「四国随一のスタートアップが集まるまち・生まれるまち」を目指して。徳島県鳴門市の取り組みに迫る

「四国随一のスタートアップが集まるまち・生まれるまち」を目指して。徳島県鳴門市の取り組みに迫る

鳴門市産業振興部 商工政策課 藤瀬 藏氏、隅田 拓也氏

記事更新日: 2025/04/01

執筆: 市岡光子

2022年に国が「スタートアップ育成5か年計画」を示してから、国内ではスタートアップ創出に向けた起業家への手厚い支援が行われるようになってきたと感じる。ただ、そのフィールドは、東京や大阪、福岡などの大都市圏が中心だ。地方都市において、スタートアップのエコシステム構築に力を入れている事例は、まだそこまで多くはない。

そんな「地方×スタートアップ」の分野において、この2年ほどで非常に活発な取り組みを展開しているのが徳島県鳴門市だ。同市は2024年、プロトスターとの連携協定も締結し、起業家を輩出する合宿付きのプログラムや、市内の課題解決に向けたアクセラレーションプログラムなどを行っている。

鳴門市はなぜ、スタートアップに力を入れているのか。その背景と具体的な取り組み、今後のビジョンについて、産業振興部 商工政策課 課長 藤瀬 藏氏と、同課係長 隅田 拓也氏に詳しく話を聞いた。

四国の玄関口、徳島県鳴門市とは

——改めて、鳴門市の概要を教えてください。

隅田拓也(以下、隅田):鳴門市は、徳島県の北東端に位置する地方都市です。兵庫県の淡路島から大鳴門橋を渡ると、四国で最初に降り立つ場所が鳴門市となっており、我々はよく「四国の玄関口」と称しています。関西からのアクセスが抜群に良く、神戸であればバスで1時間、大阪からも約2時間でたどり着くことができます。市からほど近い隣町に空港もあり、東京や福岡などの主要都市にも1時間ほどで訪れることが可能です。大都市圏とのアクセスが良好なことから、企業や移住希望者などに市の魅力をPRする際には「都会に近い田舎」という言葉を使うこともあります。

人口はおよそ5万3,000人で、徳島県の中では3番目に大きな都市です。産業としては、古くから塩業が盛んだったこともあり、製薬企業や化学企業が多く立地しています。「大塚製薬」も、もともとは鳴門市から事業をスタートさせた会社でした。富田製薬や半導体を製造する日亜化学工業なども、鳴門市内で事業を行っています。

藤瀬藏(以下、藤瀬):鳴門市は、都会過ぎず、田舎過ぎず、バランスよく発展した都市だと思います。商業施設や飲食店、観光資源など、さまざまなコンテンツが市内に揃っています。

隅田:海、山、川に加えて離島もあり、自然環境はとても豊かです。渦潮や大塚国際美術館、「お遍路」で知られている四国八十八ヶ所霊場の出発地となる1番札所や2番札所など、観光資源もたくさんあります。一次産業も盛んなため、実は2022年度より「半農半X」という移住コンセプトを掲げて、農業をしながら自分のやりたいこと、やりたい仕事に携わる新たなライフスタイルを提案しています。2023年からは、スタートアップの「株式会社おてつたび」と連携し、「半農半X」推進シェアハウス事業を実施しているところです。健康的で自由なライフスタイルを手にしていただきやすいまちでもあると思います。

藤瀬:一方で、多くの課題も抱えています。おそらくは地方都市が頭を悩ませている課題は一通り市内に存在していると思います。

隅田:若年層人口の市外流出や出生数の減少により、少子高齢化が進んでいるのは大きな課題です。それに伴って、空き家問題も深刻化しています。女性活躍の点でも課題を感じており、市内で多くの女性が自分らしく働き、家庭を持てるようにするために、子育て環境の充実にも力を入れています。

鳴門市がスタートアップに力を入れる理由とは

——鳴門市は現在、スタートアップ関連事業に力を入れていると伺いました。その背景をお聞かせください。

藤瀬:「地域経済のさらなる発展を目指す」ということが、スタートアップの創出や誘致、連携強化に力を入れている大きな目的です。経済発展を目指す方法にはさまざまなものがありますが、その中でもスタートアップに着目したのは、斬新なアイデアやビジネスモデル、サービスが鳴門市に新しい風を吹き込んでくれるのではないかと期待したからです。地方都市にはないノウハウを持つスタートアップの皆さんの力をお借りすることで、地元企業とのオープンイノベーションの実現や、一層深いレイヤーでの政策実現などを叶えることができればと考えています。

また、ブランディングの観点からも、スタートアップに力を入れている側面があります。2022年11月、国は「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。この中では地方からもスタートアップを次々と創出するといった計画が大切な柱のひとつとして描かれているのですが、現時点ではまだ人口10万人以下の地方都市でスタートアップエコシステムを作れている地域はありません。今、スタートアップの創出に大きな力を注ぐことで、スタートアップが生まれ、集まってくるまちとして鳴門市を成長させることができるはずです。現在少しずつ播いている種がいずれ花を咲かせたとき、国内の多くの方に鳴門市を「四国随一のスタートアップが集まるまち・生まれるまち」として認知していただけたら。そうした思いも、スタートアップ関連事業に力を入れる大きな理由のひとつです。

——2024年5月にはプロトスターとの連携協定を締結しました。連携のきっかけも教えていただけますか?

