TOP > インタビュー一覧 > AIでは真似できない!1,000年間の歴史に蓄積された“スピリチュアル都市・京都”の価値とは? 市民の概念を拡張する“0.1市民”の考え方とは?
KYOTO Innovation Studio Session vol.12
KYOTO Innovation Studioでは、京都市内外の多様な「知」を持つ方を招き、「京都でイノベーションを加速させる」ことをテーマに、様々な意見交換を行っている。
参考:KYOTO Innovation Studio 公式HP
第12回目のトークセッションのテーマは『「異才」と考える京都の100年先の価値〜あなたなら「何で」最大化できますか?〜』だ。
ファシリテーターを務めるのは、京都市都市経営戦略アドバイザー 入山章栄氏。
茶道総合資料館 副館長の 伊住 禮次朗氏、株式会社ウィズグループ 代表取締役 奥田 浩美氏、コミュニティ・バンク京信 理事長 榊田 隆之氏、株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 内藤 貴仁氏をゲストとしてお迎えした。
西洋の二元論的価値観が優位だった時代は過去のものになりつつあり、世界中で東洋の多層的な価値観への注目が高まっている。そんな今、京都には日本人が想像している以上のポテンシャルがあるという。
その大きな理由の一つは、京都にはAIが真似できない精神性や伝統文化が息づいていること。
100年先の京都を見据え、超長期的な視点で京都の価値創造のあり方を探るイベントをレポートする。
このページの目次
入山 章栄氏
京都市都市経営戦略アドバイザー 入山 章栄氏
早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジ ネススクール(WBS)教授。慶應義塾大学院経済学研究科修士課程修了後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得し、同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
WBS准教授を経て、2019年に現職へ。「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)等の著書のほか、メディアでも活発な情報発信を行っている。
入山:京都は世界中の人が最も訪れたい街の一つでインバウンドは多いのですが、ビジネス面では様々な課題があります。
大きな課題の一つは、多くの人が観光だけして帰ってしまうこと。
ビジネス目的で京都を訪れる人を増やすために、京都市をさらに世界とつながる街にしたいと思っています。
なぜ「世界とのつながり」を重視するかというと、離れた場所にいる人と人の知見が組み合わさった時にイノベーションが起こるからです。
これはシュンペーターのイノベーション理論でも明らかになっていることです。
観光客がやってくるだけでなく、世界中の人と京都の人がつながって、新しい刺激を受けたり一緒に何かしたりして、可能性を広げることが大切です。
そうすれば、イノベーションが起きて新しい価値を生み出せるでしょう。
もう一つの大きな課題は、京都の中でもつながりが足りていないことです。
京都は本当に素晴らしい場所で、たくさんの神社仏閣や老舗企業、面白いことをしている大手企業やベンチャー、数多くの大学があるのに、同じ業界内の人だけとつながりがちで、外とのつながりが不足しています。
この二つの課題を解決するために、約4年前に京都市と共に『KYOTO Innovation Studio』を立ち上げました。
京都の外の人と中の人が集まり、外の人から京都はどう見えるのか、中の人はどういう思いがあって、どういう課題を持っているのか、みんなで議論すると同時に自由に交流できる「知の探索」の機会を年に何度かつくっています。
すでに成果がでていて、京都市が行っている「カルチャープレナーの創造活動促進事業」のカルチャープレナー(文化起業家)という言葉はKYOTO Innovation Studioで生まれました。
第12回目となる今回のテーマは『「異才」と考える京都の100年先の価値〜あなたなら「何で」最大化できますか?〜』です。
京都の未来といっても数年先のことではなく20〜30年先、さらには100年先まで考えてみてください。
