TOP > インタビュー一覧 > 【スタートアップ起業経験者のセカンドキャリア】再起業・就職それぞれを選んだ理由を体験者が語る|苦い過去が挑戦の原動力になる
TOKYO Re:STARTERコミュニティイベント第2回
"TOKYO RE:STARTER コミュニティ"とは、過去に起業した経験を糧に再起を目指す有望な起業家を掘り起こし、再チャレンジにつなげる「東京都リスタート・アントレプレナー支援事業」の1つ。
起業経験を「価値」と捉え、次なるキャリアに活かすための【知見と出会いのプラットフォーム】だ。
第2回目のセッションでは、再起業にチャレンジしたAnyTrail株式会社 代表取締役 長浜 佑樹氏(写真左)と、就職する道を選んだプロトスター株式会社 経営推進部 部長 中川 絢太(写真右)が登壇。
再起業と就職という対極の選択をした2人が、起業経験者のセカンドキャリアについて語り、参加者からの質問に多数答えたセッションをレポートする。
このページの目次
中川 絢太
プロトスター株式会社 経営推進部 部長 中川 絢太
立教大学在学中よりインターンとして人材事業を手掛けるベンチャーに参加し2012年に入社。クライアント企業の採用支援に従事。その後スポーツマーケティング領域での個人事業を経て、再度新卒で入社した会社に出戻り。SaaSを展開するグループ会社を設立、代表取締役に就任。代表を後任に引き継いだ後、プロトスター代表の前川とのご縁もありジョイン&現職。
司会:起業した後、中川さんは再就職、長浜さんは再起業したんですよね。
中川:学生時代からインターンとしてスローガン株式会社に参加していて、そのまま新卒入社しました。
クライアント企業の採用支援を経験し、3年後の25歳の時に独立してスポーツマーケティング領域で個人事業主として活動していましたが、あまりうまくいかず無職になってしまいました。
その時に、「会社を立ち上げたいのでサポートをお願いします。その条件をのんでもらえたら、僕はもう一度スローガンに入ります」というとんでもない依頼を受けてくれたのが、スローガン株式会社の当時の代表です。
そして、再度スローガン株式会社に入社して、資金調達など様々な部分でサポートを受けながらスローガンのグループ会社としてチームアップ株式会社を設立しました。
そこでは、1on1ミーティングの仕組みをつくるHRクラウドサービス「TeamUp」の立ち上げと運用をしていました。
司会:1on1という分野を選んだ理由はありますか?
中川:人との対話が好きで組織づくりに興味があり、前職で評価されたこともあったので、その領域で勝負しました。
当時は「1on1」という言葉もなくSaaSが出始めた頃。
ちょうど伸びている市場で、『ヤフーの1on1』という書籍が話題になったり、働き方改革の波にものれて、しばらくは順調でした。
しかし、意思決定に失敗して下がり調子になり、最終的にはほとんどの社員が辞めてしまいました。
その後、36歳の時に7年務めたチームアップ株式会社の代表を辞任し、人生初めての就活をして、今はプロトスター株式会社の経営推進部の部長をしています。
司会:意思決定の失敗とは、具体的にどんなものだったのでしょうか。
中川:SaaSを扱うプロダクトの会社だったのに、プロダクトの開発に十分な投資をしなかったことです。
赤字覚悟で投資すべき部分でしたが、投資が足りなかったことで、後発の競合に負けてしまいました。
長浜 佑樹氏
AnyTrail株式会社 代表取締役 長浜 佑樹氏
1992年生まれ、福岡県福岡市出身。大学中に渡米し起業を決意し2016年に株式会社ロジクラを設立。SaaS事業の立ち上げ、資金調達5.5億円の実現、大企業との業務提携などを経験。2023年4月に同社代表取締役を退任。2024年1月よりAnyTrail株式会社を創業し同社代表取締役に就任。
長浜:起業すると決めたのは、大学在学中(23歳)にアメリカに行き、当時のUberをみて感動したのがきっかけです。
最初は小さな商売をしていただけでしたが、2016年に設立した株式会社ロジクラ(EC事業者向け出荷管理のSaaS事業など)では、チームの組織化、大企業との業務連携、5.5億円の資金調達を実現させました。
しかし、いろいろあって2023年頃には資金調達も難しくなり、2023年4月に退任しました。
当時は人員を増やしすぎていたこともあり、7年間赤字でした。
2023年の8月からは、タクシー専業の人材紹介事業を行っていて、今年度は年商1億円に届きそうな状況です。
司会:拡大期のスタートアップから退任まで、様々な体験をされたんですね。
物流系プラットフォームの立ち上げを経験された後、再起業では人材業界を選んだ理由はありますか?
長浜:特別な理由はなく、ジムで「タクシー人材が足りない」というニュースを見て、人材系のサービス立ち上げを決めました。
今は月間約250人のお問い合わせがあり、結構いい感じに進んでいます。
司会:中川さんはもう一度起業する道もある中で、就職を選んだ理由はありますか?
