2020年の東京駅オリンピックに向けて、道路や鉄道、公共施設を始めとしたインフラ整備に伴い、活気を帯びている建築業界。
そんな建築現場を支えているのは、300万人にも上る職人たち。しかし、彼らのほとんどが個人事業主のため、施工管理者が人を集めるのも一苦労。職人自体が単独で仕事を探すのも、人脈頼みのアナログ状態だという。
そこに大きな改革をもたらしたのが「株式会社助太刀」がリリースした、建設現場と職人をつなぐアプリ「助太刀」。
サービススタートから、たった1年10ヶ月でユーザー数が10万人突破。勢いに乗る助太刀だが、建設現場にターゲットを絞ったサービスは、いったいどのようにして思いついたのだろうか。
『助太刀』はアプリの開発や運営の会社ではありません。我々が目指すのは“建設業に従事するすべての人たちを支えるプラットフォーム“なんです
と語るのは、代表取締役・我妻陽一。
小学校の卒業文集では、「将来の夢は経営者」と書いていたという。
プロフィール
我妻陽一
ー旧来にはなかった、建設現場と職人を結びつけるこのようなサービスはどのようにして思いついたのでしょうか?
我妻:僕は元々、大手電気工事会社で、施工管理をしていたんです。いわゆる現場監督をやっていて、そこで現場のIT化が遅れているのを目の当たりにしたんです。
現場で一番困ったのが、職人を集めることだったんです。いまだに仲間からの紹介というような形が多く、連絡手段が電話連絡のみというのも当たり前だったんです。
もう一つの問題として、囲い込みの習慣が残っていたんですね。電気工事士や、大工さんが持っている資格やスキルは全く同じなのに、一つ元請けが変わると(職人同士の)横のつながりが全然なくなるんです。
ーそのような状況では、インフラ整備に関わる大きな事業などで人を手配するのも難しいのではないでしょうか?
そうなんですよ。新聞などでも、職人不足のためにオリンピックの建設が間に合わないのではないかという問題が取りざたされています。
それにも関わらず、重層下請構造(注:元請業者の請け負った工事の一部を下請け業者が請け負い(1次下請け)、それがさらに2次3次と下請け化される状態を指す)というのですが、
末端に行けば行くほど、取引先が一つしかないので、忙しい時は、人が足りないほど業務があるのに、現場が終わってしまったら次の現場まで開いてしまうという状況が起きてしまうんです。
ー建設業界自体のあり方が、現代には則さなくなっているのかもしれませんね。でも、個人単位である職人たちをまとめるのは難しいと思いませんでしたか?
かつては職人向けに求人雑誌なども創刊されていましたが、マッチングと求人って違うんですよ。
求人は社員を募集すること。でも職人が330万人いても、実はその中で社員は40万人ほどしかいないんです。そこで、必要だったのは事業会社と職人とのマッチングだったんです。
ところで、建設業って、職種がいくつあると思いますか?
ー職種ですか? 電気工事や配管工というような職種ですよね。20、30種類くらいですか?
実は建設業界の職種って、細かく見ると70職種以上あるんです。助太刀では、現在76種類扱っています。
ー(驚いて)そんなに細分化されているんですね! その分野に長けた職人を探すのは、至難の業になりそうですね。
一般の方にはなじみがないかもしれないですが、兼業がないんです。殆どの職人さんは1職種しかやらないんです。今まで、建設業界向けの専門誌などが発行されていましたが、うまくいかず撤退しています。
ウェブサイトなどでのサービス提供も何件か運営されましたが、職人さんたちがパソコンを持っていないため、こちらもサービスとしてはうまく稼働できなかったんです。
ー既存のサービスたちが撤退を余儀なくされた中で、あえて建設業界向けのマッチングサービスを提供するのに、不安はありませんでしたか?
僕らがリードカンパニーになれたのには理由があります。
それはほとんどの人が「アプリなんて作ったって、職人に使えるわけがないだろう」「職人がスマホは持っていない」という反応だったんです。
でも現場でいつも職人さんが休憩をしている時、みんなすごくスマホをいじっていたんですよ(笑)。
僕はそういう先入観に対して、こう思ったんです。
職人とスマホは相性がいいので、職人さんでも使えるUI(ユーザーインタフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)にこだわってアプリを開発すれば、きっと使ってもらえるって。
ー実際に利用している職人たちがアクティブに利用するようになった決め手は何だったと思いますか?
