人に向き合い、ミッションを実現するスタートアップを支援する〜東日本銀行スタートアップ支援グループが描く地域金融とスタートアップ支援の未来〜

人に向き合い、ミッションを実現するスタートアップを支援する〜東日本銀行スタートアップ支援グループが描く地域金融とスタートアップ支援の未来〜

穴澤 崇(東日本銀行 ソリューション営業部スタートアップ支援グループグループ長)

記事更新日: 2026/06/02

執筆: 編集部

「中小企業を支援する地域金融機関にとってスタートアップは難しい」、そんな常識に真っ向から向き合い、独立したスタートアップ支援部署を立ち上げたのが東日本銀行だ。大正13年創業、100年超の歴史を持つ地域金融機関が、なぜ今スタートアップに力を入れるのか。スタートアップ支援グループを率いる穴澤氏に、グループ誕生の経緯からデットファイナンスの強み、そして5年後、10年後に向けた思いまでを余すことなく聞いた。

穴澤 崇(東日本銀行 ソリューション営業部スタートアップ支援グループグループ長)

東日本銀行に入行後、立会川・新小金井・上野・柏・吾妻橋の各支店にて営業に従事。2022 年より横浜銀行新橋支店への出向を経てソリューション営業部へ異動。2025年8月よりスタートアップ支援グループのグループ長を務め、成長企業への金融支援、事業開発サポートを牽引している。

 今、東日本銀行が本気でスタートアップに向き合う理由

東日本銀行ではどのような経緯でスタートアップ支援グループが立ち上がり、支援を強化してきたのでしょうか?

東日本銀行は大正13年に設立され、今年で103年目を迎える地域金融機関です。一都五県に店舗を持ち、横浜銀行・神奈川銀行・L&Fアセットファイナンスなどとともに横浜フィナンシャルグループの一員でもあります。

東日本銀行は「中小企業のトータルパートナー」という目指す姿を掲げ、主に中小企業のお客さまを対象に、ソリューション提案を含め営業活動をしています。そんな当行がスタートアップ支援に力を入れるようになったきっかけは、2022年に岸田政権(当時)が策定した「スタートアップ育成5か年計画」でした。ちょうど当行では新たな中期経営計画がスタートするタイミングとも重なり、改めて「創業支援の強化」を打ち出したわけです。

その背景としては、100年を超える歴史を持つ銀行として、お付き合いの長い中小企業が数多くありました。歴史ある企業の支援はもちろん大切なのですが、次の時代を創るような若い会社を本気で育てていかないと、地域金融機関として明るい未来を描けないという危機感が高まっていました。

そうした経緯のもと、行内でスタートアップ支援を強化する機運が高まり、現在のスタートアップ支援グループの立ち上げに至ります。

グループのミッションやスタートアップ支援の体制について教えてください。

グループのミッションは、スタートアップにおける当行の「メインバンク化」です。ただし、これまでの銀行業務のように「融資だけでメインバンクになる」ということではありません。融資だけでなく、預金、ソリューション提案という三つの軸でスタートアップのメインバンクになることを目指しています。

スタートアップのお客さまのアカウントは、あくまでも各営業店が主担当を担います。ただ、スタートアップは使う用語も特殊で、話すべきテーマが多岐にわたり、融資の考え方も異なるため、営業店の担当者だけでは賄いきれない部分が多い。そこで我々のグループが副担当としてバックアップするという体制をとっているのが特徴です。

また、お取引の入口の審査や事業内容の把握についても我々のグループが中心となって対応をしているので、実際にお取引が開始した後も本支店が継続的に一体となり伴走支援を実施しています。

ダイリューションなしのデットファイナンスが生む本質的な価値

スタートアップがエクイティ(資本の調達)だけでなくデットファイナンス(融資による資金調達)を活用することの最大のメリットはどこにあるのでしょうか?

本質的なメリットは、投資キャッシュフローを本来あるべき用途のために残せることだと思っています。

多くのスタートアップはエクイティ調達した資金を運転資金に使ってしまいます。もちろん間違いではありませんが、一つのプロダクトだけでバリュエーションを伸ばし続けるのは難しく、ロールアップや隣接領域への展開を目指すスタートアップが増えています。そのためにも投資資金を手元に残し、日々の運転資金はデットファイナンスで賄うのが合理的です。

さらに当行の場合、新株予約権を取らない純粋な融資を行っており、最大のメリットは融資によりダイリューション(持分希薄化)が起きないことです。これはIPOやM&Aまでに持分を高く維持したい創業者にとって非常に大きな意味を持ちます。

どのステージのスタートアップまで支援可能なのでしょうか?

