TOP > インタビュー一覧 > 何度でも挑戦できる社会へ——起業家の“次の一歩”を支える「TOKYO Re:STARTER CONFERENCE」、その全貌をレポート!
TOKYO Re:STARTER CONFERENCE
「TOKYO Re:STARTER」は起業後の多様なセカンドキャリアに関する情報発信をすると共に、再起業や転職といったリスタートを目指す起業家を支援する東京都の取り組みだ。
2025年3月22日に開催された「TOKYO Re:STARTER CONFERENCE」では、「知る」「出会う」「動き出す」をテーマに、多彩なセッションとアクセラレーションプログラム採択者によるピッチが行われた。会場には成長企業の経営者や投資家、再挑戦を考える起業経験者、起業家の再挑戦を応援する支援者などが集まり、熱気に満ちた一日となった。
レポートでは、当日のセッションのハイライトや、ピッチコンテストの結果を振り返る。
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オープニングでは、TOKYO Re:STARTER事務局の株式会社ガイアックス 田村 悠馬氏が登壇し、事業の意義と、今回のカンファレンスの開催背景を語った。
2024年度の活動として紹介されたのは、起業経験者のセカンドキャリア支援を目的とした「コミュニティ」と、再起業を後押しする「TOKYO Re:STARTER STUDIO」の二つの取り組み。特に後者の再起業支援では、21名の起業家を採択し、アクセラレーションプログラムの形式できめ細かなサポートを提供してきた。
「1回目の起業で全員が成功するわけではない」——率直な言葉で起業のリアルを伝えながら、失敗を恐れずに再挑戦できる社会の重要性を強調。本カンファレンスがその第一歩となることへの熱い意気込みを会場に投げかけた。
メインステージのパネルディスカッション第一部では、「何度でも挑戦できる社会の実現に必要なこととは?」をテーマに議論が交わされた。登壇者は、起業経験者専門転職サービス「ベンチャーGO」代表取締役 押川仁哉氏、SHE株式会社 代表取締役CEO 福田恵里氏、新規事業家の守屋実氏。モデレーターは一般社団法人スタートアップエコシステム協会 代表理事の藤本あゆみ氏が務めた。
起業や再挑戦を当たり前にするためには、いくつかの要素が必要になる。失敗を前向きに捉える風土づくり、起業経験を正しく評価する仕組み、再挑戦を支援する金融・転職市場の整備、そして成功事例の可視化と共有。これらが社会全体で整備されることが、挑戦のハードルを下げることにつながる。
起業経験者個人としては、強い意志や行動力、柔軟性が求められ、専門的なスキル以上に、チャレンジ精神や変化への適応力が重要だという意見で一致した。周囲の理解とサポートを得る力や、失敗を恐れないマインド、そして即行動に移す姿勢が挑戦し続けるための鍵になるようだ。
起業家精神を尊重し、「再挑戦」そのものを当たり前にする文化を根付かせることこそが、日本のスタートアップエコシステムをさらに発展させるために欠かせない、という結論で締めくくられた。
スタートアップエコシステムで深刻化する起業家のメンタルヘルス問題。統計によると、起業家の約50%が生涯で一度は精神疾患を経験するという衝撃的な現実がある。メインステージの2つ目のパネルディスカッションのテーマは「起業とメンタルケア〜失敗との向き合い方〜」。Re(アールイー)代表の小林宣文氏、株式会社コーチェットCCOの立山早氏、Payn株式会社代表取締役CEOの山下恭平氏を登壇者に迎え、この喫緊の社会課題に真正面から向き合い、起業家のメンタルケアの重要性を浮き彫りにした。
起業家のメンタルブレイクは、単なる「弱さ」ではない。典型的な症状は、睡眠障害、感情のコントロール不全や仕事への集中力の低下として現れ、日常生活すらままならない状態になる場合もある。社内トラブルをきっかけに鬱状態に陥り、入浴さえ困難になり、起き上がれない日々が続いたという事例も共有された。
セッション内で挙がった回復のポイントは以下の通り。
1. 医療機関への早期相談
2. 信頼できる仲間からのサポート
3. 段階的な仕事復帰
4. 自身の感情への気づきと理解
5. 生活リズムの維持
メンタルヘルスは個人の問題ではなく、スタートアップエコシステム全体で取り組むべき課題である。起業家の挑戦を支えるだけでなく、再生や再起をサポートできるような環境づくりも不可欠だ。起業家や起業家の周りの人それぞれが、メンタルヘルスの不調やケアを「弱さ」ではなく個人や組織の「成長の機会」として捉え直すことが、イノベーションの真の原動力となるではないだろうか。
メインステージのパネルディスカッションと並行し、隣の会場では起業経験者のキャリアについて情報発信をするトークセッションが行われた。
「起業経験を活かしたキャリア戦略」をテーマにしたトークセッションには株式会社arca CEO 辻愛沙子氏、ホロラボ執行役員 久保山宏氏、HAKOBUNE Founding Partner 栗島祐介氏が登壇。異なる背景を持つ3名が自身の経験談や他の起業家の事例を元に、起業経験者のキャリア戦略や、起業家が経験する「失敗」の本質的な意味について意見を交わした。
起業後のネクストキャリアは主に以下の3つに分けられるという。
1. 再チャレンジ型:即座に新たな起業に挑む
2. 社内起業家型:企業の新規事業開発に参画する
3. フリーランス型:複数プロジェクトを並行して支援、コンサルティングする
一方で、起業家のキャリアは単純な一本道ではない。多くの場合、非線形で前例がないことも多い。セッションでは非線形な起業家のキャリアを前提に、失敗こそが成長の機会であり、失敗を恐れずに挑戦と学びを続けることが、キャリアを切り拓く鍵になるとの意見が交わされた。
