自営業者は会社員と比べると公的年金・公的社会保険の給付内容が薄いです。
その「差」を正しく理解して、必要な備えを、必要な分だけ用意しましょう。
この記事では、自営業の人が加入できる健康保険と年金を詳しく解説。家族の生活を守るために入っておきたいおすすめの保険も紹介します。
本記事を読めば、あなたが本当に「備えるべきお金や保険」がきっと分かります。
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上記の表のように、会社員と自営業者とでは大きな違いがあります。
簡単にまとめると、自営業になると、公的保険に関しては、以下のようなデメリットがあると言えるでしょう。
つまり、労働保険は加入できなくなり、社会保険料の負担感は増えるのに、年金・医療の給付額、給付内容は大幅に減ってしまうということです。
健康保険は大きく分けると、次の2つに分類できます。
①健康保険【保険者:協会けんぽ、健康保険組合】
②国民健康保険(国保)【保険者:市町村と都道府県(共同保険者)、国保組合】
一般的には、①が会社員の方が入れる健康保険で、②が自営業の方が入れる健康保険です。
①の中でも、保険者(=運営主体)の違いがあります。
お勤め先が中小企業だと、保険者が協会けんぽ(全国健康保険協会)で、大企業だと健康保険組合です。
保険者の違いはあれど、どちらも保険料は、会社と本人が半額ずつ負担します。
②が主に自営業者や会社員以外の方が加入する国保ですが、国保の保険料は全額本人負担です。
一般的には個人事業主は国保に入り、保険料は全額自己負担なのですが、「会社員を退職して個人事業主になる方」には、期間と条件限定で3つの選択肢があります。
その選択肢によっては、保険料負担がないものや、負担は同じ「全額」でも、中身である「金額」が変わってきますので、紹介します。
ちなみにこの3パターンを、先ほどの健康保険の分類に当てはめると、①の国保は国保(=自営業者の健康保険)、②の任意継続と③の扶養が会社員の健康保険のグループに入ります。
そのうち、③の会社員の配偶者がいる場合というのは、そもそも配偶者も自営業者の場合は、この選択をすることはできません。
また、収入要件があるので、基準の年収を超えていると、健康保険の扶養には入れません。
例えば、会社員の妻がいて、夫である自分が個人事業主になる場合、開業当初で年収が130万円未満(60歳以上の方は180万円未満)だという場合は、妻の扶養に入ることができます。
年収要件が、開業当初から超えている場合は当初から、途中で超えた場合は、それ以降は扶養には入れませんので注意が必要です。
①の国保も、②の任意継続も保険料は「全額自己負担」ですが、「金額」はそれぞれ異なるため、事前に調べてから、どちらに加入するかを判断する方がいいでしょう。
というのも、国保は住んでいる市町村によって保険料が違うのと、前年の所得金額に応じて保険料が計算されるので、前年に沢山稼ぎがあった方は保険料が高くなります。
また扶養家族が多い方も、国保には扶養の概念がないので、1人1人が被保険者となり、保険料は被保険者の全員分がかかります。
それに対して、協会けんぽや健康保険組合の任意継続は、退職時の標準報酬月額で保険料が計算されるのですが、保険料の上限額が予め決まっているので、稼ぎが多い方にとっては、国保より安く済む場合があります。
また扶養家族が多い方も、任意継続でしたら、扶養家族も被扶養者として、任意継続の方(被保険者1人分)の保険料のみで最長2年間は加入できます。
これらは、個人ごとに事情(住所地・扶養家族の人数、所得金額)が変わりますので、どの健康保険へ加入するかを決める際には、ご自分でお住いの市町村や、住んでいる支部の協会けんぽ等に問い合わせをする等して、見込みの保険料額をお調べください。
また、任意継続は、退職前の会社員(健康保険の被保険者)だった期間が2か月以上ある方で、退職から20日以内に手続きをしないと、なれません。この日にちは厳守なので、これを超えてしまってからでは②の選択もできませんので注意が必要です。
健康保険の給付内容の手厚さを順番に表すと、以下のようになります。
会社員の健康保険(組合>協会けんぽ)>自営業者の国保・任意継続の健康保険
会社員の健康保険は、私傷病で仕事を休業した場合に「傷病手当金」が出て、産前産後休業中に「出産手当金」が出ますが、自営業者の国保や任意継続の健康保険では傷病手当金・出産手当金は出ません。
会社員から自営業者になる場合、介護保険は変わりませんが、雇用保険・労災保険に入れなくなるのが大きな違いです。
雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」といいますが、そもそも「労働保険」は雇用されている「労働者」のための保険なので、自営業者は加入できません。
労災保険は特別加入の制度を使えば、事業主も加入できる場合がありますが、雇用保険にはそのような特例は一切ないです。