藤瀬:移住起業アカデミー『NARUTO BOOT CAMP』を開催するにあたり、投資家などとのつながりがあり、スタートアップのエコシステム創出に深い造詣のある企業を探していたところ、インターネット上でたまたま見つけたのがプロトスターでした。2023年度にまずは『NARUTO BOOT CAMP』で試験的に協働し、お互いに鳴門市でのスタートアップ活性化に向けて力を尽くしていくことで合意がとれたため、2024年5月に連携協定を結んだという流れです。

——鳴門市では、スタートアップの創出に向けて、具体的にどのような取り組みを展開されているのでしょうか。

藤瀬:大きく2つの取り組みを行っています。1つ目が『NARUTO CONNECT』という、鳴門市をビジネスフィールドに据えたアクセラレーションプログラムです。参加対象となるのは、アーリーステージのスタートアップ。市内の課題をテーマとして取り上げ、その解決を目指すソリューションを参加企業に提案していただきます。「Ed Tech/Baby Tech(子育て・教育)」をテーマとした第1回のプログラムは2024年7月に開催し、計6社が参加しました。第2回は「Travel Tech(観光振興)」をテーマに2025年2月に開催。地元企業の方々にも各スタートアップのピッチを聞いていただきながら、自社のビジネスモデルやサービスについて新たな着想を得ていただく機会となりました。

2つ目の取り組みは、移住起業アカデミー『NARUTO BOOT CAMP』です。これは、鳴門を舞台としてゼロイチで新たなビジネスを生み出す地方起業家を輩出するためのプログラムです。市外在住の方を対象にした、「移住」と「起業」を組み合わせた特色のある事業となっています。2カ月間のオンライン講座を受講した後に創業計画を提出してもらい、選抜された6名の方に実際に鳴門市へと来ていただいて、約1週間の合宿を行います。合宿では、鳴門市の特色ある企業を訪問したり、地元の起業家の方と交流を重ねたりと、鳴門のビジネス環境を肌で感じながら、自身の創業計画をブラッシュアップしていただきます。最終日にはピッチコンテストを開催し、グランプリ決定。こうした一連のプログラムを経て、鳴門市から新たなスタートアップを育てようとしています。こちらも2023年度に初開催し、2024年度に2回目を開催しました。

——そうした取り組みの手ごたえはいかがですか?

藤瀬:どちらもまだスタートしたばかりの施策ということもあり、市内経済に対する具体的な成果は未知数です。しかし、『NARUTO BOOT CAMP』を全国放送で取り上げていただくなど、複数のメディア掲載が実現したことで、鳴門市のスタートアップ創出に向けた取り組みが全国で徐々に認知されてきていると感じます。市民への認知度も上がってきているため、これから少しずつ市内のビジネス環境や経済、企業などへの効果が表れてくればと期待しています。

地元企業とのオープンイノベーションにも期待したい

——『NARUTO CONNECT』のようなアクセラレーションプログラムは、市として初の開催となるかと思います。第1回、第2回を開催して感じたプログラムの意義についてもお聞かせください。

藤瀬:イベントに参加していただいたスタートアップがそれぞれ異なった観点からビジネスアイデアを提案してくださり、鳴門市では生まれない発想やビジネスモデルに大きな刺激を受けました。スタートアップの魅力を深く感じることができ、改めて多くのスタートアップに鳴門市に来ていただけたらと決意を新たにする良い機会となりました。

隅田:実は『NARUTO CONNECT』もさまざまなメディアで報道していただいたのですが、その直後からスタートアップの皆様から市へお問い合わせをいただく回数が増えています。国内でスタートアップに関わっている方には鳴門市の存在を少しずつ知っていただけており、スタートアップとの接点を増やすという意味では、プログラムの開催意義は大きかったのではないでしょうか。

藤瀬:たしかに、プログラム開催後のスタートアップ関係者からの反響は大きかったですよね。インタビューの冒頭でもお話したとおり、鳴門市としてはスタートアップが集まるまちとしてのブランディングを強化していきたいと考えていますから、今のところはその狙い通り実績を積み上げていくことができていると思います。

——『NARUTO CONNECT』に参加した企業は、その後市内でビジネス構築に向けて動いていくのでしょうか?

