元キャピタリストとスタートアップ融資のプロが解説|シード期から知っておくべきハイブリッド調達の選択肢

元キャピタリストとスタートアップ融資のプロが解説|シード期から知っておくべきハイブリッド調達の選択肢

日本政策金融公庫 東京スタートアップサポートプラザ 上席所長代理 佐藤俊太氏、プロトスター株式会社 代表取締役 前川英麿

記事更新日: 2026/07/09

執筆: 編集部

「VCの投資審査が慎重になる中、調達の選択肢は増えた一方で、何をどの順番で使えばよいかが見えにくくなっている」

そんな起業家の声を受け、プロトスター株式会社が企画したのが今回のセミナーだ。

登壇したのは、ベンチャーキャピタリスト出身でプロトスター株式会社 代表取締役の前川英麿、元起業家にして日本政策金融公庫 国民生活事業本部 東京スタートアップサポートプラザ 上席所長代理の佐藤俊太氏の2名。エクイティとデットの両面を知る実務家が、出資と融資の決定的な違いから調達後の落とし穴まで、本音で語った内容をレポートする。

■ 登壇者紹介|エクイティとデットの最前線を知る2名

司会: 本日皆さまに持ち帰っていただきたいのは、エクイティ・デットそれぞれの特性を踏まえた「自社の成長を最大化する組み合わせ」です。お二人から自己紹介をお願いします。

前川: プロトスター代表の前川と申します。大和企業投資とSMBCベンチャーキャピタルでベンチャーキャピタリストを経験、その後スタートアップとは真逆の事業再生業界を経て、2016年にプロトスターを創業しました。本日はキャピタリスト目線でエクイティ調達の現場感をお伝えします。

佐藤: 日本政策金融公庫の佐藤と申します。実は公庫に入る前は学生起業家として9年間、4つの事業を立ち上げ、うち3つは売却を経験しました。起業家・金融機関の両目線でお話しできればと思います。

■ エクイティ調達の現在地|「選別の時代」を勝ち抜く期待値の作り方

前川: 現在のエクイティ調達のトレンドを一言で言うと、「選別の時代」に入ったと認識しています。2021年頃の、誰でも調達できたバブル的な時期は終わり、利益の出方や技術的優位性がシビアに選別されています。

投資家が見ているのも単純な売上ではなく、ユニットエコノミクス(採算性)の裏付けです。一方で良い会社には資金が集まり続けているのも事実です。うまくいっている会社が何をしているかというと、投資家に対する「期待値」をうまく作っているんですね。そのポイントは大きく3つあります。

  1. ストーリー:なぜ自分がこの事業をやるのか、市場は本当に大きくなるのか。
  2. トラクション:プロダクトがなくても顧客が欲しがる、ウェイティングリストが並ぶといった実需の証拠。
  3. チーム:初期の事業案が外れても方向転換して生き残れると思わせる力。

司会: エクイティ調達は強力な選択肢ですが、一方で気をつけなければならない点もありますよね。創業期の経営者が気をつけるべき落とし穴を教えてください。

前川: 大きく3つあります。

1つ目は資本政策で、初期に株を出しすぎると後の調達で経営者の持ち分が一気に細ります。

2つ目はバリュエーション。バブル期の高い株価のせいで次のラウンドで既存株主に「この株価では入れられない」と苦戦するケースが増えています。

3つ目は誰から出資を受けるか。出資は結婚と同じで簡単には別れられません。長く付き合えるパートナー選びが大切です。

それでもエクイティは、返済義務がない成長の加速装置として強力です。共に伴走する先を見つけられれば、世界を変える事業にとって素晴らしい選択肢です。

■ 公庫融資の役割|世界一デットファイナンスしやすい国の最大活用法

司会: 続いて、佐藤さんから公庫融資の全体像をお願いします。

佐藤: スタートアップが日本政策金融公庫を活用する場合、窓口は主に「国民生活事業(創業期〜シード・アーリー)」と「中小企業事業(上場手前)」の2つに分かれます。そのうえで、公庫の役割は次の3点を押さえてください。

  1. 中小企業に融資する政府系金融機関:預金業務はなし。
  2. セーフティネット機能:災害・経済危機時の資金相談窓口。
  3. 重点事業分野への支援:創業・新事業・ソーシャル・海外など、いわば「政府の推し活」分野を後押し。 

司会: エクイティ環境が厳しい今、シード期に融資を組み合わせる意味はどこにあるのでしょうか。 

佐藤: 資本政策は後戻りできません。最初の調達は1,000万〜2,000万円規模ですが、ここで多くの株を売ると、後の成長フェーズで売る株が残らなくなります。今の1,000万円分の株は、後で何十億の価値になり得ます。最初からファイナンスミックス、つまり出資と融資を組み合わせるのがおすすめです。 