そのため、失業給付や教育訓練給付金、育児・介護休業給付金などは使えませんので、この点をしっかりと理解しましょう。(※教育訓練給付金は退職後1年以内なら利用できる場合もあります。ご自身が要件に該当しているかどうかは、住所地のハローワークでご自身でご確認下さい。)
そもそも、日本は「国民皆保険」「国民皆年金」の国なので、何かしらの健康保険、年金制度に必ず加入しなければなりません。
国民年金ですと、原則20歳以上60歳未満の方は、上記の1~3号被保険者のいずれかに属しています(2号被保険者である、厚生年金被保険者は最長で70歳まで厚生年金に加入できます)。
よく年金制度は1階建て・2階建てといいますが、上記の緑色になっている部分が「1階建て」の国民年金(基礎年金部分)で、水色になっている部分が「2階建て」の厚生年金(報酬比例部分)です。
会社員(2号被保険者)は厚生年金に加入すれば、自動的に国民年金(基礎年金部分)の保険料も納めていることになるので、1階部分と2階部分の両方が将来年金として貰えます。
その代わり、給与や賞与額に応じて保険料を負担しますので(上限はありますが)、労使折半とはいえ、稼ぎの多い人はそれなりに保険料負担が大きくなります(その点で3号被保険者の保険料負担がないのです)。
それに対して、自営業者(1号被保険者)は、強制加入としては1階部分の国民年金(基礎年金部分)だけです。保険料も所得の多寡に関わらず、一律の月額16,540円(令和2年度金額)です。
会社員と同じように、2階部分にあたる公的年金が欲しい場合は、国民年金基金への加入や付加保険料を納める等、任意に国民年金プラスアルファをする必要があります。
そもそも、年金と聞くと、老後の保障しか浮かばないという人もいるかもしれませんが、実はそれ以外の事由でも貰えます。
【年金の支給事由】
①老齢
②障害
③死亡
そして、以下のようにそれぞれの年金に1階建て部分と、2階建て部分があります。
会社員から自営業者になると、厚生年金(1+2階)から国民年金(1階)へ移動することになります。
もしも障害と死亡の支給事由に該当した場合は、「その時点での厚生年金の被保険者かどうか」で判断します。過去に加入していたかどうかは関係ありません。この支給事由が発生した時点で厚生年金の被保険者でないと、障害と死亡の2階部分の給付は受けられません。(老齢年金は、厚生年金の加入期間に応じて支給されるので、1か月以上加入期間があれば、将来出ます)
したがって、会社員から自営業者になった後に、被保険者に「障害・死亡」の事由が発生した場合は、公的年金だけでは給付内容が薄くなってしまうと言えます。
これまでに見てきたことのおさらいにもなりますが、会社員と比較した場合、以下の理由から自営業者(個人事業主)は公的医療保険・公的年金以外に、日頃から備えをしておくべきです。
①傷病手当金・出産手当金がないため(健康保険)
②国民年金は基礎年金部分(1階建て部分)のみのため(年金)
③雇用・労災保険に加入できないため
④年次有給休暇(有休)がないため
もちろん、はじめから貯蓄が潤沢にあるという方は、いざという時に、貯金で対応できるかもしれません。
が、そうではない場合、民間の保険商品や、様々な制度・サービスをつかって、今から備えるということも非常に有効です。
自営業者が備えておきたいお金には、以下のようなものがあります。
①病気やケガで入院した場合の治療費
②病気やケガで就業不能になった場合の生活費
③老後の生活費
④死亡・高度障害になった場合の、残された家族の生活費・子供の教育費
⑤資格取得等、更に専門性を高めたいときの教育・キャリアアップ関係費
⑥事業上で生じる損害賠償責任に対する準備金
会社員と共通するところも勿論ありますが、前の章でみたとおり、公的年金・公的社会保険の内容が会社員より薄い部分は、自分でより手厚くするしかありません。
また、会社員は事業上の損害賠償責任等に備えるための保険を、会社がかけていると思いますが、個人事業主になると、それも自分で備えないといけません。
自営業者(個人事業主)が入っておいた方がいい、民間の保険商品には、以下のようなものがあります。
ご家庭の状況や、ご自身やご家族の希望、毎月払い込める保険料の金額、自営業の業種等によって必要な保険は変わってきますので、この全部に入らないといけないわけではありません。
ご自身にとって「本当に必要な保障内容」は何かといった視点で選びましょう。
それでは、次からは各保険の詳細をみていきましょう。
病気やケガによる入院や手術の際に、給付金を受け取ることができる「医療保障」に重点を置いた保険です。
様々なタイプがありますが、給付の対象をガンに絞った「がん保険」やガン・急性心筋梗塞・脳卒中の三大疾病になった場合に保険金が出る「特定疾病保障保険」等があります。
特に自営業者の方に加入を勧めたい保険が、「所得補償保険」です。
この保険は、病気やケガで就業不能となった場合に、その間の損失を補償することができる保険です。保険料は生命保険料控除の対象です。
