TOP > インタビュー一覧 > 起業経験を活かした多様なキャリアアップを元起業家たちと考える|経営の経験が高く評価されるので自信をもって新しい一歩を!
TOKYO Re:STARTERコミュニティイベント第3回
TOKYO Re:STARTERは、起業経験が評価されるエコシステムを構築し、起業家のセカンドキャリア創出や再挑戦を支援することで、「何度でも挑戦できるTOKYO」を目指す東京都の取り組みだ。
これまでに「セカンドキャリアにつながる起業の終わらせ方」、Chatwork創業者山本氏による「逆境をバネにして前進する方法」、「起業経験者のセカンドキャリア(再起業・就職)の選び方」といったコミュニティイベントが行われた。
今回のテーマは『起業経験を活かした多様なキャリアアップ』で、清水 夕稀氏が司会を務めた。
登壇者は、最高日商2000万円のランジェリーブランドを創業した後、現在は株式会社iiy(下着会社)の執行役員を務める小島未紅氏と、起業経験を持ちながらインキュベイトファンド株式会社(ベンチャーキャピタル)で活躍する松本美鈴氏だ。
すでに次のキャリアをスタートさせている2人が実感しているのは、起業経験が次の仕事で非常に役立っていること。
起業の新しい価値について語られたイベントをレポートする。
このページの目次
小島 未紅 氏
小島 未紅 氏
株式会社iiy 執行役員/下着ブランド「CHARM MAKE BODY」ブランドディレクター
1991年東京都出身。株式会社iiy執行役員。新卒で大手IT企業に入社。エンジニアとして働き3年目に下着ブランドの立ち上げを決意し、2016年に起業。運営ブランドBELLE MACARONは女性視点の心地よさとデザイン性をもつ「24hブラ」がSNSで共感を集め、最高日商2000万円を記録。ブランド体制などをきっかけに2024年にブランドクローズを迎え、現在は下着ブランド「CHARM MAKE BODY」のブランドディレクターに就任。
清水:まずは自己紹介をお願いいたします。
小島:今は株式会社iiyという下着会社で執行役員をしていますが、新卒で大手IT企業に入社した後、3年目(25歳)の2016年に起業して2024年にそのブランドがクローズしたので、約7年の起業経験があります。
学生時代は「起業したい人とは熱量が高すぎて気が合わない」と思っていたほどで(笑)、起業とは縁遠いタイプでした。
そんな私が起業したきっかけは、OL時代、自分自身にブラの悩みがあり、「この悩みを解決するための商品をつくりたい」と周りに話した時に「やってみなよ!多くの人が求めているものだと思う」など好意的な意見が多かったことです。
それで、一念発起して会社を辞め、起業しました。
女性視点の心地よさとデザイン性をもつ「24hブラ」を販売したところ、最初は1着も売れない日もありましたが、徐々にSNSで共感を集め、最高日商2,000万円まで伸びました。
そこがターニングポイントで、自分1人だからこそ成り立つビジネスモデルだと気づいたんです。
原価率が高かったため、当時は最小限のスタッフで運営し、広告費をかけずにSNSで集客するビジネスモデルで、広告費をかけられないが故に事業規模拡大に限界があり、規模が拡大しないから従業員を増やせないという問題がありました。
プライベートでは、ちょうど出産を経験した時期でもあり、この先のビジネスのやり方に壁を感じたんですよね。
そこから模索して、どういうキャリアを築いていきたいのか考えていた時、「売却後に今まで自分がつくり上げてきたブランドが変わってしまうのは避けたい」と思いました。
だとしたら、「ブランドをクローズして、まっさらな気持ちで新しいキャリアを積む」という選択が自分にベストだと思い、事業をクローズして株式会社iiyの執行役員になりました。
清水:小島さんのブランドの初期フェーズからお話する機会がありましたが、小島さんは「自分のイメージするブランドを実現するためにベストな手段はなにか」を当時から深く考えていました。
その後もブランドへの愛を重視して、今の道を選択したんですね。
松本 美鈴 氏
松本 美鈴 氏
インキュベイトファンド株式会社
アソシエイト
2018年楽天株式会社入社。その後、スタートアップでの広報・採用・マーケティングおよび起業を経験。2021年インキュベイトファンドに参画。アソシエイトとして新規投資先の発掘、投資先企業のバリューアップ業務等を担当。2023年4月より一般社団法人Tokyo Women in VC理事に就任。慶應義塾大学 文学部卒