100年後だと自分とは関係ないと思うかもしれませんが、AIで蛋白質の構造予測に成功したため、もうすぐ癌を克服できると言われていて、今の10〜20代の人は120歳まで生きる可能性があります。
だとしたら、100年後に自分自身や我が子が京都で生活しているかもしれません。
我々はその時代に生きている人々に対して責任を持たないといけないので、100年後の京都について考えてみましょう。
それでは、ゲストの方から自己紹介をお願いします。
伊住 禮次朗 氏
茶道総合資料館副館長 伊住禮次朗 氏
茶人。
茶道裏千家の連家・伊住家に次男として生まれる。茶名は宗禮(そうれい)。
茶の湯釜の研究で博士(学術)号を取得。現在は父・伊住政和が1988年に立ち上げた「茶美会(さびえ)」主宰を継承し、コンテンポラリーアーティストと共創する茶のかたちを模索している。
また、代表を務める「NPO法人和の学校」では、次代を担う子どもたちが伝統文化や伝統産業に触れる機会を創出する為の活動を展開中。裏千家が営む茶道総合資料館副館長、裏千家学園茶道専門学校副校長として茶道の伝統を守り伝えると共に、茶の湯文化の今様を探求している。
京都市の「長期ビジョン」に若手の視点で提案を行う「未来共創チーム会議」のメンバーとしても活躍中。
伊住:私は千利休から数えて16代目のお家元の甥で、裏千家の中のお勤めとして茶道総合資料館の副館長や茶道の専門学校の副校長をしています。
茶道の世界も内向きになりがちな傾向がありますが、それによって茶道文化が守られている面もあります。私自身も、文化の継承や保存は流儀の本分であると考えています。
しかし、その一方で、外側からの外部の知見を取り入れる実験的な領域を設けることも必要だと考えています。ということで、子どもたちやその保護者の目線から伝統文化や産業を伝えるNPO法人和の学校の運営や、アーティストと共に実験的な茶会を行う活動などもしています。
お茶の世界を守ることと、その内外をつなぐための場を開くことの両方が私のミッションです。
また、京都市で現在進めている「長期ビジョン(仮称)」の策定にあたり、若い世代が主体となって議論を行う「京都市未来共創チーム会議」の委員も務めています。
奥田 浩美氏
株式会社ウィズグループ 代表取締役 奥田浩美氏
ムンバイ大学(在学時:インド国立ボンベイ大学) 大学院社会福祉課程修了。
1991年にIT特化のカンファレンス事業を起業。
2001年に株式会社ウィズグループを設立。
2013年には過疎地に株式会社たからのやまを創業し、地域の社会課題に対しITで何が出来るかを検証する事業を開始。
委員:環境省「環境スタートアップ大賞」審査委員長、経産省「未踏IT人材発掘・育成事業」審査委員、厚労省「医療系ベンチャー振興推進会議」委員等 、
著書:ワクワクすることだけ、やればいい!(PHP出版)ほか
奥田:私はいつも自己紹介で「未来から来ました」と言っているのですが、その理由は未来の社会課題に気づいて動き出している人や、現代にはない未来の技術を研究している人と毎日接しているからです。
私の仕事は、未来づくりの仲間を集めてみんなでつながること。
私は屋久島の中でも僻地で育ち、「何かを成し遂げるぞ!」と思ってインドの大学に進学しましたが、「私がいようがいまいが、世界は何も変わらなかった」という挫折体験をしました。
それからIT分野特化のグローバルカンファレンスの企画運営の会社を立ち上げ、イノベーション集積の場づくりや、インドへの投資や恵まれない子供達を支援するNPO運営も行っています。
私は自分がもった悲しみをナラティブにつなげて生きてきて、いわゆるエレジーと言われるような悲しい物語から自分が行くべき道を探ってきました。
榊田 隆之 氏
京都信用金庫 理事長 榊田隆之氏
上智大学外国語学部を卒業。
1985年に京都信用金庫入社、2018年に理事長就任。
徹底的な対話型経営により「日本一コミュニケーションが豊かな会社」を目指す。
1971年に「コミュニティ・バンク」を世に提唱した金融機関の理事長として、地域の経済や文化の形成への想いを込める。
榊田:私は京都の中で一生が完結してしまうことに危機感があり、東京の中学に進学した後、アメリカ東海岸の全寮制の高校に入りました。
ライフワークはまちづくりや地域の未来を考えることですが、趣味や特技で終わらせず、どんなことが起こっても負けないぐらいの情熱、パッションをもつようにしています。