その融資の選択肢として、公庫の代表的な制度は、通常融資の「新規開業・スタートアップ支援資金」と「資本性ローン」です。資本性ローンは出資と融資のいいとこ取りで、特徴は次の3つです。

  1. 期限一括返済型:毎月返済なく最後にまとめて返す。初期に赤字を掘る事業向き。
  2. 業績連動の利率:赤字時は0.5%程度、黒字化後に通常利率。
  3. みなし自己資本:決算書上は借入金だが、証明書添付で他金融機関から「資本」とみなされる。

個人的な感想ですが、日本は江戸時代から事業を貸し借りで回してきたデットファイナンスの国です。創業期に1,000万・2,000万円を低金利で借りられる国は世界中でほぼ存在しません。スタートアップをやる以上、活用すべき強みです。

■ 出資と融資の決定的な違い|担当者への「解像度」が調達を変える

司会: 同じ資金調達でも、出資と融資はそもそもの考え方が違うと聞きます。両者の本質的な違いを教えてください。 

佐藤: 一言で言えば、出資は「一社が大成功すればいい」、融資は「失敗は一社までにしたい」。これはスタートアップフレンドリーとか、そう言うものではなく、構造上仕方のないことです。

出資は1社の成功が他社の失敗をカバーする構造なので、不確実性が高くてもストーリーで勝負できます。研究開発費や無償のPoCのような費用は出資の方が向きます。一方、融資は「返ってくるかどうか」がすべてです。

複数社が倒産したら事業が続かないので、返済可能性の説明がなければ貸せません。私は社内で「返済可能性おじさん」と呼ばれるくらい、この話を繰り返しています。

司会: その違いを踏まえると、融資審査でつまずきやすいポイントも見えてきますね。 

佐藤: 最大の落とし穴は、エクイティ調達の成功体験をそのまま融資に持ち込んでしまうことです。「この資料、この話し方で2,000万取れた」というプレゼンを、そのまま金融機関に持っていく方が多いんですよね。でも、出資と融資は理屈が真逆なので刺さりません。マグロを釣る針でアジは釣れないのと同じです。 

もう1つ大事なのが、目の前の担当者への「解像度」を上げること。融資審査は結局その担当者が稟議を書きます。担当者が理解できなければ、こちらの100の説明も80でしか伝わらない。組織単位ではなく「目の前の担当者はどんな人か」を理解して伝え方を合わせることで結果が変わります

前川: VCも同じで、同じファンドでも担当キャピタリストによって通る・通らないが変わります。最近はキャピタリストがXで発信していることも多いので、誰がどの領域に関心を持っているかを下調べし、最も親和性の高い人にピッチをする――この個別最適化ができる起業家は強いです。

登記前でも相談したい時の現実解|「ライスワーク」で足元を固める

司会: ここで皆さまから寄せられた質問に入ります。「まだ登記前ですが、創業融資の相談はいつから乗ってもらえますか?」

佐藤: 法人として申し込むには法人格が必要なので、正式な申し込みは登記後です。ただ、公庫の「ビジネスサポートプラザ」では事前相談が可能で、オンライン相談も予約できます。構想段階で話を聞きに行くのはアリです。

実際の融資審査では、プロトタイプもなく売上も立ちそうにないと審査は通りません。そこで「抜け道」として有効なのが、ライスワーク(飯を食うための事業)を示すことです。たとえばAI・SaaS系なら「自社の開発能力を活かして受託もできます」と示せば、足元が回ることが伝わり審査側も安心します。

もちろん、事業を急成長させたい本来のスタートアップ像とは逆行する打ち手で、本音を言えばエクイティを入れて本業に集中できるのが一番です。ただ、今の調達環境では、エクイティが入る前に足元を固める現実解として受託を並行する起業家が増えているのが実情です。

前川: VCの審査が厳格化する「選別の時代」だからこそ、出資が決まらなくても会社が潰れない意味で、受託などの「ライスワーク」が示せる方が現実的に強いです。佐藤さんがおっしゃる有償PoCもその一つですね。

■ 2026年の潮流|大企業連携への回帰とハイブリッド調達の組み立て方

司会: 2026年に向けて、シード期の起業家が押さえるべきトレンドはありますか。

佐藤: その前に1つだけ前置きをさせてください。スタートアップの社長は、誰の言うことも鵜呑みにしないでほしい。私も含めて、登壇者は皆ポジショントークを持っています。私は今デット側なので、自然とデット寄りです。これから話す内容も個人的な邪推として聞いてください。

