中小企業をはじめとした多くの企業にとって重要となるのが「資金調達」です。
しかし、中小企業の場合は上場企業のように市場で株式を発行したり、高い信用力をもとに銀行融資を受けることが簡単には出来ないケースもあります。
そのような場合に使える方法が「私募債」の発行です。
今回は、私募債の一種である「少人数私募債」の概要からメリット・デメリット、実際に発行する際の手順について紹介します。
このページの目次
まず「私募債とは何か?」について整理しておきましょう。
私募債とは、会社が発行する社債の一種で、「しぼさい」と読みます。
社債という言葉もよく耳にしますが、社債は会社が主に資金調達を目的として発行する債券のことを意味します。
会社が新たにお金を調達する場合、株式を発行する方法もありますが、社債は決められた期日に元本や利息を支払う必要があるため、両者は性質の異なる資金調達方法と言えます。
企業が発行する社債は大きくわけて「公募債」と「私募債」の2つに分類されます。
両者の違いを簡単にまとめると以下の通りです。
証券会社を経由して、多くの人から募集を図る大規模な資金調達方法
少数の投資家から募集を図る比較的小規模な資金調達方法
私募債は、募集の対象を「限定」しており、少数の投資家から資金調達を行う点が特徴と言えます。
私募債にも2つ種類が存在します。
1つが「プロ私募債」と言われるもので、もう1つが今回紹介する「少人数私募債」です。
プロ私募債も少人数私募債も、募集の対象を限定し、少数の投資家から資金を募る点では共通していますが、主に以下3つの点で異なっています。
プロ私募債と少人数私募債の相違点をまとめたものが以下の表です。
少人数私募債の各内容は、「発行条件」と関連しているので、この後紹介していきます。
ちなみにプロ私募債の場合、募集対象が「機関投資家」となっています。
機関投資家とは銀行、生命保険会社、信託銀行などの大口投資家を指します。
続いて、少人数私募債を発行するための発行条件について確認していきます。
私募債を発行するための条件としては、金融商品取引法上の有価証券の募集に該当しないことが条件です。
日本証券業協会によると、有価証券の募集とは以下のように定義されています。
新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘のうち、①多数の者を相手方として行う場合、②勧誘対象者が適格機関投資家や特定投資家のみに限定されていない場合は、金融商品取引法上の「有価証券の募集」に該当する。
日本証券業協会より引用
難しい記述ですが、簡単に言ってしまえば、
①:多数の者を募集対象としない場合、それは有価証券の募集に該当せず、私募債となる
②:大口投資家のみを対象とした場合、それは有価証券の募集に該当せず、私募債となる
といった意味になります。
①が少人数私募債に該当し、②がプロ私募債に該当することとなります。
そして、少人数私募債においては、募集対象とする投資家は「50名未満」であり、発行総額は1億円未満であることが求められます。
50名未満と募集人数が限定されていることから「少人数」と名前が付けられています。
経営者の知人や取引先など、発行会社に協力的な人が引受の対象となることが一般的です。
実務上は保有人数を50名未満で保持するため、譲渡制限を設ける必要性もあります。
少人数私募債の概要がわかったところで、具体的なメリットとデメリットについて紹介していきます。
少人数私募債の主なメリットとしては、以下3つがあげられます。
まず1つ目のメリットは、資金調達のしやすさです。
銀行融資の場合と比べるとわかりやすいですが、銀行融資においては銀行の融資審査を受ける必要があります。
また、信用力が低いと判断された場合には、別途保証人の設定や担保の差入が必要となるケースがあります。
少人数私募債による発行の場合は保証人や担保に関する設定は不要となり、発行企業にとって負担が少なくなる点が大きなメリットとなります。
2つ目のメリットは、公募債よりも手数料を低く抑えられる点です。
公募債の場合は金融商品取引法上の「有価証券の募集」に該当するため、有価証券届出書という専門的な書類を作成の上届け出る必要があります。
少人数私募債の場合は有価証券届出書の作成が不要となるため、専門家への手数料が不要となり、結果的にコストを低く抑えられるというメリットが生まれます。
3つ目のメリットは、社債の発行条件を柔軟に決められる点です。
銀行融資や社債による資金調達の場合、ともに返済期間や利率、返済方法などを決める必要がありますが、銀行融資では企業側が自由にこれらの条件を決めることは出来ません。
少人数私募債の場合は、市場から直接資金を借り入れる直接金融のため、社債の償還期限や利率の設定などを自由に決めることが出来ます。
当然、社債の購入者である債権者側に不利な条件で発行することは認められませんが、比較的自由に条件を決められる点でメリットがあると言えます。
続いては、少人数私募債のデメリットを見ていきましょう。
少人数私募債の主なデメリットとしては、以下3つがあげられます。