まちづくりは実際にそこに住む地域の方にどれだけ目線を合わせられるか、地域の方と一緒につくっていけるかが重要で、統括する人の独りよがりになってはいけないということです。
同時に地域の人が自分の住んでいる場所の未来は自分達で考える、つまり「自分ごと」にすることもできれば、京都の未来は明るいでしょう。
また、一定の距離感を保って人付き合いをするのが京都の文化で、それが京都ならではの気配りだとはいえ、オープンイノベーションを妨げる要因にもなります。
だから、京都の人は『Beyond Boundaries(境界線を超える)』を意識することも大切です。
これからは境界線をつくらず、もっと心の距離感を近くして、違う価値観の者同士で化学反応を起こすことも必要だと思います。
内藤 貴仁 氏
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 内藤 貴仁氏
2001年サイバーエージェント入社。
インターネット広告事業本部の統括本部長等を経て、2010年に取締役就任。
現在はAIの研究・開発を担うAI関連事業と、オペレーション事業・クリエイティブ事業・DX事業を統括。
2020年に常務執行役員に就任。
2024年には、インターネット広告事業において、社会課題における調査機関「人文知研究所」を新設。
内藤:サイバーエージェントはメディアとゲームと広告の企業ですが、今後3年で3,000人以上の従業員が必要なくなるかもしれません。
入山:サイバーエージェントはAI導入を推進しているため、「社員3,000人をAIに置き換えることができる」ということでしょうか。
内藤:はい、そうなってしまいそうなので、リスキリングや異動などの準備を進めています。
広告代理店でのクリエイティブな業務は、今後2〜3年で動画も含めてほとんどが自動生成で作れるようになるでしょう。
その一方で、「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」を運営する株式会社COTENと業務提携して「人文知研究所」を立ち上げました。
これまでは売上重視で広告を提供していましたが、そのやり方を続けると、近い将来広告そのものが悪者になってしまうと懸念しています。
新商品を出して資源を消費し続けることに、社会が拒否反応を示すようになってきているからです。
つまり、広告が社会にとって不要になり得る時代に自社がどのような価値を提供していけば良いのかと考えると、社会背景を理解して商品がもつ意味や必要性を消費者に提示しないといけません。
そのためには、歴史や哲学など人文学から世界を読み解く力「人文知」が必要だと考えました。
入山:それでは100年先の京都について、みんなで考えていきましょう。
奥田:これまでは西洋の力が強かったのですが、最近では「東洋に学ぼう」という動きが出てきていて、北欧をはじめとした諸外国から日本がとても注目されています。
他国より日本が注目されている理由は、京都や奈良などこの一帯の地域には精神性の根源のようなものがあるからです。
精神性はデータ収集できないので優位になってきませんでしたが、2000年くらいにWHOが健康の定義として「魂の健康」というスピリチュアル的な要素を取り入れました。
こういったスピリチュアルな世界観を一番美しく守れるのは日本なのではないかと思っています。
スピリチュアルを怪しいものとせず、日本の大学でのリベラルアーツの中に学問としてのスピリチュアルを入れて、しっかり語れるものにすれば高い価値が生まれるでしょう。
入山:スピリチュアル都市・京都ですね。
伊住:非常に興味深い話で、茶道文化も精神を継承するという構造の中に成り立っている一面が確かにあります。
茶の湯文化の大成者と称される千利休の言葉はほとんど残っていなくて経典もありません。
つまり、一人ひとりが利休の心や茶道の精神と向き合うことで成り立っている世界です。
茶道の「型」は伝授を積み重ねる中で磨かれてきた器であり、我々はその上で修養を重ねます。先人の歩んできた道に対して、理解を深めながら実践することが重要です。
京都には伝統文化の担い手がたくさんいて、そういった精神が生きている。その意味でスピリチュアルが息づいているといえますね。グローバル社会の中で、そのような都市が果たすこれからの役割は大きいと思います。
榊田:海外の人が京都に魅力を感じているのは、背景にある「道徳」や「スピリット」なのでしょう。
たとえば、自分より周りの人に気を配る思いやり、人を騙してはいけないという正義感、人に尽くして損をして得を得るという価値観などです。
