「受注産業」からの脱却を目指す凸版印刷のスタートアップ協業とは

「受注産業」からの脱却を目指す凸版印刷のスタートアップ協業とは

記事更新日: 2019/09/11

執筆: 大野琳華

弊社プロトスター株式会社が運営する、起業家と投資家のためのマッチングプラットホーム「StartupList」。

今回は凸版印刷より、スタートアップと新たな社会的価値創造を目指すトッパンの戦略投資センターに所属する江口さんと坂田さん、スタートアップのためのオープンイノベーションプログラム「co-necto」を担当する福島さんに取材しました。

老舗企業である凸版印刷がどのようにしてスタートアップと向き合っているのか、その事業内容に迫ります。

プロフィール

江口博志(中央)

1994年凸版印刷入社 新事業開発本部戦略投資センター所属 新ビジネス創出に向けたベンチャー投資やM&Aを推進
 
 
坂田卓也(左)
2005年凸版印刷入社 新事業開発本部戦略投資センター所属 13社のベンチャー企業との協業・支援を担当し、同時に新たな協業先の開拓を促進
 
 
福島慎吾(右)
2017年凸版印刷中途入社 九州事業部ビジネスイノベーション部所属 九州を中心に、ベンチャー企業と当社で新規事業を創出するプログラムを運営

持続的に新規事業を生み出す

ー現在、トッパン戦略投資センターではさまざまなスタートアップに対し投資や事業提携を行っているとのことですが、この取り組みにはどういった経緯があったのでしょうか。

坂田:

凸版印刷ではこれまで雑誌・書籍の印刷はもちろん、商品のプロモーション・パッケージ製造などに取り組んできました。
しかし、ペーパーメディアの落ち込みが続いており、売上高は売り方や売るものを変えなんとか維持するも営業利益が伸び悩む状況が続いています

そこで私たちは、新しい骨太の収益源、事業を構築するための変革の1歩として、凸版印刷の稼ぎ方の体質に目を向けました

これまではお客様の依頼を受け、お客様ごとにオーダーメイドでそれを解決するといった「受注産業」で成り立っていましたが、そのような待ちの姿勢では先ほど言ったような現状を打破することはできません。

そこできちんと自分たちが社会の課題を言語化・認識し、その上で、新鮮なアイデアを生み出すスタートアップと「トッパン×VENTURES」の名のもと、新規事業を開発することを決めました。

ーそれでStartupListを活用することになったのですね。

坂田:

そうですね。起業家の方を紹介してもらうことはもちろん、イベントにも参加して情報収集しています。

ーどのようなスタートアップに投資や事業提携を行っているのですか。

坂田:

プロダクトがすでにできていて、事業としてシナジーを生み出せるところですね。

例えばウェブサイトの多言語翻訳を行っているWovn Technologiesさんとは、私たちもパンフレットなどの翻訳に取り組んでいたため、オンラインとオフライン間で言語の揺れをなくすようなプロダクトを開発しています。

また、独自の波動制御技術を生み出したピクシーダストテクノロジーズさんとも事業提携しています。

これからさらにデジタル化が進んでいく中で、この技術を共同で社会実装できるように協業を促進しています。

江口:

現在、約30社と事業提携をしています。
IPOした会社もありますが、持続的に新規事業を生み出すことを目的としてコミットメントしているので、協業が継続できている今は売却せずに提携を継続していく方針です。
スタートアップとの事業提携から凸版印刷の新たな事業の幹を生み出すことが最終的な目標ですね。

▲社会課題の解決をテーマにさまざまな会社に投資している

スタートアップと凸版をコネクト

ーでは「co-necto」はどのような取り組みを行っているのでしょうか。

福島:

先ほど述べたような既存事業の縮小や受注産業という体質を解決すべく、TOPPAN OPEN INNOVATIONと題して、スタートアップと新規事業を共創するためのオープンイノベーションプログラム「co-nectoを2017年に立ち上げました。

ビジネスプランコンテスト形式で実施しており、スタートアップは全国から募集をかけていますが、本プログラムの運営拠点は福岡を中心としています

福岡市は自治体がスタートアップ支援に力をいれていることはもちろん、当社を含めた民間企業や大学との横のつながりが強く、オープンイノベーションの素地が整っていると考えられることからスタートしました。

また、B2Bのビジネスモデルで、全国に販路を持っている企業が福岡でこのような取り組みを行っているのは珍しく、非常に好評ですね。

2017年の第1回目のプログラムで受賞した企業とは、現在新規事業の活動を推進しています。

昨年の第2回目からは拠点を西日本各地に広げたほか、東アジアにも募集をかけました。実際、台湾のスタートアップが最優秀賞を受賞しています。


ー今年度もコンテストを行うんですね。

福島:

そうですね。
昨年までは募集から最終選考までに半年ほどかけていたのですが、私たちの目的は事業を共に創り上げていくことなので、そちらに集中すべく今年は1か月ほどに短縮します

また、今年から表彰を行う協業枠に加えてインキュベーション枠を設けました。
これは事業共創の手前の段階で、3か月間ビジネスプラン作りのノウハウを共有したり、メンタリングを実施したりします。
もちろん最終的には成果を見て事業提携を検討します。

ー毎年変化を加え、よりよいものにしていますが、今後どのようなものにしていきたいですか。

福島:

今、co-nectoではスタートアップと当社の1対1のコミュニケーションが主ですが、地域特性を活かし、スタートアップの支援をスピード感を持って行っていくためにも、他の民間企業とも新規事業を創出する段階から一緒になって進めていきたいですね。

また現在は年に1回のコンテスト形式となっておりますが、将来的にはいつでもスタートアップから相談を受けられるような窓口にしていきたいです。

簡単に成果が出なくても

ーこのような取り組みを行ううえでの課題をお聞かせください。

坂田:

私たちはまだ目標としているような大きな成果を出せていません。
スタートアップとの協業による新規事業を継続して生み出すことを求めていますし、3年で黒字化することが目標だと思っています。
しかし現在の市場環境において、新規事業をスピーディーに生み出すには大きな金額を投資し、迅速に意思決定をし、付加価値を出す実務をしていかなければいけません
したがって、継続して新規事業を生み出す仕組みを社内で構築するためには「新規事業を生み出すことは簡単なことではないんだ」ということをきちんと社内に伝える必要があると感じますね。

江口:

とはいえこのような取り組みを始めて約3年たち、ようやく一通り回り始めました。
ここからもっと本腰を入れて、経営陣の期待に応えられるようにしていきたいですね。

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出典:スタートアップリスト公式HP

 
大野琳華

この記事を書いたライター

大野琳華

山口出身。一橋大学商学部に所属。記者・インタビュアーを目指している。

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