1つ目のデメリットは、元本の一括償還(返済)が必要となる点です。
企業側が決めた償還期限が到来した場合には、予め決められた金額を債権者に返済する必要があります。
当然のことではありますが、償還時にはまとまった大きな金額がキャッシュアウトすることになります。
少人数私募債の償還時に運転資金に影響を与えないか、事前にシミュレーションをしておくと良いでしょう。
2つ目のデメリットは、財政状態によって少人数私募債の発行が出来ない点です。
公募債よりも比較的容易に発行することは可能ですが、あまりにも財政状態が悪い場合には少人数私募債の発行が出来ないため注意です。
言い換えれば、少人数私募債の発行は日々の運転資金を確保する目的には向いていないということになります。
3つ目のデメリットは、銀行に私募債を引き受けてもらえる場合の手数料の高さです。
少人数私募債は、社長の知り合いなど、発行企業に協力してくれる人を対象とするとお伝えしましたが、実際に引き受け手が見つからないケースもあります。
そのような場合には、銀行に引き受けてもらうことも可能ですが、諸々の手数料や保証会社への保証料など、様々な費用が発生する点に注意しましょう。
実際に少人数私募債を発行して資金調達をする場合の手順について確認していきます。
少人数私募債発行の手順は以下図のような5ステップに分類することが出来ます。
以下では、各ステップの概要と必要資料について解説していきます。
まず最初に、少人数私募債を発行する目的を設定します。
より具体的には、何のために資金調達をするか明確にする必要があります。
調達した資金を何に使いたいのか、事前に社内ですり合わせをしておきましょう。
資金調達の目的が設定出来たら、私募債発行に関する決議をする必要があります。
社長の独断で資金調達は出来ません。
取締役会設置会社であれば取締役会決議(非設置会社であれば株主総会決議)の承認を得る必要があります。
いずれの場合でも、「決議に関する書面」を作成する必要があります。
決議承認を経た後は、少人数私募債の発行条件を設定していきます。
具体的には、募集する金額、償還期限、利率、償還の方法などを決めた上で「社債募集要項」を作成する必要があります。
後のステップで実際に引き受けてくれる人を勧誘するため、募集要項が決まり次第、説明用資料を作っておいても良いでしょう。
柔軟に社債発行条件の設定が出来るステップとなるため、社内状況に応じて検討、設定するようにしてみてください。
発行する少人数私募債の内容が決まったら、実際に私募債の勧誘を進めます。
この段階では、実際に資金提供者となってくれる債権者を探すことになります。
少人数私募債の概要で紹介したように、募集人数が50人未満、つまり49人以下となるように勧誘しなければならない点に注意してください。
本来は事前に引き受け先を洗い出しておくべきですが、仮に身内や知り合いから引き受けてもらえない場合は、別途銀行に引き受けてもらうなどの選択肢も検討した方が良いでしょう。
実際の引き受け先が決まった後は、少人数私募債を発行し、入金管理や発行管理をしていくことになります。
まずは、私募債の引き受け先に対して、引き受けた口数や金額、振込先を記載した「社債募集決定通知書」を対象者に送付します。
その後、対象者から購入金額に相当する金額を振り込んでもらいます。
実際に入金を確認した後は、少人数私募債を発行し、「社債原簿」を作って管理していきます。
後は、予め設定した募集要項に従い、利息の支払いや元本の償還を進めていけば問題ありません。
銀行側が保証してくれる銀行保証付き私募債のような場合は、実際の事務作業は金融機関側がサポートしてくれることが多いです。
しかし、私募債発行の全体的な流れはしっかりと理解しておきましょう。
これまで紹介してきたように、少人数私募債は銀行融資に比べて資金調達しやすい方法と言えます。
しかし、「銀行からの融資を受けられない」との理由で私募債の発行を利用するのはやめた方が良いです。
理由は、私募債を利用した資金調達は(短期的には)運転資金の確保に繋がりますが、根本的なキャッシュフロー改善には繋がらないからです。
少人数私募債は、キャッシュフローには問題ない前提で、新たな事業投資や設備投資用の資金を柔軟に確保したい場合に、積極的に利用するようにしてみてください。
また、初めて社債を発行する企業の場合、新たな勘定科目の設定や仕訳処理を間違えないように事前に確認しておきましょう。
今回は、少人数私募債の概要やメリット、デメリット、そして資金調達の手順まで幅広く紹介してきました。
初めて少人数私募債を発行してみようと考えている方も多いと思うので、まずは自社の状況を整理した上で、私募債の発行が目的に合致しているか検討するようにしてみてください。
少人数私募債の発行を検討している企業担当者の参考になれば幸いです。
画像出典元:Shutterstock
この記事を書いた人
TAK
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