「Muuseo」(ミューゼオ)モノの文化、知識、好奇心が人と人をつなぐ。 

「Muuseo」(ミューゼオ)モノの文化、知識、好奇心が人と人をつなぐ。 

記事更新日: 2019/03/11

執筆: 高柳圭

ミューゼオ株式会社 代表取締役社長 成松 淳氏

2007年1月よりクックパッド株式会社の初代の取締役CFO(委員会設置会社移行後には執行役CFO)に就任。同社の東証市場一部昇格を機に執行役CFOを退任、2013年にミューゼオ株式会社を設立し代表取締役社長に就任。

アンティークやファッション、フィギュアに腕時計など、何かしらの自分のお気に入りを集めている人も少なくないだろう。そういったコレクションは、自ら愛でるだけでなく、同じ趣味を持つ誰かに見せて、情報を交換することも楽しみの一つだ。

インターネット上に自分だけのミュージアムをつくり、公開することで、自分の好奇心を可視化し、それを通じて新たなつながりやコミュニティーを生むサービス「Muuseo(ミューゼオ)」が注目を集めている。そこで今回は同サービスを提供するミューゼオ株式会社、代表取締役社長の成松淳さんに、サービス開発の経緯とMuuseoの可能性について伺った。

「モノを集める幸せ」を形にする

ーMuuseo(ミューゼオ)が提供しているサービスについて教えてください。

成松:Muuseoとは「みんなのコレクションで創るミュージアム」を標榜する、インターネット上で気軽に自分だけの博物館が作れるサービスです。 個人が集めているコレクションを、インターネット上に画像と文章で自由に展示するミュージアムを作れる機能を中心にSNS性を付加しています。また、これとは別に様々なモノについて深く知り、楽しむための図書館のような蓄積型のwebメディア、ミューゼオ・スクエアなども展開しています。2014年から2015年にかけてリリースし、数年かけて、ようやくどちらも形になってきました。

ー成松さんは、ミューゼオ株式会社を立ち上げる以前、公認会計士やベンチャー企業のCFOとしての経歴をお持ちです。なぜ改めて自身で会社を立ち上げるに至ったのでしょうか。

成松:もともと私は公認会計士として、有限責任監査法人トーマツに勤務し、そこから東京証券取引所に出向して制度設計などに関わらせてもらいました。その中で、上場した企業のセレモニーを手伝わせていただく機会がありましたが、様々な起業家達の姿を見ているうちに、ベンチャーにとても興味が湧いたんです。そこでトーマツに帰任した後、実際にベンチャー企業に携わろうと考えました。

2006年、たまたま知人を通じてクックパッド株式会社の創業者の佐野陽光さんと出会う機会があり、2007年に初代の取締役CFOとして本格的に加わります。同社では資本政策や、チーム作りや企業としての仕組みを作っていきました。同社は当時、会社としてようやく売上が立ち始めていた頃で、まだ従業員が10名弱でしたが、2009年には上場し、私は2012年までCFOを務めました。その頃、私はまだ40代前半で小さな企業が熱量を持って大きくなっていく過程を目の当たりにしながら、徐々に「もう一度、別の場所で戦ってみよう」という気持ちが強くなりました。

“伸び盛りのきらびやかな城の家老の一人”か“自分が好きなように作ったとても小さい砦の城主”をやるのか。どちらを選ぶか迷いましたが、今後何を選ぶにしろ、一度自分でやってみることはマイナスにはならないはずだと考え、起業することを決意しました。10−100をチームで経験した経験があるからこそ、自分自身で経営を一からやったらどうなるのか、知りたかったというのも理由の一つです。

ー起業をするにあたり、今のサービスの形はどのように決まっていったのでしょうか。

成松:独立した当初は、エンジェル投資をしてみたり、いくつかの企業の社外役員を務めたりしながら、次に何をするか模索をしていきました。クックパッドのCFOをしている時から、「モノを扱うこと」「インターネットを使ったビジネス」をしたいなと考えていました。

私は、もともと靴や洋服が大好きで、特に革靴は300足ほど集めるなど、ファッションを中心にしたモノへのこだわりがあります。

ある日、自宅の屋上でお気に入りの靴を磨いていたのですが、並んでいる靴を見て、「なぜ人間はモノを眺めていると満たされ、幸せな気持ちになるのだろう」と考えました。もちろんすべての人がそうではないかもしれませんが、家やオフィスで机の上にミニカーやフィギュアなど、モノを並べている人を見たことはあると思います。もしかしたら、人間の狩猟・採集時代の本能のようなものが、モノを集めることに気持ちを向かわせるのではないかと考えました。