松本:私が今勤めているインキュベイトファンド株式会社は、創業初期の起業家に対して投資をするベンチャーキャピタルです。
私は新卒で楽天に入社したものの7ヶ月で退職して、スタートアップに転職し、広報・採用・マーケティングなどを体験してから起業しました。
転職した理由は、大学4年時に参加したIT企業内定者交流会で将来起業を考えている人と話した時から起業が気になり始め、スタートアップ・起業に興味があるのに楽天という大企業の中にいることに違和感をもったからです。
スタートアップに転職して数年働いた後、CBD(大麻草の成熟した茎や種子のみから抽出・製造されたカンナビジオール)という分野で起業しました。
当時はまだCBDを知っている人が少なく、「これなら私でも成功できるのでは?」と感じて決めました。
しかし、大麻取締法などの法律が変わる話が出るなど、雲行きが怪しくなってきて、CBD以外へピボットするために次の事業を探しましたが、「起業したい」という思いが先行していたので、やりたいことがなかなか見つからなかったんですよね。
そんな時に出会ったのがインキュベイトファンドです。
インキュベイトファンドの特徴は、ベンチャーキャピタリストとして独立するキャリアパスを前提として採用をしていること。
3~5年間の経験を積んだ後は、ベンチャーキャピタルファンドを自分でつくることを前提としているため、辞めるか独立するという2つの道しかありません。
私が起業家を続けなかったのは、自分が情熱を持って取り組める専門分野を見つけられなかったのが一番の理由ですが、ベンチャーキャピタルという立場であれば、専門的なスキルや知識を持っている人を見つけて投資という形で関わることができます。
そして、数年後には独立して、再び起業家になる夢も叶えられるという条件が、自分に合っていました。
一貫性がないようにも見えるかもしれないですが(笑)、将来を見据え、自分の軸に従ってキャリア選択をしています。
清水 夕稀 氏(司会)
清水 夕稀 氏(司会)
2014年、株式会社ビズリーチ(現・ビジョナル株式会社)に新卒一期生として入社。2017年11月インキュベイトファンド入社。起業家、応援者などスタートアップを取り巻くエコシステム全体のコミュニティ構築・自社と投資先の広報を担当。早稲田大学文化構想学部卒。
清水:まずお聞きしたいのは、「起業後に今のキャリアを選んだ理由」です。
小島さんは、他に検討した選択肢がありましたか?
小島:私が考えた選択肢は2つです。
1つ目は、今後も経営者として生きていく道。
2つ目は、経営者ではない立場で生きていく道。
究極の選択だったので自分では決め切れず、計3名のキャリアコンサルタントに相談しました。
1つ目の経営者として生きていく道を選んだ場合、経営(財務状況などの数字を見ながら組織を大きくすること)が好きな人が向いている。
2つ目の経営者以外の道はものづくりをしたい、マーケティングをしたいなど、現場での腕を磨きたい人が向いている、とキャリアコンサルタントに言われました。
くわえて、今は女性役員が不足しているという一面もあり、「経営者以外の道」を選んで執行役員になりました。
私はプレッシャーに強くなく、もともと起業したかったわけでもなく、起業して楽しいことがたくさんあった一方で、経営が苦しかったこともあります。
たとえば、銀行に500万しかないのに1,000万の発注をしないとお客様の注文ボリュームに間に合わない場面があると、20代の自分にはものすごいプレッシャーだったんです。
そういった経験もして「私は経営者タイプではなく、事業をサポートするほうが向いているのかもしれない」と思い、この選択をしました。
清水:セカンドキャリアの選び方が正解だったという実感はありますか?
小島:はい、今の会社に入って、社長と私で苦手分野を補い合えています。
社長は理系で数字に強く、私が2ヶ月かかる資料を2時間でつくれるほど(笑)
私は社長が得意ではない10年後のブランド像をつくるような業務を担当していて、事業計画の前半を私、後半は社長が行っている感じです。
以前はこれらを1人で行わないといけなくて大変だったので、協力して取り組める今の環境に満足しています。
清水:素晴らしいパートナーシップですね。
また、自分が創業した会社は我が子のような存在ですが、クローズする時に葛藤はありましたか?