シードのスタートアップはなかなか目利きが難しいため当行では支援が難しいのですが、プレシリーズA以降であれば、基本的にどのステージでもご相談いただけます。

実際に最も多いお客さまはアーリーからミドルのフェーズです。レイターになるとメガバンクをはじめさまざまな銀行からの支援が受けられる環境になりつつありますが、まだまだ支援できる銀行が多くないアーリーからミドルのスタートアップの力になりたいと考えています。

業種や業態については、ディープテックは評価が難しいため得意ではありませんが、それ以外であれば本当に幅広く対応しているのでぜひ相談いただきたいです。

人を徹底して重視するスタートアップ支援

スタートアップに融資できるかを決める際に事業計画や数字以外で重視しているポイントはありますか?

間違いなく「人」ですね。私たちは数字以上に「人」を見ています。シードからプレシリーズAの段階では十分なトラクションがまだない中で企業価値を判断するため、当然数字だけでは判断し切れません。そのため、経営者がどれだけのことを成し遂げてきたか、どこにビジョンを持ち、それが組織に浸透しているかを重点的に見るようにしています。経営者には毎回必ず直接お会いしますし、オフィスへも必ず伺い、その会社に投資している投資家や周囲からどう見られているかも聞く、それぐらい「人」を重視します。

オフィスにまでしっかり訪問して会社を理解される際にはどんなところがポイントになるのでしょうか?

これまで多くのスタートアップにお会いしてきましたが、当行として融資できるのは非常に限られたスタートアップです。融資が難しいとの判断に至った理由はさまざまですが、共通して言えるのは「ミッション・ビジョンが経営者だけのもの」になっている会社は厳しいと考えています。

CEOやCFOがミッション・ビジョンを体現しているのは当然として、次のレイヤーのメンバーも同じように語れるかどうか、アーリーからミドルのスタートアップに対しては特にそこを大切にしています。

プレシリーズA前後の会社であれば、創業者間の意思疎通が図れているかどうか、そして事業計画を実現するために必要な人材をどう確保するかという採用戦略まで見るようにしています。スタートアップの採用はどうしてもリファラルが中心になることが多いため、強い人脈や関係性を持っているかどうかも重要なポイントだと思います。

融資だけにとどまらないスタートアップの成長を支えるエコシステム

融資以外にどのような支援をスタートアップに提供しているのでしょうか?

当行の提供価値はさまざまな手法で「スタートアップの成長」をお手伝いすることだと思っています。例えば、商工中金さまとスタートアップ支援に関する連携協定を日本で唯一締結している銀行として「二行でデットキャパシティを広げる」ご支援をしています。さらに、さまざまな提携会社を通じて人材紹介やセミナーの開催を行なっているほか、日本経済新聞社のイベントにも継続的に協賛・登壇する機会を提供してスタートアップ企業の知名度向上にも取り組んでいます。

当行の最大の強みはやはり「東京の地域金融機関」であることです。各営業店が担当するスタートアップに自転車で回れる距離感にいるので、「1日単位で状況が一変するスタートアップのお悩みを何かあったらすぐに把握できる」という近さこそが一番の武器だと思っています。ご支援しているすべてのスタートアップには定期的に直接伺うようにしていますが、その度に抱えている課題が全然違う、一社ごとにそれぞれのドラマがあります。

今後のスタートアップエコシステムのあり方や支援の展望を教えてください。

スタートアップ支援を続けていく上で「東京の地域金融機関」であることは優位性があると思っています。国のスタートアップ育成5か年計画は2027年度で一旦終わりますが、目標はまだ十分達成できていません。地域経済を元気にすることが地域金融機関の使命であり、東京を含めた近隣地域に集まるスタートアップをしっかり育てることが我々の責務であることは変わりません。

現在はデットファイナンスが中心ですが、アクセラレーションプログラムを含めて当行がまだ支援できていない領域の方が多く、やりたいアイディアもたくさんあります。近隣の金融機関や志を同じくするパートナーと連携しながら、スタートアップ支援の形をより一層拡大させていきたいと考えています。5年後、10年後にスタートアップが日本経済の成長を支えられる存在となるためにも、多角的な支援を続けていきたいと思っています。

最後に、スタートアップ起業家の皆さんにメッセージをお願いします。

まずは悩む前に一度当行に気軽にご相談いただきたいです。もちろん当行として融資支援できるスタートアップは限られてはいます。それでもご相談いただく価値があると考えるのは、銀行との対話を通じて「銀行がこういう観点で見ている」という視点をスタートアップが得るだけで、事業計画や経営戦略が変わってくると思うからです。当初は融資のご協力ができなかったものの、もう一度チャレンジいただき融資の実行に結びついた案件も実は多数あります。まずは壁打ちだけでも大歓迎ですので、ぜひ一度お声がけください。

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