TOP > インタビュー一覧 > 3度にわたるスタートアップへの挑戦。バーティカルSaaSで酒類業界のDXに挑む起業家・毛利源太氏
株式会社 cup of tea 代表取締役CEO 毛利源太氏
2025年3月22日に開催された、起業後の再挑戦を応援するデ モデイ&カンファレンス『TOKYO Re:STARTER CONFERENCE』。このイベント内で行われた、起業に再挑戦する起業家たちのピッチイベント「TOKYO Re:STARTER PITCH」では、酒類業界のバーティカルSaaS「サカビー」を手がける株式会社 cup of tea 代表取締役CEO 毛利源太氏が最優秀賞に輝いた。
今回、毛利氏にインタビューを実施。「サカビー」のサービス内容や事業展望、受賞への想い、3度にわたって起業に挑戦し続けることができた理由などをたっぷりと語ってもらった。
毛利 源太
株式会社 cup of tea 代表取締役 CEO。新卒でサイバーエージェントグループのインターネット広告企業に入社。マーケティングコンサルティング事業の立ち上げや、営業部門責任者を担う。その後、スタートアップの取締役を経て、個人事業主として独立起業。メーカーのブランディング、DX化の促進、マーケティング戦略実行支援に携わり、スタートアップ期〜グロース期の事業全体の戦略構築、マーケティング施策の実行を手がける。NTTドコモグループのスタートアップ企業における取締役を経て、2023年10月に株式会社cup of teaを創業。
このページの目次
——改めて、貴社の手がける「サカビー」はどのようなサービスなのでしょうか。
「サカビー」は、酒類販売を手がけるEC事業者や酒販店、卸売業者と、お酒を売りたい酒造メーカーをつなぐBtoBのマーケットプレイスです。酒類業界の販促活動や受発注における課題をデジタルの力で解決するサービスとして運営しています。
——酒類業界には、具体的にどのような課題があるのですか?
売り手の酒造メーカーと買い手の酒販店や卸売業者との間に、DXの観点で大きな格差が生じています。酒販店や卸売業者はDXがかなり進んでおり、商品の受発注業務などを効率的に回す体制が整ってきています。一方で、酒造メーカーは、現在も電話やファックス、メールで注文を受け付ける会社が多いのが現状です。
——古くから続く業界の中でDXを進めるのは、一筋縄ではいかない気がします。
おっしゃる通り、酒造メーカーの皆様に「サカビー」を受け入れていただくためには、高いハードルを乗り越えなくてはなりません。当社としては、そのハードルを段階を踏んでクリアできればと考えています。
具体的には、まずは「サカビー」を触って使い勝手を確かめていただくことを重視しています。当社は昭和時代のみ発行されていた「旧酒類小売業免許」、いわゆる「旧酒販免許」を保有しているため、デジタル専門の酒販店という立場をとって、酒造メーカー様に利用いただこうと考えています。その際、我々に対する受注処理ツールとして「サカビー」を無償で提供。使いやすさなどを実感できれば、他の酒販店との取引時にもサービスを利用していただけるのではないかと、レガシー業界ならではのDXの進め方を実践中です。
——「サカビー」はBtoB向けのサービスですが、BtoCでの展開は考えていますか?