また、特約によって、死亡や後遺障害も併せて担保できます。
会社員の方にとっての傷病手当金のような補償内容と言えるでしょう。
注意する点がいくつかあります。
1つ目は「就業不能」というのが全く仕事ができない状態のことを言いますので、入院しているかどうかは関係がないことです。また、会社や事業の倒産によって仕事ができない場合は出ません。あくまで病気やケガによる場合が対象です。
2つ目は、就業不能の発生に関わらず、利子・配当所得や不動産所得などから得られる収入(=不労所得)のみでも生計が維持できる人は、そもそもこの保険に入れません。
3つ目は、名称がよく似たものに、生命保険の一種である「収入保障保険」がありますが、収入保障保険は死亡保障ですので、「補償」と「保障」と字が違うように、全く給付内容が違いますので、加入の際は名称・内容にご注意ください。
医療費用保険は、病気やケガで公的医療保険制度を利用して入院した場合の費用のうち、公的医療保険で支払われない部分(一部負担金・差額ベッド代等)を実損てん補する保険です。
また、介護費用保険は、被保険者が寝たきりまたは認知症により、一定の要介護状態になった場合に、介護に要した費用等が支払われる保険で、保険期間は原則終身(一生涯)です。
医療費用保険も介護費用保険も、保険料は生命保険料控除の対象です。
生命保険とは「人の生死に関して一定の金額を支払う保険契約」のことです。
生命保険のうち、「定期保険」がいわゆる「掛け捨て型」の保険で、一定の保険期間内に被保険者が死亡・高度障害状態になった場合にのみ保険金が支払われます。
保険料が安く、十分な死亡保障を確保したい場合の利用価値は高いですが、満期保険金はないので、貯蓄性はありません。
それに対して、「終身保険」は保険期間が一生涯続く保険で、こちらも被保険者が死亡・高度障害状態になった場合に保険金が支払われます。
人の死は必ず訪れるので、必ず保険金が出るため、相続対策として利用する人も多いです。
終身保険にも満期保険金はないのですが、保険料の多くが積立部分(=解約返戻金)に回されるので、貯蓄性も高いです。
ですので、例えば、子供が進学するタイミングで解約して、受け取った解約返戻金を教育費に充てたり、老後を迎えた時に解約して、解約返戻金を老後の資金に回したり、そのまま一生涯の保障として継続することもできるため、非常に使い勝手がいいのが特徴です。
ただし、解約時期によっては、解約返戻金が払込保険料を下回ることがある点には注意が必要です。また、定期保険と比べると、そもそもの保険料が高いです。
最後に「収入保障保険」ですが、先ほど所得補償保険のところで少し触れましたが、こちらは被保険者の死亡または高度障害の際に、保険金を年金形式で受け取ることができる保険商品です。
被保険者が亡くなった場合に、残された遺族の方の月々の生活費に充てるようなイメージです。
保険金を一時金で貰うこともできますが、その場合、年金形式で受け取る総額よりも少なくなるので、お葬式代等に充てることを想定している場合には不向きです。
個人年金保険は、保険料払込期間中に資金を積み立てて年金原資をつくり、あらかじめ定められた年齢から一定期間にわたって、年金を受け取る保険商品です。
年金受取開始前に、もしも被保険者が死亡した場合は、既払込保険料相当額の死亡給付金が支払われます。
また、要件に該当すれば、個人年金保険料控除を受けることができます(要件に該当しない場合は、一般の生命保険料控除の対象)。預貯金で老後資金をつくるよりは、毎年の節税対策にもなるという点でメリットがあります。
PL保険は、製造または販売した商品などを他人に引き渡した後に、もしくは仕事を行い、終了した後に、その物の欠陥や仕事の結果によって生じた、偶然の事故により、他人の身体や財物に損害を与え、損害賠償責任を負うことによって被る損害に対して、保険金が支払われる保険です。
例えば飲食店やお弁当屋さん等で食中毒が発生した場合や、納品物に欠陥があり、他人にケガをさせてしまった場合などが当てはまります。
この他の賠償責任保険ですと、施設所有(管理)者賠償責任保険などもあります。
こちらは建物を所有したり、店舗を借りて行う事業で、例えばカフェでお客様にコーヒーをこぼしてしまった場合や、店舗の床の傷みでお客様が転倒してしまった場合などに賠償責任を補償する保険です。
いかがでしたか。
会社員から自営業(個人事業主)に変わる際の、公的社会保険(医療・雇用・労災)、公的年金がどう変わるが、しっかりとお分かり頂けたかと思います。
内容やしくみを正しく理解すれば、必要以上に不安がることもなく、最低限、足りない部分を補うだけの「備え」をすればいいことが見えてくるはずです。
民間の保険商品やサービスもうまく利用して、少しでもご自身やご家族の方の安心に寄与できればいいと思います。
画像出典元:Pexels
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