TOP > インタビュー一覧 > SNSマーケティング、Vtuberビジネスに取り組むZIGに見る デジタルコンテンツビジネスの可能性と“バズのツボ”
● 株式会社ZIG 小泉拓学氏
2004年、株式会社K sound design設立。2007年、ソーシャルカードゲーム「モバイルウォーズ」を開発。「モバゲータウン」オープンプラットフォームの先行開発パートナー30社に採択され、合計会員数70万人を達成。2013年からNAVERまとめにてキュレーターとして活動開始し月間300万PVを達成。2014年、株式会社ZIGを設立。
スマートフォンを始めとするモバイル端末の進化とともに、そこで展開するコンテンツもここ数年で大きく様変わりしてきた。その現況において、動画サイトyoutubeを中心に注目度が高まっているのが「VTuber」だ。なかでも同ジャンルにおいて、一般のユーザーがより気軽にVTuberとして活躍できるようなサービスを配信している株式会社ZIGの取り組みは、新たなデジタルコンテンツビジネスの可能性を感じさせる。
同社の代表である小泉拓学氏は、ガラケー時代から様々なデジタルコンテンツを手掛けてきた実績と、東日本大震災後の苦境を乗り越えてきた波乱万丈な経験の持ち主。小泉氏が“SNSのデータ分析”の視点から取り組む、新たなデジタルコンテンツビジネスとその展望について聞いた。
このページの目次
—小泉さんはZIGを設立する以前、ガラケー時代の「着メロ」からモバイルやデジタルコンテンツの事業に関わり始めたそうですね。
小泉:2003年に、仙台で個人事業として着メロの受託制作をしていました。当時の携帯電話のキャリアや機種に合わせて、より良い音が聴けるように音質を調整して制作したことが評価され、年間1000万円ほどの売上がありました。
そして、2004年に株式会社K sound designを設立し、携帯電話のモバイルサイトに特化したコンテンツビジネスに着手するようになります。ここでも大手クライアントとの受託事業がうまくいき、3年で売上が1.6億円まで拡大しました。そこからより会社としての成長を模索するなかで、少ないアセットで大きなアップサイドを目指すため、自社開発のコンテンツづくりに取り組みました。
2007年には、日本初の携帯電話によるソーシャルゲーム「モバイルウォーズ」をリリースしたのですが、これが爆発的にヒットします。モバイルウォーズは、キャラクターのカードを手に入れて戦うゲームです。当時、携帯電話を通したインターネットの入り口はdocomoのi-modeが主流で、「インターネット = i-mode」と認識している人も少なくありませんでした。しかし、モバイルウォーズは自社サイトで立ち上げ、アプリゲームが全盛の時代にブラウザでプレイできたこと、更に、サイト内課金によるいわゆる“ガチャ”のシステムを日本で初めて取り入れたことが革新的でした。
—なぜ、モバイルウォーズの開発をスタートしたのでしょうか。
小泉:モバイルサイトに特化したビジネスを展開する中で、PCに比べ携帯電話のコンテンツの方が顧客単価が高いことが見えてきていたのが、このゲームを開発した背景にあります。また、デジタルなので原価がほとんどないこと、そして同時期にDeNAがモバゲータウンのサービスを開始したことも追い風となりました。モバゲータウンのオープンプラットフォーム先行開発パートナーの30社に選ばれ、開発を進めていきました。
この頃のソーシャルゲームのマネタイズは、ゲーム内のプレイ回数や時間を回復させるアイテムや、アバターのパーツの販売がメインでした。しかし、それでは決定的な収益にはなりませんでした。だから課金をして強いカードを手に入れるガチャを取り入れることにしたんです。ガチャは1回300円で引くことができ、必ず強いカードが出るとは限りません。また、サイト内でカードのトレードができるようにしたことでガチャの価値も高まっていったんです。
「モバイルウォーズ」の登録者数は70万人まで増え、2009年には、モバゲーオープンプラットフォームを代表するゲームとなりました。また、mixiやGREE、Yahoo!モバゲーでもリリースし、「アプリやろうぜbyGMO」でプラットフォーム制覇賞を受賞するまでに至ります。