考えています。現在も一部でBtoCサービスを展開しているのですが、今後はBtoCにも力を入れる予定で、toBとtoCの両方をバランスよく手がけるサービスモデルを構築しているところです。
では、なぜBtoBのほうからサービスを始めたかというと、日本の酒類業界に与えるインパクトの大きさが異なると考えたからです。日本酒やお酒というカテゴリでBtoCサービスを構築しようとしたとき、多くの方はD2Cのサービスを思い浮かべると思います。しかし、D2Cでサービスを展開した場合、1社で扱えるお酒の種類や量は限られてしまう。それでは、「日本の酒類業界を元気にしたい」という当社のビジョン実現からは遠ざかってしまいます。
業界に直接影響を及ぼしたいのなら、やはりワンプロダクトでは難しい。そのため、デジタルマーケティングや業務のDX化を通じて流通の部分にも大きな影響を与えられる現在のビジネスモデルを、最初に手がける事業として選んだのです。
将来、会社を拡大させることができた暁には、海外展開を視野に入れたtoC向けの製品づくりも行っていくつもりです。現在、酒造メーカーには事業承継の問題が色濃く浮かび上がってきている会社が多く、そうしたところに我々がM&Aを行うことで、各酒造メーカーのお酒造りを受け継ぎながら、toCでの商品展開も実現できると考えています。ワンプロダクトで自社製品を販売するというよりも、多種多様なお酒を扱う形で「サカビー」を発展させることができたらと構想を描いています。
——3月22日に開催された『TOKYO Re:STARTER CONFERENCE』では、「TOKYO Re:STARTER PITCH」に登壇し、最優秀賞に輝きました。改めて、受賞の気持ちをお聞かせください。
私は、日本の食文化は世界に誇るべき、日本を背負って立つコンテンツだと考えています。そのため、事業そのものへの自信はありましたが、やはり最優秀賞を受賞したと聞いたときは驚きました。実は登壇した当時、会 社の将来を左右する大きな壁にぶつかっていました。本音を言えば、ピッチをしているどころではない心境だったのですが、当日、会 場に訪れた皆さまの前で話をし、最優秀賞をいただくことができたのは、本当にありがたいことだと感じています。これまで資金調 達に難しさを感じることもあったのですが、今回の受賞は当社の事業の可能性を知っていただく良い一歩になりました。これからさらなる事業拡大を見据えて、動き出していきたいです。
——今後の展望をお聞かせください。
まずは、酒造メーカーが売り上げを拡大させるために必要な「良きパートナー」となり、酒類業界の中での立場を確固たるものにしていきたいです。その後、将来的には国内と海外で大きく3つの取り組みを展開していきたいと構想しています。
1つ目が、AIによる受発注予測機能の搭載です。これは国内での展開を目指しており、「サカビー」に蓄積された受発注データをもとに、酒造メーカーが今後の受発注数の見込みを立て、それを製造計画にまで落とし込めるような仕組みを検討しています。
2つ目が、「サカビー」にフィンテックプラットフォームとしての役割も持たせることです。例えば製造量の拡大が必要と分かった際、酒造メーカーは製造ボリュームを上げるために設備投資が必要となりますがその資金の調達をサカビー上で行えるイメージです。決済事業者などと連携をとりながら、酒造メーカーの製造計画の策定から資金調達まで可能にするオールインワンの仕組みを構築していきたいと考えています。
3つ目が、日本の多様なお酒のブランドを世界各国に販売していくことです。当社は海外展開を見据えていますが、酒類業界の事情は各国で異なることから、世界に対しては「日本のお酒を売る」という軸で事業を行いたいと考えています。イメージとしては、ハイブランドを世界に多数届けているLVMHのお酒版の企業だと思っていただけると分かりやすいかもしれません。2025年中に世界への販売ルートが確保できる見込みのため、今後は東南アジアや中国、アメリカ、ヨーロッパでの展開を見据えながら、事業を加速させていく計画です。
——毛利さんは、これまでに何度も起業に挑戦されています。改めて、ご経歴をお聞かせいただけますか?
新卒では、サイバーエージェントグループのインターネット広告会社に入社しました。マーケティングコンサルティング事業の立ち上げや営業部門責任者を経験した後、もともと起業志向があったことから、2018年に友人が起業したスタートアップ企業の取締役COOに就任しました。2019年に個人事業主として独立。約2年間、メーカーのブランディングやDX推進、マーケティング戦略実行の支援に携わりました。2021年中頃からNTTドコモグループのスタートアップ企業に関わりはじめ、最終的には取締役として会社全体を取りまとめた後、2023年10月に自分の会社である株式会社cup of teaを創業しています。
——もともと起業志向があったそうですが、なぜ起業を考えるようになったのでしょうか。
祖父の影響が大きいです。私の祖父は30年ほど前、佐賀県鳥栖市の市長を務めていました。市長在任中、祖父はサッカーチームの誘致や鳥栖ジャンクションの建設、九州初のプレミアムアウトレットモールの誘致などを積極的に実施。現在に続く大きな経済効果を市内にもたらしました。そんな祖父の姿を見るうちに、私の仕事観や人生観が形作られ、「自分が死んだ後にも残るものを作りたい」と思うようになったのです。それが起業志向を抱くようになった大きなきっかけでした。
——これまでのキャリアの中で得られた学びで、現在に活きているものはありますか?