一方で、私は博物館が好きなのですが、学術的にモノを整理している所もあれば、大英博物館のようにとにかく世界中からモノを集めてきたという様相の所もあります。そこで原始的な博物館は後者のようなものだったのだろうと、腑に落ちる気がしました。

しかし、最近はミニマリストなどという言葉が流行ったり、いわゆるサブスクモデルが登場したりということもあって、多くのモノを持たない人が増えている傾向があります。また、ファストファッションやデジタル機器など、品質はとても良いけれど、寿命が短いモノが身の回りに溢れているという現状もあります。

ただ、私自身は、良い靴を買ったら履いて歩きたくなるし、良いスーツを買ったら仕事に着て行きたくなるし、良いティーポットを持ったら紅茶を飲みたくなります。モノからコトが始まるように、モノから人生の活力をもらっている感覚がありました。モノと人のサイクルが回っていくことや、モノを並べると気持ち良いという感覚を形にしたいと思い、その第一段階としてMuuseoを2014年にリリースしました。

 

孤独な趣味の世界を外へ開いてつなげていく

ー成松さんはMuuseoを通して世の中にどのようなことを発信したいと考えていますか。

成松:Muuseoは自分の好きなモノを投稿して、それに興味を持った人や、同じジャンルのコレクションをしている人がコミュニケーションをとるなど、好奇心で人と人がつながる場所になれば良いなと思っています。

もう一つ形にしたかったのは、趣味の世界をもっと外に開いていくことで、新しい楽しみ方を見つけてもらうこと。例えば、クックパッドが、意外に孤独な作業であった料理を、多くの人とつながることで、もっと楽しくなるはずという思いからスタートしたように、1人で取り組んでいることが多いコレクションや蒐集も、誰かとつながることがもっと楽しみにする上で大切なのではないかと考えました。

私が若い時、モノの楽しみ方をいろいろな人から学んできた経験も、その背景にあります。若いころに通っていたカフェで、常連の年上の方から「君、紅茶が好きだと言ってるけど、本物のシルバーのポットで淹れて飲んだことあるの?」なんて言われたことがありました。もちろん、そのポットで淹れたからといって味が劇的に変わるものではないのかもしれません。それでも、その会話の後すぐに入手した100年前の純銀のティーポットでお茶を飲むという行為は、20年近く経った今も大切な時間ですし、コミュニケーションやモノの背景を知ることが楽しかったりします。

多くのモノや情報が、何もしなくても大量に与えられる社会ですが、更にこれからAIを駆使してレコメンドされたり、やるべきことまで提示されるようになったら、人間はどうなってしまうのだろうと考えることがあります。その時に大切なのが実行を伴う学習だと思っています。ここでの学習とは、いわゆる勉強ではなくて「何かをインプットすることで行動力が上がり、さらに外の世界を探求できるような能力を得ていく」という意味合いです。つまり「何かを深掘りをしていく」という行為は、これからの時代に必要なことだと感じています。

「人間自体を今より良くする」サービスでありたいという気持ちも大事にしていきたいと思っています。世の中には快適に生活するためのサービスがたくさんありますが、便利になることは、もうそんなには必要ないかもしれません。例えば、旅先で行くべき場所や、ルートまですべて提示された場合、それを辿るだけの旅は楽しいでしょうか?単純に便利なサービスではなく、知識が広がり、人とのつながりを広げていくことで、より人生が豊かになっていくような体験を、Muuseoを通じて提供したいと思っています。

ーMuuseoは実際にどのように利用されているでしょうか。

成松:現在は、モノの種類やコレクションの数量がおのずと多くなるジャンルをコレクションしている方が多いです。特にミニカーやフィギュア、レコード、トレーディングカード、鉱物標本といったものは数が多いので、Muuseoを使うことで見せる楽しみがふくらみます。コレクションを整理したり可視化するためにも活用していただいているようです。

一方で、世の中には何もコレクションしていない人も沢山います。そんな人でも、人のコレクションを見て楽しむことができます。私の場合、分野によっては人のコレクションを見ると、それで満足できるということも良くあります。世界を知りながら、その中で自分の注力すべき分野を明確にしていくというイメージでしょうか。