ただ、このビジネスモデルは他社も真似をしやすく、PRに資金をかけられる大企業が参入することで、課金ゲームが一気に増えて競争が激しくなったんです。大規模ではない仙台の会社が、そこで勝ち抜くためには新たなアイデアを盛り込んでいくことも必要でした。
—その後、2011年の東日本大震災で状況が一変したと聞きました。
小泉:震災によりデータセンターも被災しサーバーがダウンしたことで、2週間で売上が半分になってしまったんです。当時は、クラウドが浸透していなかったこともありますが、今振り返ると私のリスクマネジメントができていなかったと痛感しています。大きく売上が減少したことで会社は廃業に追い込まれ、私自身も個人破産をして、2億円の負債を負うことになります。
—その状態から、よく次の事業へ踏み出そうと思われましたね。
小泉:負債の免責後、1年くらいすると「もう一度、新しいチャレンジがしたい」という思いが強くなりました。以前の会社を立ち上げた当時に比べ、インターネットも普及していたため、ネットを通じたビジネスに取り組めないかと模索しましたね。ただ、家庭があったので、家族からは「仕事をしなさいよ」という目で見られながらでしたが(笑)
そこで当時、増え始めていたアフィリエイトブログに注目し、キュレーション・プラットフォームである「NAVERまとめ」で記事をつくる“まとめ職人”を始めました。様々な記事をつくりましたが、始めて4カ月で月間320万PVを達成し、3000人ほどいた職人の中で2位になります。
その一方で、インセンティブがあまりもらえなかったため、今度はWordPressで個人ブログを開設しました。その中で人気を集めたのが、NHKの朝ドラ「あまちゃん」をテーマにした「NHK あまちゃん 徹底解説ブログ」というブログです。このブログはドラマの人気と相まって月間285万PVがあり、記事を通じて多くの人がインターネット上で盛り上がっているのを目にしました。そこで自分は「コンテンツで人を集めて喜ばせることが好き」だと再認識しましたね。
—その後、2014年にZIGを立ち上げられますが、ZIGの事業内容について教えてください。
小泉:2014年に「ZIGNOTE.(ジグノート)」という、誰でも気軽に画像や動画をまとめて発信できるキュレーション・プラットフォームをリリースし、その後、SNSマーケティングや、TwitterやInstagramを用いたマンガなどのコンテンツ発信などに取り組み始めました。これらは受託運営ではなく、共同運営のような形で取り組んでいます。弊社のSNSマーケティングは、モバイルコンテンツの制作やまとめブログの経験で蓄積した、SNSのユーザーに質の高いアプローチするためのノウハウが強みと言えます。
通常のSNS広告の単価が1フォロワーあたり200円程度だとすると、ZIGは1フォロワーあたり60〜70円。さらにフォロワーとのエンゲージメントの強さも特徴です。どうすれば“バズる”かを分析しながら、狙ったところに発信をしています。
ーその“バズのツボ”とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
小泉:Twitterの場合、国内の約4500万アカウントのうち、これまでに1万以上リツイートされたツイートを集計しているのですが、意外なほど人々の興味の幅が限られているということが分かります。 料理に関するものでは、単純に美味しそうなものや高級な料理、珍しいものが必ずしも人気とは限りません。
例えば「フライパンたこ焼き」というものに注目しましょう。これは「チープ」「簡単・お手軽」という点がポイントになります。そのポイントを押さえた内容をツイートすることで、より多くのユーザーにアプローチが可能になるということです。
また、Instagramではリツイートのような機能がないため、ハッシュタグが肝になります。ハッシュタグを通じて新たなアカウントにたどり着く機会が多いのですが、私はこれを”ハッシュタグジャーニー”と名付けています。
ハッシュタグを制することがInstagramで成功する秘訣です。 例えばハッシュタグをつける時に、「単純に人気のハッシュタグをつければいいか」というと、そういうわけでもありません。人気のハッシュタグは、同時に多くのアカウントが使っています。つまり、そのハッシュタグで検索した時に、多くの投稿の中に埋もれてしまう可能性があるというわけです。