最近強く感じるのは、大企業連携への回帰です。4月のスタートアップ・ジャパンでも顕著でしたが、エクイティ環境が厳しく初期顧客集めも難しい中、大企業の資本力・販路を活用する方向にシフトしています。突き詰めれば、最終的に「財閥的なもの」が復活するのではとすら感じます。日本の大企業は何兆円規模で戦っており、ユニコーンとはスケールが違う。「使えるものは全部使う」発想に立てば、日本の大企業は使い勝手の良い相棒です。M&Aイグジットも含め、選択肢に入れるべき潮流です

前川: CVCからの出資はVC市況ほど落ち込んでおらず、大企業の投資意欲は活発です。日本の大企業は「VCのLPに出資 → 自社でCVCを立ち上げ → スタートアップを直接M&A」という流れで段階的にスタートアップ慣れしてきていると、個人的には感じています。M&Aは今後ますます重要なイグジット手段になるはずです。

「お金には色がない」けれど、リスクの取りやすさには色がある

司会: ハイブリッド調達で、出資金と融資金はどう使い分けるべきでしょうか。

前川: 最重要ポイントは「何にお金を使うか」です。出資金も融資金も口座に入れば同じお金で色はありません。でもリスクの取りやすさには色がある。返済義務のない出資金は研究開発や先行投資に、返済義務のある融資金は売掛金など回収見込みのある運転資金に充てる――この資金使途の設計こそ「クレバーさ」です。

佐藤: 加えて、入金タイムラグを埋める正常運転資金にエクイティを充てるのは非常にもったいない。月商が大きくなると、入金まで1か月のラグだけで黒字倒産が起きうる。でも翌月確実に入ってくるのでリスクは低い。ここに高コストのエクイティを使う必要はなく、絶対にデットを使うべき領域です。今は使いにくくても、シード期から少額の融資実績を積み、信用を「買う」感覚で関係を作っておくことをおすすめします

なお、強力な制度として信用保証協会の「スタートアップ創出促進保証制度」もあります。創業5年以内・上限3,500万円・保証割合100%・代表者保証なしという、有利な条件です。

■ 質疑応答|ベストタイミングと「決算前にエクイティ」というスコアリング戦略

司会: 続いてのご質問です。「エクイティ調達後に融資を受けるのは、本当に通りやすいのでしょうか?」 

前川ベストはエクイティ調達直後です。「銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を奪う」と言われますが、出資が決まった直後は第三者が事業を評価してくれたタイミング、まさに「晴れの日」。融資の最高のタイミングです。

佐藤: 加えて、可能であれば「決算前にエクイティを入れる」ことをおすすめします。金融機関は基本的に決算書で企業を評価し、多くは「スコアリング」と呼ばれる自動評価を行っています。機械的に決まる部分が大きく、最も良く出るのは「純資産が大きく、かつ現預金が大きい」時です。

エクイティを決算前に入れておけば両方が同時に膨らみ、財務分析の合計点が上がります。とくに小口融資はスコアリングのみで判定が決まることもあり、意識しておきたい点です。

売上の確度の積み上げ方とセカンドプランの重要性

司会: 創業前の段階で売上の確度をどう示すかも、多くの起業家が悩む点です。 

佐藤: 事業計画の売上見通しは、「だいたいこのくらいいきます」では絶対に通りません。単価×数量に分解し、なぜその単価が取れるか、なぜその数量を獲得できるかをエビデンスで積み上げる必要があります。とくに単価は競合の中での説明が難しいため、「実績並み・横ばい」を前提に数量で勝負する説明のほうが通りやすい印象です。

シード期は黒字化まで3〜5年が普通で、それでも潰れない理由は「エクイティが続く」か「事業規模が大きく追加調達できる」かのどちらか。だからこそ「もしエクイティが入らなかった場合に、どう黒字化させて生き残るか」というセカンドプランを用意しておくことが融資審査では極めて重要です。

登壇者からのメッセージ

前川: 出資と融資で得たお金を「何に使うか」をクレバーに設計してください。お金には色がないからこそ、資金使途をどうするのかは、めちゃくちゃ考えた方がいいポイントです。 

佐藤: 現実をクレバーに理解し、必要な資金を必要な時に必要な分だけ調達する、これに尽きます。日本は世界一デットファイナンスがしやすい国です。シード期から金融機関との関係を作り、味方にしておいてください。

司会: 前川さん、佐藤さん、ありがとうございました。エクイティとデットを「対立する選択肢」ではなく「組み合わせる武器」と捉え直すヒントを多くいただきました。

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