起業経験には最強の市場価値がある。元起業家の転職支援から見えてきた評価ポイントとは?

起業経験には最強の市場価値がある。元起業家の転職支援から見えてきた評価ポイントとは?

株式会社OWNERS 代表取締役 押川仁哉

記事更新日: 2024/11/13

執筆: 市岡光子

「起業・事業開発の経験を活かせる仕事は必ず見つかります」

そう力強く語るのは、元起業家や事業開発経験者に特化した転職支援サービス『ベンチャーGO』を運営する押川仁哉さんです。

押川さんはこれまでに複数回にわたる事業開発と売却を経験し、2022年に株式会社OWNERSを設立。以降、起業や事業開発の経験を持つ人材の価値に着目し、様々な背景のある「元起業家」を、事業成長を支える即戦力人材として企業に紹介、転職を成功に導いてきました。

今回、そんな押川さんにインタビューを実施。採用市場における起業経験の価値や起業経験者のキャリアの可能性などについて、詳しく話を聞きました。

押川仁哉

1996年生まれ、宮崎県出身。防衛大学校を退学後、2017年に輸入事業で株式会社PopSicleを創業。その後、Amazon販売事業者向けに保険を付帯した販売支援SaaSを開発。2019年より提供を開始し、2021年にM&Aを実施。SNS×NFTのプラットフォームを立ち上げ、2022年に旅行会社へ事業を売却した後、採用サービスを手がける株式会社OWNERSを設立。現在は『ベンチャーGO』を通じて、元起業家や事業開発経験者と、事業成長を目指す企業とのマッチングを行う。

月商100万の起業経験でも評価される。元起業家の転職で大切な要素とは?

——改めて、押川さんが現在手がけているような「起業や事業開発の経験者向けに行う転職支援」には、一般的な人材紹介や転職支援と異なる点はありますか?

企業への推薦状を書く際、内容の8割以上が起業経験に関するものになる点は、一般的な人材紹介サービスとは大きく異なる部分かと思います。どのような事業を立ち上げ、なぜ経営者としてのポジションを辞めることになったのか。株主が何名いて、彼らにどのように説明責任を果たし、転職活動に臨んでいるのか。こうした点を推薦状にまとめています。

——採用市場において、起業や事業開発の経験を評価する企業はどれくらい存在するものなのでしょうか。

それが、かなり多いんですよ。「月に100万円の売上をつくった」という比較的小さな事業運営の経験でも、十分に評価してもらえます。なぜなら、全く新しい事業で数百万円規模の売上を生み出せる人は本当に少ないからです。

——売上創出のほかに、採用市場で評価される、元起業家ならではの経験やスキルはありますか?

弊社では、一次面接に企業や候補者の支援を行う担当者が同席しますが、その担当者からは「候補者の辞め方について質問が挙がることが多い」という話をよく聞きます。起業した会社や事業開発に関わった会社を円満に辞めたのか、または会社を閉じる際に投資家にしっかり説明責任を果たせたのか、といった点を企業は気にすることが多いようです。

これは一般的な転職活動にも当てはまる話かもしれませんが、やはり「辞め方」にはその候補者の人柄が表れます。採用活動を行う企業としては、他責思考や“物事からの逃げ癖”がないかを確認したいのかもしれません。ただし、特別な辞め方が求められるわけではなく、標準的な手続きで事業を閉じていれば、辞め方が理由で不採用になることはほとんどありません。

そのほか、ファイナンスの知識や経験、チームビルディング、マネジメントの経験も重視される傾向にあります。

——転職が成功する人に共通する要素や資質は、何かありますか?

事業に真摯に、本気で取り組んできた経験でしょうか。これさえあれば、たとえ起業が失敗に終わり、負債を抱えてしまっていたとしても、多くの場合、経験を評価してくれる企業に出会うことができます。

——事業の成否は、時の運に左右される部分も大きいからこそ、失敗要因を気にする企業は少ないということでしょうか。

そうだと思います。事業が成長・拡大するかどうかは、その時の市場環境との相性にも影響を受けますし、実際に事業を動かしてみなければ分からない部分も大きいものです。だから、現在起業中あるいは事業開発に挑戦中という方は、失敗後のリスクヘッジを気にしすぎずに、目の前の事業に集中してほしいですね。日々、事業をおもしろがって、できることに精一杯取り組んでいれば、その熱量は企業の採用担当者や代表にも自然と伝わり、評価に繋がりますから。

年齢の壁を超える、起業経験者の市場価値

——貴社で行った転職支援の成功事例を教えてください。

例えば、10年ほど留学支援事業を行っていた、38歳の元起業家の方の転職をサポートしたことがあります。その方は24歳でニュージーランドへの留学支援を行う会社を立ち上げ、順調に経営していましたが、2020年のコロナ禍で事業に大きなダメージを受け、会社をたたむことになってしまいました。その後、イベント企画会社に転職し、マーケティングや営業を経験した後、弊社サービスに登録。転職時は38歳と、一般的には転職が難しいとされる年齢でしたが、10年間の起業・経営経験が高く評価され、画像認識技術などを活用した管理システムの開発・販売を手がける上場企業に転職を果たしました。