こういったものがあったからこそ、京都は消滅することなく1000年という長い歴史をつくれました。
しかし、神社仏閣だけでなくスピリチュアルな面でも注目されていることを知っている京都の人は少ないはずです。
京都の人は、こうした部分を認識しないといけません。
奥田:京都のすごいところは、スピリチュアルを宗教と絡めずに語れること。
そういった場所は世界中探しても数少ないです。
入山:スピリチュアルと宗教は違うという意味でしょうか。
奥田:はい、まったく違います。
入山:宗教と違い、スピリチュアルという概念は研究されていませんね。
奥田:宗教学はあっても、スピリチュアル学はまだありません。
茶道はスピリチュアル学だと私は思っていて、茶道は禅の世界と関わりがあっても、「私はキリスト教だから茶道できません」とはなりませんよね。
つまり、茶道はスピリチュアルなものでありながら、宗教に支配されていないんです。
世界中どこを見ても、スピリチュアルは宗教に何らかの影響を及ぼしていますが、同時に大半のスピリチュアルなものは宗教に支配されていて、茶道のように支配されていないものは貴重です。
内藤:私は東京と京都の二拠点生活をしていますが、2年くらい実験寺院 寳幢寺(ほうどうじ)の松波龍源さんの所に通っていて、月1回ペースで瞑想しています。
これは、グローバルな経営に携わっていて、欧米企業と同じ方法を日本企業に取り入れるのは難しいと思ったことがきっかけです。
初任給1億円を出す海外企業もいる中で我々が勝つためには、経営におけるOSとして組織運営を考えた時、仏教的な価値観が好きな人やアニメなど日本のクリエイティブなものが好きな人に入ってもらうのが得策だと思いました。
入山:仏教的な価値観を重視した会社にして「サイバーエージェントはスピリチュアルなところが魅力的だから入りたい」と思われれば、世界中の優秀な人が入ってくれます。
内藤:はい、むしろそういうコミュニティにしていかないと、世界中に仲間がつくれないんじゃないかと思います。
入山:ということは、京都がより大事になりますね。
ここまでの話でわかったのは、スピリチュアルは予想以上に面白くポテンシャルがあること。
これは、かなり重要なポイントです。
奥田:今は文字化するとAIに吸い取られてしまうので、表現したら終わる世界が始まっています。
茶道の強みは、AIでは再現できないことです。
マニュアルがない茶道なら、AIに吸い取られる心配がありません。
榊田:我々日本人は伝統芸能や文化について知らなさすぎです。
AIの時代だからこそ伝統のルーツを知ることが大切で、所作のひとつひとつにはすべて意味があります。
たとえば、茶室に最後に入った人はピシッと音を立てて襖を閉める作法がありますが、これは全員が入り終わったことを音で亭主に知らせるため。
亭主はこの音を聞くことで、茶会を始めるタイミングがわかります。
このように、所作は相手を思いやるためのルールです。
スピリチュアルな面だと、茶道は陰陽五行を取り入れているので、風炉釜は宇宙の五元素である五行を備えた、バランスの取れた存在だと言われています。
全体は「金」属でできていて、釜の中に「水」、風炉の中には「土」と「火」、風は「木」です。
こういった部分を日本人が学ぶと海外にアピールできるので、京都の価値をさらに高めることができます。
伊住:京都市未来共創チーム会議の中で出てきたアイディアが「京都0.1市民」という考え方です。
観光客と地域住民とのハレーションが問題視されていますが、京都を愛してくれている国内外の方々との観光だけでは終わらない関わり方を考えていく必要があると話し合われました。
そうした中、京都に関わりたい人たちが、一人ひとりが大きなことをするのは難しくてもほんの少し、「0.1」で良いから、京都と自分ごとしての関わりを持っていただけるような、結果的に京都に還元してもらえるような仕組みがあると良いのではないかと。
入山:よくある「○○ 2.0」とかではなく「0.1」なんですね。
伊住:はい。2.0や3.0という成長型社会への違和感をもっているメンバーが多く、「京都は経済成長による拡大志向とは異なる価値観を示すべき」とか、「市民ではないが京都を愛してくれる人を関係人口として考えたい」という議論の中で「0.1」というアイデアが生まれました。また、京都に生息する動植物をはじめとする森羅万象を関係者として捉えるべきだという見解も出ていましたね。