小島:最初はブランドを存続させることが正しいと思っていたので、M&Aを検討していましたが、次第に「M&Aが最善なのか?」という疑問がわいてきました。
なぜなら、M&Aをして事業を継続させる場合、原価(クオリティ)を下げて広告費に充てるか、富裕層向けにシフトして(販売価格を上げる)広告費を確保するかのどちらかの方針で運営される可能性が高いと想定しましたが、そうなった場合のお客様の心理を考えると、「好きな商品がなくなることより変わってしまうほうが悲しいのではないか?」という結論にたどり着いたからです。
苦渋の決断でしたが、お客様に愛される形で終わらせようと決めました。
清水:松本さんも今のキャリア以外の選択肢があったのでしょうか?
松本:私は他の選択肢はなかったんですよね。
ベンチャーキャピタルを2社受けたのですが、どちらも採用されなかったら、起業した会社を続ける予定でした。
今は事業会社を起業する予定はなく、ベンチャーキャピタルファンドを起業するため、頑張っているところです。
清水:起業体験は今のキャリアにどう役立っていますか?
松本:「実際に起業した」と「起業したい」は大きく違うと感じています。
「起業家志望だったけどベンチャーキャピタリストになった人」はたくさんいますが、「実際に起業してベンチャーキャピタリストになった人」は日本にはあまりいません。
「退路を断って起業した経験があるから、起業家に共感してくれる人だ」と言われたこともあり、起業経験があるベンチャーキャピタリストは信頼されやすい実感もあります。心理的な共感やサポートをする際に起業した経験が生きていますね。
清水:ベンチャーキャピタリストが起業家に寄り添えるかどうかは、初期の段階では特に重要です。
松本:起業家へのリスペクトがないベンチャーキャピタリストにはなりたくないなと思っています。自分自身が起業家として苦い体験をしたこともあり、「絶対に起業家を大切にする!」と固く心に誓っています。
清水:小島さんは起業した経験が今どのように生きていますか?
小島:経営経験者は数字が読めて、常に数字を意識して動けるので、会社で重宝される人材になることができます。
普通の人だと「こんな商品あったら売れそうだからつくってみよう!」となるところで、起業経験者は会社のキャッシュを確認したり、様々なデータをみながら商品の企画・開発を進めます。
組織においてこういった視点はとても重要で、経営者目線で考えて動ける人は企業にとって喉から手が出るほど欲しい人材です。
よく「起業で失敗したら怖い」という悩みを聞きますが、後々まで考えたらネガティブに捉える必要はありません。
たとえ撤退したとしても、起業体験をすることで企業に必要とされる人材になれる可能性が上がるからです。
もう1つの利点は、起業家のモチベーションは一般の人の何倍も高いこと。
私は起業するタイプではありませんでしたが、アスリートのようにハードに働く起業家達と接する中で、自分も強くなれました。
他の人であれば「企画を落とされたら傷つく」「人間関係がうまくいかない」と悩んでしまうような場面でも、私は「企画を落とされてもまた挑戦すれば良い」と思うし、ブランドが成功して伸びていけば小さなことは気になりません。
こういったモチベーション管理ができるのも、起業経験のおかげです。
清水:視点もマインドセットも経営者目線の人は、企業から必要とされること間違いないですね。
清水:それでは、これからの目標を教えてください。
松本:いずれ独立するというキャリアパスで進んでいて、次の目標はベンチャーキャピタルファンドをつくる起業家になることです。
ファンドをどんな形で運用していくのかなど、詳細なイメージは描けていませんが、長期的にベンチャーキャピタリストとしてのキャリアを続けたいと思っています。
小島:起業家時代と比較すると、今の会社は規模が4倍くらい大きいので、自分がこれまでできなかったマーケティングやブランディング施策などを今後も推進できる。
自分のブランドがクローズするという経験をしたからこそ、「下着ブランドを成長させて生き残れるように頑張る」という目標でセカンドキャリアを歩んでいます。
イベントでは会場の参加者の方からの質問にも回答をしました。その一部を抜粋してお届けします。
松本:もちろん理由にもよりますが、基本的にはチャレンジしたことに対してポジティブな捉え方をされると思います。
しかし、前回の撤退理由や次の事業を選んだ理由、今回なぜVCから外部資金を入れようと思ったのか?は細かく確認されるでしょう。
事業の撤退そのものではなく、背景や内容のほうが重要視されます。
小島:ハードシングスはあるのですが、自分の行動を失敗とは思わないタイプなんですよね。
「ダメだったら、次はこうしよう」と考えるので、振り返って後悔することがありません。