アプリでは、職種以外にも居住地を入力できるようにしたんです。そのため、近隣圏で同じ現場に行ける人がリコメンドで上がってくる仕様になっています。
そして、「この人いいな」「この現場いいな」と思ったら、「興味あり」と入れられる、twitterのフォローのような機能を搭載しています。
ここで相互フォローになると、メッセージのやり取りなどからコミュニケーションを取ることができます。
ーサービス内容は斬新ですが、使い方はあくまでオーソドックスで誰でもわかるような仕様で作られたのですね。新規のサービスですが、ユーザーの信頼を得るために、どのようなことを心掛けましたか?
おかげさまで、今年10月で登録ユーザーが10万人を超えました。
今では、連絡手段としてうまく「助太刀」を活用し、LINEのような使い方をされている職人さんもいます。このように幅広く使われるようになったのには、評価システムを導入したのも大きかったと思います。
職人さんは、個人だったり、人を集める側の現場監督になったりとその時によって立場が変わるときがあるんです。そのため、相互で評価ができるシステムを取り入れています。また、本名登録を徹底しています。
ーこれまでの建設業界は、人脈に頼る部分が大きかったことを考えると、本名登録や評価システムなどはかなり画期的な分、批判もあったのではないでしょうか?
最初、ユーザーが1万人になるまでは、本当に大変でした。
それでも、3回警告して、名前を本名にしなかった場合にはアカウントの停止措置を行いました。
このような取り組みが、信頼性評価につながっていると思います。
現在は、大手金融会社と提携しフィンテック事業(注スマートフォンを使った送金というようなICTを駆使した金融サービスなどを指す)も手掛けています。
自社が提供している「助太刀Pay」を使うと、即日で工事代金を、仕事が終わった時点で受け取ることができます。
また、弊社のプリペイドカード「助太刀カード」には、仕事中における怪我を補償する傷害保険も付帯しています。すべて、アプリ上からの操作で、利用することもできようにしています。
ー建設業界自体の構造改革にも影響を与えるサービスといえますね。
建設業界への若年入職率が低いのは、こういったICT化の遅れのせいも影響しています。建設業界で働く人たちの経営の安定や、環境改善もできたらと感じています。
―今度の展開ですが、国内以外にも海外も視野に入れているのでしょうか。
我々は2013年以降は海外進出をしていくと当初から投資家へ説明しています。
東南アジアがメインでベトナム、インドネシア、フィリピン、タイ。
このような国では建設業従事者が1,000万人を超えていて、急成長しています。さらに外国人の出稼ぎ労働者も多く、「助太刀」のビジネスモデルと相性が良いと考えています。
―我妻さんは、子どものころから起業家を目指していたんですよね。
はい。小学校の卒業文集でも将来の夢は経営者と書いていましたから、ブレていません。
実は、この助太刀が2度目の起業です。1度目は電気工事会社を起業しました。
しかし、この時は「起業」が目的なところがあったので、前職の電気施工管理の仕事やネットワークを活かせるということで、電気工事を選んだところが大きかったです。
その会社がもうすぐ10周年を迎えるという頃、建設業で銀行から借り入れをして事業を大きくしていくというやり方では、結局下請けになってしまうので「経営の自由度」が無いと気づきました。
これでは、自分がやりたかった「起業」では無いのでは無いか…と疑問を持つようになったんです。
―事業について迷いが生じるような状況を、どのようにして打破しましたか?
当時私は池袋に住んでいたので、池袋にある立教大学のMBAに通うことにしました。
そこで、シリコンバレーで当時話題になっていたUberやAirBnBを知ったんです。「これは、全然違う」とすぐに直感で感じましたね。
―具体的には、どのような部分が画期的だったんでしょうか。
まず、イノベーティブなビジネスモデルを考え、VC(ベンチャーキャピタル)からエクイティ(株主資本)でファイナンスをする。そして彼らのネットワーク力を使ってビジネスを急拡大する。
そうじゃ無いと社会を変えるようなビジネスはできないし、自分がやりたかった「起業」はこれだ。と気づいたんです。
―起業する際の資金調達など、スムーズに行えましたか?