そこで、まず注目を集めるためには、あえて不人気の使用率が低いハッシュタグを使って、確実に届けたい層にアプローチしていくことが重要です。そして、アカウントの認知が高まってきたら、徐々に人気のハッシュタグを取り入れていくのです。
TwitterもInstagramも大事なのは、アプローチしたいユーザーが何を求めているかに耳を傾けることだと思います。ユーザーのペルソナをしっかりと設定するなどして、その人が好むもの、使っているハッシュタグを明確にしながら、計画的に情報を発信していくことが“バズのツボ”です。 これ以外にもバズるためのノウハウは様々あり、SNSマーケティング事業に活かされています。ここで得た収益と、ベンチャーキャピタルからの出資を用いて、新たなビジネス拡大を目指しています。
—現在、ZIGが行っているVtuberのプロダクション事業の概要を教えてください。
小泉:Vtuberは、ここ1、2年で人気が高まってきたジャンルです。もともとYouTubeで動画を配信する人々は、YouTuberと呼ばれていますが、その登場する人物がCGで作られたバーチャルのキャラクターになったのがVtuber(バーチャルユーチューバー)です。人の動きに合わせて画面上のキャラクターが動くことで、そのCGキャラクター自体が配信者として認識されます。
前述のSNSマーケティングの手法で、Vtuberについてリサーチをすると、2017年12月に「輝夜月(かぐやるな)」というアカウントが登場して以降、急速に認知が広まり、SNS上での話題が増えていることが分かります。同時に、Vtuber自体の数も増えてきました。多くのVtuberを抱えるプロダクションも生まれ、またグリーがVTuber専用ライブ配信サービスを発表するなど、他社でも多くのVtuber関連プロジェクトが動いています。
弊社では2018年の6月に「Vtuber100体プロジェクト」と題して、様々なコンテンツを発信するVtuberグループをつくる取り組みをスタートしました。2019年9月までに、100名のVTuberのデビューさせることを目標としています。
提供:ZIG
Vtuberが登場し始めた当初は、高性能のセンサーを用いて、3Dのキャラクターが人の動きを細かく再現するというものが主流でした。しかし、最近はLive2Dで作成した、3Dに比べればあまり動かないキャラクターでのVtuber配信が増えています。
弊社がプロデュースする「華香院つばき」を始め、活動をスタートしているその他のVtuberも同じくLive2Dを用いていますが、登場から3カ月程でVtuber動画のランキングに複数ランクインしています。動画の視聴数やフォロワーの増え方の動向からも、今後より認知が拡大していくことが予測されます。弊社としては、Vtuberグループのオーディションや、キャラクターのモデリングデータの配布などを通して、多くの人にチャンスを設けて、市場の拡大を図っていきたいと考えています。
—Vtuberビジネスの可能性についてどのように感じていますか。
小泉:テクノロジーが浸透してVtuberが増えることで、より“中の人”の面白さも重要になってくると感じています。
今、Vtuber市場は20代の方がメインのターゲットです。「ゲームや特殊なコンテンツの暗黙知を理解しているかどうか」や、配信の時の臨機応変な対応などが評価につながります。このためには、前述の「ユーザーが何を求めているかに耳を傾ける」ことが必要で、弊社がSNSマーケティングなどを通じて得てきた知見が活かせるのではないかと考えています。
Vtuberはある意味チープなコンテンツでも急成長が期待できる領域ですが、大きなマネタイズができるビジネスモデルは確立されていません。かつてモバイルウォーズでソーシャルゲームの新たなビジネスの流れを生み出した経験があるからこそ、弊社が新たなVtuber市場を切り開いていきたいですね。
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