内藤:AIが普及すると、週休4日になって今より余暇が増えるので、京都を訪れる人がさらに増えるでしょう。
今のままだと、未来の京都で儲けるのは外資や外部の人になりそうなので、稼げる京都になるための取り組みが必要です。
「京都0.1市民」がその第一歩になると良いですよね。
榊田:21世紀に入って、この国の成長が完全に止まっています。
これからたくさんの問題に直面する時代に、京都が京都らしい街づくりをしていくためのポイントは「人と人との関係性」です。
お互いが人にやさしくありたい、地球にやさしくありたい、そういった価値観の人たちが、京都に魅力を感じて集まってきています。
そして、目には見えない共感や心でつながっているのが、京都の文化的な要素です。
ハードよりもサブカルチャーを充実させ、大阪や東京やNYとは違って規模は小さいけれど、多様な人々にとってフェアな街・本物がある街を目指すべきではないでしょうか。
そのためには、無理に一つにまとまろうとしないことも大切です。
自分とは違う意見の人とも堂々と話せるような雰囲気をつくって、人と人との関係性を軸とした街づくりをすることが理想的だと思います。
入山:北海道の白老町が都市計画マスタープランで掲げている「縮充」という言葉に注目しています。これは、コミュニティーデザイナーの山崎亮さんが提唱したものです。
これから人口減少が進みますが、「縮んで充実するまちにしていこう」といった理念を掲げています。
京都は全く同じ状況ではありませんが、あえて広げるより、深く充実させるほうが、多様性があって本物(質)にこだわれる街になるでしょう。
奥田:私はよそ者として様々な場所を訪れていますが、一番居心地が良いのは「よそ者として扱ってくれて、洗練された距離を置いてくれる場所」です。
よそ者として扱ってくれる所はいっぱいありますが、ほとんどが「ここに馴染め!」と言うんですよね(笑)
京都は「よそ者が京都に馴染めるわけない」と思っている中の人が多い印象で、それがよそ者の自分にはすごく心地よいので、この文化を保っていってほしいです。
京都は伝統を重視していますが、外のものをたくさん受け入れて洗練させてきました。
だからこそ、外の人がなにか言っても「ああ、そうですね」と受け止めて、ほどよい距離をおいてくれます。
榊田:京都は、京都を愛していて関わりたい人がたくさんいて、京都以外に住んでいるけど訪れる方が膨大にいる観光都市です。
なおかつ15万人も学生がいて、京都市民以外の人たちが京都の街の生活を司っています。
こういった「京都LOVEな人々」を大切にしないといけません。
関係人口としての京都に関わりたい外の人はもっとたくさんいるので、その人たちの声を反映し、多様性に対して寛容な街づくりをしていくと、それが魅力につながるでしょう。
内藤:私は京都の100年先の価値を最大化するために、2つの要素が重要だと考えています。
まず一つ目は、「空間のクリエイティブ」です。
ビジネスの観点から見ると、空間のディスプレイ技術が発達することで、同じ場所でも異なる体験を提供できるようになります。
これにより、「訪れるたびに新たな発見がある京都」が実現し、見せ方のストーリーづくりを通じて、魅力をより深く伝えられるでしょう。
もう一つは、「冷凍技術」です。
京都において「食」は大きな価値を持つ要素ですが、冷凍技術の進化によって、その価値をさらに高めることができます。
入山:「京都の伝統」と「最新のテクノロジー」を掛け合わせることで可能性が広がりますね。
それでは、ここで松井市長からひと言お願いします。
松井孝治京都市長
松井:私は人生の終わりを考えて「これまで必死に頑張ってきたのは何のためだったのだろう」と内省的になることがあります。
京都市長になる前は霞が関や永田町で仕事をしてきましたが、その価値観だけで見るのではなく、他者や自然を俯瞰して見るようになりました。
その時に、「京都を次の時代を先取りしたような価値観を持つ街にしたい」と思いました。
伊住さんも委員を務めていただいている京都市未来共創チームの若手の人達が考えている価値観は京都の街の将来のあり方の座標軸になるでしょう。
そして、KYOTO Innovation Studioでまちづくりの議論をしていることをさらにたくさんの人に知ってもらい、いろんな意見を京都に提案してほしいと思っています。
質問①リアルな京都を発信すると関係人口が増えるのでは?