強いて言うなら、年商8,000万になった時にアクセルを踏めなかったことでしょうか。
私は人見知りで内向的なので、事業を拡大するために誰かに相談したくても臆してしまったんです。
でもM&Aを考えていた時はいろいろな経営者と話さないといけなくて、その時にはがむしゃらに行動できました。
これをもっと早く行えていたら、たくさん投資家や経営者からアドバイスをもらえて、違う結果になっていたかもしれません。
あまり相談できずに同じやり方を続けたことで壁を乗り越えられなかったとも感じます。
松本:私はCBDを選んだのが失敗だったと言えるのかもしれません。
CBDは法律の動き1つで事業の先行きが左右されるからです。
法改正は大きなビジネスチャンスである一方で、資金調達力やその分野での経験がないと成功の確率は上がりません。
しかし、CBDで起業する!と決断してなかったら、やりたいことが見つからなくて起業しない人生になっていたので、やってみて良かったとも思います。
小島:赤字を取り戻すための成長や挑戦が自分にとってハードルが高いと感じた時は辞めたほうが良いでしょう。
キャッシュが足りなくなると融資を受ける必要があり、会社を閉じた後に借金が残るかもしれませんよね。
額によっては、撤退後の生活が苦しくなったり、身動きが取りにくくなります。
「赤字だけど融資を受けることに値するのだろうか?」を、決算を見て考えることが大事ですね。
松本:私が思う撤退基準は自分のビジョンを信じられなくなった時でしょうか。
大半の経営者は途中からビジョンを完全には信じられなくなると思うのですが、従業員がいるから気持ちを奮い立たせ続けますよね。
しかし、それでも限界を感じたら、それ以上は無理をしないほうが良いでしょう。
小島:株主はいなかったのですが、ユーザーから「残念」というお声をたくさんいただきました。
ただ、非難するような反応はありませんでした。
アパレルブランドでは「あのブランド、気づいたらなくなっていた」とお客様が感じるケースが多いのですが、私は SNSを通じて近い距離で応援をしてもらっていたので、「絶対に自分の言葉で説明して、ちゃんと納得していただけるように伝えたい」という思いがあって、そこに力を入れました。
取引先からは「すごくショック」「もう少し続けてください」などと言われましたね。
小規模で活動している職人さんもいて、私が一番大きな取引先だったところもありました。
しかし、アパレルは在庫を持つので、支払いができなくなって倒産すると一番迷惑がかかるのは取引先です。
だから、取引先を守る気持ちもあって、あの時期にクローズしました。
小島:個人的に、起業経験者の転職は一次面接までいければ勝ちだと思っています。
申し込みフォームには、前職に経営者の欄がないと思うんですよ。
その時「欄がないから元起業家は求められてないんだ」と感じるのではなく、「元経営者なんて、滅多にいなくてすごいよね!」という自信につなげましょう。
申し込みフォームには、売上が○○伸びた、組織をこうマネジメントした、のような具体的な成果を書いて、会社にメリットを与える存在であることをアピールしてください。
これで、高確率で面接に進めると思います。
面接では「私は他の人とは経験が違いますよ!経営者目線で動けますよ!」と語れるので、引け目を感じる必要はありません。
松本:私自身の転職活動時は、「なぜベンチャーキャピタルを選んだのか?」という理由を明確にしました。
「元起業家」とひと口に言っても、ファイナンスに強い人、営業に強い人など様々なので、転職後に自分に合った部署に配属されるよう、得意分野や強みを伝えることも大切ですね。
清水:自信をもって転職活動すること、新しい仕事への想いを言語化してアピールすること、自分の強みを伝えること、大事なのはこの3つですね。
清水:最後に「起業する価値」を教えていただけますか?
松本:私は起業してなかったら、ベンチャーキャピタリストの道を考えなかったし、そもそも今の会社に採用されなかったと思うんですよね。
起業した経験があったからこそ、今の仕事ができていて、将来やりたいことが明確になりました。
正しい言い方かはわかりませんが、起業経験は「キャリアにおいて、かなり良い先行投資だった」と言えるかもしれません。
小島:私にとって起業は経験の広さや深さという意味で「キャリアのごぼう抜き」でしたね。
起業すると経験できることの数がOL時代よりずば抜けて多いので、最短時間でキャリア形成できます。
清水:そのおかげで、起業体験者は企業から求められる人材になれるんですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。(拍手)
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