——比較的年齢の高い方でも、転職を無事に成功させているのですね。

そうなんです。下は20代前半から、上は40代後半まで、多様な年齢層の元起業家・事業開発経験者が転職を実現しています。

——起業や事業開発の経験があるからこそ、年齢に関係なく採用につながるのでしょうか。

おっしゃる通りです。企業側も、事業経験のある方はある程度年齢を重ねているケースが多いことを理解した上で採用活動を行っています。特にベンチャー企業やスタートアップでは、役員や代表が直接面接に参加することも多く、その場で起業経験のある候補者に共感し、評価する場面がよく見られます。そのため、30代後半から40代後半の方でもスムーズに転職活動を進めやすいのだと思います。

元起業家は好条件で内定が出やすいからこそ、複数社の比較を勧める

——ちなみに、転職活動では内定先とミスマッチが生じないかという点も気になるポイントです。押川さんたちは元起業家にどのようなアドバイスをされていますか?

まずお伝えしたいのは、元起業家や事業開発経験者の場合、一般的な転職活動に比べて内定を得やすいことが多いという点です。そのため、想像以上に早く内定にたどり着けると思います。だからこそ、多くの企業を見てほしいと、すべての候補者に必ずお伝えしています。最初に内定をもらった企業で決めてしまうのではなく、複数社の選考を受けて比較し、ご自身が最も納得できる選択肢を選んでいただきたいと考えています。

——元起業家の場合、転職活動が初めてというケースも多いですし、複数社を比較検討するというのは重要なアドバイスだと感じました。

「ぜひ来てほしい」と評価され、好条件でのオファーが来ると誰でも嬉しく感じるものです。そのため、1社目の内定が出ると、そこに決めてしまおうとする方も多いのですが、私たちとしては「元起業家の好条件の内定獲得は当たり前」と候補者に一度ストップをかけ、代表の人柄や組織風土、業務内容に本当にミスマッチがないかどうかをしっかり確認してもらうようにしています。

本当は、1社目の内定で入社を決めていただいた方が、弊社としては手っ取り早く売上が立ちますが、ミスマッチが起これば誰も幸せになれません。目先の数字ではなく、関係者全員の幸福の最大化を目指し、ミスマッチを防ぐ対策には特に力を入れています。

起業経験は今後のキャリアに必ず活きる。失敗を恐れず挑戦してほしい

——押川さんは、なぜ元起業家・事業開発経験者に特化した転職支援サービスを立ち上げたのでしょうか。

私自身が欲しかったサービスだからです。大学を中退し、2017年に最初の会社を創業してから、スタートアップ経営者として採用活動で何度も壁にぶつかってきました。かつての私と同じような悩みを抱えているスタートアップやベンチャー企業は多いのではないかと思ったとき、「起業・事業開発の経験」を軸とした転職支援サービスという事業アイデアが生まれたのです。

——事業の今後の展望をお聞かせください。

実は『ベンチャーGO』は、もともと採用メディアとしてスタートし、そこからピボットして5カ月ほどの新しいサービスです。これまでは事業の検証に力を入れてきましたが、この約5カ月で市場に確かなニーズがあり、企業や採用候補者の課題をしっかり解決できることを実証できました。実際、弊社サービスを通じて転職を実現した方々は、転職先で活き活きと働き、早期離職した方はまだいません。

今後はこのサービスをさらに広め、より多くの方に利用していただけるようにしたいと考えています。まずは採用に悩む企業や元起業家、事業開発経験者の皆さまに『ベンチャーGO』を知っていただくため、マーケティングや広報に注力していくつもりです。

参考:ベンチャーGO

——最後に、押川さんにとっての「起業の価値」とは?

「好奇心の検証」でしょうか。自分が思い描いたアイデアや課題解決のソリューションが社会に受け入れられたとき、起業や事業開発は非常におもしろい生業だと感じます。私もこれまでに何度も失敗を重ねてきましたが、それでもめげずに、様々なアイデアを事業にして売却したり、自ら成長・拡大させたりしてきました。こうした仕事をなぜ続けているかというと、市場のニーズを捉えて事業化することに、他にはない魅力や醍醐味があるからです。

今、起業に挑戦している方や、これまでの起業経験を活かして次の挑戦を考えている方も、きっと同じような感覚をお持ちではないでしょうか。時には将来への不安に悩むこともあると思いますが、皆さんの起業や事業開発の経験を活かせる場所は必ずあります。「元起業家の転職」という選択肢を思い出し、目の前の挑戦に全力で取り組んでください。

市岡光子

この記事を書いたライター

市岡光子

フリーのライター・編集。広報として大学職員、PR会社、スタートアップ創出ベンチャーを経験後、ライターとして独立。書籍や企業のオウンドメディア、大手メディアで執筆。スタートアップの広報にも従事中。

サイト:https://terukoichioka128.com/
Twitter:https://twitter.com/ichika674128

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