たくさんありますね。まず、2社目の友人の会社では、スタートアップを経営する上では「創業者の描く想いやビジョン」が何よりも大切だということを実感しました。この会社では事業開発に何度かチャレンジしていたのですが、どれも鳴かず飛ばずで、最終的には、食べていくために傍らで行っていたマーケティング支援事業をメイン事業とする会社となりました。その結果、私を含めた創業メンバー全員が退社。代表の確固たる想いに仲間はついてくるのだと、大きな学びになりました。私もまだまだ精進している最中ですが、cup of teaを経営する上では、ビジョンをどう掲げ、現場に伝えていくかということは強く意識しています。
3社目のスタートアップ企業では、従業員数が比較的多かったため、組織のつくり方がとても勉強になりました。自律的に業務が回る組織を作るために、責任範囲をどう設定し、どのように権限を現場に委譲していくのか。個人が能力を最大限活かすことのできる職場にするために、どう組織体制を構築すべきなのか。非 常に難しい問題ですが、さまざまな課題と向き合う中で、いろいろなやり方を考える経験ができたように思います。
——毛利さんがこれまで幾度となく挑戦を続けてこられたポイントは、どこにあったとお考えですか?
第一は、自分のモチベーションが途切れなかったからだと思っています。私は昔から、一度熱中し始めると、それをやり切らないと気が済まないタイプなんです。起業においては、まだ「やり切った」と思えるところまで到達していないので、追求し続けているのだと思います。
とはいえ、完全に私一人だけの力でここまで来れたかというと、そうではありません。いろいろな方のサポートがあってこそ、起業への挑戦を今日まで続けることができたのだと考えています。例えば、両親や妻のサポートは大きなものでした。特に妻は、私がやろうと思っていることに反対したことが一度もなく、全面的に応援してくれているのは本当に心強いと感じます。
経営者の先輩方にも、さまざまな場面でお世話になりました。経営に迷ったとき、困難な状況に陥ったとき、先輩方の助言に何度も助けていただきました。家族も含め、これまでサポートしてくださった方々には心から感謝しています。いつかどこかでしっかりと恩返しができるように、今後も引き続き頑張っていくつもりです。誰かのために頑張りたいと思う気持ちがあればこそ、心が折れずに前を向いて挑戦し続けることができているのだと思います。
——毛利さんのようにピンチのときに助けてもらえるような関係性を構築するために、意識すべきことは何でしょうか。
いつか助けてもらうことを念頭に誰かと関係性を作ろうと考えてはいませんが、普段の人間関係の中で最近心がけていることは、大きく2つあります。1つ目が、相手との関係性によっては「弱み」を見せること。これは経営者の先輩からいただいたアドバイスで、何か悩んでいることがあるとき、相手との信頼関係が十分に構築できており、相談に乗ってくれそうな方であれば、悩みなどを素直に打ち明けるようにしています。
2つ目が「嘘をつかずに誠実であること」。これは以前からずっと大切にしている姿勢です。自分に非がある場合は、嘘をつかずに状況をそのまま相手に伝え、謝罪をしますし、仕事の依頼があれば、その案件に全力を出します。もしもその案件が自分のキャパシティを超えているのであれば、それも率直にお客様にお伝えし、代替案を提示します。嘘をつかず、過度に儲けようとせず、常に誠実でいること。これはすべての人間関係において、とても大切なあり方だと信じています。
ですが、私はもともと物事を一人で抱え込んでいたタイプだったので、周囲を頼ることには今でも難しさを感じることがあります。先日直面した会社の将来を左右する困難な状況の中で、ようやく周囲の方に頼れるようになり、「弱みを見せる」「周囲の手を借りる」というのは、私としてもここ最近で得た大きな学びでした。
——最後に、毛利さんにとっての起業の価値とは?
「自分自身が人間として成長できる最高の環境に身を置けること」が、私の考える起業の価値です。10年近く起業やスタートアップに携わっていますが、その中で、人間として大きく成長することができました。起業 せず会社員を続けている自分と、起業した現在の自分を比べたら、人生の経験値はおそらく10倍も違っているのではないでしょうか。圧倒的な経験を積んできたこともあり、最近は実年齢より年上に見られることも多いです(笑)。起業に挑戦して、本当に濃い10年間を過ごすことができたなと改めて感じています。
フリーのライター・編集。広報として大学職員、PR会社、スタートアップ創出ベンチャーを経験後、ライターとして独立。書籍や企業のオウンドメディア、大手メディアで執筆。スタートアップの広報にも従事中。
サイト:https://terukoichioka128.com/
Twitter:https://twitter.com/ichika674128
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