藤瀬:そうですね。まずは実証実験を行い、その後のビジネス展開へとつなげていただく予定です。第1回のEdTech/Baby Techをテーマとしたプログラムでは、学校で活用可能な新サービスを提案した企業が市内で実証実験を行うことが決まっています。他にも話を進めている企業があるため、2025年度内には、実証実験を本格的にスタートさせることができればと考えています。

——直近で開催した第2回のプログラムでは、「観光」をテーマに掲げたとのお話がありました。なぜ観光を取り上げたのでしょうか。

隅田:鳴門市は2025年1月、「第2期 鳴門市観光振興計画」に基づいた取り組みが始まりました。昨今、国内では外国人観光客が急増しています。また、2025年4月には『EXPO 2025 大阪・関西万博』が始まるため、関西圏における観光客はさらに増加することが見込まれます。さらに、現在は自動車でしか通行できない大鳴門橋に、2027年度を目途に自転車道が整備され、自転車でも淡路島と行き来ができるようになるため、関西圏から大勢の観光客が四国へと流れ込んでくることも予測されています。そうした好機を鳴門への誘客につなげたい一方で、市内の観光事業者は人手不足やDXの遅れといった点で課題を抱えているのが現状です。また、二次交通の整備などでも課題があります。そうした課題の解決を目指すためには、やはりさまざまな新しいノウハウを持つスタートアップの力を借りるべきではないかと感じました。そのため、第2回では観光をテーマに取り上げた次第です。

藤瀬:今回のプログラムは鳴門市内で、リアルな会場で開催したのですが、スタートアップと地元企業との新たなマッチング創出の機会になればとの狙いもありました。

隅田:ピッチイベントの後に交流会の時間も設けており、そこで個別にマッチングが成立していれば、今後市内に新たなビジネスが生まれるかもしれません。実際に、多くの市内事業者がスタートアップに関心を持っていただいていますので、しっかりと伴走しながら、我々も想像していなかったイノベーションが生まれることを期待したいと思います。

今後の展望について

——今後の展望をお聞かせください。

藤瀬:今後はまず、スタートアップが集まる場所を作っていきたいと考えています。市内のIT企業が運営するコワーキングスペースをインキュベーション施設のひとつとしながら、起業を目指す方やスタートアップを手がける方、『NARUTO BOOT CAMP』や『NARUTO CONNECT』に参加した方々が集まり、情報交換し、同じ熱量でビジネスと向き合える場に育てていければと思います。

隅田:市内にスタートアップが集まることで、若い方の将来の選択肢が広がるきっかけになれば嬉しいです。現在、鳴門市では若い世代の人口流出も大きな課題のひとつとなっています。若い世代が他の自治体へと移住してしまうのは、市内企業の多くが人手不足に陥っているにもかかわらず、市内に魅力的な就職先がないと感じていることもあると思います。もしも今後、鳴門市の街中にスタートアップの拠点や本社が増加すれば、若い世代も市内に残って働き、暮らすことを選んでくれるかもしれません。あるいは、起業家のロールモデルが身近にいることで、自ら起業を選択する人も生まれるでしょう。「挑戦的なビジネスが多数集まる、おもしろい地方都市」として鳴門市が若い世代に認知され、「鳴門市で活躍したい」と思ってもらえるように、引き続きスタートアップ関連事業に力を注いでいきたいです。

——最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

藤瀬:日本は課題先進国と言われていますが、鳴門市も少子高齢化などに起因する課題が多数存在しています。スタートアップの皆様には、事業の地方展開を目指す際、ぜひ鳴門市をファーストチャレンジの場として検討していただけたら幸いです。我々は地元企業への訪問も年間100社ほど実施しており、地元企業と行政との顔の見える関係は鳴門市の強みであります。これを活かして、スタートアップとのマッチングや情報提供、そのほか必要な支援はすべて惜しみなく提供させていただければと考えておりますので、ぜひ鳴門市で一歩踏み込んだチャレンジを展開してください。それがひいては、地域活性化につながれば嬉しいですし、いつか鳴門市から世界に羽ばたくスタートアップが誕生したら、これほど素晴らしいことはありません。迷われたらぜひ一度、産業振興部 商工政策課にお問い合わせください。

隅田:鳴門市は、地方都市の中でも前のめりにチャレンジができる自治体だと自負しております。皆さまのご相談にも柔軟に検討し、対応ができればと思っております。住環境もビジネス環境も、本当に魅力的な環境が揃っており、一度鳴門市に来てみていただければ、その良さを実感していただけると思います。ぜひ一度、鳴門市にお越しください。皆さまとお会いできる日を楽しみにしております!

<プロトスター担当者からコメント>

鳴門市との取り組みは、当社としても「地方×スタートアップ」の最適解を探る非常にチャレンジングな機会となっています。東京などの大都市圏では、巨額の投資金額を集めやすく、スタートアップエコシステムの創出も成功しやすいもの。ですが、地方都市は解決を急ぐべき課題、つまりビジネスチャンスは無数にあるものの、経済圏が比較的小さくなりやすく、成長ビジネスの構築という観点からは特有の難しさがあります。その課題をいかに乗り越え、鳴門市の中にスタートアップのエコシステムをつくり出せるか。容易なことではありませんが、鳴門市の担当者の皆様とともに、引き続き全力を挙げてチャレンジしていきたいと思います。

市岡光子

この記事を書いたライター

市岡光子

フリーのライター・編集。広報として大学職員、PR会社、スタートアップ創出ベンチャーを経験後、ライターとして独立。書籍や企業のオウンドメディア、大手メディアで執筆。スタートアップの広報にも従事中。

サイト:https://terukoichioka128.com/
Twitter:https://twitter.com/ichika674128

この記事に関連するラベル

ページトップへ