起業経験者にとって、失敗は終着点ではなく、次の挑戦への通過点である。その視点を持つことで、新たなキャリアの可能性が広がりそうだ。
起業経験者のキャリアにフォーカスしたトークセッションの第二部では「起業経験者採用のリアル」をテーマに、株式会社iiy執行役員の小島未紅氏、Contrea株式会社 執行役員 CSO/CHROの西尾輝氏、フリー株式会社 専務執行役員CHROの川西康之氏、そしてインキュベイトファンドの田中洸輝氏4名が登壇。自身の起業経験を経てどのように新たなキャリアを切り拓いたのか、失敗や挫折を次のステップにどう活かしたのかが語られた。
セッション冒頭では、400名以上の採用担当者を対象に行ったアンケート結果を発表。起業経験者の採用実績がある企業は70%以上にのぼり、新規事業や既存事業の責任者として、定量的な成果やプロジェクト推進力が期待されていることが明らかになった。
起業経験者は特定領域での突出した能力や課題解決力、自律性が高く評価されやすい。一方で、組織カルチャーへの適応力や柔軟性に対する懸念も根強い。意思が強いからこそ、数字的な成果は出せているが転職先のカルチャーに馴染めないということも起こり得る。脱プライドという画像を待ち受けにし、会社のロゴTシャツを毎日着て、会社のカルチャーに適応できるように意識的に行動を変えたというエピソードも語られた。
また、起業時の失敗経験から何を学び次に活かそうとしているのか、事業や会社を終える際のステークホルダーへの対応も重要な評価ポイントとなるとの指摘も。転職を検討する起業経験者にとってはもちろん、戦略的な人材確保を進める企業にとっても、有益な示唆に富んだセッションとなった。
「TOKYO Re:STARTER STUDIO」は、起業に再挑戦する起業家たちが経験豊富なメンターやエンジニア、マーケターのサポートを受けながら、事業検証や開発を行い、最終的には資金調達やビジネスマッチングまで目指すスタートアップスタジオ型のプログラムだ。
今回のカンファレンスでは、Eight Roads Ventures Japan Vice Presidentの公山倫子氏、OASIS FUND代表パートナーの高萩浩之氏、株式会社INQ 代表取締役の若林哲平氏の3名を審査員としてお迎えし、TOKYO Re:STARTER STUDIOの採択者の中から選ばれた5名が「TOKYO Re:STARTER PITCH」としてプレゼンを行った。
登壇者たちはそれぞれ異なる業界で事業に挑んでいるが、共通していたのは既存の業界の常識を覆す挑戦的な姿勢と、社会に貢献したいという強い想い。そして、各登壇者が以前の起業から学んだ知見を今回の事業に昇華させている点も特徴的だった。
ピッチ登壇者と事業概要については以下の通り。
・三浦光 氏
blocksky株式会社代表取締役
事業概要:web3広告プラットフォーム「W3AP (web3 Advertising Platform)」
・河本直己 氏
株式会社One Technology Japan代表取締役
事業概要:建設業界向け3Dデータを活用したデジタルツインの管理ソフト
・毛利源太 氏
株式会社cup of tea代表取締役 CEO
事業概要:お酒業界のVertical SaaSプラットフォーム「サカビー」
・岩田侑城 氏
株式会社LeapAI代表取締役
事業概要:すぐにマニュアルが作れて、すぐに作業依頼できるサービス「マニュアルワークス」
・星野雄三 氏
株式会社バディトレ代表取締役
事業概要:HIIT(高強度インターバルトレーニング)を中心としたコミュニティ型フィットネスサービス
カンファレンスのラストにはリスターターピッチのオーディエンス賞と最優秀賞の受賞者が発表された。
オーディエンス賞に選ばれたのは、株式会社バディトレの星野雄三氏。そして、最優秀賞に選ばれたのは株式会社cup of teaの毛利源太氏。最優秀賞を受賞した毛利氏は、これから大変なこともあると思うが、事業を伸ばして日本の産業に貢献していきたいと語った。
右が株式会社バディトレの星野雄三氏
右が株式会社cup of teaの毛利源太氏
審査員からは、「失敗」は挑戦したからこそ見える景色。失敗を通じて学んだことを次の挑戦に活かすことができるのは再起業をめざすリスターターの特権だというコメントも。スタートアップエコシステム全体で、失敗を恐れず何度でもチャレンジする起業家を応援していくことの重要性が強調された。
カンファレンス終了後は参加者同士の交流が活発に行われ、数多くの新たな繋がりが生まれた。ピッチの審査員も含めると総勢25名が登壇し、多くの参加者が足を運んだ今回のカンファレンス。ピッチやディスカッションを通じて「失敗を恐れず挑戦を続ける精神」が共有され、起業家たちへの知見提供にとどまらず、今後のスタートアップエコシステムの進化に向けた方向性が見えてきた。挑戦者たちの次なる一歩を後押しし、何度でも挑戦し続けるための環境づくりの重要性が再認識された場となったのではないだろうか。
東京都は、過去に起業した経験を糧に再起を目指す有望な起業家を掘り起こし、再チャレンジにつなげる「東京都リスタート・アントレプレナー支援事業(TOKYO Re:STARTER)」を実施している。
今までのイベントのアーカイブやリスターターへのインタビューなど、リスタートのきっかけや後押しになるような情報が提供されているで、ぜひ下記のボタンから情報のチェックを!
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