改選などに伴う株主総会や変更登記申請などが必要になりますが、有限責任事業組合については、そのような手続きは必要なく、同諸経費負担も掛からないと言うメリットがあります。
上にも書きましたが、有限責任事業組合は組合員同士の話し合いや契約によって柔軟な自治を敷くことができるのが特徴です。
会社法のような法律に定められた運営ルールのようなものがなく、全て組合員の契約内容に基づいた自治が認められています。
そのため株式会社のような出資比率に縛られた経営権限や議決権、配当分配率なども、有限責任事業組合については自由に設定することができます。
説明:株式会社では出資金額に応じて上下関係が生まれる。
説明:有限責任事業組合では出資金額に関係なく柔軟に設定可能。
有限責任事業組合は、株式会社のような法人ではありません。
株式会社の場合は、法人の利益に対して課税される法人税に加えて、法人から役員報酬などで支給された個人の収入に対しても所得税が課せられます。
つまり法人に対して課税されるほか、個人に対しても課税されると言うことで二重に課税負担が発生することになります。
対して有限責任事業組合は法人ではないため、組合の利益に対して法人税のような課税は発生しません。
組合の利益から分配された各組合員の個人収入に対しての所得税が課税されるだけなので、その点ではメリットと言えるかもしれません。
有限責任事業組合のデメリットは大きく2つあります。それは会計処理の複雑さと法人改租ができないことです。
まず有限責任事業組合は、法人ではなくあくまでも組合員の契約に基づいた集合体です。
そのため決算を迎えるにあたっては、確定申告を行いますが、法人のような決算に基づいた最終利益への課税は株式会社など法人と違い、あくまで組合員個人に対してされることになります。
これは構成員課税(パススルー課税)と呼ばれる課税方式ですが、それぞれの個人に対する所得税の計算をする必要があります。
通常の計算方法とは違う部分もあり、会計処理が複雑になる傾向があります。
法人税と所得税の二重課税がされないと言うメリットを享受できる反面、法人であれば認められる各種経費処理が個人事業として限定されるため、収入金額によっては逆に課税金額が増えてしまう可能性があります。
有限責任事業組合のもう1つのデメリットとして挙げられるのは、法人改組(法人成り)ができないと言うことです。
組合活動で上がる利益が増えてきた場合、個人事業主であれば法人成りすることで各種経費負担を計上することによって税額を抑えることができますが、有限責任事業組合ではこの法人成りをすることができません。
改めて法人化するためには、一度組合を解散して改めて法人を設立するという手続きが必要になります。
有限責任事業組合(LLP)は、株式会社や合同会社と同じく事業運営を行うための1つの形態です。
ただ法人格のような新たな人格を作るようなものではなく、あくまで個々の独立性を維持しつつ、事業を共同運営するための契約方法の一形態であることがお分りいただけたかと思います。
それぞれの事業運営形態の特徴やメリット・デメリットを十分に理解して、自身の事業に最適な形態を選択するようにしましょう。
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