質問者:京都に住んでる立場からすると、朝早く起きて鴨川を散歩し、近くのカフェでパンを食べてコーヒーを飲んで出勤するといったライフスタイルが、何よりも京都の一番の価値だと思っています。
そういうところを伝えていけたら、京都の関係人口が増えるのではないでしょうか。
伊住:京都市未来共創チーム会議でも「京都の良いところは鴨川の空気感だよね」という意見が結構ありました。
鴨川は何の目的もなくボーっと寝そべってる人、パンを食べる人、トランペットを吹いてる人、上半身裸で日光浴してる人など様々な人がいて、穏やかな距離感の中で生活が営まれています。
これもリアルな京都です。
入山:茶道と一緒で、言語化できないものなんですよね。
あえて言語化するとしたら、特別な何かがなくても「歩いてるだけで楽しい街」ということでしょうか。
内藤:私は歩くために京都に住んでいるようなもので、クリエイティブな作業をする際には考える時間が非常に重要です。
過去の偉人たちも歩いてアイデアを出していたと言われています。
京都は鴨川のような歩きたくなる場所があり、歩いていてとても楽しい街です。
そのせいか、京都に住んでから1日の歩数が4,000歩から8,500歩ほどになり、考える時間も倍になりました。
しかも森林の中を歩くと良いアイデアが出やすいと言われていて、自然がたくさんある京都はその点でも条件を満たしています。
奥田:これからは世界中で「Walkable City(歩きやすい街)」の絶対的な価値が高まりますが、京都はすでに着手しているんですよね。
walkableityが高い地域に住む人ほど人生満足度が高い傾向があると言われているので、このまま進めてほしいです。
ただし、京都の”新しい”ライフスタイルを発信しづらいのが今の課題です。
京都の人は、しきたりに従ったことを発信しなければいけないという先入観があると思います。
「古き良き」という文脈で歴史や遺跡の発信が多い印象がありますが、実は外部の人は「鴨川に並んで座るカップルの適切な間隔はどれぐらいなのか」のほうに興味があったりしますよね(笑)
入山:「京都=神社仏閣」といった価値観に染まりがちですが、実はもっとリアルな情報のほうに需要があるんですね。
参加者:私は去年初めて地蔵盆(お地蔵さんを飾り付け、お供えをして祀り、町内安全や子どもの健全育成を願う伝統的な民俗行事)に参加しました。
私は東京と京都の二拠点生活で、東京では地域との関わりがほとんどありません。
京都で地域のイベントに参加するとすごい面倒くさいのかと思っていたら、全然そうではなく負担にならない内容でした。
京都に貢献したくても地域活動に参加するのは敷居が高くて抵抗があったのですが、実際にやってみるとそうでもなかったので、情報発信すれば関係人口が増えると思います。
質問②京都を先導するプレイヤーは誰なのか?
質問者:100年後の京都を良くしていくために、音頭を取るプレイヤーは誰が適切なのでしょう。
奥田:これから先は、小さな単位で支え合えるものが伸びていくと思います。
人生120年時代になっても 120%で働ける時代は20年しかなく、それ以降の80年は心身のどこかに弱さを感じる年代なので、みんなで支え合わなければいけません。
そうすると、小さな単位や地域で支え合うまちづくりが必要になります。
リーダーが引っ張っていく時代はもう終わるはずで、これからは絶対的な権力をもつリーダーは存在せず、現場のメンバーが意志決定を行うティール組織の時代です。
京都は地域で支え合って多様性を残せる『まちごとティール組織』なので、今後は京都の強みが生かせる時代がやってくるでしょう。
榊田:私は様々な場所にいる「情熱のある人」がネットワークでつながることが大事だと思っています。
企業や行政といった団体ではなく、意思のある、情熱のある人がフラットな関係(お金や権力のあるなしで上下関係ができない関係)でつながっていく社会、美しい分配が実現する社会を京都が築けると、それが魅力となり、マネーでつながっている大都市に勝てるほどの価値になるでしょう。
質問③行政や地域は外部との関わりをどのように広げれば良いのか?
質問者:京都市の「長期ビジョン(仮称)」策定にあたり、民間の方々からの意見募集や策定プロセスに関する情報発信などを行う「みんなの理想京」を運用していますが、市民と行政の共創や様々な人との関わり方をどう広げていけば良いのでしょう。
奥田:これまでは多様な人を集めるために「京都はどんな人でも歓迎します」といった雰囲気でしたが、私は街に入る人を選別するために茶道の世界でいう『躙(にじ)り口』が必要だと思います。
どんな目的があって京都を訪れたのか、京都へのどんなラブがあるのか、といった点で双方の合意が取れた人だけが躙り口を通ることを許されて、地域の行事などに参加できる仕組みです。
これまでの京都はすごく開かれていてたくさんの観光客がいる一方で「一見さんお断り」という文化もあって、両極端なイメージでした。
だから、その中間である「それなりのわきまえのある人で、そちらの意図とこちらの意図が合致するならにじり口からぜひどうぞ」という『躙り口コミュニティ』をつくるのはどうでしょうか。
躙り口がどこにあるかはオープンにしておいて、だけど躙り口に入るためには地域の人と意見が一致しないといけない…そんな仕組みをつくれば京都の100年後の価値を最大化できるはずです。
その他意見:京都に蓄積された文化や思想を正しく理解し情報発信していくべきでは?
