TOP > インタビュー一覧 > 公認会計士と元銀行員が徹底解説|創業者が押さえるべき「財務の基礎」と「融資審査の要点」
安本公認会計士事務所 代表/公認会計士・税理士 安本拓樹氏、一途一心合同会社 代表 伊藤雄気氏
「資金調達の選択肢は増えているのに、銀行融資はどこか『難しそう』で後回しになっている」
日々スタートアップ経営者と接する中で、そうした声を多く耳にしてきたプロトスター株式会社が企画したのが今回のセミナーだ。
登壇したのは、安本公認会計士事務所 代表/公認会計士・税理士の安本拓樹氏、一途一心合同会社 代表で大手金融機関出身の伊藤雄気氏の2名。
PL・BS・キャッシュフロー・資金繰り表といった財務の基礎から、銀行が融資審査で実際に見ているポイント、調達後の落とし穴まで、創業者がつまずきやすい論点を実務家の目線で語ったセミナーの内容をレポートする。
目次
司会: 本日は、財務の基礎と融資審査の要点という2軸から、創業者が「経営者として最低限見るべき数字」と「銀行が実際に見ているポイント」を持ち帰っていただければと思います。お二人から自己紹介をお願いします。
安本: 公認会計士・税理士の安本です。監査法人での監査業務を経て、スタートアップのIPO準備支援や事業会社のコーポレート部長として上場準備を牽引し、2023年に独立しました。外から見るコンサル目線と、中で数字を作る実務目線の両方から、財務の基礎をお話しします。
伊藤: 一途一心合同会社の伊藤です。10年間、融資実務とスタートアップ投資を経験し、独立しました。本日は融資審査の目線と案件評価のリアルをお伝えします。
司会: それでは早速、プレゼンテーションに入りたいと思います。まずは安本さんからお願いいたします。
安本: よろしくお願いいたします。まずは創業されて間もない方をイメージして、一つ問いかけをさせてください。「3か月後、自社の銀行口座にいくら残っているか、即答できますか?」
現在の残高はネットバンクを見ればわかりますが、「3か月後の見込み」となると答えに詰まる方が多いんですよね。ここが創業期の最大の落とし穴です。
財務三表(PL・BS・CF)の中でも、特に押さえてほしいのは 「PLとキャッシュフローは必ずしも一致しない」 ということです。「黒字倒産」は、損益計算書上は利益が出ているのに、入出金タイミングのズレで現金が尽きてしまう現象です。
司会: PLとキャッシュフローのズレは、具体的にどんな場面で起きるのでしょうか。
安本: 創業初期によくあるケースを3つご紹介します。
司会: 資金繰り表は、創業期からどの程度の精度で作るべきですか。
安本: 精緻でなくて構いません。ただ、「月次の固定費と、現預金で何か月持つか(=ランウェイ)」は必ず把握してほしいですね。儲かっていても、お金が尽きれば事業は継続できません。
ここで重要なのが、会計ソフトはPLと「いまの預金残高」までは自動で出してくれるが、「未来の預金残高」つまり資金繰り表は、自分で作らない限り存在しないということです。VCや銀行が見ているのも、まさにこの「未来のキャッシュ」です。
司会: 安本さん、ありがとうございました。続いて伊藤さん、宜しくお願いいたします。
伊藤: いきなりですが、皆さんに質問です。10年来の親友から突然「10万円貸してくれ」と言われたら、どう答えますか?
おそらく即答で貸す人は少なく、「何に使うの?」「ちゃんと返してくれるの?」と聞きたくなるはずです。実はこの2つが、銀行が融資審査で見ている「資金使途」と「償還蓋然性」そのものです。
司会: では、銀行が貸しやすい資金と、スタートアップが必要とする資金には違いがあるのでしょうか。
伊藤: ここが本日の核心です。銀行が貸しやすい資金は主に2種類あります。正常運転資金(売掛金+棚卸資産-買掛金)と設備投資資金で、どちらもBSに見合い資産が計上されます。ところが、スタートアップが本当に欲しいのは「広告費」や「人件費」など、PLの費用に消えていくお金なんですよね。これはPL上反対側に「収益」が立つことからも明らかなように、基本的には収益で賄うべきものであり、一般的な銀行は費用に見合う資金を敬遠しがちです。
ここを貸してくれるのが日本政策金融公庫のような政府系金融機関ですが、もちろん将来の収益がきちんと見通せることが前提となります。資産を持たないスタートアップは、収益見通しをロジカルに説明できなければ、費用に見合うお金は借りられない。これが本日の最重要メッセージです。
司会: 事業計画書は投資家向けと銀行向けで分けるべきですか?