中川:前職を辞めた後に肩の荷がおりて精神的に楽になったことでQOLが上がり、その中で内省したら、起業への再チャレンジが第一候補になりました。
とはいえ、1 人〜2人で行うスモールビジネスを想定していたんですよね。
その理由は、前職(チームアップ株式会社)での経験で多少燃え尽きたこともあり、 「起業して上場したい!」という意欲がなかったからです。
実は就活をした後にスモールビジネスに挑戦したのですが、プロトスターの人と一緒にいると久しぶりのワクワク感があり、代表の前川さんに「良い上場を体験しないと、君の人生のカルマが解消されない」と言われて、プロトスターを上場させ、上場後の経営も行うために就職することを決めました。
司会:参加者から「就職活動で評価されたところを教えてほしい」という質問がきています。
中川:就活中には5社くらいからオファーがありましたが、すべてSaaSの会社でした。
ゼロからイチを立ち上げた経験がもっとも評価された部分でしょう。
もう1つは、ある程度の規模の組織をマネジメントした経験も評価されたと思います。
オファーがあったのは数十人規模の管理が必要な企業で、それ以上大きい企業ではあまり評価されませんでした。
司会:参加者からの次の質問は「再就職での希望の給与設定は?」です。
中川:代表の前川さんと知り合いだったので、通常より希望を言いやすかったと思います。
年収の設定は自分から、この金額くらいはほしいと伝え、そこからすり合わせていきました。
司会:長浜さんもオファーがかなりあったかと思いますが、就職する選択肢はありましたか?
長浜:就職する選択肢はなかったですね。
なぜなら、前の会社では7年間ずっと赤字で、黒字を出す事業を自分でやりたかったからです。
20歳くらいの頃にしていた商売はそこそこうまくいっていたので、もう一度儲けがでる商売がしたかったんですよね。
だから、事業内容にこだわりはなく、ニーズがあって時代に合うという理由でタクシーの人材会社に決めました。
司会:スタートアップのビジネスモデルでいく予定ですか?それとも、黒字を出すことがメインなのでしょうか?
長浜:今の会社もすでに資金調達をして、スタートアップと同じことをしていますが、大事にしてるのはビジネスとして儲かる仕組みをつくること。
資金調達しないと継続できないような"余裕のない財務状態"にはならないよう、注意しています。
司会:「未経験の業種での起業では、先に仲間集めをした?」という質問がきていますが、いかがでしたか。
長浜:仲間は地元の後輩を連れてきただけで、新卒のメンバーをこれから採用しようと思っています。
司会:ここからは、起業した経験が、今のキャリアでどう生かされているかをお聞きします。
中川さんの現在の職場の代表から「中川さんは1on1のサービスを展開した経験があるので、チームマネジメントに突出した能力があります。共感力も高く、みんなから愛される人間です。」というコメントをいただきました。
中川:起業経験が今のキャリアに役立っていることは、起業を経験したことで、あまり動じなくなったことです。
何が起きても「こういうこともあるよね」「こんなもんだよね」と考えられて、良い意味で淡々と、メンタルがぶれずに業務を進められるようになりました。
司会:長浜さんが一緒に働いている高瀬さんからは、「長浜さんは仮説の立ち上げから実行するまでの期間が非常に速い。そして、周りの人を巻き込めるのが彼の優れた能力だと思います。」というコメントをいただきました。
長浜:確かにその通りで、起業を経験したことで、行動に移すまでの時間を短縮できるようになりましたね。
また、退任した後に自分自身が社会からどう見られているかを知りたいと思い、さまざまなサービスに登録してみました。
そこでわかったのは、失敗経験がある人材は希少で、しかも、みんな失敗談が好きだということ。
失敗・成功にかかわらず、「他の人にはない経験をした」という部分が評価されて、引っ張り上げてくれる人と出会う機会がかなりありました。
"起業で失敗しても誰かが助けてくれる"とわかったのも大きな収穫です。
1回目は失敗したら終わりだと思っていて、自己破産も頭に入れていたし、とにかく必死だったので、20代前半の青春がまったくないほどでしたが、2回目の起業は1回目に比べて"精神的なゆとり"があります。
司会:過去の経験を通じて、再起業の教訓にしていることはありますか?
長浜:引き際のタイミングが早くなるよう心がけています。
前は時間がかかっていましたが、撤退タイミングを見極める判断力が上がりましたね。
司会:「失敗してもすぐにモチベーションがV字回復していますが、メンタルの回復方法を知りたい」という質問がきていますね。
中川:退任を決める直前の2ヶ月は、かなりギリギリの精神状態でした。
代表だったので、辞める選択肢がなかったんですよね。
でも、退任の話が出てきて、「辞めても良いんだ」と思った瞬間に、肩の荷が降りて、急に心が元気になり回復基調に入りました。
それが1つ目のきっかけで、2つ目は就職活動をした時に周りから高い評価をいただいたことです。
そして3つ目は、友人から「ナイスチャレンジ!」と言われたこと。
この「ナイスチャレンジ!」にかなり救われました。
長浜:自分も仕事以外の人間関係に救われたので、友人や家族などは大事にするべきだと実感しています。
もう1つは、ジムに行って体を疲れさせたことです。
「体を疲れさせると体の回復に集中するので、頭で悩んでいることを忘れられる」という説があって、本当にその通りだったので、運動することも大事ですね。
司会:「再起業や就職を決める時に誰かに相談しましたか?」という質問もきていますが、いかがでしたか?