参加者:京都で庭師をしていますが、なぜ庭園文化がこれだけ残り続けているのかというと、時間と空間が分化せずセットで残っているからです。
人生120年時代になっても、生老病死という人間の悩みは変わりません。
生老病死を表現している日本庭園にはその根源の部分があるので、世界中が不安に包まれる今、京都に注目が集まっているのでしょう。
今、日本が世界でナンバーワンなのはアニメくらいで、半導体、AIなどは世界でナンバーワンとは言えないと思いますが、日本庭園において、京都は間違いなく世界でナンバーワンです。
哲学も含めて、こういった日本の素晴らしさをもっと理解しないといけません。
参加者:私は京都生まれで京都芸術大学のキャラクターデザイン学科で教育に携わっていましたが、これから世界を救うのはアニメだと思っています。
アニメは命のないものに命を吹き込むもの。
アニメの語源はアニマで、命・魂という意味です。
それがアニミズムになってアニメーションになりました。
キリスト教的な西洋の価値観が限界を迎えている中、東洋的な思想を世界に発信できるのはアトムとドラえもんがいる日本の京都しかないと思います。
入山:最後にゲストの方からメッセージをお願いします。
伊住:人と人がつながる入り口にあるのは、個人としてのナラティブ(物語)です。
共感を集めながら、ゆるやかにコミュニティを築き上げていくことが大切なのでしょう。
千家の茶堂を支えながら、一門を率いられるお家元とは異なる立場から実験的にいろいろやってみて、失敗したら自分の中で飲み込んでいくのも重要な役割だと考えています。
私の取り組みが、誰かにとって茶道の精神と交わるための道の一つになったら、文化の豊かさに貢献できると思っています。
私自身が思っていることや悩みを少しずつでも発信していきながら、皆さんとつながっていきたいですね。
榊田:100年後も今と同じように「京都に住みたい」「京都を訪れたい」と思われるような街になるためには、人を中心とした関係性をつなげていかないといけません。
だからこそ、コミュニティの概念、共助、公益、自治、そういった言葉を大切にしながら、人を集め膝を合わせて話し合う場をつくっていきましょう。
特定のリーダーが世界や地域を牽引してきた20世紀と違い、これからはみんながつながって地域を支える時代です。
このセッションでは、みんなで話し合うことの重要性に気づけて非常に勉強になりました。
内藤:ビジネスという視点でみても、京都はとても魅力的な街で、特にクリエイティブな面で可能性が満ち溢れています。
その中で大事なのは、ファッションではなくラグジュアリーな街になることです。
ファッションだとバリエーションをつくりすぎたり、流行りすぎて滅びる速度が早いので、私はファッションではないクリエイティブなことをして、京都をラグジュアリーな街にすることを目指します。
そうすれば、京都の良さを残せるでしょう。
奥田:京都の人の会話では背景にあるものを受け取る力が必要とされますが、それはAIが理解できないもの。
自分達が培ってきた文化の中でだけ成立する言葉があるんですよね。
京都はそういった部分をさらに進めていって、自分たちだけがわかる言葉のある面白い地域になるのではないかと思っています。
入山:みなさま、本日はありがとうございました!非常に良い議論ができました(拍手)
KYOTO Innovation StudioではSessionにて生まれたアイディアをプロジェクトとして実装していく取り組みを行なっています。
さらに、京都市内外での繋がりを広げていくために交流会やコミュニケーションプラットフォームを運営しております。
本記事に関連して、本プロジェクトへのご質問がある方はHPお問い合わせ先までご連絡いただけますと幸いです。
HP:https://kyoto-innovation-studio.com/
X(Twitter):https://twitter.com/InnovationKyoto
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100093461166619
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