伊藤: 絶対に分けないでください。 経営者自身が混乱し、どちらかに嘘をつくことになります。代わりに「時間軸」で分けるのがおすすめです。一つの事業計画の中でも、投資家には10年先のビジョンを、銀行には短期的な収益見通しを示す。先ほど安本さんがお話しされた資金繰り表の作成が、まさにその第一歩になります。資金繰り表があれば「自社がいつ単月黒字を達成できるか」がおおよそ見通せる。これが融資チャレンジの出発点です。
司会: 続いて、調達後に創業者がやりがちな失敗を伺いたいです。
安本: ふざけているわけではないんですが、調達後に皆さんすぐ引っ越されるんですよ(笑)。引っ越し自体がネガティブではないのですが、従業員数と見合わない大きなオフィスへ移転するケースをよく目にします。
何が言いたいかというと、当初の資金使途と、実際の使い方が乖離していくケースが多いということです。経営も生き物なので使途が変わるのは自然ですが、調達後に急に「財布の紐が緩む」ケースは少なくありません。固定費の急増、急な採用加速、不要なSaaS契約の乱発などが起きやすいです。 「ちゃんと一気通貫した考えのもとで使っているか」を、調達後こそ意識していただきたいです。
伊藤: やはり経営者は、会社にボーンと大金が入ると、まるで自分が金持ちになったような気がしてしまうものなんですよね。でもここで気をつけたいのは、「お金には色がある」ということです。「金に色はない」という言葉が経営者の間で時折飛び交いますが、この言葉は使わない方がいい。銀行も投資家も、何らかの意味があってお金を供給しているので、その使い道は当然ものすごく気にしています。
そしてもう一つ強調したいのが「レポーティング」です。デットでもエクイティでも、お金を出した人はリスクを取っており、そのお金が生きた金になっているかを気にしています。融資契約や金融取引約定書にはだいたい債務者の情報開示義務が明記されていますが、これをサボる経営者は実際に多いんですよね。
銀行員時代、何も言わなくても3か月おきに残高試算表を送ってくる会社と、催促しても出てこない会社がありました。この差は印象を大きく左右します。目安は3か月ごとの残高試算表、最低でも半期に1度は連絡を取りたいですね。半年間音沙汰がないと、銀行員の立場からは正直怖いです。
司会: 追加融資を受けたい時にも影響しますか?
伊藤: 影響すると思います。一般的に、融資審査には定量評価と定性評価があり、情報開示の姿勢は定性評価の項目としてチェックされます。結局、融資も人間がやっている仕事ですから、よく会う人ほど仲良くなる。銀行担当者を仲間に巻き込むくらいの意識でレポーティングする経営者は、いざという時に銀行側の対応もスムーズです。エクイティの株主ミーティングも同様で、すっ飛ばすのは危険です。
司会: Q&Aで質問が来ています。「事業計画書で、起業前に売上の確度をどう説明すれば説得力が出ますか?」
伊藤: エビデンスをかき集めて確からしさを積み上げるしかないです。NG例は「だいたいこれくらい行くと思います」という根拠なき計画。ラーメン屋なら通行量・立ち寄り率・客単価を積み上げて根拠を示す。経営者の経歴と事業内容のリンクも重要で、未経験者の独立と10年修行ののれん分けでは説得力がまるで違います。大手との受注確定があればLOI(関心表明書)を一枚もらうだけでも、確度の見え方がぐっと変わります。
司会: 仮に、ビジネスモデルへの理解が浅い担当者に当たった場合は?
伊藤: まずは目の前の融資担当者に伝わるよう、説明を尽くすのが大前提です。それでも噛み合わない時は、「上席の課長にも一緒にお話を伺いたい」と申し出て、関わる人を縦方向に増やすこと。担当者を横に動かすのではなく、上に厚みを持たせるイメージで、角を立てずに認識を揃え直す現実的なアプローチです。
司会: わざと利益を圧縮している会社は、審査でどう見られますか?
伊藤: 節税や利益圧縮そのものを悪いとは見ません。むしろキャッシュ重視の規律ある経営とも評価できますが、程度問題です。顧問税理士がついていること自体が銀行から見た一つの証明になります。大型融資を狙う前は、過度な圧縮を一旦控えていいコンディションの決算書を作ってから借りに行く戦略もあります。
安本: 経営者本人が自社の数字や事業を、自分の言葉で説明できるか。ここは陪席していて本当によく見られていると感じます。立派な計画書を外部に作ってもらっても、本番で説明するのは経営者本人。研究職でも営業職でも、経営者である以上、最低限大枠は自分で説明できる必要があります。
司会: 絶対にチェックされるネガティブ情報はありますか。
伊藤: あまり面白くない話ですが、過去の破産歴や、税金の差し押さえ・滞納歴は様々なルートで照会されるため、ほぼ逃げ切れません。創業融資では口座の動きも必ず見られます。一時的に大金を入金して資金力を演出する「見せ金」も、通帳履歴に残るので一目でわかります。「信用は積み上げるものであって、その瞬間だけ演出するものではない」というのが基本姿勢です。
安本: 最初からつけておくほうが良いです。AIや会計ソフトが進化しても、数年後の税務調査で説明できる状態を作るには専門家の関与が必要です。消費税の課税事業者選択や簡易課税の判断などは、後から振り返ると大きな影響が出るケースもあります。 最初から高額な顧問契約は不要で、「何かあった時に相談できる窓口」として持っておくのが現実的です。
伊藤: 完全同意です。早ければ早いほど良いと思います。
司会: 安本さん、伊藤さん、本日は本当にありがとうございました。創業期の財務管理から融資審査、調達後のコミュニケーションまで、明日からの実務に直結する深いお話を伺うことができました。資金調達や事業計画書づくりに悩みを抱える皆さんは、ぜひ専門家の力を借りながら、自社に合った財務戦略を組み立てていただければと思います。

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