中川:最終判断に関しては、一切していません。
長浜:退任したことをSNSで発信すると色々な人が誘ってくれるので、そこで聞いてもらいました。
中川:そうですね、自分もプロセスの段階では話しました。
司会:次の質問は「ずっと社長をやっていたからこそ気をつけるべき点は?」です。
長浜:相手の立場に立って丁寧に説明することでしょうか。
たとえば、チームでプロジェクトをやる時は、チームを巻き込んだりコンセンサスを取る必要があります。
「前職の社長時代は説明不足だった」と後で気づき、今は「相手がしっかり理解できる説明をしないと周りの人を巻き込めない」と強く感じています。
司会:「失敗しても復職可能な自社のスタートアップ制度を利用していますが、これは甘い?」という質問がきています。
中川:調子が悪くなった時に、事業継続以外の選択肢があることで救われたり、生産性が上がることがあるので、問題ないと思います。
長浜:そういった制度はホームラン級の大事業の立ち上げには向かないかもしれません。
ヒットを量産していくイメージなので、既存事業を拡大する場合に最適で、ホームランのような大きな成功は狙いにくいのではないでしょうか。
司会:次の質問は「起業しやすい環境が整ったことで、逆にホワイトスペースが狭まってきて、資本力が問われる時代の加速化が進んでいるのでは?」です。
長浜:十分な資金がない場合、ソフトウェアをつくって売る、という無形資産で起業する方法しかなく、「スタートアップ=ソフトウェア」が当たり前になっていて、それが良くないのではないでしょうか。
ホワイトスペースがないと感じるのは、ソフトウエアやAIで起業しようと考えているからです。
実は他にも、事業継承やハードウエア、人材紹介など、いろいろなビジネスチャンスがあります。
「スタートアップはソフトウェアだけじゃない」ということを思い出すことが大切です。
中川:どれぐらいの規模を目指すのかという視点でみた時、評価額10億ドル以上のユニコーン企業をつくるとなると、確かに難易度が高まっていると感じます。
司会:「資金調達におけるエクイティとデットの選び方は?」という質問に関しては、いかがお考えですか。
長浜:エクイティでの調達にも金利みたいなものがあり、そのコストへの覚悟がないと、後々にかなり大きな負担になるので注意しないといけません。
銀行からお金を借りると2〜4%の金利を付けて返すことはよく知られているものの、エクイティに関しての資本コストはあまり認識されていません。
多くの人が「EXITして成功して返せばいい」と考えていますが、実は銀行金利があるように、エクイティにもお金に対しての「返済期待値」があります。
つまり、エクイティで調達するなら、それを上回る「年次成長率」が求められるということです。
一般的に資本コストは銀行金利よりも高い7〜10%程度と言われますが、未上場スタートアップのシードラウンドへの返済期待値は20〜30%とか、個人的な感覚ではそのくらいに感じるものでした。
僕はそれを知らずにお金を集めてしまい失敗しました。
デットには金利がかかりますが、「エクイティには金利以外のコストがかかる」ということを知っておきましょう。
司会:これからの展望も踏まえて、挑戦したいことを教えてもらえますか。
中川:今後の目標は、5年くらいでプロトスターを上場させて、そこから三方よしの経営ができるような体制や仕組み、組織、ビジネスモデルをつくることです。
長浜:前回は失敗だと気づくまでに7年かかり、特に終盤は決断をかなり先送りしてダラダラしてしまいました。
新しい会社を立ち上げましたが、もしまた失敗するなら、前回の半分の時間で終わらせたいです。
失敗しても、誰かが引き上げてくれることがわかったので、撤退するなら早めに決断をして、また挑戦する…そんな早いサイクルで動く「濃い挑戦」をすることが目標です。
司会:起業にしかない価値はなんだと思いますか?
中川:たくさんのチャレンジをして、いろいろな経験を積んだおかげで、人生の選択肢が増え、正しい選択ができるようになったことです。
リスクを取ってやりきったからこそ、仕事の様々な場面やプライベートでも「自分がとるべき行動」の選択肢がたくさん思い浮かび、その中からどの選択肢が最適なのかが、今はわかります。
司会:では、最後の質問です。
「起業を後悔していますか?起業前の自分に戻れたらまた起業しますか?」
長浜:はい、また起業します。
中川:僕もまったく後悔してないので、また起業したいですね。
司会:本日は貴重なお話をありがとうございました。(拍手)
東京都は、過去に起業した経験を糧に再起を目指す有望な起業家を掘り起こし、再チャレンジにつなげる「東京都リスタート・アントレプレナー支援事業(TOKYO Re:STARTER)」を実施しています。
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