私たちの会社のミッションは、ここまで話してきた「人々の興味が深まって、広まって、新しいつながりに変わっていく」こと、そして「モノを慈しむ感覚を育む」ということです。Muuseoのコレクションは誰かに何かを見せつけるというよりも、見た人が新しい好奇心を育むヒントになって、手に入れたものを慈しむような流れができていくような形になったら良いなと思っています。

私はイギリスによく行くのですが、イギリス人はアンティークや古い建物をとても大事にする一方で、不要だと感じるものは自動車産業のようにあっさりと捨ててしまうこともある不思議で複雑な国民性を持っています。けれどそのモノを慈しむ姿勢は、私たちにもとても大事な感覚であると感じます。

ミニマリストになって、すべてをシェアして、何も持たない生活が本当にエコかというとそうではありません。我々に見えないところではモノが粗雑に扱われていたり廃棄されていたりします。自分に必要なモノを考えて、慈しみながら長く使っていくサイクルの方が、最終的にはエコかもしれないのです。もちろん、その感覚を育んでいくためには、大切にしたいと思えるモノが世の中に増えていかなければなりません。同時に、一つのモノの価値や良さ、楽しみ方を伝えることも重要になります。深めて、広げて、新しいつながりを生む場、仕組みをつくっていきたいと考えています。

 

ジャンル、国境を越えて新しいモノに出会える場

ーMuuseoへの注目が高まってきている理由として、どのようなことが挙げられるでしょうか。

成松:一つの背景として、街の書店や専門店が減ったことがあるのではないでしょうか。

昔は、様々な知識や新しい文化に触れる機会、その入り口は街の書店や専門店であることも多かったです。興味のなかったことでも、そこに入ることで目に止まって、興味が広がっていくという体験がありました。今は、SNSなどで多くの情報が流れていますが、意外と新しいものへの出会いは少ないですよね。無数の趣味や嗜好が、それぞれ閉じた状態で分散してしまっているような状態です。Muuseoのようなサービスが、それらをつなぐ役割を担えるかもしれないと感じています。

ーMuuseoの収益の仕組み、ウェブメディアの展開について教えてください。

成松:CGMは前職でもそうなのですが、時間がかかります。サービスリリースから数年たち、ようやく利用者の皆さんの利用期間も安定化してきて、規模もあがり、提供価値も明確化してきたので、収益事業のトライアル版を提供し始めました。いろいろと構想はあるのですが、まず最初に始めたのは簡単に言えば、オンライン上に企業の製品ミュージアムを作ることができるSaasサービスです。すでに利用いただいている企業として、例えばかなり著名なキャラクタービジネスの会社が、商材のコアなユーザー同士の対談記事などを載せていたり、英国のファッション製品を扱う会社が、自社で扱う商品やブランドのさまざまなストーリーを解説したりしています。これらは、直接的に売るためのツールではなく、ファンをつくっていくための場所と言えます。嗜好品に特化したマーケティングツールとも言えるかもしれません。サービス自体がまだまだブラッシュアップ中で、個人のミュージアムとは異なる機能や、発信力を高めていきたいと考えています。

一方、モノへの理解を深めることや、興味を持ってもらうことを目的にサイト内で提供しているのが、「ミューゼオ・スクエア」というウェブメディアです。ここでは、機械式時計や礼服の着こなしなど、かなり狭いカテゴリーに絞って深掘りしたような記事を、本のようにいくつもまとめた形で読むことができます。こだわりの強い小型の冊子のようなものです。先程の本屋の話とリンクしますが、出版社はどうしても雑誌を売るための記事を入れなければいけない状況になっています。そうなると、こだわりの強い記事は少なくなってしまいます。もっとモノを楽しみを深めて、広げるようなメディアになればと思っています。


ー今後、Muuseoをどのように発展させていきたいと考えていますか。

成松:目標というよりは夢に近いのかもしれませんが、国を越えて同じ好奇心を持つ人同士が繋がることができる仕組みはいつか必ずやってみたいですね。今の私が言っても大言壮語かもしれませんが、じわじわとでも小さな繋がりをつくっていきたいと思っています。

私の経験上、起業に取り組む時、「とにかく利益を稼いで大きくなりたいのか」それとも「理想の形を作りたいのか」といった起業の目的をきちんと切り分けること、そして自分の得意とする分野や手法を明確にしてから戦うことをきちんと意識することが重要だと考えています。それによってやり方も随分変わってきます。理想を形にすることは時間はかかるかもしれませんが、中の人である私たち自身が楽しみながら、他の人々にも生活を楽しむことを伝えていければいいですね。

高柳圭

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