助太刀は活動からわずか2年しか経っていないのですが、社会的な課題に取り組んでいる、マーケットが大きい、今まで誰もやっていなかった。
という3つの理由から様々なメディアに取り上げていただき、約13億円の資金調達をエクイティのみでしてきました。日本のスタートアップの中でもかなり急スピードで資金調達ができたと思っています。
―我妻さん自身が起業をするにあたって、MBAに通われていますが、身に着けておいたほうが良い技術や知識などありますか?
私は、立教大学のMBAの同級生(台湾人の女性)と起業したのですが、2人でプログラミングスクールに行って、プログラミングを勉強して助太刀のプロトタイプを発表したんです。その卒業式にVCが何社か来ていて彼らの中で一気に話題になり、資金調達につながりました。
開発の人たちやアライアンス先の技術系の人たちと話す時に、最低限その時に学んだ知識の必要性は感じることがあります。やはり、「Webもアプリもサーバーサイドも分からない」という状態では、いくらCEOとはいえITの事業では厳しいと思います。
―我妻さんは起業される前に、社会人経験や、MBAなどいろいろな経験をされています。
これから起業を考えている人にとって、そのような会社員としての経験は必要だと考えますか?
アメリカではザッカーバーグなどの極端な1例があるので意外かもしれませんが、実は、成功したスタートアップのCEOの平均年齢は30代後半でほとんどはtoBだというは有名な話です。
しかし日本だと、どうしてもスタートアップ=大学生起業家みたいなイメージがあります。
僕は「社会的課題をITの力で革新する」という今のビジネスモデルに誇りを持っているし、起業家たる者はそういうものに挑戦していくべきだと考えています。
できれば一度は大企業で働いて、その業界や社会のことを知って、そこで経験したビジネススキルや知見を活かして起業した方が良いと思っています。
―目標や参考にしている人物はいますか?
孫さんは尊敬しています。一代で利益1兆円の企業を築いたのは到底真似できることでは無いと思いますし、本もすべて読んでいますが、数々の名言も心に響きます。
―人生訓のようにしている言葉や、愛読書などありますか?
経営に関しては「迷った時ほど遠くを見よ(孫正義)」、本は「小説上杉鷹山(童門冬二)」を参考にしています。すごく面白い本なので、ぜひ読んでみてください。
―お話を伺っていて、悩んだり迷われたりせずにすぱっと判断されるような印象を受けたのですが…。
実際は悩んだ時や迷ったときは、どのようにして判断しますか?
Do the right thing です。僕も実は、学生時代は勉強もいい加減で他責でダメなやつでした。社会人になってから、ハードワークで鍛えられましたね。
―経営者となると、プライベートと仕事との切り替えが難しいように見えますが、仕事に行き詰った時や、気分転換の過ごし方はどのようにしていますか?
週1でジムに行って筋トレをしています。あとは、休みの日にランチでビールやワインを飲んで昼寝です。
あとは、日常生活の中では、怒らないように気を付けています。
―公私のメリハリのつけ方が、発想力にもつながっていそうですね。ありがとうございました。
“裸眼のVR”で新しいバーチャル表現で池袋のカルチャーとコラボレーションするkiwamiの取り組みとは
日本のHR市場がこれから目指すべき、TalentXが描く「タレント・アクイジション」の世界
TalentX代表 鈴木貴史氏
「上場=目的達成のための手段」Kaizen Platformの創業者が語る“上場”とは
ビジネス書大賞『売上最小化、利益最大化の法則』の作家に聞く 「利益率29%の⾼収益企業を作る方法」
資金調達に新しい選択肢を。ブリッジファイナンスとしてのファクタリングを「PAY TODAY」が解説
【令和の渋沢栄一になる】エンジェル投資で日本にイノベーションを
米国新興市場上場を経て10億円を調達 「代替肉」で社会課題に取り組むネクストミーツの歩み
海外で活躍する女性起業家の実態 〜2児のママがシンガポールで起業した理由とは?株式会社ハニーベアーズ〜
湊 雅之が見る欧米と日本のSaaS業界の違い | 注目海外SaaS 6選
BtoB/SaaSベンチャー投資家 湊 雅之
広告事業だったのにコロナ禍で売り上げ上昇! 〜売り上げ90%減からの巻き返し〜
代表取締役 羅 悠鴻